第27話「最強ヴァンパイア、鬼戦が決す!」
Zドームを覆う轟音。
十基の和太鼓が一斉に打ち鳴らされるたび、観客の体は揺れ、視界すら歪む。
ブラムーの舞台は今や嵐の中に投げ込まれていた。
「くっ……!」
アカネの額から汗が飛ぶ。
破れたスネアを横目に、残されたタムやバスドラムを必死に叩き続ける。
だが、どうしても音圧が足りない。
十基の和太鼓が作り出す、地鳴りのような“戦”の表現に押されていく。
観客も騒然としていた。
「アカネ……限界か……?」
「和太鼓十基にドラムだけじゃ無理だ……」
審査員の神谷豪が苦い顔で呟く。
「……リズムは正確だ。だが音量と音圧の差が大きすぎる」
マリア・デル・ソルも首を振る。
「このままでは呑み込まれる……」
――その時だった。
「総長ォォォ!!!」
観客席の最前列。
数人の影が立ち上がった。
派手な特攻服。荒くれた雰囲気。
かつてアカネが身を置いていた暴走族の仲間たちだった。
「オメェら……何でここに」
「しっかりしろやアカネぇ!!」
「アタシら楽器なんかなくても音鳴らしてたじゃねえか!」
「そうだろ、総長ォォォ!!!」
ひとりが叫ぶと同時に、彼女の首にぶら下がっていた古いヘルメットが外され、ステージに投げ込まれた。
カランッ! 乾いた音が響く。
アカネはその音を聞き、瞳を大きく見開いた。
「……そうだ」
彼女は破れたスネアの前から立ち上がると、ドラムに取り付けられていたマイクを引き抜いた。
次々に転がるケーブルを手繰り寄せ、マイクを片手に握る。
「何を……?」
ユウトとマナブが驚きの声を上げる。
アカネは床に置かれたヘルメットを拾い上げ、ステージ中央へ。
さらに、破れたスネア、マイクスタンド、照明台の金属パーツ、転がったケーブル巻き取り……目に入るあらゆるものをかき集めた。
「……それだ」
リーラが目を細める。
アカネはニッと笑った。
「へへっ……これで十分だろ」
コンッ!
彼女はマイクを床に置き、その前に置いたヘルメットを叩いた。
ステージ全体に、増幅された音が響き渡る。
カンッ! ガンッ! ドンッ!
マイクスタンドを打つ。照明台を叩く。ケーブル巻きを床に打ち付ける、床を踏む。
叩けばすべてが楽器に変わっていく。
「……!!!」
観客が総立ちになった。
審査員席で鷲塚 演義が思わず立ち上がる。
「これは……ライブハウスの即興演奏を思わせる“原始パーカッション”だ! どんなものでも楽器にしてしまう発想力……しかもリズムが崩れない!」
桐島翔も拳を叩きつける。
「これだよ! これがアカネの本質なんだ! あらゆる音をリズムに変える天才!!」
リーラはその姿を見て、確信した。
「――勝てる!」
まるでリーラと初めて出会った、公園でのアカネの姿だった。
遊具を叩き、バイクをふかし、金網を鳴らし――音をリズムに変えて遊んでいたあの日。
アカネの強みは、どんなものでも楽器に変えてしまうこと。
バイクのエンジン音も、暴走族の仲間のヘルメットも、公園のブランコも。
あらゆる音を果てしない音色として紡ぎ、無限のリズムを生み出す。
その奔放で無限のバリエーションの前に――焔鬼蓮華の最強の和太鼓ですら、霞み始めた。
「うおおおおおおッ!!」
アカネが叫ぶ。
「いくぞおおおお!!」
ラストのラッシュ。
マイクを構えたまま、ステージの隅から隅まで駆け巡り、ヘルメットを叩き、鉄骨を殴り、ケーブルを弾き、床を踏む。
観客の歓声も混ざり合い、一つの巨大なグルーヴとなる。
そして――。
「これで決めるッッ!!!」
超高速のヘルメットスネア連打!
カンカンカンカンカンカンカンカン!!!
――BPMが、インクリメントのように上がっていく!
正確かつ衝撃的なスピードだ。
まるで歯車が狂いなく加速していくように、音が重なり、観客の心を直に叩き続ける。
腕が閃光のように動き、マイクが拾う音は爆発する火花のように響いた。
「アタシが……!!」
「ブラムーの……!!」
「ドラマーだ、バカヤロォォォォォォ!!!!」
その瞬間。
観客席で暴走族の仲間たちも叫びながら、ヘルメット同士をぶつけ合った。
ガンッ! ガンッ! ガンッ!
彼女らの音もまた、Zドームに混ざり合う。
――観客も、仲間も、すべてを巻き込んだリズム。
焔鬼蓮華が最後の意地で、十基の和太鼓を連打で打ち鳴らす。
ドォォォォォォォンッッ!!!
その時――。
バンッッッ!!!
和太鼓の皮が一斉に破れた。
十基すべて。
場内が静まり返った。
やがて、爆発のような歓声が湧き起こる。
「アカネぇぇぇ!!!」
「ブラムーーーッ!!!!」
アカネは大きく息を吐き、汗だくの顔で笑った。
スティックを掲げる。
仲間たちが泣き叫び、暴走族の少女たちも涙を流しながら腕を振り上げていた。
リーラが駆け寄り、アカネの肩を掴む。
「よくやった……! お主は最強じゃ!」
アカネは泣き笑いしながら答えた。
「へへっ……当然だろ。アタシは……ブラムーのドラマーだぜ!」
Zドームを揺るがす大歓声。
ブラムーの勝利は、誰の目にも明らかだった。
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