第10話「最強ヴァンパイア、アイドルバンドと咆哮す!②」
後攻は我ら、ブラムー。
我は一歩前に出て、ギターの弦が鳴り響く中、静かにマイクを握った。
「――我が、真に歌いたいこと。感じて欲しいこと。それを、今宵ここに捧げよう」
その声は光ではなかった。
だが、聞く者の内側を震わせる炎。じわじわと胸を熱くし、気づけば拳を握らせる力があった。
静かに始まり、次第に盛り上がり、叫ぶように爆発する――その歌声に、場がじわりと呑み込まれていく。
ギターのアルペジオが切なく響き、ベースが低音で腹を揺さぶる。ドラムは抑揚をつけ、アカネのリズムが4つ打ちで心拍のように空気を振動させる。
そこに、マナブの打ち込みが絶妙に重なり、音の重なりが観客の心を静かに、しかし確実に掌握していった。
……演奏が終わった瞬間、街角は一瞬、息を止めたような沈黙に包まれる。
そして――
「きゃあああああああ!!!!」
割れるような歓声。観客の拍手と叫びは明らかに我らに向けられていた。
勝負は、我らブラムーの勝利。
息を整える我に、群衆は喝采を浴びせ続ける。
マナブもアカネも、笑顔を隠せない。ユウトは拳を軽く握り、満足げに頷いた。
「あたしらは強いぜ、バカヤロウ……!」
アカネの目が潤むほど感動していた。
―――
だが――その瞬間。
「チッ……ふざけんなよ」
完璧な笑顔を浮かべていたカイが、低く唸った。
「俺たちが……人間ごときに負けるはずねぇだろ……!」
その声色に、観客がざわめく。次の瞬間、空気はさらに凍りついた。
「なぁ、兄弟!!今夜は満月だ!喰ってやろうぜ!」
カイの身体がうねり、骨が軋む音が響く。メンバー全員の体も同時に膨れ上がり、裂けた衣服の下から獣の毛並みが現れた。
狼耳、鋭い牙、伸びる爪。五人はたちまち巨大な狼男へと姿を変える。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
観客は悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
人々は叫び、一斉に四方へ散った。手にしたスマホを投げ出す者、走り去る足、泣き叫ぶ声。路上の光景がたちまち混乱に変わる。
「この姿で生き残ったやつはいねぇ……! 全員喰ってやる!!」
その時、女子高生の一人が逃げ遅れた。恐怖で体が固まり、座り込んで動けない。消え入りそうな声で「助けて……」と呟く。
カイの視線が、その少女に吸い寄せられる。まるで標的を見つけた狩人の目だ。爪先が路面を掻き、次の瞬間には彼の体が跳ぶように前へ出る。
――カイの右腕が、鋭く伸びた。
少女の目に映るのは、もはやアイドルではなく、モンスターだ。爪は光を受け、先端が冷たく光る。
彼女は後ずさり、両手で顔を覆う。周囲の世界がスローモーションのように引き伸ばされていく。
「や、やめ……!」
その声をかき消すかのように、狼男カイの爪が少女の顔に届こうとしていた――
『vs Howl Beats編 最終話』につづく
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