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最強ヴァンパイア、人間界でバンドデビューを決意す  作者: Rockston.
バンドバトル 決勝トーナメント編
23/69

第23話「最強ヴァンパイア、戦の叙事詩――焔鬼蓮華のバラードを感受す!」

 「――さあ、それでは第二曲目! テーマはバラード!!」


 司会者のアナウンスに、観客が一斉に沸き立つ。

 だが次の瞬間、Zドームの照明がふっと落ち、場内は漆黒に包まれた。


 「続いては、鬼の軍勢――焔鬼蓮華えんきれんげ!」


 ぱあっとライトが点き、竹林を思わせる緑の光が揺れる。

 舞台上には十七名のメンバーが整列している。

 しかし――誰も歌い出す気配はない。


 司会者が目を細め、声を張る。

 「なんと……これは! ボーカルを含めた全員が、楽器として参戦する――インストゥルメンタル・バラード!!」


 観客席にざわめきが走った。

 「えっ、歌わないの!?」

 「インストでバラード!? どうやるんだ……」


―――


 最初に響いたのは、一筋の琴の音だった。

 かすかに張り詰めた弦が、ぽろん……と静かに鳴る。


 次に尺八が深く息を吐くように音を奏で、三味線がゆるやかなリズムを刻む。

 舞台中央には赤く揺れる照明――炎のようでありながら、まだ小さな焔にすぎない。


 審査員席で、作曲家・朝霧あさぎり りょう が小さく息をのんだ。

 「これは……戦の前の静けさ。音の“間”を極限まで活かしている」


 ドラマーの・神谷かみや ごう が腕を組み、うなずく。

 「リズムを刻まず、あえて“予兆”だけを漂わせている……。音を鳴らすんじゃなく、鳴らさない。ブラムーの戦略に真っ向勝負だ!」


 やがて――突然、鋭い三味線の速弾きが切り込んだ。

 「ベン!ベベベベベン!」

 それに合わせて刀を持った舞の演者が、一閃!


 ギターのリフが絡み、ドラムが控えめに疾走感を刻む。さらに尺八が太いロングトーンでメロディを聴かせる。

 舞台の照明が一気に燃え上がり、炎が戦場を描き出す。


 観客の瞳に、まるで合戦の始まりのような幻影が映る。


 「これは……戦だ!」

 「始まったぞ!」


 鬼たちの演奏が次第に激しさを増し、全員の楽器が呼応する。

 ボーカルの鬼神丸は声を発さず、ただ雄叫びのような息を楽器と重ね、楽器の一部として存在している。


―――


 「展開の作り方が見事だ……」

 審査員席でギタリスト・ケヴィン・ロッソが目を輝かせる。

 「ダイナミクスレンジを極端に広く取っている。静から動、そしてクライマックスへの抑揚が完璧だ!」


 演出家のランス・カークも続ける。

 「オーケストレーション的アプローチだな。音域を縦に積み上げて、群体としてのうねりを出している。生楽器でここまでやるのは尋常じゃない」


 まさに、楽器と映像演出の融合だった。


 照明は赤から白へ、そして深い青へと移ろい、戦の情景を描き出す。

 舞台後方のスクリーンには、兵士の影が倒れ、炎が燃え広がり、勝利と悲惨が入り混じる幻影が投影される。


―――


 観客は息を呑みながら、その音の流れに飲み込まれていた。

 「うわ……戦場が見える……」

 「バラードなのに……こんなに迫力あるなんて……」


 そして、音は徐々に静まり返っていく。


 戦の後――。

 焦げた土。崩れ落ちる兵。残された勝者の虚無。


 尺八の物悲しい音色が、その情景を描き出す。

 琴がぽつりぽつりと弦をつま弾き、三味線が低く鳴る。

 やがてすべての音が溶け合い、闇に沈んだ。


 ――静寂。


 その一瞬、観客は息すらできなかった。

 演奏は終わっていた。

 だが、心の中で音はまだ続いている。


 ボーカルの鬼神丸が、両手を広げ、まるで勝ち名乗りを上げるように立ち尽くした。

 声は出さない。だがその姿だけで、戦の結末が語られていた。


 観客席が爆発する。

 「すげええええええええ!」

 「音楽でここまで物語れるのかよ!」

 「歌わなくても……こんなに伝わるなんて……」


 審査員も口々に絶賛する。


 「音楽のダイナミクスをここまで視覚化した演奏は初めてだ」

 「抑揚と展開の作り込みが、完全に映画音楽の領域だな」

 「和太鼓十基をまだ温存している……! この先、さらに恐ろしいものを隠しているぞ」


 マナブも静かに頷きながら、心の中で呟く。

 「焔鬼蓮華えんきれんげ……あれはただのバンドじゃない。“部族”そのものだ。結束力がとてつもない。我々も戦略を練らねばならない」


―――


 リーラが小声で呟く。

 「……奴らは鬼族。古来より“戦”を美学とし、その生き様を音に刻んできた種族」

 リーラは瞳を細め、炎のような舞台を見つめる。

 「……なるほど。奴らが歌に込めるものは“覚悟”。バンドバトル優勝に挑む、覚悟の音楽だ」


 Zドームを揺るがした焔鬼蓮華えんきれんげのインストバラード。

 戦の叙事詩は、観客の胸に深い刻印を残した。


 次は――ブラムーの番。

 静寂を切り裂くように、リーラが前に歩み出る。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

よろしければ、率直な評価や感想をいただけるとうれしいです。

よろしくお願いします。

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