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第12話「最強ヴァンパイア、ファッションに覚醒す!」

 翌日。

 マナブはヘッドホンを外し、深くため息をついた。


 「……やはり、分からない。波形には“大人には聞こえない超高周波”が一瞬記録されていたが、それだけだ」


 「超高周波……?」ユウトが眉をひそめる。

 「私にはかすかに聞こえた。しかし、それ以上は何も。原因も正体も、皆目不明だ」


 アカネが机に突っ伏しながら口を尖らせる。

 「なーんだよ、じゃあさ……あれって実は着ぐるみの演出とかじゃねーの? ほら、派手な仕掛けだってことにしときゃ」

 ユウトも苦笑する。

 「まあ、そういうことにしとけばいいんじゃねーか。勝ったんだしさ」


 視線がリーラに集まる。

 我はふんと鼻を鳴らし、肩をそびやかした。

 「……ふむ。一人の怪我人も出なかった。それでよかろう。我は何も知らんがな」


 沈黙のあと、アカネが吹き出し、ユウトも肩を揺らした。

 結局、それで場は収まった。


―――


 その後も、バンド練習とバトルの日々は続いた。

 ランキングは思うように伸びず、上位10組にはまだ遠い。

 だが、努力を重ねるたびに演奏は磨かれ、チームとしての結束も深まっていった。


 やがて――あのライブの出来事は、観客の間で「伝説」となって囁かれるようになった。

 「突然狼が現れて消えた」「あれは仕掛けだったのか?」――真実は誰にも分からない。

 だが、「ブラムーのライブは何かが起こる」という噂が広まり、一度だけでも見てみようと足を運ぶ者が増えていった。


 そして、一度リーラの歌を浴びた者は、その圧倒的な力と不思議な魅力に心を奪われ――気づけばファンとなって帰っていく。

 好奇心が、憧れへと変わる。

 伝説は偶然から必然となり、ブラムーは少しずつ注目を集める存在となっていった。


―――


 ライブを重ねるごとに、観客は確かに増えていった。

 そして終演後、我のもとに駆け寄る人間が現れる。


 「リーラさん! 今日の衣装、めっちゃかわいかったです!」


 我――最強のヴァンパイア、リーラは一瞬、言葉を失った。


 「……か、かわ……い……い?」


 戦場では称賛か恐怖しか浴びぬ。

 魔界においても、“かわいい”と呼ばれることなど決してない。

 ましてや、この我を人間がそう評するとは。


 胸の奥が、不思議と熱くなった。

 これが“うれしい”という感情なのだろう。


 (……リーラは“かわいい”の意味を知らなかった)


 「お主ら、“かわいい”とは具体的にどういう状態を指す?」


 「えーっと……目を惹く感じ?」とユウト。

 「ちがうよ! 応援したくなるってやつだぜ!」とアカネ。

 「正確には、恥ずかしい→守りたい→魅力的というふうに変化してきた歴史ある言葉だ」マナブが淡々と補足する。


 「……なるほど。我を好意的に思っているということか。歴史あるところも通ずるものがある。悪くない響きだ」


 ――そのとき。


 「姫」

 背後から恭しく声をかけたのは、マネージャー役を務める大臣だった。

 「人間界で活動を続けるにあたり、新たな衣装を提案いたしますぞ」


 「衣装、とな?」

 「はい、姫の魅力を存分に引き出す装いですぞ」


 シュッ!

 大臣はユウトからタブレットを引っぺがし、画面を見せた。

 そこには『はらじゅく つうしん!』という文字。

 黒と赤、レースとリボンが交錯する華やかな画像が並んでいた。


 「ゴスロリ」――その響きは、我の魂に直に触れた。

 ――これは、我の戦いにも通ずる装いだ。


 「ユウト、アカネ、マナブ。我は“はらじゅく”に行く」


 「は!? 急すぎるぜ!」

 「……リーラが原宿って、すげー場違い感だな」


―――


 はらじゅく駅を降りた我は、息を呑んだ。

 カラフルな看板、派手な服装の人々――魔界の迷宮にも勝る混沌。


 「あっ、クレープ屋さ」「んだー!姫!そんな時間はないですぞ!」

 思わず目を輝かせたが、大臣が慌てて我の腕を引っ張る。

 

 「むぅ……まあ良い、確かに我には時間がない」

 「事前に店をリストアップしております。こちらの路地を入ると、ゴスロリ専門店がございます」

 「さすが大臣。いざ出陣じゃ!」


―――


 「この黒のドレスと、これと、あれと……!」

 「お客さま!? サイズお出ししますね!」


 我は次々と衣装を掴み取る。

 その後ろで大臣は当然のように袋を抱え、落ち着いた声で感想を述べた。


 「姫には赤のリボンが映えますね」

 「ふむ、ならばこれも追加だ!」


 「青を合わせると全体に柔らかさが出ます」

 店員がすかさず接客する。


 「いや! 姫は絶対に赤と黒ですぞ! 魔界の色っ!最強ヴァンパイアとしての威厳が輝きますぞっ!」


 「む……大臣、我を失格にしたいのか? 力がバレたらゲームオーバーと言われたであろう」


 「しっ……失礼しましたーーーっ!」


 汗だくで慌てふためく大臣を横目に、我の装いは完璧に整った。


 「よし、帰還じゃ!」


 帰り道、しぶやでは女子高生の群れに取り囲まれた。


 「きゃー! リーラちゃんかわいい!」

 「写真撮らせてー!」

 「ちょっ……“ちゃん”だと!?」


 ぎこちなくポーズを決める我に、大臣が囁く。

 「姫、指先を少し曲げて……刀を持つ感じで……そう、怖さが出ます」

 「……なるほど、これは戦場の構えだな」


 「こんなポーズ見たことない!」

 「映えてる! SNSでバズるよ!」

 「……ばずる、とは?」

 「人気が出る、という意味でございますぞ」

 「ほう……よい響きだ」


 ――我は不慣れな文化に困惑しながらも、人々の笑顔を浴びる心地よさを知ったのだった。


次のライブ、我は黒ドレスとレースカチューシャで登場した。

「やば、今日の衣装ガチ天使!」

「いや、悪魔でしょ!」

「リーラちゃんしか勝たん!」


 ……かわいい、と再び聞こえた気がする。


 ぎこちないMCも、笑いを誘い、拍手に変わる。

「お、お主ら……我の歌を聞け! ふんっ!」

「かわいいー!」

「最高ー!」


 この世界は、戦場とは違う。

 歌で、人々の心が一つになる。

 そのぬくもりを、我は初めて知った。


 だが、バンドバトルは甘くない。


 勝つたびにランキングは少しずつ上がる。

 だが、負ければ順位は簡単に下がる。


 それでも我らは少しずつ、前へ進んでいた。

 ファッション、歌、演奏。課題を克服するごとに、順位を上げていった。


 しかし――。


「……なんだ、このコメント欄」

 ユウトがアプリを見て眉をひそめた。


 そこには応援の声と並んで、妙に目立つ悪口が散見された。

《リーラの声、うるさいだけ》

《あの格好、イタすぎ》

《リーラは人間じゃない》


 我は拳を震わせた。

「なぜだ。我は全力で歌っておるというのに……!」


「気にすんなよ、ファンの声の方が多いぜ」

「最後のコメントは、統計上褒め言葉だ」

 アカネとマナブが慰めるが、胸の奥に小さな棘が残った。


 「本日も素晴らしい歌でした、姫。差し入れです」

 コーヒーと菓子を整然と並べながら、大臣が穏やかに微笑んだ。

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