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最強ヴァンパイア、人間界でバンドデビューを決意す  作者: Rockston.
バンドバトル 決勝トーナメント編
29/69

第29話「最強ヴァンパイア、不協和音を解決す!?」

 控え室の空気は、重苦しい。

 さきほどまで歓声に包まれていた勝利の余韻は、跡形もなく消えていた。


 リーラは椅子に腰掛け、鋭い瞳で扉を見据える。

「……呼べ」

 その一言に、アカネが素早くドアを開けた。


 やってきたのは――大臣。

 長い付き合いの執事のような存在であり、幼少の頃からリーラを支え続けてきた男。


「姫様。お呼びにより、参上いたしましたぞ」

 姿勢を正し、頭を下げる。だがその顔には、どこか硬さがあった。


―――


「大臣」

 リーラの声は低く、しかしはっきりと響いた。

「お主……我を裏切ったな?」


 その場にいたメンバー全員の視線が一斉に突き刺さる。


「な……なにを仰せでございますか」

 大臣は狼狽えたように首を振る。

「私は何もしておりませぬ! 姫様を裏切るなど、ありえませぬ!」


「じゃあ、さっきのスネアはなんなんだ!」

 アカネが一歩踏み出す。

「アタシはわかる! あれは自然に破れるもんじゃない!」


 ユウトも口を開いた。

「SNSでの妙な批判も……お前の仕業なんじゃないのか?」


「なっ……!」

 大臣の顔がわずかにひきつる。


 リーラが細く息をつき、低く笑った。

「なるほど。そういうことか。買い物や美容室での行動……あれも頷ける」


 リーラは破れたスネアにそっと触れる。

 ――仲間たちに気づかれぬよう、ほんの一瞬だけ魔力を流す。

 その目には淡い紋様が浮かび上がり、リーラは内心で確信した。


(……時間差魔法。これを操れるのは……大臣、お主しかおらぬ)


 だがその事実は口にせず、直接大臣の心に伝えるように、ただ静かに睨み据える。

「なぜだ、大臣。長い付き合いであったろう。お主はこれまで一度として、我を裏切ったことはなかった。なぜ、こんな真似をした?」


「……」

 大臣は唇を震わせる。だが視線を合わせられない。

「……私は、何も……」


「目を見ろ」

 リーラの声が鋭く突き刺さる。

「我の目を見て、否と言えるのか?」


 大臣の肩が小さく震え、やがてその表情は崩れた。

「……申し訳……ありませぬ」


 その場に膝をつき、深々と頭を垂れる。


「わ、わしは……! わしの家は……かつて王の血筋を継ぐ家系であったのです!」

 声が震え、感情が堰を切ったように溢れ出す。

「だが、王位は姫様の家系に移り……わしらは代々、悔しさを抱え続けてきた! 王位を取り戻したい、その思いが……その呪いが……ずっと一族を縛ってきたのです!」


 「何だと……」

 リーラは思ってもいなかった言葉に驚く。


 胸を叩きながら、涙を流し取り乱す。

「我が父も、祖父も……“なぜ自分たちではないのか”と呻き続けた! その声を幼いころから聞かされ、わしは育った! 悔しい思いをし続けてきた。 心のどこかで……いつかは王位を……と!」


 叫びは苦悶そのものだった。


「王族……?」

 ユウトが眉をひそめる。

「どういうことだよ、それ……」


 リーラはしばし黙り込み、やがて深く息を吐いた。

「……これは、隠していたことじゃ」

 仲間たちに向かい、静かに語る。


「我は、ある国の王族の末裔。大臣はその国に仕える家系の者。……そして、我が王位を継承するためには、この人間界でのバンドバトルで優勝を果たさねばならぬのじゃ」


 その言葉に、ブラムーのメンバーたちは絶句した。

「……まじかよ……」

「王族って……そんな話、信じられねぇ……」

「そんな大事なこと、なんで黙ってたんだよ……!」


 だがリーラは首を振る。

「話せば混乱を招く。ゆえに、ずっと秘しておった」


「私は……姫を失格にするか、あるいは戦で敗れさせるつもりでした」

 大臣の声は震えていた。

「そうして、息子を優勝させ、王位を取り戻したかった……それが我が一族の悲願であったゆえ」


 「息子!?」


 しかし、そこで声が詰まる。

「……ですが……」


 顔を上げた大臣の目には、涙が浮かんでいた。

「私は……幼い姫を、ずっと見てきたのです」


 ――回想。


 まだ幼いリーラが、花の庭で無邪気に笑う。

 小さな体で走り回り、転んでも泣かずに立ち上がる。

「心配するな、大臣。そんな暇があるなら、国を、民を見よ」

 幼子の口から出たその言葉に、大臣は胸を衝かれた。


 彼女はいつも懐いてきて、小さな手で大臣の袖をつかんで離さなかった。

 リーラの家系を確かに憎んでいた。しかし幼子には関係ない。大臣もまた、リーラを可愛がり、大切に思った。


 国のため、共に数々の施策を打ち出したこともあった。

 飢饉の年には食糧の分配を考え、疫病の際には民を救うために奔走した。

 時には戦にも出陣した。剣を抜き、盾を掲げ、血を浴びながらも国のために戦った。


 そうした日々を通じ、大臣の胸の奥には確かに芽生えていた――。

 それは、王位を奪うという黒い野心ではなく、姫を、リーラを支えたいという想いだった。


「私は……本当は、姫を大切に思っておりました。国を思う気持ちも、姫と同じ。……だからこそ、思い切ったことなどできなかった。本気で傷つけるなど……できるはずがなかったのです」


 大臣は床に手をつき、声を震わせた。

「本当に申し訳……ありませぬ。姫……!」


ーーー


 リーラはしばし黙り込み、やがてゆっくりと目を閉じた。

「ブラムーを裏切ったこと。メンバーに迷惑をかけたことは、決して許すことはできぬ……よって、マネージャーからは外れてもらう!」


 大臣は床に手をついたまま、受け入れた。

 「はい……。」


 リーラは続けた。

 「だが、国を思う気持ちは、同じじゃ」


 そして、大臣に手を差し伸べる。

「ならば……これからも国を支えよ。お主の力は、必要じゃ。共に歩んでくれるな?」


 大臣の頬を涙が伝った。肩が震える。

「……はい……! この命、再び姫様に捧げます……!」


 その光景に、ブラムーのメンバーたちも胸を打たれた。

「……なんだよ……泣けるじゃねえか」

「良かった……本当に……」

「大臣さんも、本当はリーラを思ってたんだな」


 場は静かに温かい空気に包まれていった。


―――


 しかし――。


 その中で、ただ一人。

 ユウトだけは、黙り込んでいた。


 皆が安堵の息を漏らす中、彼の瞳だけは別の色を帯びていた。

 影のように、鋭く、暗く。


 雲行きが怪しくなる、その気配を――誰もまだ、気づいてはいなかった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

よろしければ、率直な評価や感想をいただけるとうれしいです。

よろしくお願いします。

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