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最強ヴァンパイア、人間界でバンドデビューを決意す  作者: Rockston.
バンドバトル 決勝トーナメント編
36/69

第36話「最強ヴァンパイア、優しきセリウス!?」

 ステージを覆う熱狂の渦。その中心に立つブラムーの面々は、重苦しい空気を感じ取っていた。セリウスの「エンディング・デス・マジック」が観客の心を浸食し、会場をほぼ掌握していたからだ。


 観客は狂ったように頭を振り、腕を突き上げ、歓声は歓声というより咆哮に近い。審査員でさえ無言のまま、ただ圧倒されていた。


 リーラは深く息を吸い込み、仲間を振り返った。

「……我に歌わせてくれ」


 一瞬、全員が息を呑んだ。


「え?」とアカネが眉をひそめる。「姐さん、策あんのかよ? あの化け物みてぇな低音に、どうやって勝つってんだ」


 マナブも険しい表情でベースを握り直す。「今は観客も持っていかれてる……下手に派手な音で返しても、飲み込まれるだけだぞ」


 だがリーラは静かに首を振った。

「策では……ない。だが、我に任せてほしい。二番から……合わせてくれぬか」


 短い沈黙。仲間の目が揺れる。だが次の瞬間、マナブは目を閉じ、ゆっくりとうなずいた。

「……わかった。リーラ氏を信じる」


「チッ、仕方ねぇな。姐さんを信じる。ウチらにできることなんざ一つだろ」とアカネも肩を竦めた。

 マナブの後にユウトの名前が脳裏をよぎる。だが今は――残った仲間で戦うしかない。


 ステージの照明が再び落ち、観客の狂気が静寂に変わる。ブラムーのターンだ。


 リーラはギターを抱え、ポツリと弦を爪弾いた。シンプルなギターのストロークが会場に広がる。先ほどの轟音とは正反対の、優しく温かな響き。


 観客の一部が戸惑いの声を漏らす。

「……なんだ?」

「地味じゃねぇか?」


 だがリーラは目を閉じ、静かに歌い始めた。


 ――淡く、柔らかな旋律。

 愛しさを語るように、胸に沁み渡るフレーズが流れる。


「…………」

 観客の中から、自然とざわめきが消えていく。

 派手さはない。だが、耳にすっと入り込む優しい歌詞とメロディに、次第に「いい曲だ」と思い始める者が増えていた。


 「ありがとう、ありがとう、ありがとう、いつも」


 サビに差し掛かった途端、観客からは、

「やばい!」「めちゃくちゃ良い曲!」

 と声があがった。


 一番を歌い終えたところで、リーラは顔を上げ、真っ直ぐに声を放った。


「セリウス……我は知っておる」

 静かで、しかし胸に染み渡る響き。


「お主が誰よりも気高く、強い存在であることを。そして、努力家で……誰よりも作曲のセンスがあることを」


 セリウスの瞳がギラリと光った。

「はァ? 何言ってやがる! ほざけ!」


 彼の怒声が響いても、リーラは揺るがなかった。


 観客は最初こそ戸惑っていたが、少しずつ――確実に――その歌に引き込まれていった。派手ではない。ただ、心に語りかけるような優しさがあった。


「……この曲が分かるか?」

 リーラは弦を撫でるように鳴らしながら問いかけた。


「これは、幼き頃――セリウス。お主が作った曲じゃ」


 観客席に驚きのざわめきが走った。

「えっ!? あれ、セリウスが作ったの!?」

「信じられない……今のあいつからは想像できない……」


 審査員たちも互いに目を見交える。

「なんと……この温かい旋律を、彼が……?」


 リーラは続けた。

「お主は誰よりも強く……そして優しかった。この曲がその証拠じゃ」


 ステージ横でアカネが舌打ちしながらも、鼻の奥が熱くなるのを感じていた。


 二番、マナブも無言で頷き、そっとベースを添えた。先ほどの激しいスラップではなく、柔らかく乾いた音色。アルペジオのギターに寄り添うように響く。


 観客の心が揺れる。正気を失っていた瞳に、かすかな光が戻り始める。


 だがセリウスは叫んだ。

「だからどうした!! オレは強くなりたい! 強さだけが……オレの存在を証明してくれる!」


 リーラはそっと目を伏せ、そして観客に向き直った。

「……見てみよ。強さではなく、お主の“曲”で……これだけの者たちに響いておる」


 ざわめく観客。涙ぐむ者さえいた。


「ふざけるな!!!」セリウスは怒声をあげた。「オレは……オレは絶対に強さで頂点に立つ! それ以外に道なんてねぇ!!!」


 リーラは小さく息を吐き、呟くように言った。

「そういうことか……」


 ギターを強くかき鳴らす。

「強さだけでは、民はついてこん! お主の本当の強さは――力ではなく、心じゃ!!」


 声を張り上げ、大サビへ突入する。


 ――その瞬間、観客席の半分が一気に覚醒した。

 瞳に理性の光を取り戻し、歌声に酔いしれ、拳を突き上げる者も現れる。


 そして何より、彼らが聴いているのは、セリウスが幼い頃に生み出した曲だった。彼の原点であり、彼が忘れ去った“優しさ”そのものだった。


「……セリウス」リーラは歌い終わり、彼を真っ直ぐに見つめた。

「これは……お主自身の力じゃ」


 一瞬、セリウスの心が揺らいだ。だがその目はすぐに憎悪に染まる。


「ふざけるなぁぁぁぁ!!!!!」

 両手を高く掲げ、ターンテーブルに力を込める。


「最後だ!! オレの最高のEDMで決着をつけてやる!! 狂えぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


 空間を埋め尽くす雷の如きSAWシンセが、観客の脳を支配する。楽曲の展開にワクワクが止まらない。


「天才だ」

審査員席で誰かが呟く。


 観客が再び悲鳴をあげる中、リーラは揺らぐことなく彼を見据えていた。


 ――決戦のクライマックスが幕を開ける。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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