8 エルウィン伯爵領
農場と車庫ができ上がったが、農民を募集しなければならない。
隣の王家の農場にかなりの人数を取られているが大丈夫だろうか。
「オカピーヌ、ちょっといいかしら」
「はい、なんでしょう」
「このリストね、この前うちの農場で雇いきれなかった人達なの。この人達をあなたの農場で雇って貰えないかしら」
「あら!そうなんですの?うちで働いて貰えるならとても助かりますわ」
「それとこっちが運転手のリストね」
何から何まで揃えてくれる王妃様。まるでオカピーヌの側k··ゲフンゲフン
こうしてオカピーヌ商会の農民と運転手が揃った。
前世の日本では小麦は秋に種をまき、早い地方で翌年6月に収穫である。寒い地方では2ヶ月ほど遅くなる。
しかしオカピーヌが開墾した王家の農場では、季節に関係なく種まきから2ヶ月という短期間で収穫できる。しかも連作し放題だ。最高年5回の収穫が可能である。だが実際には収穫自体に時間がかかるのと、その後の乾燥などの処理があるため、年4回が限度となる。
それでも今までの4倍の収穫量である。
収穫の時期には王家のヒマノニトン、ヨントン総出で輸送しても足りない。
不足分の輸送はオカピーヌ商会に依頼する事になる。なら初めからヒマノニトン、ヨントンをもっと多くしろって話だが、それを言ってはならない。元々オカピーヌへの利益還元のためなのだから。
一方オカピーヌ商会の農場は王家農場とはひと月ずらして種まきをしている。それにより王家の収穫と重ならないようにしたのだ。王家農場の輸送時はオカピーヌ商会の農場はまだ収穫時期では無いので、王家農場の輸送に全車が回される。そしてオカピーヌ商会の農場分の輸送は自前の部隊で賄えるのだ。
さて、オカピーヌ商会の農場(オカピー農場と呼ぼうか)は王家農場の4分の1の規模とはいえかなり広い。そして年に4回収穫できるのだから個人の農場としてはとんでもない収穫量になる。
その小麦をどこにどう流通させるかが問題である。もちろん他の商会がこぞって買い付けをしていくが、それでも捌ききれない。仕方なく巨大な倉庫を建てて保管している。
そこでオカピーヌは王都周辺の街以外にも販路を広げることにした。
王都から離れた都市としては、エルウィン伯爵領の領都エルウィン、その姉妹都市のイラがある。イラもエルウィン伯爵の領地で中規模都市である。
エルウィン伯爵領も近年人口が増え食料問題が課題であった。
王都からは馬車で3日、荷馬車だと4日かかるが、ヒマノニトン、ヨントンなら1日で行ける。朝出発して夜には着けるのだ。
オカピーヌはバンビョーネ王妃に相談してエルウィン伯爵を尋ねることにした。
「オカピーヌ、これがあなたの推薦状よ。エルウィン伯爵は話のわかる方だからきっと上手くいくわ」
「ありがとうございます。とても助かりますわ」
しかし領都エルウィンまで何で行くかが問題だった。馬車では時間がかかりすぎるし、ヒマノニトン(めんどくさい。もうトラックでいいか)ではさすがに心象が良くない。
そこで馬車型ゴーレムを作ることにした。
トラックを全体的に小さくして、荷台部分を低くして馬車の形に作る。御者台(運転席)にも屋根を付け、高価だがフロントガラスをはめ込み雨でも濡れない形にした。
座席は前向きに前後2列。ドアは左右2枚ずつ。フォードアである。窓にも高価なガラスを組み込み内装もそれなりに豪華にしてある。そしてその馬車型ゴーレムはセダンと呼ぶことにした。
もちろん王家用にとびきり豪華なものも作った。
メイド兼秘書のニモラと例の若い騎士スーサン・オツピを伴い出発したセダンは快調に進む。昼に中間点の村で昼食を取り、夕方には領都エルウィンに着いた。
エルウィンで宿を取り、翌朝スーサンがオカピーヌの推薦状を持って伯爵の屋敷へ向かった。
王家の蝋印がされた推薦状は直ちに伯爵の元に届けられ、その日の午後には使者が返事を届けてきた。
翌々日の午後、ニモラとスーサンを伴い屋敷に向かったオカピーヌは、豪華な応接間に通された。
ソファーに座るオカピーヌの後ろにはニモラとスーサンが立つ。
しばらくすると小さくベルが鳴らされ初老の紳士が部屋に入ってきた。
ベルの音で立ち上がり紳士を迎えたオカピーヌはカーテシーで挨拶をする。
「推薦状を拝見しました。あなたが?」
「はい、オカピーヌ・ウホールでございます」
「バンビョーネ陛下があれほど信頼して推薦なさる商会長が、貴方のような美しい令嬢とは驚いた」
「もったいないお言葉ですわ。陛下にはとても良くしていただいております」
「さて、貴方が大量に小麦をお持ちとの事ですが、どれほどの量を商われるのかな?」
「現在すぐにご用意できるのは25,000kg程になります」
「ほう!それはすごい。この領都のひと月分が賄える量です。王家の農場がとんでもない収穫量を実現したと聞いていたが、貴方の所でも?」
「はい、増産に成功いたしました」
「そうですか、それは羨ましい限りだ」
「しかし問題はその量をどうやって運ぶかですな」
「そちらもお任せいただきたいと思います。わたくしもトラックを手に入れましたので」
「なんと!王家が長年かけて開発したというあのトラックをお持ちですか」
「はい、幸運なことに」
伯爵は考える。トラックを持ち小麦の増産も可能。そしてここまで乗ってきた馬無しの馬車、あれはなんだ?あんな物を手に入れられるのだ、間違いなく王家の関係者であろう。この令嬢を深く探るのは危険すぎる。
元から悪い取引では無いのだから、誠実に向き合うべきだ。
「わかりました。それでは具体的な契約についてお話しましょう」
こうして新たな販路を開拓したオカピーヌ商会は小麦の販売とその輸送で大きな利益を得るのであった。