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最強ヴァンパイア、人間界でバンドデビューを決意す  作者: Rockston.
バンドバトル 決勝トーナメント編
41/69

第41話「最強ヴァンパイア、ユウトを説得す!」

 ――ファミレスを後にしたリーラは、夜道をひた走っていた。

 残された三日の猶予。準決勝の相手はメタルの猛者ドラグバーストフォール。リードギターの不在は致命的だった。だが、何よりもブラムーの音を奏でたかった。


 彼女は真っ直ぐユウトの元へ向かった。


 その頃、ユウトのアパート。

 カーテンは閉ざされ、机の上に置かれたギターは、ぽつりと取り残されたように光を失っていた。

 スマホは何度も震えていたが、ユウトは画面を見ることさえしなかった。


 ……俺は、何やってんだろうな。


 ベッドに腰を下ろし、膝に顔を埋める。頭の奥で、何度も同じ問いがこだまする。


 なぜ、ここまで来て背を向けたのか。

 なぜ、大切な仲間から離れてしまったのか。


―――


 幼い頃のユウトは体が小さかった。

 運動会ではいつも最後尾、球技大会では的になるばかり。クラスの笑い者だった。


「チビ」「ヒョロ」「お前じゃ何もできねぇ」

 その言葉が刺さるたび、ユウトは家に帰って泣いた。


 唯一の救いは、一緒に暮らしていた祖母の存在だった。

 小さなちゃぶ台のある古い部屋。祖母はいつも笑顔で迎えてくれた。


「ユウト、今日はこれを見てみなさい」


 そう言って祖母が差し出したのは、一枚の映像ディスクだった。古いライブ映像。小柄なギタリストが、まるで炎のように指を走らせていた。


「すごい……!」


 心臓を掴まれるような衝撃。

 体の小ささなんて関係ない。音は、全てを超える。


「ユウト、人の大きさは背丈じゃないよ。心で響かせるものなんだ」

 祖母の言葉が胸に刻まれた。


 その日から、ユウトは映像を何百回も繰り返し見た。夜も朝も。映像の中のギタリストと一緒に手を動かし、空気を掴むように夢中になった。


 やがて祖母がギターを一つ買ってくれた。

 初めて弦を弾いた瞬間、震えが走った。


「これだ……これなら、俺でも!」


 インドアで家にこもりがちだったユウトは、気がつけば一日十時間以上ギターを抱えていた。爪が割れ、指が血でにじんでも、音を求めてやめられなかった。


 そして、中学最後の文化祭。

 勇気を振り絞り、友人たちとバンドを組んだ。ステージに立った瞬間、手足は震えていた。


 だが、弦を鳴らすと――世界が変わった。


 体育館に響き渡るギター。観客の顔が驚きから笑顔へ変わり、歓声が湧き起こる。

 今までバカにしてきたクラスメイトも、女子も、先生も。誰もが「すごい」と口にした。


 その時の光景は今も忘れられない。


 そして何より、祖母の笑顔。

 涙を浮かべながら拍手してくれた姿が焼きついている。


 ――オレは、この音で人を笑顔にできる。


 その確信が、ユウトの人生を決めた。


 高校、大学……。ユウトは寝る間も惜しんでギターを磨いた。

 デビューを夢見て組んだバンドもあった。だが、熱量が違った。

「お前にはついていけない。俺たちは楽しみたい」と仲間は去り、解散した。


 心が折れかけたとき――リーラと出会った。


 あの歌。

 最初に聴いた時、背筋に電流が走った。

 こいつとなら、とんでもない音が作れる。


 しかも彼女は、迷いなく言った。

「必ず勝つ。必ず世界に届かせる」と。


 その瞳は冗談でも虚勢でもなかった。

 だからユウトは信じた。マナブの堅牢なベースも、アカネの爆発的なドラムも――皆が揃えば無敵だと。


 だが。


「王位継承のためだ」


 その言葉を聞いた瞬間、ユウトの心は凍った。

 音楽は手段だったのか? 俺が夢見てきた音は、そんなもののために……?


 怒りと失望が胸を焼いた。だから――ユウトは逃げた。


 ピンポーン。

 アパートのチャイムが鳴った。


 誰だ、こんな時間に――そう思った瞬間、背筋を震わすような気配を感じた。

 ドア越しでも伝わる圧倒的なオーラ。


「……まさか」


 再びチャイムが鳴る。


「ユウト、おるか?」


 聞き慣れた声だった。

 リーラだ。


 ユウトは息を呑み、だが返事はしなかった。

 ……オレはもうブラムーを抜けたんだ。


 ドアの向こうで、リーラの声が響いた。


「ユウト、おるなら聞いてくれ。ブラムーに戻ってきてくれぬか。我はお主とバンドがやりたい。バトルも準決勝まで来た。あと二回勝てばデビューだ。お主の音を世界に届けられるではないか!」


 まだ、そんなことを言ってやがるのか。

 ……相変わらず人の気持ちのわからないやつめ!


(魔ネージメントスキルはまだまだのようだ。だいぶマシにはなったが……)


 だがリーラは続けた。

「答えてはくれぬか。どうすれば良いのだ。我は心からお主と音楽がしたい。最高の音楽を人々に届けたいのだ」


 その声には、偽りがなかった。


「我は確かに、王位継承権のことは黙っておった。だが、それが理由でお主と組んだのではない。我は小さい頃から歌が好きだった。だが、誰も聞いてくれる人がいなかった。王族というだけで、歌声は無視され、求められるのは王女としての義務ばかり……。一人の歌い手として見てくれたことはなかった。ずっと一人で歌ってきたのだ」


 リーラの声が震えていた。


「だが、ユウトやマナブ、アカネと出会い、心から音楽を作り、届けられる喜びを知った。王位継承など、もはやどうでもよい。ただ、お主とブラムーの仲間と音を奏でたい。それだけなのじゃ!」


 胸に突き刺さる言葉だった。


「ユウトがいなければ、ブラムーは翼をもがれた鳥も同然。次は負けるであろう。……だが、負けた後でも良い。戻りたいと思ったなら、いつでも戻ってきてくれ。皆で待っておるぞ。」


「さらばじゃ……」


 足音が遠ざかっていった。


 部屋に沈黙が落ちる。

 ユウトの手は震えていた。


「……なんだって……?」


 王位継承は関係ない――一緒にやりたい。

 そんなこと、今まで一度も言わなかった。


 どうして、もっと早く言ってくれなかったんだ。


 胸が熱くなる。涙が溢れそうになる。

 戻りたい。あいつらとまた音を鳴らしたい。リーラの声に自分のギターを重ねたい。マナブのベースとアカネのドラムに身を委ねたい。


 だが――プライドが邪魔をした。


 俺は、置いていかれた。利用された。

 そんな思いが、どうしても消えない。


「……くそっ……!」


 ギターのネックを掴みしめ、震える指で弦を押さえる。音は鳴らない。


 戻りたい――でも戻れない。

 仲間を信じたい――でも裏切られた気持ちが疼く。


 涙が頬を伝った。


「……俺は、どうすれば……」


 答えのない葛藤が、ユウトの胸を締めつけ続けた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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よろしくお願いします。

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