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最強ヴァンパイア、人間界でバンドデビューを決意す  作者: Rockston.
バンドバトル 決勝トーナメント編
26/69

第26話「最強ヴァンパイア、アカネに託す!」

 Zドームに和太鼓の余韻が残っていた。

 床を這うような低音。観客の胸を突き上げる重低波。

 ――焔鬼蓮華えんきれんげの真骨頂が放たれ、会場は戦慄に包まれている。


「おおおっと! これが十基の和太鼓の本領だぁぁ!! 空気が震えている! 息ができないほどの音圧だぁ!」

 司会者が叫ぶ。


 観客も息を呑んだまま、視線をブラムーのステージへと向けていた。

 ――この状況をどうひっくり返すのか?

 それとも、押し潰されてしまうのか?


―――


 リーラが一歩前に出て、振り返りもせずに言った。

「……アカネ。お主の出番じゃ」


 鼓動が早まる。

 アカネはゆっくりとスティックを構えた。


 ――父の背中が浮かんだ。

 小さな頃、狭い防音室で、夜遅くまで響いていたドラムの音。

 「一音に心を込めろ」

 そう何度も聞かされた言葉。


 皮膚が赤く腫れ、指の関節は軋む。

 それでも笑顔で叩き続けていた、あの日の父の姿。


 ――今なら分かる。

 一打一打に想いを込めることの意味が。


「……いくよ」


 スティックが振り下ろされた瞬間、リズムが流れ出した。


 ドンドンタッ――ドンッ! ドンドンタカタカッ――!


 正確無比なリズムが会場を満たしていく。

 時折混ざるフィルも、まるで設計図の上に描かれた音が、完璧に組み上がっていくような響き。

 だが、冷たい正確さではない。

 音は澄みきって美しく、そして何より――楽しそうだった。


 アカネの顔は輝いていた。

 子どものように純粋な笑顔。

 叩くことそのものを楽しみ尽くしている、その想いが伝わってくる。


 観客がざわついた。

「え、何これ……」

「バトルなのに温かい……」

「見てるだけで楽しくなる……!」


 審査員席でも声が上がる。

 神谷豪が腕を組み、鋭い目を細める。

「……狂ってるな。ここまで正確に叩ける人間がいるか?」

 マリア・デル・ソルが頷く。

「ただのリズムじゃないわ。一音一音に“心”を乗せてる。喋ってるみたい」


 リーラも思わず口を開いた。

「――それじゃ。アカネ」


 胸の奥で熱いものが込み上げた。

 父の声が聞こえた気がした。

 「それだ、ドラムはテクニックじゃない。心から叩くことを楽しめ、アカネ」


 だが、焔鬼蓮華も黙ってはいない。

 ボーカルの男が不敵に笑う。

「ほう……なかなか。ならば、こちらも応えよう」


 ドォォォォォンッ!!


 十基の和太鼓が一斉に火を噴いた。

 まるで地震。大地が鳴動する。

 照明が赤く染まり、戦場の炎を再現するかのように揺らめいた。


「き、きたぁぁ!! 十基の和太鼓、全員連打だぁぁぁ!!」

 司会者の声もかき消される。


 観客は耳を塞いでもなお、振動が全身を突き抜けていく。

「やばい……体の中の水分まで揺れてる……!」

「鼓膜じゃない! 骨で聴いてるんだ!」


 審査員の朝霧燎が分析した。

「これは“倍音の重ね合わせ”だ。周波数が干渉し合い、共鳴して……音ではなく“衝撃”になっている」


「ふふん……負けてられない!」


 アカネがスティックを強く握り直す。

 次の瞬間――。


 タカタカタカッ!!

 ――同じリズムをドラムで再現した。スネアやキック、タムを織り交ぜ、ドラム全体でだ。


「なっ……!」

 観客の驚きが波となる。

「今の、さっきの和太鼓のリズムじゃないか!?」

「ドラム一台で!? 耳コピ!? 信じられねえ!」


 ケヴィン・ロッソが立ち上がりそうな勢いで叫ぶ。

「即興で太鼓十基のリズムを再現!? あり得ねえ!!」


 焔鬼蓮華のメンバーも、目を見張る。

「ほぅ……やるのう」

 ボーカルが静かに呟き、再び笑った。


 互いの応酬は激しさを増す。

 和太鼓の嵐に、ドラムの疾風。

 まるで戦場で刃を交わすような緊張感。


 そして――アカネは覚悟を決めた。


 スネアロール。

 徐々に速さを増し、観客の心拍数を奪っていく。

 ダダダダダ――!

 まるで稲妻が走るような速さ。


 そこから――連打。

 両腕が閃光のように振り下ろされ、スネアに叩き込む。

 バババババッ!!

 観客の視界が揺れ、心臓が持っていかれる。


 観客が総立ちになる。

「すげえ! まだ速くなるのかよ!!」

「限界超えてる!!」


 汗が飛び散り、腕が悲鳴を上げる。

 それでも、叩き続けた。


 ――父さん、見てて。


 音量が最高潮に達した瞬間。


 ビリッ……!


 乾いた音が響いた。

 ――スネアのヘッドが破れた。


 会場全体が凍りついた。


「……あ」

「まさか……スネアが……」


 観客の声が震える。

 審査員も顔をしかめた。

 神谷豪が低く唸る。

「……最悪のタイミングだ」


 その時、焔鬼蓮華のボーカルが高笑いを放った。

「不運じゃのう! だが、これが“戦”よ! 容赦はせん!」


 十基の和太鼓が一斉に打ち鳴らされる。

 ドォォォォォォォンッ!!!


 大地そのものが割れるかのような音圧。

 炎の照明が吹き上がり、戦場の最終決戦が描かれる。


「き、きたぁぁ!! 焔鬼蓮華、最後の総攻撃!!」

 司会者が絶叫する。


 ――どうする、ブラムー!?


 リーラが振り返り、血走った瞳で叫んだ。

「アカネ! 今こそ見せよ! お主ならできる!」


「……了解だ!!!」


 アカネが新たなスティックを握りしめる。

 運命の一打が迫る――!

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

よろしければ、率直な評価や感想をいただけるとうれしいです。

よろしくお願いします。

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