第45話「最強ヴァンパイア、ブラムーとDBFそれぞれの想いが発露す」
準決勝 ――第二楽章
「次は我らから行くぞ!」
リーラの声がステージ上に響いた。
決意に満ちたその眼差しの奥には、もはや怯えも迷いもなかった。
圧倒的な音圧、竜族が放ったシンフォニック・メタルの奔流に、ストレートなロックで勝てるはずがない。
ならば――ブラムーの強みである“心に届く歌”で挑むしかない。
「ロックバラードで行く」
短い一言に、アカネとマナブが頷いた。
アカネはスティックを握り直し、マナブは鍵盤の音色を切り替える。
その間、リーラは深く息を吸い込み、マイクの前に立った。
静寂。
ギターの弾き語りが――優しく鳴り響いた。
乾いたクリーントーン。過度な歪みを避け、コンプレッサーで整えられたサウンドは、まるで夜空に一筋の光を描く流星のように透明だった。
そこに、マナブのベースが加わる。ドライでウォーム。スラップや高速フレーズは一切排し、ルート音を支えるだけ。だが、その堅実さが逆に心を落ち着かせる。
アカネはスネアを叩かず、リムショットを軽く刻む。スティックの先端でスネアのリムを“カンッ”と叩くたび、空気に小さなきらめきが生まれる。
――そして、リーラの歌声。
震えるほどに優しく、包み込むように広がっていく。
「君は一人じゃない――」
観客の心を真っ直ぐ射抜くメッセージ。
その言葉に、何人もの観客が思わず口元を覆った。
歌は続く。
「大切な仲間――家族がいる」
「一人で悩まないで――」
「ぶつけてくれ――一緒に越えていこう」
メッセージはシンプルだった。だが、それが故に強かった。
観客の誰もが、自分にとっての「大切な人」の顔を思い浮かべる。
母、父、兄弟、友人、恋人……そして失ってしまった誰か。
涙を拭う者、ハンカチを振る者、抱き合う者。
ファン同士ですら、互いに支え合うように肩を叩き合った。
「……素晴らしい。これがブラムーの真骨頂だ」
審査員席からひとりが呟く。
「テクニカルな面ではドラグバーストフォールには及ばない。だが、感情表現の直線的な強さ、メッセージのシンプルさ……これは真似できない」
「人の心を動かすのは、必ずしも技巧だけではないということか……」
観客の涙が、それを証明していた。
その時――ブラムーメンバーの脳裏を、同じ映像が過った。
ユウトの顔だ。
ギターを抱え、楽しそうに音を鳴らす彼の姿。
練習中、何度も熱く議論した姿。
本番直前、無言で頷き合った瞬間。
――ユウト、届いているだろうか。
見ていてくれるか。
お主はもう、我らの家族ぞ。
リーラの声に、その祈りが込められていた。
だが――その優しい旋律の裏で、不気味な気配が漂っていた。
ドラグのステージ側から――炎が燃え盛る音が聞こえる。
まるで風もないのに炎が踊り狂う。
さらに、彼らの仮面の下から漏れる煙の量が明らかに増えていた。
「……おい、煙、増えてないか?」
「熱すぎる……やばいって、あそこ……!」
ドラグ側の観客がざわつく。熱気が観客席にまで押し寄せ、誰もが汗だくになっていた。
リーラも視線を感じた。
彼らの仮面の奥から――冷たい、しかし熱を帯びた殺意がこちらに突き刺さっている。
だが歌は止めない。
最後まで歌い切った。
優しい余韻がステージに残った。
先ほどまで空気を支配していた竜族の壮大なメタルの残響が、ほんのわずか、やわらいだかのように見えた。
その瞬間――
「――Companions?仲間だと?」
ドラグのボーカルが、低く、しかしはっきりとした声で言い放った。
その声は冷笑と怒りを帯びていた。
「You dare to say that… YOU!?」
(仲間だと?お前が言うのか!)
リーラの目が見開かれる。
「……何っ!?」
思わず漏れる驚愕の声。
だが返答する暇もなく、次の瞬間――
ジャーーーーーン!!!
フルオーケストラ全体が一斉に鳴り響いた。
ブラスが重く唸り、ストリングスがうねり、パーカッションが雷鳴を轟かせる。
――壮大なる、メタル・バラード。
ドラムは三拍子のバラードリズム。だが一撃一撃が地割れのように重い。
ギターはクリーンとディストーションを交互に切り替え、アルペジオとパワーコードを巧みに織り交ぜる。
サビに向けて転調が繰り返され、ボーカルの音域はさらに高みに登る。
「う、嘘だろ……これがバラード……?」
「重すぎる……荘厳すぎる……!」
観客は圧倒され、涙を流しながらも頭を振るしかなかった。
ギターソロが始まる。
スウィープで竜の爪のような鋭いアルペジオを繰り返し、ライトハンドによるタッピングで音の雨を降らせる。
それはただの技巧ではなく、美しかった。――痛みを伴うほどに。
そして、ボーカルのサビ。
「――Our King, our Queen, our comrades…」
「我らの王よ、我らの姫よ、我らの仲間よ……」
英語の歌詞。だが不思議と意味が伝わってくる。
「We fought, we bled, to protect our land――」
「我らは戦い、血を流し、国と種族を守ってきた」
「But where are you!?」
「だが、どこに行かれたのだ!」
その瞬間、観客全員に鳥肌が走った。
涙を流す者。
胸に手を当て、祈るように聞き入る者。
まるで失われた王の帰還を待ち望むかのように。
「……これは……反則だろう……」
「泣かせに来ている……! だが感動してしまう……!」
審査員ですら声を震わせていた。
一方、マナブは歯を食いしばりながら分析を吐き出す。
「転調の連続で感情を強制的に揺さぶっている! サビのメロディレンジは常人の倍! ギターソロも、技巧をただ見せるだけでなく“歌わせている”! くそっ……これは……完璧だ……!」
研究者としての興奮と、仲間としての悔しさが入り混じった叫びだった。
リーラは一人、震える拳を握りしめていた。
――全ての言葉が、理解できてしまう。
「我らの王よ……?」
「我らの姫よ……?」
「どこに?導きたまえ……?」
なぜ竜族が、そんな言葉を歌うのだ?
誰に向けて……?
頭の奥に、得体の知れぬ不安が広がる。
竜族のメタルバラードは、ブラムーの優しい空気を完全にかき消した。
空間は再び灼熱に満ち、観客はその壮大さに酔いしれる。
「……何をやっても……勝てる気がしない……」
アカネが呟き、マナブが唇を噛み、リーラはただ黙って天を見上げた。
――音楽のバトルは、もはや絶望的な差を見せつけられたかのように思えた。
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