第5話「最強ヴァンパイア、バンド始動す!」
夜のファミレス。空になったグラスがテーブルに散乱している。ユウト、マナブ、アカネ、そしてリーラ。
四人が向かい合って座っている光景は、つい数日前まで想像もできなかったものだ。
(大臣は遊びに行った。人間界を存分に楽しんでいるようである)
「……ふむ。ようやく揃ったか」
リーラは満足げに頷く。
「そうだな。ギター、ベース、ドラム、そしてヴォーカル。やっと“形”になった」
ユウトの声は静かだが、どこか嬉しそうだった。
「最高の音にしてみせる。……それが私の研究目標でもある」
マナブは腕を組み、妙に誇らしげに言う。
「姐さんのために叩く。どんなリズムだって刻むぜ」
アカネはニヤリと笑った。
彼らの前に広がるのは、新しい世界だった。
ユウトがタブレットを取り出し、画面を皆に見せる。
「さて、本題だ。俺たちが挑む“バトル”のルールを説明する」
リーラは興味津々に身を乗り出す。
「バトルは街ごとに開催される。場所と日付はあらかじめ決まっていて、参加バンドは事前に登録する。そこでライブ形式のバトルをやるんだ」
「勝敗はどう決まるのじゃ?」
「観客がアプリを使って投票する。演奏の完成度、楽曲の独創性、パフォーマンス。三つの項目の合計点がランキング化される。そして――上位十組だけが“本線”、ドーム大会に進める」
リーラの赤い瞳が一層輝きを増す。
「ドーム……何千、何万という人間が一堂に集まる場所か!」
「そういうことだ。つまり、予選で目立たなきゃ話にならない」ユウトはきっぱりと言った。
数日後、四人は東京都内のレンタルスタジオに集まった。騒音の遮断された空間、雑然と並ぶ機材。そこに漂うのは、緊張と興奮が入り混じった独特の空気だった。ここで演奏したバンドの熱が伝わってくるようだ。
「まずは曲だな」ユウトがギターを構える。
「我に任せよ」リーラは胸を張る。
彼女は瞳を閉じ、ふと小さな鼻歌を口ずさんだ。
それは不思議な旋律だった。どこか懐かしく、しかし聴いたことのない調べ。まるで夜空から零れ落ちてきたような歌声。
「……これ、すごいな」ユウトは即座に反応した。
ギターを爪弾き、リーラの鼻歌をコードに乗せる。メロディは瞬く間に形を取り始めた。
「やはりリーラ氏の音は研究のしがいがある。ユウト氏も流石だが、コード進行が甘い。このままでは展開に乏しい」マナブが冷静に口を挟む。
彼はノートパソコンを叩き、音を打ち込みながら言葉を続けた。
「ここに転調を挟めば、サビで倍音の響きが際立つはずだ」
「よし、いくぞ!オラ!」アカネがスティックを握り、ドラムを叩き始める。
タタタ――。超速スピードのスネアロールと、シンプルだが一音一音が力強いビートが部屋を震わせた。
「こうやって抑揚をつければ、一気に曲が生きるだろ?」
ユウトは頷き、さらにギターをかき鳴らす。
音が重なり、波が広がってゆく。リーラの歌、ユウトの旋律、マナブのアレンジ、アカネの鼓動――。
まるで異なるカラーがひとつに収束するように、奇跡的なアンサンブルが生まれた。
「我ら、最強じゃな。さすが我がしもべ達じゃ」リーラは思わず笑みを漏らした。
「違うよリーラ。オレ達は仲間だ!対等だ!誰が欠けても成立しない、これがバンドなんだ!」
ユウトの魂の叫びだった。
「仲間。そうか、これが仲間というものか」
リーラが感じたことのない響きだった。なぜか心地よく感じた。
「ギターが引っ張ってく。みんな、ついてこいよ」ユウトが言う。
「理論と感性、その融合が私の求める音だ」マナブが頷く。
「ケンカは卒業だ、リズムで倒す……これが、あたしのドラムだ!バカヤロウ!」アカネの瞳が燃えた。
四人は互いの個性を認め合いながら、一つの音を創り上げていく。
ひとしきり演奏を終えると、リーラが満足げに言った。
「さて、バンド名を決める時が来たな。我が考えてきたのは……“ブラッディームーン”じゃ!」
しかし、即座にユウトの一言が飛ぶ。
「ダサい」
「な、何じゃと!? 血の月じゃぞ!? 神秘的で恐ろしくも美しい……最高の名ではないか!」
アカネが吹き出す。
「いや、確かにちょっとクサいっつーか……ヤンキー漫画みたいだな」
マナブも眼鏡を押さえて頷いた。
「勝率的に、名称は短く、記憶に残るものが良い。“ブラッディームーン”を略して……“ブラムー”というのはどうだろう」
「ブラムー……」ユウトが口にし、少し考える。
「……悪くないな。響きがシンプルで覚えやすい。さすが先輩だ」
アカネがニヤリと笑った。
「うん、いいじゃん。“ブラムー”。ちょっと可愛げあるし」
リーラはしばらく唇を尖らせていたが、やがて肩をすくめた。
「まあ、よかろう。人間たちに分かりやすい方が良い。我らの名は――“ブラムー”じゃ!」
その瞬間、四人の胸に同じ熱が宿った。
最強ヴァンパイアと三人の仲間。彼らの物語は、今ようやく本当のスタートラインに立ったのだ。
次回――
ついに、バンドバトルの予選がはじまる!ブラムーの命運やいかに!
第6話「最強ヴァンパイア、初陣に〇〇す!」
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