第4話「最強ヴァンパイア、天才ドラマーを叩き起こす!」
▪️運命の出会い
夜の街を歩いていた。
リーラ、ユウト、マナブ――バンド結成に向けて動き出したばかりの三人だ。
「で、これからどうするんだ?」リーラが尋ねる。
「まずは打ち合わせだな。場所は……ファミレスだ」ユウトが即答する。
「ふぁみれす? それは何じゃ?」
リーラは首をかしげた。ヴァンパイアの長い生涯で、そんな単語は一度も耳にしたことがない。
「バンドマンの打ち合わせはファミレスって相場が決まってんだよ」
「なぜじゃ?」
「ドリンクバーがあるからだ!!!」
ユウトは胸を張って答える。
「ワンコインで無限にコーヒー飲めるんだぞ。夜通し作戦会議できる場所なんて、他にねえ」
「なるほど……我には庶民的すぎるが、コーヒーは大好きじゃ」リーラは苦笑しつつも、妙に納得したように頷いた。
その時だった。
ドドドドド……! 地響きのような音が大通りを揺らした。
数十台のバイクが連なって走り抜けていく。
「暴走族か……」ユウトが眉をひそめる。
「騒音以外の何ものでもないな」マナブも不快そうに呟いた。
だが、その直後、マナブの表情が変わった。
彼は一台のバイクに視線を固定し、食い入るように聴き入る。
「……待て。あの一台……リズムが違う」
「は?」ユウトが振り返る。
「エンジンの吹かし方、回転数の揺れ、休符の取り方……音楽になっている。まるでドラムだ」
リーラも耳を澄ました。確かに、他のバイクの無秩序な騒音に比べ、その一台の排気音は律動を持っていた。
心臓の鼓動のような、力強くも整ったリズム。
「面白い……あやつ、ただ者ではないな」
三人は自然と、その一台の後を追っていた。
▪️集会
郊外の河川敷。そこには数十人の不良が集まり、集会を開いていた。
そして、その中心に立つ少女――派手に染めた髪、鋭い目つき、堂々とした佇まい。
バイクを吹かしていたのは、彼女だった。
「来週は抗争だ!気合い入ってるかテメェら!」
「ウオーー!!」
ものすごい団結力だ。
「……総長、か」ユウトが呟く。
「なるほどのう。あやつ、人間を支配する器を持っておる」リーラは目を細めた。
気にはなったが、今はそれどころではない。ファミレスが三人を待っている。
ドリンクバーで無限に注がれるコーヒーを前に、彼らは向き合う。
「次に必要なのは、ドラムだ」ユウトが言った。
「我もそう思う」リーラは頷いた。
「ベースとギターはあっても、鼓動がなければバンドは成立せん」
その時、リーラの頭の中には、さきほどの少女の姿が焼き付いていた。
――暴走族の総長。あやつの鼓動は、まさしく求めるものに違いない。
▪️夜のビート
打ち合わせを終え、マナブとユウトと別れたリーラは、一人で夜道を歩いていた。
大臣が借り受けたアパートに帰る途中、ふと近くの公園から音が聞こえた。
ブォーン、タン、ブン、タタ、タン、ブン、カン!
