第16話「最強ヴァンパイア、SNSに降臨す!」
バンドバトルの本戦に向け、我――リーラは日々の調整を欠かさぬ。
技も声も、すでに万全。だが、人間界にはもう一つの“戦場”があると知った。
それは――SNS。
きっかけは、練習後の控室での何気ない会話だった。
ユウトが缶コーヒーを飲みながら、こちらを覗き込む。
「リーラ、そろそろSNS始めないか?」
「……SNS?」
初めて耳にする単語に、思わず首をかしげる。
「ファンとの距離を縮めるには、やっぱり発信が大事なんだよ! ライブ以外でもリーラの魅力を知ってもらえるし」
なるほど――人間界における情報戦というわけか。
我は静かに頷き、ユウトからスマホを受け取った。
その夜。
初めての投稿を放つ。
「我、地上に降り立ちし黒き翼なり。」
数分後、コメント欄は騒然とした。
「……なんの話?」
「中二病……?いや、詩?」
「訳してほしい」
「えっこれ本物?リーラさんってこういう人だったの!?」
しかし、我は止まらぬ。続けざまに二発目を放った。
「月が我を呼んでおる。貴様ら、震えて眠れ。」
「ど、どゆこと!?」
「語尾が怖すぎる」
「怖いけど好き」
フォロワーは増え続けた。だが誰一人、投稿の“意味”を理解してはいなかった。
翌日。練習スタジオで、マナブがタブレットを片手に声をかけてきた。
「リーラ氏……投稿の内容だが、一般的なリテラシーからは大きく乖離している。
親近感を与える要素が不足しているように思う」
「親しみ……?」
我は眉をひそめる。理解し難い概念である。
だが、アカネがスマホを覗き込みながらニヤニヤして言った。
「例えばさ、これ!『おはよう!今日もがんばろーっ!』とか!」
「…………ふむ」
夜、再び投稿する。
「こんばんわ。今日も良き一夜を…(照)」
ファンの反応は爆発的だった。
「わ!?!?」
「リーラ様が……!?かわいい!?」
「(照)!?!?誰だお前!!!」
さらに続ける。
「コンビニのおにぎり、美味しかった。みんなは何味が好き?(キラキラ)」
「かわいすぎて死ぬ」
「リーラ様が人間に!?」「もはや別人……」
瞬く間にハッシュタグ「#かわいいリーラ」「#リーラ語録」がトレンド入りし、少しバズった。
だが、スマホを見つめながら、我は眉をひそめる。
「……何かが違う」
キラキラした言葉たちは、我にとって仮面のようだった。
本質はもっと暗く、重く、血と夜に染まっている。
そして――次の投稿。
「我は夜を歩む者。だが、貴様らの鼓動もまた……夜を刻む。我に聴かせるが良い」
コメント欄は再び爆発。
「戻ってきたーーーー!!!」
「このリーラも最高!!!」
「結局好きだわ!!!」
翌日。控室でユウトが問いかけてきた。
「……また戻っちゃったの?」
我は少しだけ視線を逸らし、唇を動かした。
「……“おにぎりうまい”など、性に合わぬ」
「だが……悪い気はせなんだ。ふふ……照れ臭かったがの」
その瞬間、アカネが「似合ってたぜ!」と笑い、マナブは淡々と分析するように付け加えた。
「意外性がバズを生む。だが、リーラ氏の本質に沿わぬスタイルを継続するのは、リスクが大きい。
やはり、地を出した方が持続可能だ」
我は窓の外に目を向ける。夜空に浮かぶ月は、どこか柔らかかった。
――その横顔もまた、ほんの少しだけ、月明かりのように穏やかであった。
SNSは戦場であり、同時に己を映す鏡でもある。
人々は我を理解できぬままに惹かれ、笑い、震え、心を寄せてくる。
「面白い……」
その小さな呟きは、仲間にも聞こえなかった。
だが、確かに我が胸に灯ったのだ。
――人間界の戦いは、まだ始まったばかり。
いよいよバンドバトルの本戦が始まる!!




