第1話「最強ヴァンパイア、バンドデビューを決意す」
――混沌。
それが、我が生まれ育った魔界を表すのに最もふさわしい言葉だ。
獣の雄叫び、毒気を孕んだ風を吹き荒らす悪魔、地を揺るがすドラゴンの咆哮。
種族同士が牙を剥き合い、地位を、誇りを、力を奪い合う世界。
その頂点に君臨する存在――それが、この我、ヴァンパイアのリーラである。
「ふぅ……つまらぬ」
まだ幼さの残る顔で、我は肩に付いた返り血を指先で払った。
足元には、大蛇の頭を持つモンスターの残骸。瞬き一つの間に仕留めた相手だ。
様々な魔物が、我が最強の地位を奪おうと襲いかかる。しかし、結果はいつも同じ。
――強すぎる。我ながら、どうかと思うほどに。
「……まあ、別に望んで強くなったわけではないがな」
実は――我には戦いよりも、もっと好きなことがある。
力を磨いたのは、父から王位を継ぎ、ヴァンパイア族を守るため。
そのために我は孤独に戦い続けてきた。
だが、胸の奥底から湧き上がるのは勝利の喜びではない。
旋律を紡ぎ、声を響かせたときの、あの高鳴り――。
そう、歌うことだ。
幼い頃から歌を愛し、その音が混沌とした世界にも光を差し込ませるような気がしていた。
誰かが笑顔になり、涙を流し、心を震わせる――その瞬間こそ、我の真の喜びだ。
「もっと多くの者に、我の歌を届けたい」
「戦いではなく、歌で感動を与えたい」
そう願っても、我が歌えば周囲は怯え、震え、跪き、「申し訳ありません! 我らが女王!」と崇め奉る。
……まあ、それも悪くはないがな。
――さて、今日は父であるヴァンパイア族の王から、王位継承について発表がある日だ。
そのために、百年待ちの美容室《カリス魔・サロン》の予約もバッチリ入れてある。
そろそろ呼ばれる時間か。
「なんでしょうか、父上」
呼ばれ、玉座の間に足を踏み入れる。
父はいつになく渋い顔をしている――いや、もともと渋い顔なので大して変わらぬが。
そう思うと笑いそうになった。いかんいかん。
「どうした? いつになく上機嫌だな」
「いえ(危なかった)」
「王位継承についてじゃが……」
(我に譲るのであろう)
父は声の音量を一段上げ、大地が震える低音ボイスで話し始めた。
「お主は強い。だが、心がない。恐怖で支配するだけでは、どの種族も心からは動かぬっ!」
(なに!?それにモンスターに心があるのかよ……)
父の言葉に内心で毒づく。
だが最近の魔界では、“魔ネージメント”なる妙な概念が流行っている。
力任せに部下を押さえつけるのは古いとされ、“やりすぎ”は“モンハラ”と呼ばれ批判されるのだ。
「そこでじゃ。お主は歌が好きじゃったな。よって、人間界でバンドデビューを実現してみよ」
「……は?」
(バンドデビュー?人間界?)
「お主のやり方で仲間と共に歌を奏で、観客がついてくるか、試してみよ。見事叶えたら、王位を継承しよう」
「ただし、姿は人間に。力が人間にバレたら、その時点でゲームオーバーじゃ」
「……バンド?」
「そうだ。仲間とともに音を作り、観客を魅了せよ」
「父上、私は一人で十分です。舞台も、観客も、我一人で圧倒できます」
「それでは意味がない」
父の瞳が鋭く光る。
「お主への試練は、仲間と共にやり遂げることだ。力ではなく、心を合わせ、勝利を掴め」
「……なんて面倒な」
「……あれを渡せ」
大臣が一枚の紙を差し出す。
人間界の文字――柔らかい曲線の字体。これは“チラシ”というやつだ。
《Mega-Z★BandBattle! 優勝者はメジャーデビュー! 半年後、Zドームにて開催!》
「……なるほど」
(そんなもの、我の歌があれば余裕じゃ)
「承知しました」
父が玉座から立ち上がる。
その手が淡く光を帯び、まぶしい輝きとなって広がった。
「行け、リーラ。人間界で己を試せ」
真っ白な光が我を包み込み、視界が塗りつぶされていく――。
あっ!
その瞬間、ギリギリ思い出した。
――そうだ、今日は百年待ちの《カリス魔・サロン》の予約日だった。
「……大臣、悔しいが、その予約を譲ろう。我はこれから人間界だ」
大臣は狂喜乱舞し、腰を抜かして感謝を述べた。
……数分後、「職務中に美容室とは何事だ!」と父に雷を落とされていた。
こうしてリーラは人間界へ向かい、バンドデビューを目指すことになった。
仲間を得て、共に頂点を目指す――それは、戦いと孤独で築いてきた我の人生には存在しなかった試練だ。
見事にバンドデビューを勝ち取れるのか?
――その試練が、魔界最強ヴァンパイアの運命を大きく狂わせる
初めての投稿です!
大好きな、モンスターと音楽の世界観に挑戦しました!これからもがんばりますので、よろしくお願いします!
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