軽快でありながら力強いリズム。
目を向けると、そこには先ほどの少女がいた。
バイクをふかしながら、街灯の柱を叩き、ベンチをスネアにし、滑り台をシンバルのように響かせる。
あらゆるものを打楽器に変え、見事なグルーヴを紡いでいた。
「……やはりのう」リーラは口元に笑みを浮かべる。
「見事なリズムセンスじゃ。我のバンドに入れ」
突然声をかけられ、少女は振り向いた。
「はあ? あんた誰だよ。あたしをバンドに? 舐めんな!」
その反発する目。良い目をしている。魔界でもあまり見ない真のある目だ。
リーラは確信した――この少女こそ、探し求める鼓動だと。
▪️過去と現在
「誰だあいつ……? あたしをバンドにだと……!」
アカネの脳裏に、過去の記憶が蘇る。
父は元プロドラマー。小さな頃から毎日叩き込まれた。
スティックを握る手が震えるほどの反復練習。
友達と遊ぶことも、普通の青春もなかった。
ただドラムだけ。
次第に反発は爆発し、アカネはグレた。
ヤンキーとなり、暴走族に身を投じ、音を排気音に変えて叫び続けた。
明日――大きな抗争がある。
アカネは気合いを入れるため、仲間の前でバイクを吹かしていた。
その直前、携帯が鳴った。
「アカネ……お父さんが危篤なの……最後にどうしても、会ってほしい」母の声が震えていた。
「……っ!」
抗争か、父のもとへか。
葛藤の末、アカネはハンドルを切った。
「……すぐ戻る。みんな、頼んだ!」
▪️父との再会
病室。痩せ細った父がベッドに横たわっていた。
その手を握った瞬間、父が掠れた声で語った。
「アカネ……お前は、小さい頃、自分からドラムをやりたいと言ったんだ」
「……え?」
アカネの眉が動く。自分の口から、そんな言葉を言った覚えはなかった。
「俺みたいになりたい、って……。あのときのお前の目は輝いていた。だから、俺は信じた。才能があるから、必ず大成できるって」
「……でも、あたしにはただ、押し付けられてるようにしか思えなかった。アンタの夢をなすりつけられてるんだって」
声が震える。
だが父は、弱々しい微笑みを浮かべた。
「違うんだ、アカネ。全部……お前のためだった。厳しくしたのも、少しでも早く夢に届いてほしかったからなんだ。だが、厳しくし過ぎてしまった。全て父さんが悪い。ごめんな」
「…………」
アカネは言葉を失った。
自分が望んだから父は必死になった。けれど、それを知らないまま「親のエゴ」だと憎み続けていた。
胸に重くのしかかる真実。
目を伏せたアカネは、初めて心の底から思った。
(……私、父さんの夢じゃなく、自分の夢を生きていいんだ)
「父さん、今まで勘違いしてた。ゴメン父さん!」
その瞬間、アカネの中で何かが変わった。
バイクも、抗争も、虚勢も要らない。
本当に欲しかったのは――ドラムだった。
そして、心の中で静かに決意した。
ドラムを叩きたい。
暴走族を辞めよう。ドラムの道を歩こう。
▪️決意と覚悟
アカネ抜きで臨んだ抗争は、壊滅的な打撃を受けた。
アカネは仲間の前に頭を下げる。
「ごめん……でも、あたしはドラムの道を行く。チームは解散だ」
仲間たちは激怒し、鉄パイプを振りかざして襲いかかる。
アカネは無抵抗で受け止め、ただ叫んだ。
「ごめん……でも、あたしは……ドラムがやりたいんだ!!」
血にまみれ、意識が遠のく中、耳に響いたのは――
♪翔べ あなたの願いは あなたを照らしてく♪
リーラの歌声だった。
▪️二人の思い
夜空に舞うような歌声と共に、暴走族たちは一瞬で吹き飛ばされた。
リーラがアカネの前に背中を向けて立ちはだかる。
「負けたことをコイツのせいにするでない!」
リーラの声が響き渡る。
「自分たちの弱さが原因であろう! コイツのように強い意志で、一人であっても勝てる力を身につけよ!」
リーラは続けた。
「皆には悪いが、こいつは今日から我のバンドのドラマーじゃ! 文句があれば我のところに来い! いつでも相手をしよう!」
その圧倒的なオーラに、不良たちは怯み、散り散りに逃げていく。
「お前の名は?」リーラが問う。
「……アカネ」
「アカネよ。お前のリズムは最高じゃ。我のバンドで叩くが良い」
アカネは震える声で問う。
「……姐さんって、呼んでいいか?」
「我には妹がおったが……まあ良いじゃろう」
アカネは涙をこぼしながらリーラの手を掴んだ。
▪️別れ
アカネは病室に戻り、父に報告した。
「……あたし、暴走族やめたよ。これまでのこと、全部ごめん」
父は微笑み、安心したように息を引き取った。
「父さんっ!!」
アカネの叫びは、病室を震わせた。
その肩に手を置き、リーラは珍しく優しい声で言った。
「お主の鼓動は、父上の願いそのものじゃ。ならば、永遠に鳴らし続けよ」
涙に濡れた顔で、アカネは力強く頷いた。
こうして、天才ドラマーが仲間に加わった。
バンドはまた、一歩進んだのだった。
次回、
バンドを結成することができたリーラ。
いよいよバンドバトルの予選が始まる!勝つことができるのか?
第5話「最強ヴァンパイア、バンド始動す!」
音楽を楽しもう!
今回は長文となりましたが、思いを込めて書きました。これからのリーラにとって大変大きな経験となるはずです。これからのリーラ達の未来を、応援よろしくお願いします。
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