第15話「最強ヴァンパイア、美容室に降臨す」
戦いを終えた翌日。
人間界では、風がほんの少し涼しくなり始めていた。
アカネがふと思い出したように首を傾げる。
「そういやさ、なんでバンドが次々辞退してたんだ? 結局わかんねーよな」
ユウトが腕を組んで唸る。
「確かに。あれだけ急に辞退が続くとか、どう考えても不自然だ」
その時、リーラがすっと口を開いた。
「聞いた話では……“キングスファングが怖すぎて”、対戦相手が勝手に辞退していったらしいぞ」
「えっ、そんな理由!?!」
アカネが目を丸くし、マナブが噴き出す。
「……それはそれで、研究してみたい」
ブラムーの輪に、一瞬柔らかな笑いが生まれた。
―――
さて――その日の午後。
鏡の前に座った我――リーラは、じっと己の姿を見つめていた。
「……何か、足りぬ」
歌にも戦いにも不安はない。だが――
この髪型、千年近く変えておらぬ。
「姫、美容室行ってみますか?」
「そうだな。お主に百年待ちの美容室《カリス魔・サロン》の予約を不意にされたからな」
※第一話参照
「うっ……。まあ過ぎたことはお忘れになって、人間界の美容室も素晴らしいですぞ」
マネージャー・大臣の軽い一言が、事態の発端であった。
―――
訪れたのは、原宿の人気美容室「Cutism.」
ハイセンスで知られ、芸能人御用達。もちろん、ヴァンパイアは初来店である。
「いらっしゃいませ〜……え、えっ、リーラさん!?!?」
「少しは知られてきたものよ」
リーラはさらりと言い放ち、美容師は腰を抜かさんばかりだった。
「気にするな。我の髪を切るがよい」
(圧倒的な威圧感により、美容師はビビっている)
「では……今日はどんな感じにしましょうか?」
リーラは、鏡越しに目を細めて答える。
「――イメチェン、してみるかの」
まずはウィッグ試着。
美容師が次々と差し出すたび、大臣はにやりと笑みを浮かべる。
――①ポニーテール。
「……戦の邪魔にはならぬが、少女漫画に出てきそうだな。却下」
――②金髪ロング+編み込み。
「貴族の末裔か……いや、むしろ吸血鬼そのものではないか? これはバレる」
――③ツインテール+リボン。
「……これは……何故か心がざわつく……貴様、我を笑っておるな?」
(美容師、首を横に全力で振る)
大臣は肩をすくめながら、次のウィッグをそっと差し出す。
その毛束には、鋭いツノのように逆立ったセットが。
「姫、これは流行りの“デビルツノ風”ですよ」
「……む。確かに映えるが……これは……」
(リーラの頭に被せた瞬間、まるで魔族の角のように見えた)
美容師は思わず震えた。
「(これ……完全に人間じゃない……!)」
「却下じゃ!」
リーラは慌てて外すが、大臣の口元には悪戯めいた笑みが残っていた。
――④モヒカン。
「貴様、我を何者と思っておる。断じてパンクではない」
――⑤お団子×2。
「もはや我が何族か、わからぬな。これは違う」
――⑥ボブカット。
「む……意外と……似合う……か? いや、違う。違うな……我の“闇”が足りぬ」
そして大臣がまた、そっと新しい提案を差し込んだ。
黒いウィッグに、うっすらと透ける“羽”のような装飾がついている。
「これは……最近流行の“フェアリーウィング”です」
「……ふむ、なかなか……」
リーラが被った瞬間、まるで蝙蝠の羽が揺らめいて見えた。
「!?」
美容師は思わず後ずさる。
リーラの気配が一瞬で“人外”に変わったのだ。
「……だめじゃ。これでは正体を晒してしまう」
リーラはウィッグを外す。
大臣はあくまで涼しい顔で、
「おや、少しやりすぎましたかな」
と呟くだけだった。
――1時間の試着ラッシュを経て、リーラは椅子にどっかりと腰を落とした。
「……結論を言おう」
「は、はい」
「やはり我は、この髪であるべきなのだ」
「……(あんなに試したのに……)」
「ただ――ほんの少し、整えてもらおうか。気分転換に」
美容師は小さく頷き、ハサミを構える。
そして……「チョキッ」という小さな音。
「……0.1センチだけ整えました」
リーラは鏡を見つめ、満足げに頷いた。
「ふむ……完璧だ」
―――
帰り道、大臣がそっと尋ねる。
「なんで切らなかったのです?どれも似合ってましたのに」
リーラは夜空を見上げて、微笑んだ。
「変えることが悪ではない。だが、我には“我”の形がある。
それは……幾千年、積み重ねてきた“美学”なのだ」
「そう言うものですかねぇ」
大臣は苦笑した。
こうして“イメチェン”は幕を閉じた。
次なる戦いに向けて――リーラは再び、歌手のオーラをまとうのであった。
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