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最強ヴァンパイア、人間界でバンドデビューを決意す  作者: Rockston.
バンドバトル 決勝トーナメント編
18/69

第18話「最強ヴァンパイア、マナブの過去を把握す!」

 決勝トーナメントに向けた、練習を終えた夜。

 ブラムーの面々は、いつものファミレスに腰を落ち着けていた。


 テーブルの上には、ドリンクバーのカップが並んでいる。

 マナブはそのカップを見つめ、真顔で呟いた。


 「最初は烏龍茶で喉を潤す。その後にコーヒーを半分まで飲み、カフェインを確保。次に炭酸を少しだけ混ぜて血糖値を調整。最後に水でリセット……これが最適解だ」


 「……毎回思うけどさ、飲み物ひとつにそこまで理屈立てる人、初めて見たよ」

 ユウトが呆れ半分に笑う。


 リーラはストローをくわえながら、じっとマナブを見つめていた。

 「ふむ……マナブよ。なぜ貴様は、常に論理と確率で物事を決めるのだ?」


 唐突な問いに、マナブは一瞬だけ動きを止めた。

 「……理由、か」


 ユウトが興味深そうに身を乗り出す。

 「そういえば、俺も知らないな。マナブ先輩が“そういう人”になったきっかけ。ちょっと聞いてみたい」


 「……まあ、語るほどのことじゃないが」

 マナブは一呼吸置き、グラスを置いた。


 ――とある記憶が脳裏に浮かぶ。

 それは幼い日のこと。

 彼が「論理」と「確率」に取り憑かれるきっかけになった、忘れられない出来事だった。


―――


◆「運が悪い」と笑う人


 マナブの家の近くには、二つ年上の幼馴染がいた。

 彼にとっては「お兄ちゃん」のような存在だった。

 どんなわがままを言っても聞いてくれる。虫取りに行こうと言えば虫取り網を持って一緒に来てくれるし、鬼ごっこではわざと捕まってくれる。宿題がわからなければ隣に座って付き合ってくれる。

 優しく、頼りがいがあり、いつも一緒に遊んでくれる――そんな存在。


 だが、そのお兄ちゃんには、口癖があった。


 「俺って、ほんと運が悪いんだよなぁ」


 遊ぼうと外に出れば、急に雨が降る。

 公園でジュースを飲もうとすれば、カラスに奪われる。

 水たまりの横を歩けば、必ず車が通って泥水を浴びる。

 夏祭りで金魚すくいをすれば紙が一瞬で破れ、輪投げでは全て外れる。

 くじ引きではハズレしか出ないし、ゲームセンターでは狙った景品が取れない。


 それでも彼は笑って言った。


 「まあ、運が悪いだけだ」


 ――その姿にマナブは複雑な気持ちを抱いていた。

 笑えるのに、どこか胸が締め付けられる。

 「運が悪い」という言葉が、彼の優しさを少しずつ蝕んでいるように思えた。


―――


◆あの日の事故


 ある夏の日、マナブはどうしても隣町のお祭りに行きたいと駄々をこねた。

 花火大会があり、屋台が並び、人が集まる――子供にとって夢のような祭りだ。


 「夜は危ないし、混むしなぁ」とお兄ちゃんは最初こそ渋った。

 だが結局、マナブの期待に満ちた顔に折れ、「仕方ねえな」と笑って連れて行ってくれた。


 帰り道、その事故は起きた。

 夜道を自転車で走っていると、横の路地から突然、猛スピードの自転車が飛び出してきた。

 お兄ちゃんはマナブを庇うようにハンドルを切り、避けようとした――その瞬間、バランスを崩して転倒。

 派手に倒れ、膝を強く打ちつけ、骨折をしてしまったのだ。


 泣きじゃくるマナブに、お兄ちゃんはいつもの調子で笑って言った。


 「マナブのせいじゃないさ。俺が運悪く転んだだけだ」


 ――その言葉が、マナブの胸に深く突き刺さった。


―――


◆「運のせい」なんて認めない


 自分が誘わなければ事故は起きなかった。

 自分のせいだ――そう責めるマナブに、お兄ちゃんは「運」のせいにして慰めようとする。

 だが、その「運」という言葉が、余計に許せなかった。


 「お兄ちゃんの運は悪くない! 僕が証明してみせる!」


 幼いマナブは、強い決意を胸に叫んでいた。


―――


◆統計学との出会い


 「運って、本当に存在するの?」

 その疑問を抱えたマナブは、学校の先生に相談した。


 先生は少し驚いた顔をしたあと、笑いながら答えた。

 「世の中には“統計学”っていう学問があるんだよ。たくさんのデータを集めて確率を計算すれば、運が悪いのか、それとも偶然の範囲なのか、数字でわかる」


 ――統計学。

 それがマナブの人生を変える最初のキーワードだった。


 マナブは本を読み漁り、数字をノートに書き並べ、確率の計算に没頭した。

 雨が降る確率。水を浴びる確率。くじが外れる確率。

 そのどれもが「誰にでも起こり得る範囲」に過ぎなかった。


 「ほら! お兄ちゃんの運は悪くない!」

 数字を見せながら必死に説明するマナブに、お兄ちゃんは照れくさそうに笑った。


 「……マナブはすげえな。じゃあさ、俺を“運のいいやつ”にしてくれよ」


 ――その一言が、マナブをさらに動かした。


―――


◆確率で未来を変える


 マナブは「確率」を武器に、お兄ちゃんをプロデュースした。

 くじ引きは当たりが多い店を調べて挑戦。

 運動会では「成功率の高い走り方」を一緒に研究して練習。

 試験勉強も、合格確率を上げるために「よく出る問題」から効率的に覚える。

 天気が怪しければ、二人で必ず傘を持ち歩く。


 そんな工夫を繰り返すうちに――

 「俺、最近ツイてるかも」

 お兄ちゃんは、そう言って笑うようになった。


 もう「運が悪い」と嘆かない。

 それがマナブには何より嬉しかった。


―――


◆音楽と低音


 やがてマナブは中学生になり、音楽に触れる機会が増えた。

 吹奏楽の演奏会で、大勢の楽器が鳴り響く中――彼は気づいた。


 表に出る旋律やソロは華やかで、まるで「偶然」や「運」のように揺れ動く。

 だが、その下で全体を支える低音――ベースやチューバ――があるからこそ、曲は崩れず成り立っていた。


 「これって……確率と同じだ」


 ベースはルートを弾く。

 それは曲の骨格であり、リズムもコード感も支える。

 つまり曲の良し悪しの「確率」を大きく左右する存在だ。


 マナブはベースを手に取った。

 「目立たなくてもいい。全体を支えて、未来を安定させる音を鳴らしたい」

 ――それは、お兄ちゃんを確率で導いたときの気持ちとまったく同じだった。


―――


◆現在へ


 今、マナブはブラムーのベーシストとしてステージに立つ。

 冷静に分析し、確率を読み、音の基盤を支える。

 派手に輝くリーラや仲間たちの下で、彼は静かに低音を刻む。


 それは誰かに気づかれなくてもいい。

 けれど――そこに「運」などは存在しない。

 正しい選択と積み重ねこそが未来を変える。


 その信念が、今もマナブの胸で響いている。

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