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ノンフィクションは甘くない  作者: D
第1章 ガラナイア王国 ルデライト
9/11

第5話 こいつアレだ、かなりのアホだ

 稽古場を出た俺達は、縁側に腰掛けた。


「で、何が聞きたいんだ?」


 日に当たって気持ちよさそうに伸びをしながら、オストルが聞いてくる。


 さて、聞きたいことはもちろん災害への手がかりとなる情報なのだが。

 もし人災だとしたら、他国との戦争である可能性は十分高い。

 国際情勢、他国との友好関係について聞きたいが、直球で聞くとまた怪しまれるかもしれない。


「ほら、俺って記憶喪失だろ? このままって訳にもいかないし、記憶が戻る手がかりを探す旅に出ようと思っているんだ。旅先にオススメな国ってあるか?」


「じゃあとりあえずガラナイアを色々回ったら? 全部回れば手がかりの一つや二つ見つかるでしょ」


「……ガラナイアってどこだ?」


「ガラナイア王国、この国の名前ですよ」


 エストロが小馬鹿にする様に鼻で笑いながら教えてくれる。


 コイツの性格は思った通りのようだ、使えるな。

 俺は心の中でしめしめと思いながら、エストロをおだてる作戦に切り替える。

 

「エストロは知識量に自信があるって言ってたよな。この国について、色々教えてくれないか?」


「やれやれ、仕方ないですね。何が聞きたいんですか? どんな質問でも答えてあげますよ」


 その後、俺の問いに得意げに答えていくエストロ。

 その間、俺は適度に「へえ〜、そうなのか」「よく知ってるなそんなこと」などと呟き、感心した様子を見せる。

 褒められて嬉しいのか、エストロは饒舌じょうぜつぶりにどんどん拍車がかかっていった。

 

 さて、エストロから色々教えてもらい、ガラナイアについてまあまあ知る事ができた。

 そして今なら対して疑われず、自然に他国との関係が聞けそうだ。


「……ガラナイアの王都周辺には地下鉱脈が大量にあるため、世界でも有数の鉱石採掘地帯として名を馳せて……」


「ついでに他国のことも聞いていいか? いつか行くことになるだろうし、ガラナイアの近国の話とかさ」


「ええ、いいですよ。まず、ルデライトの真南、ガラナ平原をずっと進んで行った所に、聖王国ミグルゼシカがあります。ですが、あの国はオススメしません。典型的な封建国家で、貴族と王族以外はかなり酷い扱いを受けているそうです」


 エストロの発言に、オストルとミサーニャも同調する。


「ガラナイアに亡命してくる人間も結構いてな。相当な人数をかくまっているから両国の関係はかなり悪い。もしガラナイアから来たなんて言ったらどんな仕打ちを受けるか……」


「パパが仕事でミグルゼシカに行ったことあるんだけど、至る所で食べ物を恵んでくださいってすがられたらしいよ。超ヤバくない?」


 なんだその怪しさ超満載(まんさい)な国は。

 聖王国ミグルゼシカか、詳しく調べてみた方が良さそうだ。


「そうだな。ひとまずガラナイア中を見て回ることにするよ」


 さて、かなりの時間喋っていたと思うのだが、いつまでこの三人の相手をしていればいいのだろう。

 いい加減話すことも尽きてきたんだが……。

 

「なあ、確かエルだっけ? 少しいいか?」


「ん? あぁ、どうした?」


 オストルが少し辛気臭そうにしながら声をかけてくる。


 オストルが腰を上げると、それに釣られて他の二人も立ちあがろうする。

 が、オストルはそれを止めると。


「二人はここで少し待っててくれ。エル、あっちで話そう」


「お、おう」


 何か琴線に触れるような事でも言ってしまったのだろうか。

 不思議そうにこっちを見る二人を尻目に、俺は少し緊張しながらオストルに付いていった。


 ◆


「なあ、俺ってやっぱり邪魔か?」


 屋敷の外に出てすぐの所で、オストルは足を止め、振り向き俺にそう言った。

 

