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最強ヴァンパイア、人間界でバンドデビューを決意す  作者: Rockston.
バンドバトル 決勝トーナメント編
35/69

第35話「最強ヴァンパイア、誇り高きヴァンパイア、セリウス!」

 ——目の前で狂気のようにターンテーブルを操るセリウスを見つめながら、リーラの脳裏には、鮮やかな過去の記憶が次々と蘇っていた。


「……セリウス……」


 心の奥で呼んだその名前は、甘くも苦しい響きを持っていた。


 思い出す。

 まだ吸血鬼の国で幼き日を過ごしていた頃。


 奴はいつだって誰よりも負けず嫌いで、誰よりも先に動く少年だった。


 初めての駆けっこ。

 リーラは生まれ持った力で、軽く地面を蹴れば誰よりも早く走れた。

 だが、セリウスは息を切らし、転び、膝を擦りむきながらも、最後まで歯を食いしばって走り続けた。


「ぜってぇ、負けねぇ……!」


 小さな手で血まみれの膝を抑えながら、彼は最後の一歩まで全力を尽くした。

 その姿は、ただの子供の遊びであるはずなのに、リーラの胸を熱くした。


 鬼ごっこでは、いつも彼が先に動いた。

 リーラが捕まる前に立ちはだかり、常に仲間をかばい、泥だらけになっても決して諦めなかった。


「俺がやる! リーラは見てろ!」


 そう叫ぶ声が、幼い心に焼きついている。


 ——そうだ。我は恵まれていた。

 生まれつきの血筋と力で、何をやらせても上手くできた。

 だが、奴は違った。

 血が滲んでも、悔しくて涙が出そうになっても、決して泣き言を言わず、必ず挑み続けた。


 その背中は、いつも輝いていた。


 初めて戦に出た日のことを、今も忘れられない。


 小柄な体で大剣を振るい、何度も吹き飛ばされながらも、セリウスは立ち上がった。

 頬には泥、腕には無数の傷。

 だが彼は、ただ一度も「無理だ」と言わなかった。


「まだだ……まだやれる……!」


 その声に、部隊の皆が奮い立った。

 最後には血と汗にまみれながらも武勲を挙げた。

 誰もが「すげぇやつだ」と彼を称えた。


 我はずっと強かった。

 だが、不思議なことに、あの時——。

 勝ち誇るよりも、彼が隣にいてくれたことに、心の底から安堵したのを覚えている。


「よくやったな、リーラ」

 戦の後、泥まみれの彼は、そう笑ってくれた。


 ——助けられたのは、我の方だったのかもしれぬ。


 だが、彼には圧倒的な強みがあった。


 合唱では、皆を導く指揮者となり、声を合わせる楽しさを教えてくれた。

 作曲では、幼いながらも類稀なセンスを見せ、子供らしい遊びの歌を仲間たちに広めた。

 絵を描かせれば、空や森を、誰よりも鮮やかに表現してみせた。


 ——アートの分野で、我は一度も彼に勝てなかった。


 彼の描いた絵は村人たちを笑顔にし、彼の歌は皆を勇気づけた。

 あれほどの才を持ちながら、彼はいつも「勝負」にこだわり続けた。


「戦いで勝てなきゃ意味ねぇ。俺は誰にも負けない!」


 そう言って努力を重ねる彼を、我はただ見つめ続けた。


 ——だが、本当は知っている。

 彼が持っていたのは、誰よりも人を巻き込み、誰よりも人の心を震わせる力だったのだ。


 すべてが狂ったのは、あの日だった。


 我が王の血筋という理由で、魔王討伐のリーダーに命ぜられたのだ。

 セリウスは、我の部下とされた。


「なぜ……俺じゃなくてリーラなんだ」


 あの日の彼の表情を、今も忘れられない。

 悔しさと怒り、そして絶望が入り混じった顔。

 その時から、彼は我の前から姿を消した。


 強さでは、まだ我の方が上だったかもしれぬ。

 だが、努力では彼の方がずっと勝っていた。

 それでも血筋というだけで、我は王の座を与えられた。


 ——あの時、彼の誇りを砕いてしまったのだ。


 リーラは拳を握りしめる。


「……セリウス。お主は昔と変わらぬな」


 プライドが高く、誰よりも努力を積み重ね、それでもまだ一人で勝とうとする。

 その姿が痛々しいほどに愛おしく、胸が締め付けられる。


 彼は、我の唯一の幼なじみ。

 幼い日々を共に過ごし、互いに切磋琢磨してきた唯一無二の存在。


 だが——。


 これはバトルだ。

 父との約束もある。

 負けるわけにはいかぬ。


「……我が気づかせる。お主の本当の力を」


 涙がこぼれそうになるのを必死に堪えながら、リーラはステージ中央でセリウスを見据えた。


 その姿は、かつて共に駆け回った幼き日の彼と重なって見えた。


 ——次回、運命の衝突へ。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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