第39話「最強ヴァンパイア、セリウス戦の勝敗決す!」
会場の熱狂は、いまだ収まらなかった。
全ての演奏が終わり、セリウスも、ブラムーも、審査員たちも、そして観客までもが――結果を今か今かと待っていた。
観客の歓声は凄まじく、嵐のようにホールを揺らしている。
だが――セリウスの耳には、それが次第に遠のいていった。
低く、くぐもった音に変わっていく。
まるで――ローパスフィルターをかけたように。
そして、意識は自然と内側へ沈み込んでいく。
記憶が、蘇った。
―――
(……そうか。オレは、なぜこんなふうになったのだろうな)
セリウスは目を閉じた。
脳裏に浮かぶのは、幼い日の光景。
確かに、あの頃のオレは――皆を喜ばせるのが好きだった。
小さな手で楽器を鳴らし、歌を作っては仲間に披露した。
つたない旋律でも、仲間たちは笑い、楽しそうに声を上げてくれた。
その笑顔が何よりも嬉しかった。
あの瞬間、オレは音楽の意味を知ったのだ。
皆が笑ってくれる――それだけで、胸が熱くなる。
あの頃のオレは、それが何にも代え難い宝物だった。
だが同時に、オレは常に“一番”を目指していた。
運動でも、武道でも。努力して、努力して、努力して――必ず勝ち取ってきた。
誰にも負けないこと。それが誇りだった。
なぜそこまで求めたのか?
仲間を守りたかったからだ。
オレの仲間が傷つくのは嫌だった。
自分がそばにいて守れないのは、悔しくて仕方がなかった。
だからオレは戦った。必ず前に立ち、仲間を守った。
それこそが、誇りだったのだ。
特に――リーラ。
幼い頃から、妹のように可愛がってきた。
親父によく面倒を頼まれた。子どものくせに無愛想で、最初は正直、面倒だと思っていた。
だがある日、オレの作った歌を聴かせた時――リーラは言った。
「……やるではないか」
いつも上から目線で、偉そうに。
でも、あの時のリーラの目は、確かに輝いていた。
それが嬉しくて……つい照れ隠しに笑ってしまったのを覚えている。
それからは、いつもそばにいた。
危ないことがあれば、オレが立ちはだかった。悪い奴らからも常に守った。
やがてリーラは、オレの修行について来るようになった。
剣を振り、体を鍛え……いつの間にか、リーラも戦士になっていた。
そして――オレの想像を超える速度で強くなっていった。
嬉しかった。リーラが危険から逃れられると思ったから。
でも同時に、不安も生まれ始めていたのかもしれない。
大人になるにつれて、仲間たちはオレを“リーダー”と呼ぶようになった。
守るべきものは増え、責任も増えた。
戦いでは、守る規模がどんどん大きくなっていった。
それでも、全てを守れるわけではなかった。
初めて――仲間を守れなかった日。
その悔しさと無力感は、今でも忘れられない。
だからこそ、オレは強さを求め続けた。
皆を守るために。
国を守るために。
……そして、あの日。
魔王軍との戦いが始まるという日。
戦いのリーダーを決める日だった。
当然、オレがなると思っていた。
オレがリーダーとなり、皆を守るのだと。
だが――選ばれたのは、リーラだった。
オレは前線の兵として招集された。
別に、選ばれなかったことが悔しかったわけではない。
ただ――ただひたすらに、リーラが心配だった。
オレがそばにいなければ、誰が守る?
前線に出てしまえば、仲間全員を守ることもできない。
焦りと不安で胸が裂けそうだった。
その夜だ。あの“影”が現れたのは。
正体はわからない。黒い霧のように揺らめき、声だけが響いた。
「知っているか? リーラがリーダーになったのは、王族だからだ」
……何?
「いいことを教えてやろう。お前は元々、王の家系だ。今の王は、お前の先祖から王の座を奪ったのだ」
「……な、なんだと……!? オレが……王族……だと……!?」
「親父も当然知っているさ」
信じられなかった。
だが心の奥底で、何かがざわついた。
(オレが王族……? じゃあ、なぜ……こんなにも辛い思いを……)
悔しさ、怒り、裏切られた感情――胸の中がぐちゃぐちゃにかき乱されていった。
オレは親父を問い詰めた。
「なぜ黙っていた! オレが王族だと知っていたのか!」
親父は深い皺を刻んだ顔で、静かに答えた。
「ワシも……悔しい思いをしてきた。だがな、大臣という要職に就かせてもらっているのも事実だ。国を守ることは、今の立場でもできる。一緒に国を守ろうではないか」
だが――オレの胸は燃え上がっていた。
「違う! オレが王になれば、直接皆を守れるではないか!」
あの日からだ。
オレの心は捻じ曲がった。
オレは国を出て、強さだけを求め続けた。
力こそが全て。
そう信じて――ここまで来てしまった。
そして、この音楽バトルを知り、出場を決めた。
王としての資格を示すために。
だが――負けた。
オレは負けたのだ。
本質を見失っていた。
本当は、皆を守ること、皆を喜ばせること――それがオレの音楽の始まりだったのに。
忘れていたのだ。
オレは……ただ……リーラを守りたかっただけなのに。
―――
現実へと戻る。
観客の声が再び押し寄せる。
セリウスの頬を、自然と涙が伝った。
「……リーラ。オレは……オレを見失っていた。オレは……お前を、国を、民を……守りたかったんだ。ごめんな……」
リーラは、静かに頷いた。
「分かっておる。セリウス。友として、全て許す」
その時、会場に緊張が走った。
集計結果が出たのだ。
司会者が声を張り上げる。
「さて! それでは結果発表です!」
「ノリは……セリウス!」
会場がどよめく。
「歓声は……ブラムー!」
さらに歓声が爆発する。
「そして、総合ポイントは……!」
観客全員が固唾を呑んだ。
「――ブラムーです!! ブラムーの勝利です!!」
瞬間、会場が大きく揺れた。
最後の最後、演奏終了の瞬間に追い抜いた――超接戦。
名勝負だった。
セリウスは涙を拭い、リーラを見つめた。
「……リーラ。気づかせてくれてサンキューな。オレは、これからもお前を守っていく。そして、国の民のために音楽を作っていく。……元、王族としてな!」
リーラは笑った。
「ああ。皆も喜ぶぞ。『我らのセリウスが帰ってきた』とな」
だが表情を引き締める。
「一点、気になるのだ。その“影”……おそらく魔王のものだ。最強の戦士であるお主をそそのかし、戦力を削ぐために現れたのだと思う。だからこそ、封印が精一杯であったのだ」
「……なんだと……! おのれ、許さぬ!」
セリウスは拳を握りしめた。
「全てはオレの心の弱さが原因……今度こそ、必ず皆を守る! すまなかった……許してくれ」
「ああ。これからは一緒に国を守るぞ」
セリウスはリーラの腕を取り、高らかに叫んだ。
「――我らの女王リーラ率いるブラムーの勝利だ! オレの完敗だ!」
「率いてはおらん! 仲間じゃ!」
会場は笑いに包まれた。
司会者が改めて宣言する。
「勝者――ブラムー! 準決勝進出です!!」
ブラムーのメンバーは歓喜の声を上げながらも――ユウトのことがずっと気がかりでならなかった。
そしてリーラもまた、魔王復活の気配を敏感に感じ取っていた。
嵐のような歓声の中で――新たな戦いの気配が、確かに近づいていた。
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