第33話「最強ヴァンパイア、シンセベースvsリアルベース!」
ステージ上。
DJセリウスが放つ轟音のような低音が、会場全体を丸ごと揺さぶっていた。
フィルターを回して空間を開き、ブレイクで一度引かせたかと思えば、ビルドアップから一気に落とされたキックとベースが、観客の心を直撃する。
観客は狂ったように飛び跳ね、汗を飛ばし、絶叫していた。
「すげえ……」
審査員席で、桐島翔が思わず息を呑んだ。
「ここまで完璧なフロアコントロール……言葉を失う」
もう一人の審査員、ロックストンも腕を組み、目を細めた。
「ただのトラック再生じゃない。スクラッチ、EQ、ループのカットイン、エフェクト――あらゆるテクニックを一瞬で組み合わせている。ビートの切り方、繋ぎ……芸術の域に達してる」
絶句。
観客を完全に支配するその光景は、もはや暴力的なほどだった。
「……やばいな」
ブラムーの陣地に戻ったマナブが低くつぶやく。
「やつのDJプレイは、あらかじめ作り込まれたトラックを鳴らしてる。しかもテンポを完全に合わせ、無限に繋げることで、観客のノリを切らさない」
「つまり……」リーラが問う。
「隙がないってことだ」
アカネが舌打ちする。
「クソッ、どこに入る余地があるんだよ!」
マナブは腕を組み、考え込む。
「だが……これは“バトル”。交互に順番が回る仕組みだ。完全にやつのターンを止めることはできなくても、俺たちの順番で“リアル”を叩き込める」
「リアル?」
リーラが小首を傾げる。
マナブの瞳が光る。
「やつの音楽は、完璧に作り込まれた分、“生感”がない。俺たちは目の前で演奏する。リアルタイムで変化し続ける音を叩きつけられる。それが武器だ」
アカネがニヤッと笑った。
「おお、いいじゃん。オレらの生き様、見せつけてやろうぜ!」
「ただし、テンポはセリウスのビートを切らないように同じ128で行く。……あの曲でいきたい」
マナブが頷き、合図を送るように手を握る。
「合図を出すから、ついてきてくれ」
「うむ……良い案じゃ」リーラが頷き、口元に笑みを浮かべる。
「やるじゃん、マナブ!」
その時、セリウスのターンが一気に終盤を迎えた。
ビルドアップが重なり、SAWシンセが雷鳴のように突き刺さり――最後のドロップが炸裂!
「どうだぁあああ! かかってこいオラァ!!!」
セリウスが両手を広げ、観客の狂気をさらに煽り立てる。
観客は絶叫し、床が揺れるほどにジャンプする。
その瞬間。
――ブンッ!パチンッ!
マナブのスラップベースが、鋭い切り込みのように響き渡った。
ファンキーでありながら重みを持つサウンドが、会場の熱狂に楔を打ち込む。
「おっ……!」
審査員席で桐島翔が思わず身を乗り出した。
「これは……リアルタイムのアドリブだ! イントロを本来より長めにとって、観客を引き込むつもりだな!」
ロックストンも大きく頷いた。
「さすがマナブ。生演奏ならではの戦略。DJにはできぬ即興性よ!」
観客のざわめきが、少しずつ方向を変えていく。
セリウスの完璧な支配の隙間に、新しいグルーヴが生まれ始めていた。
セリウスは腕を組み、不敵に笑う。
「フン……こざかしい。やってみろよ」
マナブはスラップを続けながら、リーラと共にアカネのドラムの前に歩み寄る。
目配せを交わし、合図を送った。
次の瞬間――
ジャーン!
リーラのギターのカッティングが刻まれ、アカネのドラムが炸裂する!
ファンキーで軽快、それでいて力強いリズムが一斉に重なった。
そして――リーラの美しい歌声が会場に響き渡る。
透き通るハイトーン。伸びやかでありながら、リズムに寄り添う柔軟さ。
審査員たちは思わず目を見開いた。
「ファンキーなリズムに、あの伸びやかな声……! 乗れるはずなのに、何故か胸を揺さぶられる。涙が出そうになる……」
「そうだ。リズムと旋律が“感情”を呼び起こす……説明できぬが、心が動かされる」
観客の中にも、跳ねながら思わず涙をこぼす者が現れる。
それはセリウスの支配にはなかった現象だった。
だが。
セリウスが口角を吊り上げた。
「それでオレに勝てると思うのかよ? 圧倒的に音域が狭い。ノリも軽い。観客はすでにオレのビートに浸透してるんだ。先に演奏できればよかったな」
確かに、観客の大半はまだセリウスの低音を忘れられずにいた。
生演奏は素晴らしい――しかし、それだけでは“超低音と完璧なビート”を凌駕するほどのグルーヴを生み出せていない。
ステージに漂う緊張。
「くっ……ユウト氏のリフがあれば、太いロックサウンドで攻められた」
マナブが歯を食いしばった。
力を振り絞り、スラップベースを繰り出すが、一部の観客しか引き込めていない。ユウトがおらず楽曲の完成度も完璧ではない。
その時、
リーラがマナブの足元にある、エフェクターのスイッチを踏んだ。禁断のディストーションスイッチだ!
クリーンでファンキーなスラップベースが、一瞬にして轟音スラップへと変化した。まさにロックサウンドだ。
「ウォォォォォ!」
ようやく観客に届いた!
「リーラ氏!ナイスアイデアだ!」
マナブが叫ぶ!
「勝つぞ!」
リーラの一声がマナブ、アカネ、そしてブラムーのファンを勇気づける。
「はっ。こざかしい真似を。次でトドメを刺してやる」セリウスは笑顔を崩さず、余裕の表情で出番を待つ。
ブラムーの戦い方に答えはまだ出ない。
だが次の一手で、勝敗の天秤が大きく傾くことだけは、全員が理解していた。
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