第30話「最強ヴァンパイア、バンドの危機に直面す!」
記念すべき30話となりました!
これからも、よろしくお願いします!
控え室は、戦いを終えたばかりのはずなのに、妙な静けさに満ちていた。
勝利の余韻が消え、代わりに重くのしかかるものがある。リーラの過去、大臣の告白、そして――王位継承という言葉。
ユウトの胸は、ぐらりと揺れ続けていた。
こみ上げるのは、怒りよりも混乱。そして、深い失望。
「……なあ、リーラ」
絞り出すような声だった。
仲間たちが一斉に彼を見る。ユウトの視線は真っ直ぐリーラを射抜き、震えていた。
「王位継承のために……そのために俺たちはバンドを組んでいたのか?」
リーラはしばし沈黙した。視線を逸らさず、重い息を吐く。
「……そうじゃ。王位を継ぐために、人間界で優勝せねばならなかった。それは真実じゃ」
その言葉は、冷たい刃のようにユウトの胸に突き刺さる。
「……は、はは……そうか」
笑おうとしたが、声は震え、笑いにはならなかった。
アカネが不安げに言葉を継ぐ。
「ユウト、姐さんだって――」
だが、ユウトは手を振って遮った。
「違うんだ、アカネ。……俺はな、やっと……やっと同じ温度感で音楽に向き合える仲間を見つけたと思ったんだ」
彼の声は次第に熱を帯びる。
「みんなでステージに立って、必死で音を鳴らして……その瞬間は嘘じゃなかったって信じてる。でも……最初から“目的が違った”なんて言われたら、どうすりゃいいんだよ! 俺の信じてたものは……なんだったんだよ!」
言葉が、鋭く響く。
部屋の空気は凍りつき、誰も口を開けない。
ユウトの胸は張り裂けそうだった。自分を支えてきた信念――「歌で人に想いを届けたい」という純粋な情熱。その炎が、一瞬にして裏切られた気がした。
「……俺は……耐えられない」
低く、しかし決定的な言葉。
マナブが慌てて声をかける。
「待て、ユウト氏! 俺たちは仲間だろう!」
ユウトは首を振る。その瞳は悔しさに濡れていた。
「……仲間だからこそ、許せないんだ。信じていたからこそ……裏切られたのが、耐えられない!」
ドキリとする沈黙。
アカネが一歩踏み出す。
「なあユウト! 今さら抜けたら、優勝なんて――」
「……関係ない!」
ユウトは叫んだ。
「俺にとって大事なのは“勝つこと”じゃない。“届けること”だ! でも、リーラにとっては違ったんだろ? なら……俺はここにいる意味がない!」
言葉を投げつけると、ユウトはドアに向かって歩き出した。
一歩一歩が、胸をえぐるように重い。
ドアノブに手をかけ、振り返らずに言った。
「……俺は、ブラムーを抜ける」
ガチャリ。
ドアが開き、ユウトの背中が闇に消える。
残された控え室には、息を呑む音すら響かない。
マナブが、震える声で呟いた。
「……どうするんだよ……ユウトがいなければ、優勝なんて到底――」
アカネは歯を食いしばり、テーブルを拳で叩いた。
「クソッ……あいつ、本気で行っちまったぜ……!」
リーラは静かに目を閉じ、深い呼吸をした。
彼女の瞳は、悲しみと決意で揺れている。
「……仕方あるまい」
その声に、アカネとマナブが振り返る。
リーラはゆっくりと続けた。
「ユウトの痛みは理解できる。だが、我らがやってきたこともまた、偽りではない。あの音は、本物じゃ。ならば――」
少し間を置き、拳を強く握る。
「必ず戻ってきてくれる。そう信じて待とう」
アカネは唇を噛んだまま、やがて頷いた。
「……ああ。あいつは戻る。絶対だ」
マナブも、静かに眼鏡を押し上げる。
「信じるしかないな。……ユウトも、俺たちと同じ音を愛してるはずだ」
リーラは仲間たちを見渡し、強く言い切った。
「この戦いは続く。我らは決して止まらぬ。そして……ユウトが戻るその時まで、信じて進もう」
控え室に再び静寂が訪れた。だが、その胸には確かな鼓動があった。
裏切りの痛みと、仲間を信じる希望。その両方を抱えながら――ブラムーは次の戦いへと歩みを進めていく。
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