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世間知らずの白髪の少女と古代魔法都市(無能と呼ばれた王女の逆転劇)「『無能』とバカにされた王女ですが、実は世界を救う力を持っていました。」

作者: 希望の王

この物語は、タイトル:世間知らずの白髪の少女と古代魔法都市(絶望と再生の物語)「あなたが見ている世界。それは、本当に本当の世界ですか?」完全版(挿絵80枚以上) 作者:希望の王【ノクターンノベルズ】の主人公”あやの”の姉であるユイの幼少期の物語です。

挿絵(By みてみん)

表紙


銀の髪と紅の瞳の王女 - ユイの物語





【第一章:小さな奇跡】


春の陽光が降り注ぐ庭で、ユイは小さな手をそっと差し出した。まだ幼いその指先が、地面の小石に向けられる。銀糸のように輝く髪と、吸い込まれるような赤い瞳が、真剣な光を宿していた。


「……浮け」


囁くようなその声に応えるように、小石がふわりと宙に浮かんだ。それは、ユイが生まれながらに持つ特別な力――空間操作能力の、ほんの始まりの兆しだった。基本は物を浮かせること。けれど、その小さな奇跡は、ユイにとって無限の可能性を秘めているように思えた。


挿絵(By みてみん)


庭の隅で花の手入れをしていた母が、その様子に気づいて優しく微笑んだ。「ユイ、またお庭で遊んでいるの?お洋服が汚れないようにね」


ユイは、浮かんだ小石を手のひらにそっと乗せ、満面の笑みで振り返った。「お母さま!見てください!ユイ、また少し上手になったんです!」


母の瞳にも喜びの色が宿る。「ええ、ユイは本当にすごいわね」


その日の夕食の席で、ユイは父である国王に向かって、小さな胸をいっぱいに膨らませて言った。「お父さま!ユイは、いつかきっと立派な王族になりますわ!」


国王は、愛娘の言葉に目を細め、優しく頷いた。「ああ、ユイならきっとそうなれるだろう。お前には、素晴らしい力があるからな」


幼いユイにとって、その言葉は未来への確信だった。自分の持つ不思議な力は、いつかきっと誰かの役に立ち、自分を立派な王族へと導いてくれるのだと信じて疑わなかった。庭で小石を浮かべる小さな魔法は、ユイの幼い夢を大きく膨らませる、希望の光そのものだった。


【第二章:いばらの道】


時が流れ、ユイは王国の魔法学校に入学した。王族の子女として、周囲の生徒たちは一様に敬意を払うべき立場だったはずだが、ユイに向けられる視線は、好奇心と、そしてほんの少しの侮蔑ぶべつの色を帯びていた。


魔法学校には、様々な魔法の才能を持つ者たちが集っていた。炎を操る者、水を自在に操る者、治癒の力を持つ者。その中で、ユイの空間操作能力は、地味で、実用的ではないと思われていた。物を浮かせるだけ。それは、彼らにとっては取るに足りない能力だった。


ユイが廊下を歩けば、背後からささやくような陰口が聞こえてくる。「ねえ、あれがユイ王女よ」「なんで、あんな奴がここにいるんだ?」「無能者が!」


魔法の授業でも、ユイは苦労した。他の生徒たちが華麗かれいな魔法を披露する中で、ユイの魔法はいつも静かで、目立たなかった。重い物を持ち上げる時くらいしか役に立たない。そんな風に、陰で嘲笑ちょうしょうされた。


「ものを浮かせるだけって?手で持てば済むじゃないか」


ある時、実技の授業で失敗したユイに、同級生のひとりが露骨ろこつに嘲笑した。周囲の生徒たちも、面白がるようにクスクスと笑った。


ユイは、下唇を噛みしめ、俯いた。心臓が締め付けられるように苦しい。王族として生まれたにもかかわらず、自分は皆とは違う。劣っている。そんな感情が、じわじわとユイの心を蝕んでいった。


「劣等生!」「おちこぼれ!」


耳に突き刺さる言葉の刃。ユイの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。それは、幼い頃に抱いていた希望の光が、ゆっくりと消え失せていく予兆だった。赤い瞳は涙で濡れ、その奥の光は、今にも消え入りそうに揺れていた。


挿絵(By みてみん)


【第三章:退学宣告】


ある日、ユイは学長室に呼び出された。重い足取りで扉を開けると、厳格な表情の学長が、冷たい視線をユイに向けていた。


「ユイ王女。あなたの成績は、かんばしくありません」


学長の低い声が、重くユイの心に響く。


「魔法の才能は、努力だけではどうにもならないこともあるでしょう。しかし、あなたは明らかに努力を怠っている。他の生徒たちとの差は開くばかりです」


ユイは、何も言い返すことができなかった。陰口に耐え、必死に授業についていこうと努力はしてきたつもりだった。けれど、その努力は誰にも認められず、ただ無力な自分を突きつけられるだけだった。