 一瞬何の事かと思ったが、なるほどそういうことか。


「まあ真面目に稽古に参加していない奴がいると士気が下がるからな。そんなに気にしているなら今からでも謝ってくれば……」


「違う違う! あの二人の事についてだよ。ほら、アンタならもう全てお見通しなんだろ?」


「……? 何のことだ?」


 マジでさっぱりわからん。


「ほら、ミサーニャとエストロって両思いだろ?」


「え、そうなのか?」


「え? 気づいてなかったのか?!」


 そんな感じには見えなかったんだが。

 だが、オストルの言いたい事は分かった。


「お前がいると二人がイチャつけないから煙たがられているんじゃないかって事か」


「……まあ大体合ってる」


はたから見てもそんな感じはしなかったけどな。というか何でいきなりそんな話を?」


 相談事なら会ったばかりの俺じゃなくてもっと違う人にすればいいだろうに。


「ほら、エルって人を見る目あるだろ? エストロの性格を瞬時に見抜いていたじゃないか」


「いや、あれは随分分かりやすい性格していたからな。多分誰でも見抜けるぞ」


「え、そうなのか……? やばい、エルならいいアドバイスをしてくれると思って、二人が両思いな事バラしちまった……」


 取り返しのつかないことをしてしまったとオロオロするオストル。


 ああ。

 こいつアレだ、かなりのアホだ。


「すまん、今の話は忘れてくれ!」


 オストルが手を合わせ頭を下げてくる。


 とりあえずコイツに大事な秘密をいうのはやめておこう。

 うっかりバラされそうだ。


「別に言いふらしたりしないから安心してくれ。それと、お前がいて二人が嫌がっているなんて事はないと思うぞ。よくよく考えてみろ。お前といるのが嫌なら、お前がさっき立ち上がった時、二人が付いてくる素振りをしたのはおかしいだろ」


「た、確かに!」


 その発言にオストルはハッとすると、目を輝かせながら俺を見つめてきた。

 だがその表情のどこかに、確かな陰りが見える。


「ありがとうエル! いや、兄貴と呼ばせてくれ!」


 早い早い。

 まだ会って数分だぞ俺達。

 どこにそんなしたわれる要素があったんだ。


「いや、それはなんかむず痒いからやめてくれ」


「ところで兄貴ってどこから来たんだ? 黒髪黒目なんて珍しいよな」


 全然聞いてないし。


「何一つ覚えていないって言っただろ? 年も家族も人間関係もさっぱりだ」


「そっか、大変だな。俺でよければいつでも兄貴の力になるぜ! これでも王国軍に入隊するのが夢で、毎日鍛えてるから腕っぷしには自信があるんだ」


 オストルは右腕に力瘤ちからこぶを作ると、それを左手でバシバシと叩きながら得意げな顔をする。


 そんなオストルの発言を聞いていて、俺は疑問に思った。


「じゃあなんで稽古をサボるんだ?」


「ここでしか二人に会えないからな。剣を振るよりも、二人と話したいんだ。俺、他に友達いないからさ」


 そう言って寂しそうに笑った。

 

 なんて悲しいこと言うんだ。

 二人と一緒に大人しく稽古に参加してくれ! 兄貴からのお願いだ! ってお願いしようとしてたのに、言いにくくなったじゃないか。


「ほ、ほら。これからは俺も友達だろ? そんな顔するなって。気持ちは分かるけど、周りにも迷惑かかるし、金を出してくれている親にも申し訳ないだろ?」


「いいよ、親に無理やり行かされてるだけだし」


 オストルの表情が明らかに険しくなった。

 そういえばミサーニャが三人ともそうだって言っていたな。


「俺の今の親はさ、本当の親じゃないんだ。本当の親は小さい頃に山賊に襲われて死んじゃって、顔すら思い出せない」


「そ、そうか」


 急にかなり重い話になり、俺は言葉に詰まり空返事からへんじのような反応をしてしまった。

 だがオストルはそれを気にする事もなく、それどころかすらすらと、嫌な物を吐き出すかのように言葉を連ねる。


「それで、孤児院にいた俺を拾ったのが今の親なんだけどさ。子供に恵まれなかったとかで、俺を後継あとつぎにするために習い事三昧、俺の意見なんて一つも通らない。俺は頭が悪いからさ、いつも叱られてばかりで」


 後継ってことは貴族や資産家の養子になったってとこか。

 これじゃあサボるななんて言いにくいじゃないか。


「最近、もっと頭のいい養子を迎え入れようって話をしているのが聞こえてきて……」


 オストルは顔を歪ませ、声を震わせながら絞るように言った。

 

