9 マヨールの処遇と財務大臣
「いったいお前は何を考えておるのだ!」
「父上、何故ですか!何故ダメなのですか!」
パズールサバイバール王国王宮。
オーマンス国王とマヨール第1王子が声を荒らげている。
「勝手にオカピーヌとの婚約を破棄し、しかも国外追放を言い渡すなど言語道断だ!」
「ですがあの女はネムーネ嬢を虐待していたのです!ああなんて可哀想なネムーネ」
「そのネムーネとやらも、シスオー男爵の庶子で元平民だと言うでは無いか。そんな娘のために公爵家に喧嘩を売ったのだぞ!」
「公爵家がなんだと言うのですか!」
「何もわかっておらんな。どんな教育を受けたのだ?ウホール公爵家は元は王家の直系だ。5代前の王位争いの際に争いは民のためにならずと、自ら公爵へと降下したのだ。貴族の8割がウホールを支持していたのにもかかわらずだ。今でも変わらず8割の貴族はウホール派だ」
「・・・・」
「もう良い。お前は王太子から外す。王太子は第2王子とする。下がれ!」
「ウホール公爵を急ぎ呼んでくれ」
「アトムズ、こたびは不幸な行き違いがあった。オカピーヌの国外追放令は誤りで、即刻解除した。マヨールは王太子より降ろし第2王子を王太子とする事とした。これで鉾を収めてくれんか」
「陛下、オカピーヌは既に隣国に住まう身。今さら帰国するとは思えません。そしてマヨール殿下に思う事はございません。」
「そうか、オカピーヌは帰らぬか」
「では公務が有りますので御前失礼させていただきます」
執務室に戻ったウホール公爵アトムズ。そこに秘書官がある書類を手にやってくる。
「こちらが例の調査結果です」
「ふむ。やはりな」
アトムズは財務大臣である。彼が見ている書類はとある機関の財務報告を分析した結果であった。
パズール王国の貴族の8割はウホール派である。残り2割の貴族で力を持っているのは国防大臣のクロック・レイン侯爵。
国防軍の予算は彼が握っている。
ここ数年その支出に少し違和感があった。とある商会への支払いが年々増えているのだ。その商会が扱うのは軍の食料。その単価が毎年上がっている。
食料市場に明確な値上げの傾向は見られないのにだ。これはおかしい。
一方でレイン侯爵の回りで派手な散財が見受けられる。間違いない。
しかし確たる証拠がある訳では無い。
今後は証拠集めに注力しようと決めた。
領都エルウィンへの小麦の輸送。
今あるトラックはニトンが主力だ。
しかしニトンでは都合13台が必要だ。
そこで5倍の積載ができるジュットンを作ることにした。これなら3往復で済む。
もはや自重という言葉を忘れてしまったオカピーヌであった。
「オカピーヌあなたまたとんでもない物を作ったわね」
「あ、ジュットンですか?大口のエルウィンまでの輸送にはやはり今のトラックでは小さすぎまして」
「はあ・・・仕方ないわね。オカピーヌ商会は王家お抱えにするしかないわ」
「王家お抱えですか?」
「王家が盾にならなきゃ、あなた大変なことになるわ。それこそ他国が黙ってないもの」
「他国ですか。他国…」
「そうよ。あなたを欲しがる国が山ほど出てくるわ。既に各国の間者がうろついてるもの」
オカピーヌは考えた。
"お抱えとして王家が今よりも強力にバックアップしてくれれば怖いもの無しだわ。エルウィンとの契約で余剰の小麦もほぼ無くなるし、今以上の増産には農地が必要。各地の農場を買い取って耕せばもっと増産できるわ”
「わかりました。そのお話是非お願いします。それで陛下、王都周辺の農場を買い取ろうと思ってますの。よろしいでしょうか?」
「既存の農場の収穫量を増やそうってことね?でも我が国の食料問題は解決に向かっているわよ?」
「でもエルウィン伯爵に伺ったところですと、辺境の地ではまだまだ小麦が足りないとのことでしたし、もっと増産して余剰は輸出すれば国力の増強になるのではないでしょうか」
「輸出ね。ちょっと考えさせてちょうだい」
国王執務室にて
「オカピーヌがもっと小麦を増産して輸出したいって言うのよ。どう思う?」
「まだ増産できるのか?」
「ええ、そのために周辺の農場を買い上げたいって」
「ほほう。あの娘はどこへ向かうのかね。頼もしい限りだ」
「それで、輸出先ってありそう?」
「そうだな東のパズールは彼女との関係が悪いので無理だろうし、そうなると北のフォックス帝国か、西のダーラ王国か。フォックス帝国は寒い地方なので小麦の生産量は少ないな。現在はパズール王国から輸入してるはずだ。少し調べさせよう」