第23話「最強ヴァンパイア、戦の叙事詩――焔鬼蓮華のバラードを感受す!」
「――さあ、それでは第二曲目! テーマはバラード!!」
司会者のアナウンスに、観客が一斉に沸き立つ。
だが次の瞬間、Zドームの照明がふっと落ち、場内は漆黒に包まれた。
「続いては、鬼の軍勢――焔鬼蓮華!」
ぱあっとライトが点き、竹林を思わせる緑の光が揺れる。
舞台上には十七名のメンバーが整列している。
しかし――誰も歌い出す気配はない。
司会者が目を細め、声を張る。
「なんと……これは! ボーカルを含めた全員が、楽器として参戦する――インストゥルメンタル・バラード!!」
観客席にざわめきが走った。
「えっ、歌わないの!?」
「インストでバラード!? どうやるんだ……」
―――
最初に響いたのは、一筋の琴の音だった。
かすかに張り詰めた弦が、ぽろん……と静かに鳴る。
次に尺八が深く息を吐くように音を奏で、三味線がゆるやかなリズムを刻む。
舞台中央には赤く揺れる照明――炎のようでありながら、まだ小さな焔にすぎない。
審査員席で、作曲家・朝霧 燎 が小さく息をのんだ。
「これは……戦の前の静けさ。音の“間”を極限まで活かしている」
ドラマーの・神谷 豪 が腕を組み、うなずく。
「リズムを刻まず、あえて“予兆”だけを漂わせている……。音を鳴らすんじゃなく、鳴らさない。ブラムーの戦略に真っ向勝負だ!」
やがて――突然、鋭い三味線の速弾きが切り込んだ。
「ベン!ベベベベベン!」
それに合わせて刀を持った舞の演者が、一閃!
ギターのリフが絡み、ドラムが控えめに疾走感を刻む。さらに尺八が太いロングトーンでメロディを聴かせる。
舞台の照明が一気に燃え上がり、炎が戦場を描き出す。
観客の瞳に、まるで合戦の始まりのような幻影が映る。
「これは……戦だ!」
「始まったぞ!」
鬼たちの演奏が次第に激しさを増し、全員の楽器が呼応する。
ボーカルの鬼神丸は声を発さず、ただ雄叫びのような息を楽器と重ね、楽器の一部として存在している。
―――
「展開の作り方が見事だ……」
審査員席でギタリスト・ケヴィン・ロッソが目を輝かせる。
「ダイナミクスレンジを極端に広く取っている。静から動、そしてクライマックスへの抑揚が完璧だ!」
演出家のランス・カークも続ける。
「オーケストレーション的アプローチだな。音域を縦に積み上げて、群体としてのうねりを出している。生楽器でここまでやるのは尋常じゃない」
まさに、楽器と映像演出の融合だった。
照明は赤から白へ、そして深い青へと移ろい、戦の情景を描き出す。
舞台後方のスクリーンには、兵士の影が倒れ、炎が燃え広がり、勝利と悲惨が入り混じる幻影が投影される。
―――
観客は息を呑みながら、その音の流れに飲み込まれていた。
「うわ……戦場が見える……」
「バラードなのに……こんなに迫力あるなんて……」
そして、音は徐々に静まり返っていく。
戦の後――。
焦げた土。崩れ落ちる兵。残された勝者の虚無。
尺八の物悲しい音色が、その情景を描き出す。
琴がぽつりぽつりと弦をつま弾き、三味線が低く鳴る。
やがてすべての音が溶け合い、闇に沈んだ。
――静寂。
その一瞬、観客は息すらできなかった。
演奏は終わっていた。
だが、心の中で音はまだ続いている。
ボーカルの鬼神丸が、両手を広げ、まるで勝ち名乗りを上げるように立ち尽くした。
声は出さない。だがその姿だけで、戦の結末が語られていた。
観客席が爆発する。
「すげええええええええ!」
「音楽でここまで物語れるのかよ!」
「歌わなくても……こんなに伝わるなんて……」
審査員も口々に絶賛する。
「音楽のダイナミクスをここまで視覚化した演奏は初めてだ」
「抑揚と展開の作り込みが、完全に映画音楽の領域だな」
「和太鼓十基をまだ温存している……! この先、さらに恐ろしいものを隠しているぞ」
マナブも静かに頷きながら、心の中で呟く。
「焔鬼蓮華……あれはただのバンドじゃない。“部族”そのものだ。結束力がとてつもない。我々も戦略を練らねばならない」
―――
リーラが小声で呟く。
「……奴らは鬼族。古来より“戦”を美学とし、その生き様を音に刻んできた種族」
リーラは瞳を細め、炎のような舞台を見つめる。
「……なるほど。奴らが歌に込めるものは“覚悟”。バンドバトル優勝に挑む、覚悟の音楽だ」
Zドームを揺るがした焔鬼蓮華のインストバラード。
戦の叙事詩は、観客の胸に深い刻印を残した。
次は――ブラムーの番。
静寂を切り裂くように、リーラが前に歩み出る。
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