表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強ヴァンパイア、人間界でバンドデビューを決意す  作者: Rockston.
バンドバトル 決勝トーナメント編
19/69

第19話「最強ヴァンパイア、鬼退治の戦略を打ち出す!」

 決戦を控え、スタジオの空気はいつになく張り詰めていた。

 相手は――焔鬼蓮華えんきれんげ


 鬼の仮面を被り、和の旋律とロックを融合させた大所帯バンド。

 和太鼓、三味線、琴、尺八、そしてエレキギターやベース、ドラムをも取り入れた、完璧と称される集団。

 ステージに立てば、その音圧と完成度は観客を一瞬で飲み込む。弱点は見当たらない。


 「どこから見ても穴がないんだよな……」

 練習の合間、ユウトが額の汗を拭いながらつぶやく。


 「しかも本戦は3曲。最低でも3つの異なる世界を見せつけてくるはずだ」

 マナブも静かに頷いた。


―――


 練習後、いつものファミレス。

 冷房の効いた店内に、ドリンクバーのカップが並ぶ。ブラムーの「作戦会議」の定番だ。


 マナブはタブレットを広げ、焔鬼蓮華の予選映像を再生していた。

 「彼らは和太鼓を十基並べている。これだけで観客の視線は持っていかれる。舞台演出と音圧を兼ね備えた“必殺兵器”だ」

 画面に映る巨大な太鼓群が、雷鳴のごとき響きを放っていた。


 「三味線や琴、尺八の旋律も緻密に絡んでいる。和楽器の生音がロックの歪みに負けないよう、絶妙にEQが組まれてるんだ」

 マナブの声は冷静だが、分析結果は厳しい。

 「弱点らしい弱点は存在しない。我々は4人。単純な物量では不利だ。勝率を上げるなら、あえて別の角度――観客に違う魅力を提示するのが正解だろう」


 「別の角度、ねぇ……」

 アカネがストローを弄びながらつぶやく。


 そのとき、


 ドン!


 リーラがカップを置き、低い声で口を開いた。


 「――向こうが太鼓なら、こちらも太鼓で挑むまでじゃ」


 「えっ……?」

 一瞬、空気が止まる。


 「それ正面から殴り合うってことか?」ユウトが目を丸くする。

 「無謀だ。数も規模も違う」マナブが眉をひそめた。


 だがリーラは、迷いのない瞳で仲間を見渡した。

 「我らには天才ドラマーがおる。アカネ、お主ならできる」


 「あ、あたし!?」

 突然の名指しにアカネは椅子から跳ね上がりそうになった。


 「十の太鼓を束ねた音圧よりも――一人の魂が打ち鳴らすリズムが勝ることを、我は知っておる」

 リーラの声には確信が宿っていた。


 アカネの胸に火が点いた。

 「……ほんとに、あたしでいいの?」

 「お主以外に誰がおる!」


 最初は不安でいっぱいだった。だが、仲間に背中を押され、アカネの目は次第に熱を帯びていく。

 「……やってやるよ。鬼だろうがなんだろうが、ぶっ叩いてやる!バカヤロウ!」


 ユウトもマナブも、互いに顔を見合わせた。

 「久しぶりにアカネのバカヤロウ聞いたな。しゃーねえ、腹くくるか!」ユウトが笑う。

 「確かに出る音はステレオの2ch、最大音は0dBだ。アカネ氏が限界を越えれば、10基の太鼓に勝てる可能性はある」マナブが頷いた。


 こうして、一曲は「ドラムメイン」で挑むことに決まった。

 残り二曲の構成も話し合われ、ブラムーの戦略は固まっていく。


―――


 本戦まで残された時間は一週間。

 アカネは自らを追い込み始めた。


 寝るのは一日三時間。

 起きている間は、ひたすらスティックを振り続ける。


 皮膚は赤く腫れ、指の関節は軋む。

 それでもアカネは笑っていた。

 ――辛いはずだが、なぜかとても楽しそうだった。


 一音一音の正確性と、存在感。

 叩く強弱のわずかな差。

 音の伸びと切れを生むダイナミクス。


 難解なテクニックではない。

 「これが、あたしのドラムだ」


 叩くたびに、幼い頃の記憶が蘇る。


―――


 あの頃、まだアカネの足は小さく、スネアに届くのもやっとだった。

 父が優しく椅子に座らせ、後ろから手を添えてくれた。


 「いいか、アカネ。ドラムはただ音を出すだけじゃない。気持ちを刻むんだ」


 大きな手が、小さな手を包み込む。

 スティックの握り方、打面に当てる角度、力の抜き方。

 ひとつひとつ丁寧に教えてくれた。


 「難しいリズムを叩けばいいってもんじゃない。一音一音を大切に刻む」

 「音は一瞬で消える。でも、その一音に“生き様”を乗せるんだ」


 父と並んで叩くドラムは、ただの練習なのに、まるで会話をしているようだった。


 テンポを外せば、父が笑いながらリズムを取り直してくれる。

 成功すれば、大げさに拍手して褒めてくれる。


 「よし、今のは完璧だ! 世界一のドラマーになれるぞ、アカネ!」

 「ほんと!? じゃあ、お父さんよりもすごくなる!」

 「ははは、いつか抜かれるかもなぁ」


 その笑顔が――今も鮮やかに蘇る。


―――


 夜遅く、スタジオの隅でリーラは黙ってアカネを見守っていた。

 ひたむきに叩き続けるその背中に、ふと父の影を見た。アカネのドラムプレイを優しい笑顔で見ている。


 “アカネは世界一のドラマーになれる。よろしく頼む、リーラさん”


 「任せておけ。我が何もせずとも、アカネは世界最高のドラマーじゃ」


 「……なんか言った、姐さん?」

 「いや、何も言っておらん」


 二人は笑い合った。

 その瞬間、リーラは勝利を確信していた。


―――


 「アカネばかりに任せてはおれん」

 リーラの一言で、ブラムーの練習はさらに熱を帯びた。


 ユウトはギターリフを磨き、観客を挑発する音を作り込む。

 マナブは低音を調整し、全体を支える確率を最大化する。

 リーラ自身も声を研ぎ澄まし、闇と光を併せ持つ表現力を極限まで引き上げる。


 本戦まで――あとわずか。


 鬼の仮面を砕くドラムの音が、世界に鳴り響こうとしていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

良かったら星マークの評価、つけてもらえると励みになります!率直なご意見、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