表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強ヴァンパイア、人間界でバンドデビューを決意す  作者: Rockston.
バンドバトル 決勝トーナメント編
38/69

第38話「最強ヴァンパイア、Ever Dream MagiX!」

 轟音が、まだ会場を支配していた。

 セリウスの“エンディング・デス・マジックス”。

 その名にふさわしく、全てを焼き尽くすような音圧と光景。


 観客は完全に飲み込まれていた。

 赤いライトに照らされ、全員が頭を振り、腕を振り上げ、声を張り上げている。

 審査員ですら理性を失い、無意識にリズムに合わせて体を揺らしていた。


「……これで、決まったな」

 解説者が唸るように呟いた。


 誰もが、セリウスの勝利を疑わなかった。


 ただ一人――リーラを除いて。


 ステージの向こうで、セリウスを見つめるその瞳は、哀しみに濡れていた。

 唇が小さく震え、呼吸が浅くなる。それでも視線だけは逸らさずにいた。


 ――セリウス。


 幼き日に、ずっと共にいた幼馴染。

 誰よりも努力家で、誰よりも負けず嫌いで、そして誰よりも――優しかった存在。


 だが今、彼は勝利のために真の姿を晒し、観客を狂気の渦に引き込もうとしている。

 リーラの胸を、痛みが締め付けた。


「……セリウス」


 リーラが、声を放った。


「お主は、誰にも負けない優しさと、心の強さを持っておる。そして――作曲のセンスも」


 その声は、轟音の中でさえ観客の耳に届いた。


「だが……己の強みを見誤った。攻撃すること、力で勝つことばかりに囚われてきた。――我は知っておる。お主の本当の力を。誰よりも知っておる。友だからこそ」


 セリウスがマイクを握り直した。

 口角を吊り上げ、瞳を赤く光らせ、最後のビルドを仕掛けてくる。


「狂えぇぇぇぇぇぇ!!!」


 会場全体の息が止まった。

 次の瞬間、地鳴りのような低音のビルドが最高潮に達していく。

 凄まじい低音とシンセが会場を揺らし、観客の心臓を直接殴りつける。


 セリウスがカウントを始めた。


 1――。

 2――。

 3――!


 ドロップに向けたカウントダウンだ。

 狂喜乱舞の熱狂。誰もがセリウスの勝利を確信した。


 その時、


 リーラはマイクを握りしめ、声を放った。

「友よ!我の勝ちじゃぁ!」


 爆発的なドロップと同時に――リーラの歌声が重なった。


 A h……A h……


 切り裂くようなストロボの光をも包み込む、澄み渡る歌声。

 それはまるで、この楽曲が最初から求めていた“答え”のように響いた。


「お主の音楽は、狂わせるためのものではない! 感動させる音楽じゃ!」


 リーラは叫ぶように歌い、言葉を繋いでいく。


「コード進行――心に響く展開が、裏に滲み出ておる! だが、攻撃を重視しすぎて、主メロディが抜けている……!」


 観客の胸に、ざわめきが広がった。

 確かに。圧倒的な音圧と展開――だが、それはまるでメロディを待っているような、不完全な楽曲だった。


「この楽曲は――一本のメロディを欲しておる!」


 リーラが息を吸い込み、魂を震わせるように声を響かせた。


「Anーーー! これが、この楽曲の完成系よ!」


 攻撃的に観客を狂わせていたインストEDMは、あまりにも美しい“歌楽曲”へと変貌した。

 四つ打ちのリズムが、歌声を支える心臓の鼓動となり、広がるパッドが天へ届くように響く。

 ドラマティックなコード進行は、攻撃ではなく、感動を与える旋律の土台へと姿を変えた。


 観客が、一斉に息を呑む。


 涙が、頬を伝う者もいた。

 審査員席からも嗚咽が漏れる。

 美しい――。圧倒的に美しい。


「な、なんだこれは……!?」

 セリウスが目を見開いた。

「こんなの……オレの音楽じゃねぇ……!」


 だが、心の奥底で――彼は知っていた。

 そうだ、これこそが、自分の音楽だった。


 幼き頃から紡いできた旋律。

 誰かを感動させるために作り続けた曲。

 仲間を、友を、笑顔にさせたかった――あの頃の自分。


 だが、戦いと強さに囚われ、音楽を武器に変えた。

 それでも……旋律は嘘をつかなかった。


(違う……違うッ! オレは……強さで存在を証明するんだ!)


 頭を振り、唸るように歯を食いしばる。

 だが、リーラの歌声が重なるたび、胸の奥に忘れていた情熱が蘇る。


 観客の歓声は頂点に達し、セリウスの心を切り裂く。


「ぐっ……うおおおおおおおおおッ!!!」


 セリウスが目を見開いた。

「こんなの……オレの音楽じゃねぇ! ふざけるなぁぁぁッ!」


 だが、観客はもう止まらなかった。

 セリウスへの歓声と同時に、リーラへの歓声が同じレベルで巻き起こる。

 フロアが割れるほどの轟音と歓喜。


 リーラはマイクを握りしめ、叫ぶように告げた。


「――これこそが、セリウスの音楽の本質」


「確かに、お主のEDMは素晴らしい! だが――歌が乗ることで完成し、もっと感動を与えることができる! そこに気づけなかったお主の負けじゃ!」


 リーラは振り返る。


「来い、マナブ! アカネ!」


「おうッ!」

「いくぜッ!姐さん!」


 ベースが唸りを上げ、ドラムが火花を散らす。

 セリウスのトラックに重なるように、ブラムーのロックサウンドが乗った。


 爆発的な相乗効果。

 観客は絶頂を迎え、歓声は頂点を突き抜けた。


「う、うおおおおおおおおおおおおッ!!」


 セリウスが絶叫した。

「なぜオレの心が引き込まれる!」

「なぜオレのトラックが歌を欲す!」


「なぜだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ドン!!!


 そして――葛藤と怒りと涙を混ぜ合わせながら、ターンテーブルを拳で叩き潰した。


 機材が火花を散らし、彼のトラックは突如として止まる。


 だが、ブラムーの演奏は続いていた。

 観客の歓声は、さらに大きくなる。


「これが――“Ever Dream Magix”じゃ!」


 低音は弱く、広がりもない。

 だが――真っ直ぐに届く。

 観客の心を貫くには、それで十分だった。


 最後のストローク。

 ジャーーーン。


 楽曲が、終わった。


 静寂の後――。


 大歓声が、爆発した。


「すっ、すごい……!」

 マナブが呆然と呟いた。

「こんなことが……あるか。逆転したかもしれない。分析が必要だ……!」


「ちょー気持ちいい! 勝てたかも!」

 アカネが全身で息を吐きながら笑う。


 だが――彼女はふと、真剣な顔で付け加えた。


「でもさ……前から思ってたけど……姐さん、ネーミングセンスないよね」


「うるさいわ!」


 リーラが即座に突っ込み、観客の笑いを誘った。


 大歓声の渦の中、ステージは光に包まれていた。

 その中心で、リーラとセリウスはなお向かい合っていた。


 結果発表の瞬間を――待ちながら。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

よろしければ、率直な評価や、感想をいただければ励みになります!より良い作品が創れるよう、頑張ります!

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