「このままでは、退学処分もやむを得ません」


学長の言葉は、ユイにとって衝撃だった。退学。それは、王族としての自分の立場を失うことを意味する。母に、父に、顔向けができない。


「……そんな」


ユイは、か細い声で呟いた。目を見開いて学長を見つめるその瞳には、再び涙が溢れそうになっていた。希望を失いかけていた心に、さらに絶望の淵へと突き落とされたような感覚が押し寄せる。


学長は、冷淡な表情を崩さない。「次回の試験で、もし進歩が見られなければ、その時は覚悟してください」


挿絵(By みてみん)


ユイは、打ちのめされたように学長室を後にした。足取りは重く、まるで鉛を抱えているようだった。空はどんよりと曇り、ユイの心模様を映し出しているようだった。


【第四章:裏山の頂で】


誰とも会いたくなかった。ユイは、人気のない裏山へと足を向けた。鬱蒼うっそうとした木々の中を彷徨さまよい歩き、たどり着いたのは、山頂の開けた場所だった。


眼下には、王国の美しい街並みが広がっている。けれど、今のユイには、その景色さえも色褪いろあせて見えた。


風が、ユイの銀色の髪を優しく撫でる。遠くからは、魔法学校の鐘の音が聞こえてくる。それは、ユイにとって別れの音のように聞こえた。


「どうして……」


ユイは、ぽつりと呟いた。自分には、本当に何もできないのだろうか。せっかく王族に生まれたのに、こんなにも無力なのだろうか。


挿絵(By みてみん)


涙が、頬を伝って落ちる。赤い瞳は、夕焼け空を映して、悲しい色に染まっていた。


どれくらいの時間が経っただろうか。ユイは、ぼんやりと空を見上げていた。その時、信じられない光景が、ユイの目に飛び込んできた。


空の彼方、雲の間から、巨大な影が現れたのだ。それは、まるで空に浮かぶ島のような、巨大な浮遊大陸だった。そして、その浮遊大陸が、ゆっくりと、しかし確実に、王国の首都へと落下してきているではないか!


ユイは、目を疑った。ありえない光景だった。けれど、その巨大な影は、刻一刻と大きくなり、地上の王国へと迫りつつあった。


【第五章:迫りくる脅威】


王国の首都は、騒然としていた。空に現れた巨大な浮遊大陸は、人々に恐怖と混乱をもたらしていた。


挿絵(By みてみん)


王国国防軍の魔法使いたちが、次々と空へと飛び立ち、浮遊大陸を食い止めようと必死の攻防を繰り広げていた。色とりどりの魔法が空を舞い、激しい爆発音が響き渡る。


けれど、その攻撃は、巨大な浮遊大陸にはまるで歯が立たない。魔法の光は、巨大な岩の塊に吸い込まれるように消え、大陸の落下速度は、ほんのわずかに遅くなる程度だった。


ユイは、山頂からその光景をただ見つめていた。国防軍の魔法使いたちは、皆、王国でも屈指の魔法の使い手たちのはずだ。それなのに、あの巨大な浮遊大陸を止めることができない。その絶望的な状況が、ユイの胸に重くのしかかった。


このままでは、王国の首都は、あの巨大な浮遊大陸の下敷きになってしまう。多くの人々が、命を落としてしまうだろう。


いてもたってもいられなくなったユイは、とっさに自分の体に魔法をかけた。空間操作能力。普段は物を浮かせる程度の力だが、今は、自分の体を宙に浮かせることに全神経を集中させた。


ふわりと体が浮き上がり、ユイは信じられないほどの速さで、王国の首都へと向かって飛び出した。涙で滲んだ赤い瞳には、故郷の街を守りたいという、強い決意の光が宿っていた。


挿絵(By みてみん)


【第六章:無力な言葉】


地上では、国防軍の魔法使いたちが、必死の抵抗を続けていた。汗と土にまみれ、疲弊の色を隠せない兵士たちが、それでもなお、希望を捨てずに戦っていた。


その中に、空から急降下してきたユイが、音もなく着地した。突然のことに、兵士たちは驚き、警戒の目を向けた。


「どけ!ユイ!」


一人の兵士が、険しい表情でユイに叫んだ。


「お前ごときが、どうにかできることじゃない!引っ込んでろ!無能者!」


その言葉は、かつて魔法学校で何度も浴びせられた、ユイにとって最も聞きたくない言葉だった。けれど、今のユイの心には、その言葉はもう、以前ほど深く突き刺さらなかった。故郷の危機を前に、そんな個人的な感情など、取るに足りないものだった。


ユイは、兵士の言葉を無視して、ゆっくりと空を見上げた。巨大な浮遊大陸は、すぐそこまで迫っていた。風圧で、ユイの銀色の髪が激しく逆立つ。


赤い瞳が、強い光を放ち始めた。それは、これまでユイが見せたことのない、強い意志の光だった。


挿絵(By みてみん)


