第37話「最強ヴァンパイア、ラストターン、EDM→X!」
ステージの空気が、再び一変した。
次のターン――セリウスが放つ、最後の一撃の時が来たのだ。
背後に設置された巨大LEDスクリーンが、脈動する心臓のように赤く明滅する。重低音が地を這い、観客の胸郭を内側から叩き続けた。
「さあ……終わりにしてやるよ」
セリウスがマイクを握り、顔を上げる。次の瞬間、その背中から黒々とした翼が広がった。
骨ばった翼は不気味に光を反射し、羽根は鋭い刃のように夜空を切り裂く。
赤い光を宿した瞳。唇の端から覗く牙。
本来の姿――ヴァンパイアとしての真の貌。
だが、客席に詰めかけた人々は誰一人としてその変化に気づかない。
視界を覆うのは、狂気じみたレーザーライトと眩暈を誘うストロボ。
人間の感覚など易々と麻痺させる、圧倒的な演出。
「……そこまでして勝ちにこだわるか」
リーラが小さく呟いた。
「己の力がバレれば、王位など夢と消えることは知っておろうに……」
しかしセリウスは笑った。口端から覗く牙を、隠そうとすらしなかった。
「勝利が全てだ。力が全てだ。強さこそが――オレの存在を証明する」
低い声が重低音と絡み合い、会場の空気をさらに濃密にしていく。
その瞬間、曲が始まった。
――“Ending Death MagiX”
轟音。
地を割るような超低音のベースが鳴り響く。
四つ打ちのキックは重く、観客の頭を強制的に揺らす。
縦にも横にも広がるSAWシンセが空間を埋め尽くし、まるで脳を直接ワープさせるように観客の感覚を支配していく。
「う、うわぁああ……!」
「これ、やべぇ……! 体が勝手に……!」
観客が一斉に頭を振り、腕を掲げた。
赤いライトのせいか、それとも――いや、確かに彼らの瞳が赤く染まり始めていた。
「目が……!」
審査員席から驚愕の声があがる。
洗脳――。
否。
リーラはその違いを敏感に察知していた。
「……魔法ではない。楽曲そのものじゃ」
確かに赤く光る瞳は、セリウスの“魔”に触れた証に見えた。
だが、その正体はもっと単純で、そして恐ろしい。
――音楽の力。
徹底的に磨き抜かれた低音、頭を揺らすためだけに計算されたビート、脳を撃ち抜くシンセフレーズ。
それらが融合し、観客の理性を焼き切っているのだ。
誰もが忘我の境地にあった。
審査員すら椅子に座りながら体を揺らし、無意識に拍を刻んでいる。
「圧倒的じゃ……!」
解説者が声を失いかけながらも唸った。
「これでは……勝敗が見えたも同然だ……!」
観客のノリと歓声――その熱狂度が、このバトルの勝敗を決める。
会場全体を飲み込むセリウスの楽曲に、誰もが勝利を確信していた。
ステージ中央に立つセリウスは、ゆっくりと両腕を広げた。
背中の翼が影のように舞台全体を覆う。
「これがオレの力だ」
低く響く声は、誰もが抗えない絶対の支配を帯びていた。
「これがオレの強さだ。強き者に、皆は従う。見ろ、リーラ!」
観客が一斉に叫び、踊り、体を震わせる。
「観客が物語っているだろう。まだ分からぬか!」
その目は、冷たい赤に燃えていた。
「フッ……オレが勝って、王位をいただく! オレの勝ちだぁぁぁぁぁッ!!」
彼の叫びと同時に、曲がクライマックスへと雪崩れ込む。
無数のシンセがうねりをあげ、轟音のベースが会場の骨組みを震わせる。
狂気のビルドアップ。
「狂えぇぇぇぇッ! もっとだぁぁぁッ!!」
観客の歓声は悲鳴と混じり、熱狂と狂乱が渦を巻いた。
クラップが高速化し、スネアが刻まれ、天井からは閃光の雨。
会場全体が、破滅の渦に飲まれていく。
万事休すか――ブラムー。
リーラは拳を握りしめた。
セリウスの力を誰よりも知っているからこそ、恐怖が胸を締め上げた。
セリウスが、マイクを握り直す。
「いくぜぇぇぇ!」
1!
2!
3!
カウントが始まった。
次の瞬間、すべてを吹き飛ばす“ドロップ”が、解き放たれようとしていた。
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