第11話「最強ヴァンパイア、アイドルバンドと咆哮す!③ ―決着―」
「喰ってやるッ!」
カイの獣声が夜空を震わせる。
巨大な爪が、悲鳴を上げる女子高生の頭上に振り下ろされようとした、その瞬間――
ガシッ!!
「ぐっ……動けねぇ……!?」
カイが呻き、振り返る。そしてリーラに気づいた。
気づかぬうちに、リーラはそっとカイの尻尾を掴んでいた。女子高生は無事だ。
「なんだ、お前……!?」
狼の瞳と、リーラの真紅の瞳が交差する。
その瞬間、血が凍るような恐怖が走った。
「……この匂い……魔界の匂い……ヴァンパイアか……!? いや、まさか……!」
狼の顔が蒼白に染まる。
「……真祖……!? ヴァンパイア王族が……人間界で歌っているだと!?」
カイは呻き声を上げた。
「くそっ……ヴァンパイア国の王女、リーラかぁぁぁ……!」
観客には届かぬ低い唸り。しかしリーラには確かに届いた。
彼女は冷然と視線を返す。
「よくぞ気づいた、獣族の狼よ。牙を剥くならば、覚悟せよ」
「一対一じゃ無理だ! 全員でかかれ!! 俺たち兄弟のスピードについて来れるはずがねぇ!」
「クインテット・クロー!!」
ハイスピードで動く狼男の連携技だ!
八つ裂きにせんとばかりに、格子状に連結した五体の爪がリーラの頭に降りかかってくる。
しかし、次の瞬間。
ドゥゥゥゥゥン――――――。
景色が黒く歪む。狼男たちの速度が十分の一に落ちたように見える――いや、リーラが十倍の速度で動いているのだ。
「――赤月のレクイエム」
彼女が低く呟くと同時に、闇の中、無尽蔵に数万本の閃光が走った。
数々のモンスターを葬り去った必殺の一撃が、五体をまとめて打ち抜く。
閃光とともに、狼男たちは空中に弾き飛ばされる。
次の瞬間、シュワヮヮヮ……と崩れ、黒煙のように掻き消えた。
残ったのは――無表情でマイクを握り、静かに立ち尽くすリーラだけ。
―――
「な、なに今の……?」
「え、狼? いやいや……特撮みたいな演出だろ?」
「映像? プロジェクションマッピング?」
「でも……あんな速さで消えるなんて……」
観客は恐怖と困惑でざわめく。
目の前で確かに“狼”が現れた。だが理性は必死にそれを否定しようとする。
“現実ではありえない。だからあれは演出なのだ”――そう信じなければ、この場に立ち続けられない。
やがて、誰かが震える声で言った。
「かっこいい……」
リーラに助けられた、女子高生だ。
その言葉に縋るように、次々と同調の声が上がる。
「そうだよ!ブラムーかっけぇ!」
「それだけは間違いない!」
「やばい……伝説のライブになるぞ!」
恐怖は興奮に変わり、理不尽な出来事は「最高のパフォーマンス」として脳内で書き換えられていく。
そして、割れるような歓声が再び爆発した。
アカネが震える声で言う。
「なぁ……やっぱり、狼……いたよな?」
ユウトは眉をひそめた。
「あぁ……でも……誰が倒したんだ? 俺、何も見えなかった」
マナブも真剣に呟く。
「……一瞬で消えたようだ。後で音を解析してみよう、私は常に録音している」
メンバーは「狼が現れた」ことに気づいている。
だが、「リーラが倒した」ことには、誰一人として気づいていなかった。
―――
リーラは静かにマイクを持ち上げ、観客へ向けて告げた。
「これより我が歌うは、赤月の鎮魂歌。騒がせてすまぬ」
しんと張り詰めた空気。
その中で彼女が再び歌い始めると、観客は息を呑み、ただその姿を見つめた。
一人の少女が叫ぶ!
「……ブラムーサイコー!ずっと付いてく!」
その一言を皮切りに、夜の交差点は拍手と叫びで揺れ、地響きのような熱狂に包まれた。
―――
だが、その歓声の裏で――魔界は静かに、しかし確実にざわめき始めていた。
魔界には五大勢力が存在する。
ヴァンパイア族、魔族、竜族、鬼族、そして獣族。
その中で獣族は“誇り高き狼の一族”を頂点とし、群れを力とする民族だった。
「……あれはリーラ……! ヴァンパイアの姫が人間界に……! わしの息子たちを、良くもあんな目に……!」
獣族の王は憤怒に震えた。
「許さん……! 獣族の誇りにかけて、必ず倒す!」
魔界の闇が、さらに大きく蠢いていく――。
今回で『Howl Beats』とのバンドバトルは終演です。これからたくさんの強敵がリーラ達に襲いかかります。果たしてブラムーは優勝できるのか!?
ご期待ください!
活動をアップしていくので、よかったら、ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします!




