第25話「最強ヴァンパイア、鬼の攻撃に万事休す!?」
Zドーム全体を包む緊張は、これまでで最高潮に達していた。
ブラムーのロックとアカペラは、観客の心を確実に掴んだ。
だが、ここで待ち受けるのは――焔鬼蓮華の三曲目。
司会者は、マイクを握りしめながら声を張り上げる。
「さああああ!!! 一曲目は和とロックの融合! 二曲目は荘厳なるインストゥルメンタル! そして今――いよいよ最終ターンに突入します! 焔鬼蓮華の三曲目は……“和太鼓ソロ”だぁーっ!!!」
その瞬間、観客のどよめきが会場を揺らす。
「和太鼓ソロ!?」「まさか……十基、全部使うのか!?」
「バンドで太鼓だけって……成立するのか!?」
審査員席でも、プロたちがざわめいた。
世界的ドラマー・神谷 豪は思わず身を乗り出す。
「打楽器オンリー……だが、成立すれば他を寄せ付けない説得力を生む。しかも十基の大太鼓……これは危険な領域に入るぞ」
マリア・デル・ソルも興味深そうに呟く。
「ベースレス、コードレス……でも太鼓はテンポレスだ。抑揚を支配できる。彼らがどこまで感情を“表現”できるか……」
―――
ライトが一斉に落ちる。
闇に包まれたステージ。
次の瞬間――。
「――はっ!!!」
焔鬼蓮華の全員が同時に掛け声を放ち、十基の和太鼓が一斉に光を浴びる。
ドオオオオオォォォン!!!
腹の底に突き刺さる低音。
空気が震え、観客の胸が直接揺さぶられる。
耳で聴くのではない。皮膚で感じる。骨に響く。
マナブは即座に分析を始めた。
「空気が震えて見える……音は振動。可聴域の波動が空気を震わせ、我々の鼓膜だけでなく、全身に伝わる。十基の大太鼓は、周波数の下限――人間が“感じる”領域を叩き出している」
ユウトが呻く。
「……やべえ……音が音じゃなくて……攻撃だ……」
観客の中には思わず耳を押さえる者もいる。
だが、誰一人として逃げ出そうとはしない。
その轟音は苦しさと同時に、圧倒的な快感をも伴っていた。
舞台演出も凄まじかった。
太鼓が鳴るたび、赤い炎の照明が轟音と同調して吹き上がる。
まるで戦国時代の合戦を、音だけで再現しているようだった。
「ドンッ!」
ひとつの一撃が、槍を突き立てる音になる。
「ドドドドドンッ!」
連打が、軍勢の突撃を思わせる。
「ズシィィィンッ!」
深い一打は、大地を揺るがす巨人の足音のように響く。
刀を携えた演舞が太鼓の横で繰り広げられ、炎の照明が戦場を彩る。
それはもう音楽を超えて、ひとつの戦記の舞台だった。
観客はただ呆然と、圧倒されていた。
だが――それだけでは終わらない。
和太鼓の連打が一度止む。
空気を切り裂く沈黙。
その刹那、鬼の仮面を被ったボーカルが、鋭い視線をブラムーに突き刺した。
「――はあっ!!!」
次の瞬間、十基の太鼓が一斉に襲いかかるようなフレーズを叩き出す。
それはまるで、ブラムーへと投げかけられた“攻撃”。
ユウトが思わずギターを構えた。
「……来やがったな!」
ギャアァァンッ!!!
ユウトのギターが鋭く鳴り響き、アカネのドラムが合わせる。
マナブのベースが低音を重ね、リーラの声が炎を切り裂く。
ブラムーも応戦。
ロックのサウンドで押し返す。
しかし――。
ドオオオオオオォォォン!!!
十基の和太鼓の爆音が再び襲いかかり、ブラムーのサウンドをかき消す。
音圧。
振動。
その全てで、会場をねじ伏せる。
ユウトが歯を食いしばる。
「くそっ……音が、押し負ける……!」
アカネも必死に叩きながら呻く。
「……でも、負けたくない……!」
マナブは冷静に分析を続ける。
「ロックは2chステレオ、最大音量は0dB。だが十基の和太鼓は、物理的な振動そのものを発生させている。理論上……勝てない」
そのとき――リーラの紅い瞳が、アカネを射抜いた。
「……今こそ、お主の出番じゃ」
アカネが目を見開く。
「姐さん……!」
リーラは一歩前に出て、声を張った。
「ブラムーの勝利は、お主の太鼓にかかっておる! 見せよ、アカネ! お主ならできる!」
一瞬の沈黙。
アカネの胸に、父の姿が蘇る。
厳しい練習の日々、血で染まったスティック、けれど笑って叩き続けた自分。
――私は、叩ける。
アカネの唇が震え、力強く頷いた。
「了解だ……姐さん!」
リーラが叫ぶ。
「会場のPAよ!我らの音量をゼロにし、ドラムの音量を上げられるだけ上げよ!」
その瞬間、ブラムーのステージに新たな緊張が走った。
焔鬼蓮華の和太鼓が轟く。
そして――アカネのスティックが高々と振り上げられた。
次回――焔鬼蓮華との決戦、最終ラウンド。
その幕が切って落とされる。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
よろしければ、率直な評価や感想をいただけるとうれしいです。
よろしくお願いします。




