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わたしをやめる日  作者: Y.N
わたしの知らないわたしへ
13/32

消えかけた出席番号

 朝の教室。

 始業のチャイムの音が鳴り終わる頃、澪はそっと席に着いた。

 いつも通りの時間、いつも通りの風景――のはずだった。


 


 けれど、何かが、ほんの少しずれていた。


 


 黒板に貼り出された座席表。

 その一番右下、澪の席――その場所だけ、名前がなかった。


 


 空白だった。


 他の生徒の名前はきちんと整列して並んでいるのに、そこだけぽっかりと抜け落ちていた。


 


(……たまたま、印刷ミス……だよね)


 


 そう思おうとした。

 でも、胸の奥で何かが冷たく沈んでいった。


 


「――灯凪さん、いる?」


 ホームルーム直前、担任の佐藤先生が出席を取る。

 名簿をちらりと見て、首をかしげた。


「……あれ、出席番号12番って……?」


「います」


 澪が手を挙げて答えると、先生は少し驚いた顔でこちらを見た。


「ああ、ごめんごめん。なんか印字が薄くなっててね。最近プリンター調子悪くてさ」


 笑ってごまかされた。

 教室も誰も気にしていないようだった。


 


 でも澪は知っていた。

 これは“たまたま”なんかじゃない。


 何かが、確実に、わたしを消そうとしている。


 


 (名前が、なくなっていく)

 (誰の記憶にも、だんだんと)


 


 視線を下げると、自分の机の名前シールも、端が少し剥がれていた。

 その名前――“灯凪澪”は、どこか薄く、擦れかけていた。


 


 まるで、世界が少しずつ、“灯凪澪”という存在を削り取っていくようだった。

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