第24話「最強ヴァンパイア、絆の叙事詩――ブラムーのバラードを感与す!」
Zドームの空気が一瞬にして変わった。
先ほどまで轟いていたロックの余韻も、和の戦太鼓の残響も、すべてが遠のいていく。
司会者がマイクを握りしめ、やや戸惑いながらも声を張る。
「さあ! 一曲目のロックでは双方のカラーが存分に発揮されました! 二曲目は――バラード!! 先攻、焔鬼蓮華の“戦”を描いた荘厳なインストゥルメンタルに対し、後攻ブラムーは……どんな一手を打つのか!? 皆さん、目を離さないでください!」
ライトがステージを照らす。
だが、そこに楽器の音は流れない。
ギターも、ベースも、ドラムも構えたまま沈黙している。
代わりに――闇の女王リーラが一歩前に出た。
その瞬間、審査員席の朝霧 燎が眉を上げる。
「……これは。焔鬼蓮華が“戦の後の静けさ”を奏でた、その余韻を利用している。アンサーのように、歌い始める気だ」
深く息を吸い込み――リーラのアカペラが、Zドーム全体に響き渡った。
無伴奏。
それは、音楽において最も勇気のいる挑戦だった。
支える和音も、リズムもない。
ただ一つの声が、真っ正面からすべてを支配しなければならない。
第一声は、あまりに澄んでいて、観客の心を直接震わせた。
「ひとりぼっちで歩いていた夜、月は静かに見守っていた……」
凛として、しかし温かい。
闇の女王と称されるその声は、静かな祈りのように響いていく。
続いて――三人の仲間が声を重ねた。
ユウトの真っ直ぐな中音。
マナブの落ち着いた低音。
アカネの優しく包み込む高音。
それぞれがリーラの背後に寄り添うように、ハーモニーを紡ぐ。
ブラムー二曲目――全編アカペラとコーラスのバラード。
観客は息を呑んでいた。
「……楽器を、使わない?」
「アカペラだと!? この舞台で!?」
「正気かよ……」
だが次第に、そのざわめきは消えていった。
四人の声が、まるで月明かりと星空のように重なり合う。
闇の深さの中に、優しい光が差し込んでいく。
音数が減ったことで、かえって観客一人一人の鼓動に直接触れるような感覚があった。
審査員席で、世界的作曲家・朝霧 燎が目を見開く。
「バラードというより、祈りだな。戦の静けさに応える形で、声そのものを際立たせている」
打ち込みの第一人者・Rockston.は腕を組み、唸るように言った。
「四声のコーラスが綺麗に合わさっている……。これは練習量もそうだが、相当な信頼関係がなければ成立しない」
リーラの声は時に囁き、時に力強く空へ放たれる。
そのたびに三人が和音を重ね、支え、広げる。
「お前たちがいてくれるから……我は歌える」
そんな思いが、声の震えとなって伝わってくる。
――焔鬼蓮華が“戦”なら。
――ブラムーは“絆”だ。
そのコントラストを、観客は直感で理解していた。
観客の目に、涙が浮かんでいく。
「なんだよこれ……泣きそうだ……」
「ただの歌なのに、心臓がきゅうってなる……」
「和の迫力とは違う……心の奥に直接刺さってくる……」
そして、サビ。
ブラムーの四人は自然と足を寄せ、円陣を組むように互いを見合った。
視線と呼吸だけで合図を送り合い――声を重ねる。
四人の声が重なり合い、一つの巨大な光となって広がった。
「我らは共に歩む……どこまでも……」
その瞬間、Zドームの天井が消えたように思えた。
観客の視界には、広大な夜空が広がる。
月と星々に照らされた四人の姿が、幻想のように映る。
最後の一節を歌い終えると、音はすっと消えた。
余韻だけが残り、しばし誰も動けなかった。
――静寂。
それは、歓声よりも雄弁だった。
やがて、会場全体が爆発するように拍手と歓声に包まれる。
「すげええええええ!!!」
「こんなの反則だろ……!」
「ロックからのアカペラ!? 心が追いつかねえ!!」
審査員も口々に語る。
「演出の大胆さで言えば、間違いなくトップクラスだな」(ランス・カーク)
「声だけでここまで表現できるとは……」(鷲塚 演義)
「総合力で勝る焔鬼蓮華に対して、表現の鋭さで対抗してきた。見事だ」(ケヴィン・ロッソ)
ただし――桐島 翔は冷静に呟いた。
「これで互角。だが勝負は三曲。まだ安心はできない」
大臣は立ち上がり、小さく一言だけ。
「……本物だな」
そう言い残し、控室へと姿を消した。
リーラはマイクを下ろし、仲間たちを振り返った。
アカネは目を潤ませ、ユウトは拳を握り、マナブは静かに頷いた。
四人は言葉なくして、すでに同じものを感じていた。
「……次で決めるぞ」
リーラが小さく呟くと、観客は再び沸き立った。
勝負は最終三曲目――自由曲へ。
ブラムーと焔鬼蓮華の戦いは、いよいよ佳境を迎える。
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