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最強ヴァンパイア、人間界でバンドデビューを決意す  作者: Rockston.
バンドバトル 決勝トーナメント編
24/69

第24話「最強ヴァンパイア、絆の叙事詩――ブラムーのバラードを感与す!」

 Zドームの空気が一瞬にして変わった。

 先ほどまで轟いていたロックの余韻も、和の戦太鼓の残響も、すべてが遠のいていく。


 司会者がマイクを握りしめ、やや戸惑いながらも声を張る。


「さあ! 一曲目のロックでは双方のカラーが存分に発揮されました! 二曲目は――バラード!! 先攻、焔鬼蓮華えんきれんげの“戦”を描いた荘厳なインストゥルメンタルに対し、後攻ブラムーは……どんな一手を打つのか!? 皆さん、目を離さないでください!」


 ライトがステージを照らす。

 だが、そこに楽器の音は流れない。

 ギターも、ベースも、ドラムも構えたまま沈黙している。


 代わりに――闇の女王リーラが一歩前に出た。


 その瞬間、審査員席の朝霧 燎が眉を上げる。

 「……これは。焔鬼蓮華えんきれんげが“戦の後の静けさ”を奏でた、その余韻を利用している。アンサーのように、歌い始める気だ」


 深く息を吸い込み――リーラのアカペラが、Zドーム全体に響き渡った。


 無伴奏。

 それは、音楽において最も勇気のいる挑戦だった。

 支える和音も、リズムもない。

 ただ一つの声が、真っ正面からすべてを支配しなければならない。


 第一声は、あまりに澄んでいて、観客の心を直接震わせた。


 「ひとりぼっちで歩いていた夜、月は静かに見守っていた……」


 凛として、しかし温かい。

 闇の女王と称されるその声は、静かな祈りのように響いていく。


 続いて――三人の仲間が声を重ねた。


 ユウトの真っ直ぐな中音。

 マナブの落ち着いた低音。

 アカネの優しく包み込む高音。


 それぞれがリーラの背後に寄り添うように、ハーモニーを紡ぐ。


 ブラムー二曲目――全編アカペラとコーラスのバラード。


 観客は息を呑んでいた。


 「……楽器を、使わない?」

 「アカペラだと!? この舞台で!?」

 「正気かよ……」


 だが次第に、そのざわめきは消えていった。


 四人の声が、まるで月明かりと星空のように重なり合う。

 闇の深さの中に、優しい光が差し込んでいく。

 音数が減ったことで、かえって観客一人一人の鼓動に直接触れるような感覚があった。


 審査員席で、世界的作曲家・朝霧 燎が目を見開く。

 「バラードというより、祈りだな。戦の静けさに応える形で、声そのものを際立たせている」


 打ち込みの第一人者・Rockston.は腕を組み、唸るように言った。

 「四声のコーラスが綺麗に合わさっている……。これは練習量もそうだが、相当な信頼関係がなければ成立しない」


 リーラの声は時に囁き、時に力強く空へ放たれる。

 そのたびに三人が和音を重ね、支え、広げる。


 「お前たちがいてくれるから……我は歌える」


 そんな思いが、声の震えとなって伝わってくる。


 ――焔鬼蓮華えんきれんげが“戦”なら。

 ――ブラムーは“絆”だ。


 そのコントラストを、観客は直感で理解していた。


 観客の目に、涙が浮かんでいく。


 「なんだよこれ……泣きそうだ……」

 「ただの歌なのに、心臓がきゅうってなる……」

「和の迫力とは違う……心の奥に直接刺さってくる……」


 そして、サビ。


 ブラムーの四人は自然と足を寄せ、円陣を組むように互いを見合った。

 視線と呼吸だけで合図を送り合い――声を重ねる。


 四人の声が重なり合い、一つの巨大な光となって広がった。


 「我らは共に歩む……どこまでも……」


 その瞬間、Zドームの天井が消えたように思えた。

 観客の視界には、広大な夜空が広がる。

 月と星々に照らされた四人の姿が、幻想のように映る。


 最後の一節を歌い終えると、音はすっと消えた。

 余韻だけが残り、しばし誰も動けなかった。


 ――静寂。


 それは、歓声よりも雄弁だった。


 やがて、会場全体が爆発するように拍手と歓声に包まれる。


「すげええええええ!!!」

「こんなの反則だろ……!」

「ロックからのアカペラ!? 心が追いつかねえ!!」


 審査員も口々に語る。


 「演出の大胆さで言えば、間違いなくトップクラスだな」(ランス・カーク)

 「声だけでここまで表現できるとは……」(鷲塚 演義)

 「総合力で勝る焔鬼蓮華えんきれんげに対して、表現の鋭さで対抗してきた。見事だ」(ケヴィン・ロッソ)


 ただし――桐島 翔は冷静に呟いた。

 「これで互角。だが勝負は三曲。まだ安心はできない」


 大臣は立ち上がり、小さく一言だけ。

 「……本物だな」

 そう言い残し、控室へと姿を消した。


 リーラはマイクを下ろし、仲間たちを振り返った。

 アカネは目を潤ませ、ユウトは拳を握り、マナブは静かに頷いた。


 四人は言葉なくして、すでに同じものを感じていた。


 「……次で決めるぞ」


 リーラが小さく呟くと、観客は再び沸き立った。


 勝負は最終三曲目――自由曲へ。

 ブラムーと焔鬼蓮華えんきれんげの戦いは、いよいよ佳境を迎える。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

よろしければ、率直な評価や感想をいただけるとうれしいです。

よろしくお願いします。

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