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最強ヴァンパイア、人間界でバンドデビューを決意す  作者: Rockston.
バンドバトル 決勝トーナメント編
37/69

第37話「最強ヴァンパイア、ラストターン、EDM→X!」

 ステージの空気が、再び一変した。

 次のターン――セリウスが放つ、最後の一撃の時が来たのだ。


 背後に設置された巨大LEDスクリーンが、脈動する心臓のように赤く明滅する。重低音が地を這い、観客の胸郭を内側から叩き続けた。


「さあ……終わりにしてやるよ」


 セリウスがマイクを握り、顔を上げる。次の瞬間、その背中から黒々とした翼が広がった。

 骨ばった翼は不気味に光を反射し、羽根は鋭い刃のように夜空を切り裂く。

 赤い光を宿した瞳。唇の端から覗く牙。


 本来の姿――ヴァンパイアとしての真の貌。


 だが、客席に詰めかけた人々は誰一人としてその変化に気づかない。

 視界を覆うのは、狂気じみたレーザーライトと眩暈を誘うストロボ。

 人間の感覚など易々と麻痺させる、圧倒的な演出。


「……そこまでして勝ちにこだわるか」

 リーラが小さく呟いた。

「己の力がバレれば、王位など夢と消えることは知っておろうに……」


 しかしセリウスは笑った。口端から覗く牙を、隠そうとすらしなかった。


「勝利が全てだ。力が全てだ。強さこそが――オレの存在を証明する」


 低い声が重低音と絡み合い、会場の空気をさらに濃密にしていく。


 その瞬間、曲が始まった。


 ――“Ending Death MagiX”


 轟音。

 地を割るような超低音のベースが鳴り響く。

 四つ打ちのキックは重く、観客の頭を強制的に揺らす。

 縦にも横にも広がるSAWシンセが空間を埋め尽くし、まるで脳を直接ワープさせるように観客の感覚を支配していく。


「う、うわぁああ……!」

「これ、やべぇ……! 体が勝手に……!」


 観客が一斉に頭を振り、腕を掲げた。

 赤いライトのせいか、それとも――いや、確かに彼らの瞳が赤く染まり始めていた。


「目が……!」

 審査員席から驚愕の声があがる。


 洗脳――。


 否。

 リーラはその違いを敏感に察知していた。


「……魔法ではない。楽曲そのものじゃ」


 確かに赤く光る瞳は、セリウスの“魔”に触れた証に見えた。

 だが、その正体はもっと単純で、そして恐ろしい。


 ――音楽の力。


 徹底的に磨き抜かれた低音、頭を揺らすためだけに計算されたビート、脳を撃ち抜くシンセフレーズ。

 それらが融合し、観客の理性を焼き切っているのだ。


 誰もが忘我の境地にあった。

 審査員すら椅子に座りながら体を揺らし、無意識に拍を刻んでいる。


「圧倒的じゃ……!」

 解説者が声を失いかけながらも唸った。

「これでは……勝敗が見えたも同然だ……!」


 観客のノリと歓声――その熱狂度が、このバトルの勝敗を決める。

 会場全体を飲み込むセリウスの楽曲に、誰もが勝利を確信していた。


 ステージ中央に立つセリウスは、ゆっくりと両腕を広げた。

 背中の翼が影のように舞台全体を覆う。


「これがオレの力だ」


 低く響く声は、誰もが抗えない絶対の支配を帯びていた。


「これがオレの強さだ。強き者に、皆は従う。見ろ、リーラ!」

 観客が一斉に叫び、踊り、体を震わせる。

「観客が物語っているだろう。まだ分からぬか!」


 その目は、冷たい赤に燃えていた。


「フッ……オレが勝って、王位をいただく! オレの勝ちだぁぁぁぁぁッ!!」


 彼の叫びと同時に、曲がクライマックスへと雪崩れ込む。

 無数のシンセがうねりをあげ、轟音のベースが会場の骨組みを震わせる。

 狂気のビルドアップ。


「狂えぇぇぇぇッ! もっとだぁぁぁッ!!」


 観客の歓声は悲鳴と混じり、熱狂と狂乱が渦を巻いた。

 クラップが高速化し、スネアが刻まれ、天井からは閃光の雨。


 会場全体が、破滅の渦に飲まれていく。


 万事休すか――ブラムー。


 リーラは拳を握りしめた。

 セリウスの力を誰よりも知っているからこそ、恐怖が胸を締め上げた。


 セリウスが、マイクを握り直す。


「いくぜぇぇぇ!」


 1!


 2!


 3!


 カウントが始まった。

 次の瞬間、すべてを吹き飛ばす“ドロップ”が、解き放たれようとしていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

よろしければ、率直な評価や、感想をいただければ励みになります!より良い作品が創れるよう、頑張ります!

よろしくお願いします。

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