【第七章:赤い光】


ユイは、両手をゆっくりと空へと掲げた。全身の魔力が、内側から湧き上がってくるのを感じた。それは、これまで自分が意識したことのない、強大な力だった。


赤い瞳が、まるで燃えるように輝きを増していく。その光は、周囲の兵士たちを圧倒するほどの、異様な熱を帯びていた。


「……止まれ」


ユイは、 小さい声で、しかしはっきりとそう言った。その瞬間、信じられないことが起こった。


巨大な浮遊大陸の動きが、ぴたりと止まったのだ。まるで、何かに掴まれたかのように、空中で静止した。


周囲の兵士たちは、目を丸くしてその光景を見守っていた。ありえない。あんな巨大な物体を、一体どうやって止めたというのか。


ユイの赤い瞳から、一筋の血が流れ出した。体中の血管が悲鳴を上げ、皮膚の下で脈打つのがわかった。強大な魔力は、ユイの小さな体には、あまりにも負担が大きすぎたのだ。


それでも、ユイは力を緩めなかった。故郷を守りたい。ただ、その一心だった。


しかし、限界はすぐに訪れた。激しい頭痛がユイを襲い、視界が歪んでいく。体中から、まるで蛇口を開いたように、鮮血が噴き出した。


ユイは、力を使い果たし、その場に崩れ落ちた。赤い瞳から光が消え、銀色の髪は血で赤く染まっていた。


挿絵(By みてみん)


【第八章:目覚めの時】


ユイが気が付くと、そこは見慣れない部屋のベッドの上だった。白いシーツに包まれ、優しい光が差し込んでいる。


ゆっくりと体を起こすと、周囲には、心配そうな表情で見守る母や、王国の重臣たちの姿があった。皆、ユイの無事を心底から安堵しているようだった。


挿絵(By みてみん)


「ユイ!気が付いたのね!」


母が駆け寄り、ユイを優しく抱きしめた。その温かさに、ユイは自分が確かに生きていることを実感した。


「お母さま……」


掠れた声で呟くと、母は涙ながらに頷いた。「もう大丈夫よ。あなたは、私たちの英雄よ」


重臣たちも、深々と頭を下げた。「ユイ様、貴女のおかげで、王国は救われました」


ユイは、まだ状況が飲み込めなかった。自分が一体何をしたのか。ただ、故郷を守りたいと願っただけだった。


その後、ユイは、自分が浮遊大陸を止めたことを知った。あの時、ユイの空間操作能力は、想像をはるかに超える力を発揮したのだ。けれど、その代償は、ユイの体に深く刻まれていた。


【第九章:王族の証】


数日後、王国の首都では、盛大なパレードが行われた。人々は、空から落ちてきた脅威から王国を救った英雄、ユイを称え、歓喜の声が街中に響き渡った。


挿絵(By みてみん)


パレードの壇上には、父である国王が立ち、ユイの手を優しく握りしめた。そして、王国の民衆に向かって、高らかに宣言した。


「今日、この日をもって、わが娘ユイは、王族の一員として、その功績を正式に認められるものとする!」


割れんばかりの拍手が、ユイに送られた。人々は皆、ユイの勇気と力に感謝し、尊敬の念を抱いていた。


ユイは、照れくさそうに、しかし誇らしげに、その歓声に応えた。かつて、無能者と呼ばれ、希望を失いかけていた少女は、今や王国の英雄として、人々の尊敬を集める存在となっていた。


けれど、ユイの心には、複雑な感情が渦巻いていた。自分の力の強大さを、身をもって知ったからだ。あの時、ほんの少しでも力を制御できなければ、自分だけでなく、周囲の人々をも巻き添えにしていたかもしれない。


【第十章:旅立ち】


パレードから数日後、ユイは一人、静かに王都を後にした。誰にも告げず、ひっそりと。


王族としての地位も、人々の賞賛も、今のユイには必要なかった。自分の持つ力の大きさと、その危険性を知った今、ユイは、その力を正しく使う方法を見つけたいと強く願っていた。


広大な世界には、まだ見ぬ力や、様々な人々との出会いが待っているだろう。自分の力が、いつか誰かの役に立つ日が来るかもしれない。


銀色の髪を風になびかせ、赤い瞳に決意の光を宿して、ユイは一人、旅路を歩き始めた。それは、王国の英雄としての栄光を捨て、真の強さを求めて歩む、孤独な旅だった。


挿絵(By みてみん)


いつか、自分の力を完全に制御し、誰かを守れる力を持てるようになるまで、ユイの旅は終わらない。銀髪赤目の少女の物語は、まだ始まったばかりなのだ。


ここまでお読みいただき本当にありがとうございました。


それでは、どうか良い一日をお過ごしくださいませ。


          親愛なる貴方様へ。

            希望の王より。

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