第22話「「最強ヴァンパイア、鬼との戦にてブラムーロック炸裂す!」
――Zドーム。
焔鬼蓮華の炎の戦舞台が終わった直後、観客席はまだざわめきに包まれていた。
鬼の軍団が残した余韻はあまりに強烈。舞台の熱をそのまま飲み込むように、司会者がマイクを握り直した。
「皆さま!! 見事な和のロックを響かせた焔鬼蓮華! しかし!! まだこの勝負は終わっていません! 続いての登場は――個性派にして下位から追い上げてきたダークホース、闇の女王リーラ率いる四人組! ブラムーだぁぁぁ!!」
ライトが逆のステージへ向かう。
そこには――何もない。
装飾も幕も炎もなく、ただ黒い床と壁、そして四人の立ち姿だけ。
焔鬼蓮華の豪華絢爛な舞台の直後だけに、そのシンプルさは異様にすら見えた。
「……なんもねえ……」
「さっきの和の迫力のあとだと、逆にスカスカに見えるぞ……?」
観客の一部は戸惑いの声を漏らす。
だがその沈黙を切り裂くように、リーラがマイクを握った。
「……戦か。ならば、我らは真っ直ぐに戦うのみじゃ」
その言葉と同時に――
ギャァァァァンッ!!!
ギターリフがステージに響き渡った。
ユウトの音は余計な装飾を削ぎ落とし、ただ直線的に、鋭く突き刺さる。
リーラが相手を睥睨し、目に力を宿した。
「焔鬼蓮華よ!よう見よ。我らは飾らん。ただ音と魂で貴様らの軍勢を迎え撃つ――ブラムーの覚悟、心して聴け!」
ブラムーの一曲目は、焔鬼蓮華と同じ「ロック」。
しかし方向性は真逆だった。
音数は極端に少ない。
ベースはうねるように低音を支えるだけ。
ドラムは一打一打を丁寧に刻み込み、無駄を削ぎ落としたリズムで前へ進める。
――足せばいいってもんじゃない。
引くことで強さを示す、一音の重み。
その美学が、彼らの音に宿っていた。
「……一音が、とても重い」
審査員の一人、トップアイドルの美波 エリカが思わず呟く。
「そう。音圧は敵わないはずなのに、不思議と同じくらいの存在感を感じる」
ドラマー・神谷 豪が目を細める。
別の審査員、作曲家の朝霧 燎が頷きながら言葉を続けた。
「これはリーラだけじゃない。アレンジの妙だ……マナブの采配力だろう。音を鳴らす勇気より、鳴らさない勇気の方が難しい。その間をここまで美しく使えるのは尋常じゃない」
観客も次第にざわめきをやめ、無言で耳を傾けていた。
やがて――リーラの声が入る。
高らかに、しかしつややかに。
闇の女王のハイトーンが、まるで翼を広げるように会場全体を包み込む。
「うおお……!」
「声で持っていかれる……」
「焔鬼蓮華は“戦”だったけど……こっちは“宇宙”って感じだ……!」
ストレートなロックサウンドの上に、広がるヴォイスが覆いかぶさる。
まるで突き刺さる攻撃と、広がる宇宙の攻撃魔法を同時に受けているような感覚に陥る。
熱ではなく、光でもなく、暗闇から立ち上がる神秘の音。音圧は負けていても、表現されたもののスケール感的には大きく感じる。これぞ、ブラムーの真骨頂だ。
観客の胸をひとつひとつ掴んでいく。
焔鬼蓮華が全軍で押し寄せる「刀」だとすれば、ブラムーは孤高の「矢」だった。
三本の矢が一直線に心を貫き、そこからヴォイスの余韻が波紋のように広がっていく。
演奏は中盤から終盤へ。
ドラムのアカネは迷いなく叩き続ける。
一打一打の精度を研ぎ澄まし、父から受け継いだ魂を込める。
ベースのマナブは無表情のまま、だがコード感の巧みなコントロールと、うねるようなリズムで確実に楽曲をさらなる高みへ上げる。
ユウトのギターは攻撃ではなく導線。声へとつなげ、観客をリーラの領域へと誘う。
そして、リーラの声が最後の一音へと収束していった。
――シンプルにして、強靭。
観客は静まり返り、その余韻に浸っていた。
―――
「……見事だな」
審査員の一人、超有名ロックバンドのリーダー・桐島 翔が唸る。
「装飾を捨ててここまで戦えるのは、本物の実力があるからだ」
ただ、すぐに冷静な意見も出る。
「焔鬼蓮華の総合力と比べると、やや単調にも映る」
「三曲での勝負だから、まだ判断はできないな」
途中経過の審査員票は――焔鬼蓮華にやや傾いていた。
―――
「……ふん。なかなかやりよる」
焔鬼蓮華の鬼ボーカルが、不敵に笑った。
「面白き……戦になろうぞ」
舞台はまだ始まったばかり。
一曲目を終えた両者の差は僅か。
次の二曲目が、この戦いの趨勢を大きく変えていく――。
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