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最強ヴァンパイア、人間界でバンドデビューを決意す  作者: Rockston.
バンドバトル 決勝トーナメント編
39/69

第39話「最強ヴァンパイア、セリウス戦の勝敗決す!」

 会場の熱狂は、いまだ収まらなかった。

 全ての演奏が終わり、セリウスも、ブラムーも、審査員たちも、そして観客までもが――結果を今か今かと待っていた。


 観客の歓声は凄まじく、嵐のようにホールを揺らしている。

 だが――セリウスの耳には、それが次第に遠のいていった。


 低く、くぐもった音に変わっていく。

 まるで――ローパスフィルターをかけたように。


 そして、意識は自然と内側へ沈み込んでいく。


 記憶が、蘇った。


―――


(……そうか。オレは、なぜこんなふうになったのだろうな)


 セリウスは目を閉じた。

 脳裏に浮かぶのは、幼い日の光景。


 確かに、あの頃のオレは――皆を喜ばせるのが好きだった。


 小さな手で楽器を鳴らし、歌を作っては仲間に披露した。

 つたない旋律でも、仲間たちは笑い、楽しそうに声を上げてくれた。

 その笑顔が何よりも嬉しかった。

 あの瞬間、オレは音楽の意味を知ったのだ。


 皆が笑ってくれる――それだけで、胸が熱くなる。

 あの頃のオレは、それが何にも代え難い宝物だった。


 だが同時に、オレは常に“一番”を目指していた。

 運動でも、武道でも。努力して、努力して、努力して――必ず勝ち取ってきた。

 誰にも負けないこと。それが誇りだった。


 なぜそこまで求めたのか?


 仲間を守りたかったからだ。


 オレの仲間が傷つくのは嫌だった。

 自分がそばにいて守れないのは、悔しくて仕方がなかった。

 だからオレは戦った。必ず前に立ち、仲間を守った。

 それこそが、誇りだったのだ。


 特に――リーラ。


 幼い頃から、妹のように可愛がってきた。

 親父によく面倒を頼まれた。子どものくせに無愛想で、最初は正直、面倒だと思っていた。


 だがある日、オレの作った歌を聴かせた時――リーラは言った。


「……やるではないか」


 いつも上から目線で、偉そうに。

 でも、あの時のリーラの目は、確かに輝いていた。

 それが嬉しくて……つい照れ隠しに笑ってしまったのを覚えている。


 それからは、いつもそばにいた。

 危ないことがあれば、オレが立ちはだかった。悪い奴らからも常に守った。

 やがてリーラは、オレの修行について来るようになった。

 剣を振り、体を鍛え……いつの間にか、リーラも戦士になっていた。


 そして――オレの想像を超える速度で強くなっていった。


 嬉しかった。リーラが危険から逃れられると思ったから。

 でも同時に、不安も生まれ始めていたのかもしれない。


 大人になるにつれて、仲間たちはオレを“リーダー”と呼ぶようになった。

 守るべきものは増え、責任も増えた。

 戦いでは、守る規模がどんどん大きくなっていった。


 それでも、全てを守れるわけではなかった。

 初めて――仲間を守れなかった日。

 その悔しさと無力感は、今でも忘れられない。


 だからこそ、オレは強さを求め続けた。

 皆を守るために。

 国を守るために。


 ……そして、あの日。


 魔王軍との戦いが始まるという日。

 戦いのリーダーを決める日だった。


 当然、オレがなると思っていた。

 オレがリーダーとなり、皆を守るのだと。


 だが――選ばれたのは、リーラだった。


 オレは前線の兵として招集された。


 別に、選ばれなかったことが悔しかったわけではない。

 ただ――ただひたすらに、リーラが心配だった。

 オレがそばにいなければ、誰が守る?

 前線に出てしまえば、仲間全員を守ることもできない。


 焦りと不安で胸が裂けそうだった。


 その夜だ。あの“影”が現れたのは。


 正体はわからない。黒い霧のように揺らめき、声だけが響いた。


「知っているか? リーラがリーダーになったのは、王族だからだ」


 ……何?


