第26話「最強ヴァンパイア、アカネに託す!」
Zドームに和太鼓の余韻が残っていた。
床を這うような低音。観客の胸を突き上げる重低波。
――焔鬼蓮華の真骨頂が放たれ、会場は戦慄に包まれている。
「おおおっと! これが十基の和太鼓の本領だぁぁ!! 空気が震えている! 息ができないほどの音圧だぁ!」
司会者が叫ぶ。
観客も息を呑んだまま、視線をブラムーのステージへと向けていた。
――この状況をどうひっくり返すのか?
それとも、押し潰されてしまうのか?
―――
リーラが一歩前に出て、振り返りもせずに言った。
「……アカネ。お主の出番じゃ」
鼓動が早まる。
アカネはゆっくりとスティックを構えた。
――父の背中が浮かんだ。
小さな頃、狭い防音室で、夜遅くまで響いていたドラムの音。
「一音に心を込めろ」
そう何度も聞かされた言葉。
皮膚が赤く腫れ、指の関節は軋む。
それでも笑顔で叩き続けていた、あの日の父の姿。
――今なら分かる。
一打一打に想いを込めることの意味が。
「……いくよ」
スティックが振り下ろされた瞬間、リズムが流れ出した。
ドンドンタッ――ドンッ! ドンドンタカタカッ――!
正確無比なリズムが会場を満たしていく。
時折混ざるフィルも、まるで設計図の上に描かれた音が、完璧に組み上がっていくような響き。
だが、冷たい正確さではない。
音は澄みきって美しく、そして何より――楽しそうだった。
アカネの顔は輝いていた。
子どものように純粋な笑顔。
叩くことそのものを楽しみ尽くしている、その想いが伝わってくる。
観客がざわついた。
「え、何これ……」
「バトルなのに温かい……」
「見てるだけで楽しくなる……!」
審査員席でも声が上がる。
神谷豪が腕を組み、鋭い目を細める。
「……狂ってるな。ここまで正確に叩ける人間がいるか?」
マリア・デル・ソルが頷く。
「ただのリズムじゃないわ。一音一音に“心”を乗せてる。喋ってるみたい」
リーラも思わず口を開いた。
「――それじゃ。アカネ」
胸の奥で熱いものが込み上げた。
父の声が聞こえた気がした。
「それだ、ドラムはテクニックじゃない。心から叩くことを楽しめ、アカネ」
だが、焔鬼蓮華も黙ってはいない。
ボーカルの男が不敵に笑う。
「ほう……なかなか。ならば、こちらも応えよう」
ドォォォォォンッ!!
十基の和太鼓が一斉に火を噴いた。
まるで地震。大地が鳴動する。
照明が赤く染まり、戦場の炎を再現するかのように揺らめいた。
「き、きたぁぁ!! 十基の和太鼓、全員連打だぁぁぁ!!」
司会者の声もかき消される。
観客は耳を塞いでもなお、振動が全身を突き抜けていく。
「やばい……体の中の水分まで揺れてる……!」
「鼓膜じゃない! 骨で聴いてるんだ!」
審査員の朝霧燎が分析した。
「これは“倍音の重ね合わせ”だ。周波数が干渉し合い、共鳴して……音ではなく“衝撃”になっている」
「ふふん……負けてられない!」
アカネがスティックを強く握り直す。
次の瞬間――。
タカタカタカッ!!
――同じリズムをドラムで再現した。スネアやキック、タムを織り交ぜ、ドラム全体でだ。
「なっ……!」
観客の驚きが波となる。
「今の、さっきの和太鼓のリズムじゃないか!?」
「ドラム一台で!? 耳コピ!? 信じられねえ!」
ケヴィン・ロッソが立ち上がりそうな勢いで叫ぶ。
「即興で太鼓十基のリズムを再現!? あり得ねえ!!」
焔鬼蓮華のメンバーも、目を見張る。
「ほぅ……やるのう」
ボーカルが静かに呟き、再び笑った。
互いの応酬は激しさを増す。
和太鼓の嵐に、ドラムの疾風。
まるで戦場で刃を交わすような緊張感。
そして――アカネは覚悟を決めた。
スネアロール。
徐々に速さを増し、観客の心拍数を奪っていく。
ダダダダダ――!
まるで稲妻が走るような速さ。
そこから――連打。
両腕が閃光のように振り下ろされ、スネアに叩き込む。
バババババッ!!
観客の視界が揺れ、心臓が持っていかれる。
観客が総立ちになる。
「すげえ! まだ速くなるのかよ!!」
「限界超えてる!!」
汗が飛び散り、腕が悲鳴を上げる。
それでも、叩き続けた。
――父さん、見てて。
音量が最高潮に達した瞬間。
ビリッ……!
乾いた音が響いた。
――スネアのヘッドが破れた。
会場全体が凍りついた。
「……あ」
「まさか……スネアが……」
観客の声が震える。
審査員も顔をしかめた。
神谷豪が低く唸る。
「……最悪のタイミングだ」
その時、焔鬼蓮華のボーカルが高笑いを放った。
「不運じゃのう! だが、これが“戦”よ! 容赦はせん!」
十基の和太鼓が一斉に打ち鳴らされる。
ドォォォォォォォンッ!!!
大地そのものが割れるかのような音圧。
炎の照明が吹き上がり、戦場の最終決戦が描かれる。
「き、きたぁぁ!! 焔鬼蓮華、最後の総攻撃!!」
司会者が絶叫する。
――どうする、ブラムー!?
リーラが振り返り、血走った瞳で叫んだ。
「アカネ! 今こそ見せよ! お主ならできる!」
「……了解だ!!!」
アカネが新たなスティックを握りしめる。
運命の一打が迫る――!
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