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最強ヴァンパイア、人間界でバンドデビューを決意す  作者: Rockston.
バンドバトル 決勝トーナメント編
25/69

第25話「最強ヴァンパイア、鬼の攻撃に万事休す!?」

 Zドーム全体を包む緊張は、これまでで最高潮に達していた。

 ブラムーのロックとアカペラは、観客の心を確実に掴んだ。

 だが、ここで待ち受けるのは――焔鬼蓮華えんきれんげの三曲目。


 司会者は、マイクを握りしめながら声を張り上げる。


「さああああ!!! 一曲目は和とロックの融合! 二曲目は荘厳なるインストゥルメンタル! そして今――いよいよ最終ターンに突入します! 焔鬼蓮華えんきれんげの三曲目は……“和太鼓ソロ”だぁーっ!!!」


 その瞬間、観客のどよめきが会場を揺らす。

 「和太鼓ソロ!?」「まさか……十基、全部使うのか!?」

 「バンドで太鼓だけって……成立するのか!?」


 審査員席でも、プロたちがざわめいた。


 世界的ドラマー・神谷 豪は思わず身を乗り出す。

 「打楽器オンリー……だが、成立すれば他を寄せ付けない説得力を生む。しかも十基の大太鼓……これは危険な領域に入るぞ」


 マリア・デル・ソルも興味深そうに呟く。

 「ベースレス、コードレス……でも太鼓はテンポレスだ。抑揚を支配できる。彼らがどこまで感情を“表現”できるか……」


―――


 ライトが一斉に落ちる。

 闇に包まれたステージ。


 次の瞬間――。


「――はっ!!!」


 焔鬼蓮華えんきれんげの全員が同時に掛け声を放ち、十基の和太鼓が一斉に光を浴びる。


 ドオオオオオォォォン!!!


 腹の底に突き刺さる低音。

 空気が震え、観客の胸が直接揺さぶられる。

 耳で聴くのではない。皮膚で感じる。骨に響く。


 マナブは即座に分析を始めた。

 「空気が震えて見える……音は振動。可聴域の波動が空気を震わせ、我々の鼓膜だけでなく、全身に伝わる。十基の大太鼓は、周波数の下限――人間が“感じる”領域を叩き出している」


 ユウトが呻く。

 「……やべえ……音が音じゃなくて……攻撃だ……」


 観客の中には思わず耳を押さえる者もいる。

 だが、誰一人として逃げ出そうとはしない。

 その轟音は苦しさと同時に、圧倒的な快感をも伴っていた。


 舞台演出も凄まじかった。

 太鼓が鳴るたび、赤い炎の照明が轟音と同調して吹き上がる。

 まるで戦国時代の合戦を、音だけで再現しているようだった。


 「ドンッ!」

 ひとつの一撃が、槍を突き立てる音になる。


 「ドドドドドンッ!」

 連打が、軍勢の突撃を思わせる。


 「ズシィィィンッ!」

 深い一打は、大地を揺るがす巨人の足音のように響く。


 刀を携えた演舞が太鼓の横で繰り広げられ、炎の照明が戦場を彩る。

 それはもう音楽を超えて、ひとつの戦記の舞台だった。


 観客はただ呆然と、圧倒されていた。


 だが――それだけでは終わらない。


 和太鼓の連打が一度止む。

 空気を切り裂く沈黙。


 その刹那、鬼の仮面を被ったボーカルが、鋭い視線をブラムーに突き刺した。


「――はあっ!!!」


 次の瞬間、十基の太鼓が一斉に襲いかかるようなフレーズを叩き出す。

 それはまるで、ブラムーへと投げかけられた“攻撃”。


 ユウトが思わずギターを構えた。

 「……来やがったな!」


 ギャアァァンッ!!!


 ユウトのギターが鋭く鳴り響き、アカネのドラムが合わせる。

 マナブのベースが低音を重ね、リーラの声が炎を切り裂く。


 ブラムーも応戦。

 ロックのサウンドで押し返す。


 しかし――。


 ドオオオオオオォォォン!!!


 十基の和太鼓の爆音が再び襲いかかり、ブラムーのサウンドをかき消す。

 音圧。

 振動。

 その全てで、会場をねじ伏せる。


 ユウトが歯を食いしばる。

 「くそっ……音が、押し負ける……!」


 アカネも必死に叩きながら呻く。

 「……でも、負けたくない……!」


 マナブは冷静に分析を続ける。

 「ロックは2chステレオ、最大音量は0dB。だが十基の和太鼓は、物理的な振動そのものを発生させている。理論上……勝てない」


 そのとき――リーラの紅い瞳が、アカネを射抜いた。


 「……今こそ、お主の出番じゃ」


 アカネが目を見開く。

 「姐さん……!」


 リーラは一歩前に出て、声を張った。

 「ブラムーの勝利は、お主の太鼓にかかっておる! 見せよ、アカネ! お主ならできる!」


 一瞬の沈黙。

 アカネの胸に、父の姿が蘇る。

 厳しい練習の日々、血で染まったスティック、けれど笑って叩き続けた自分。


 ――私は、叩ける。


 アカネの唇が震え、力強く頷いた。

 「了解だ……姐さん!」


 リーラが叫ぶ。

 「会場のPAよ!我らの音量をゼロにし、ドラムの音量を上げられるだけ上げよ!」


 その瞬間、ブラムーのステージに新たな緊張が走った。


 焔鬼蓮華えんきれんげの和太鼓が轟く。


 そして――アカネのスティックが高々と振り上げられた。


 次回――焔鬼蓮華との決戦、最終ラウンド。

 その幕が切って落とされる。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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