 オストルはまだ子供、一人ではこの状況をどうする事もできないだろう。

 だが、相談された俺もその現状を変えるような力は持っていない。

 せいぜいそういったクソみたいな理不尽に直面した時の対処法を教えてやることくらいしかできない。

 世の中そんなもんだと割り切って、無理やりポジティブシンキングするのだ。


「それって逆にラッキーじゃないか?」


「え?」


 俺の返答が予想外だったのか、オストルは驚いた顔でこっちを見る。


「他に養子を迎えるってことは、お前は後を継がなくても良くなるってわけだ。つまり王国軍に加入するという夢が叶えやすくなる」


「そ、そうだけどよ。多分道場には通わせて貰えなくなるし、家ではゴミ扱いされて自由も奪われるだろうし……。そんなんで王国軍にちゃんと入れるか分からない、何よりアイツらと会えなくなるのが嫌だ」


 眉をしかめ、ムッとした顔でオストルは抱えている不安を吐きだす。

 おそらく、オストルはこの事を誰かに相談したくてたまらなかったのだ。


 最初にされた質問に答えた時、オストルの表情が少し曇っていた理由が分かった。

 あそこで俺が肯定していれば、道場を辞めさせられる件も、幾許いくばくか割り切れていたのかもしれない。

 ミサーニャとエストロがオストルを嫌っていないと分かったからこそ、嬉しい反面、二人と会えなくなる事がより辛く感じてしまったのだ。


「自立すればいいんじゃないか?」


「自立……?」


「家を出ていくって事だよ。冒険者でもしながら腕磨いてさ。夢を叶えて親を見返してやればいい。それに、自由に二人に会いに行けるようになる」


「でも……俺みたいなバカが一人で生きていくなんて出来るわけ……」


「出来るさ」


 俺は親指で自分を指差すとキメ顔で言う。


「魔力量がカスで記憶喪失な俺でも出来ているんだからな」


 それを聞いたオストルは、少しポカンとした顔をした後、思いっきり吹き出した。


「アハハハハ! 兄貴みたいな乞食にはなりたくねえなあ」


「うるせえほっとけ。大体なあ、ネガティブに考えすぎなんだよ。孤児だったけど、独り立ちが出来る歳になるまで金持ちの家で美味い飯食えたし、貴重な経験もたくさんできてラッキー! くらいの気持ちでいいんだ」


 毒親からは速やかに距離を取るのが一番だ。

 他人に縛られた人生なんてつまらないからな。


 そういえば気軽に自立をうながしたが、オストルって何歳なんだ?

 オストルはあの二人と違って背も高くかなり大人びているし、高校生くらいだよな?


「なあオストル、お前って今何歳なんだ?」


「えっと……確か13だったな」


「13?!」


 日本だったらまだ中学生じゃねえか!

 その歳で自立するのは流石に早すぎる。


「おいオストル、今までの話はひとまず保留だ。あと最低二年くらいは経ってからにしろ」


「え、なんでだ? もう帰ったら荷物をまとめる気満々だったんだけど」


「行動力お化けか! 親からまだ甘い汁を吸えるなら吸っておけ。いいか、人生ってのはずる賢い奴が得するんだよ」


「なるほど! さすが俺の見込んだ兄貴だ!」


 兄貴と慕ってくれるのは悪い気はしないのだが、今日初めて会った得体の知れない奴に心を許しすぎな気もする。

 所謂いわゆる、子分気質ってやつなのだろうが……。

 いつか悪い奴に騙されないか心配だ。


「なあ、あまり初対面の奴に自分の素性をベラベラ話すのはやめた方がいいぞ。世の中には人の弱みに漬け込んであくどい事を企てる人間がたくさんいるからな」


「俺だってこんなこと話すの、兄貴が初めてだ。なんか兄貴は話しかけられた時からやべえ雰囲気っていうか、ビビッときてよ! この人はやべえって」


 ……本当にコイツは英才教育を受けていたのかと思うほどボキャブラリーが貧弱だな。

 まあとりあえず、俺がやべえ奴認定されていたってことだけは分かった。

 確かに初っ端(しょっぱな)から子供達に不審者扱いされてたもんな。


 なら尚更なおさらなんで慕われているのかさっぱり分からん。

 それをいちいち聞くのもなんか小っ恥ずかしいし、やめておこう。

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