「いいことを教えてやろう。お前は元々、王の家系だ。今の王は、お前の先祖から王の座を奪ったのだ」


「……な、なんだと……!? オレが……王族……だと……!?」


「親父も当然知っているさ」


 信じられなかった。

 だが心の奥底で、何かがざわついた。


(オレが王族……? じゃあ、なぜ……こんなにも辛い思いを……)


 悔しさ、怒り、裏切られた感情――胸の中がぐちゃぐちゃにかき乱されていった。


 オレは親父を問い詰めた。


「なぜ黙っていた! オレが王族だと知っていたのか!」


 親父は深い皺を刻んだ顔で、静かに答えた。


「ワシも……悔しい思いをしてきた。だがな、大臣という要職に就かせてもらっているのも事実だ。国を守ることは、今の立場でもできる。一緒に国を守ろうではないか」


 だが――オレの胸は燃え上がっていた。


「違う! オレが王になれば、直接皆を守れるではないか!」


 あの日からだ。

 オレの心は捻じ曲がった。


 オレは国を出て、強さだけを求め続けた。

 力こそが全て。

 そう信じて――ここまで来てしまった。


 そして、この音楽バトルを知り、出場を決めた。

 王としての資格を示すために。


 だが――負けた。


 オレは負けたのだ。


 本質を見失っていた。

 本当は、皆を守ること、皆を喜ばせること――それがオレの音楽の始まりだったのに。


 忘れていたのだ。


 オレは……ただ……リーラを守りたかっただけなのに。


―――


 現実へと戻る。

 観客の声が再び押し寄せる。

 セリウスの頬を、自然と涙が伝った。


「……リーラ。オレは……オレを見失っていた。オレは……お前を、国を、民を……守りたかったんだ。ごめんな……」


 リーラは、静かに頷いた。


「分かっておる。セリウス。友として、全て許す」


 その時、会場に緊張が走った。

 集計結果が出たのだ。


 司会者が声を張り上げる。


「さて! それでは結果発表です!」


「ノリは……セリウス!」


 会場がどよめく。


「歓声は……ブラムー!」


 さらに歓声が爆発する。


「そして、総合ポイントは……!」


 観客全員が固唾を呑んだ。


「――ブラムーです!! ブラムーの勝利です!!」


 瞬間、会場が大きく揺れた。

 最後の最後、演奏終了の瞬間に追い抜いた――超接戦。

 名勝負だった。


 セリウスは涙を拭い、リーラを見つめた。


「……リーラ。気づかせてくれてサンキューな。オレは、これからもお前を守っていく。そして、国の民のために音楽を作っていく。……元、王族としてな!」


 リーラは笑った。


「ああ。皆も喜ぶぞ。『我らのセリウスが帰ってきた』とな」


 だが表情を引き締める。


「一点、気になるのだ。その“影”……おそらく魔王のものだ。最強の戦士であるお主をそそのかし、戦力を削ぐために現れたのだと思う。だからこそ、封印が精一杯であったのだ」


「……なんだと……! おのれ、許さぬ!」

 セリウスは拳を握りしめた。

「全てはオレの心の弱さが原因……今度こそ、必ず皆を守る! すまなかった……許してくれ」


「ああ。これからは一緒に国を守るぞ」


 セリウスはリーラの腕を取り、高らかに叫んだ。


「――我らの女王リーラ率いるブラムーの勝利だ! オレの完敗だ!」


「率いてはおらん! 仲間じゃ!」


 会場は笑いに包まれた。


 司会者が改めて宣言する。


「勝者――ブラムー! 準決勝進出です!!」


 ブラムーのメンバーは歓喜の声を上げながらも――ユウトのことがずっと気がかりでならなかった。

 そしてリーラもまた、魔王復活の気配を敏感に感じ取っていた。


 嵐のような歓声の中で――新たな戦いの気配が、確かに近づいていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

よろしければ、率直な評価や、感想をいただければ励みになります!より良い作品が創れるよう、頑張ります!

よろしくお願いします。

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