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ノンフィクションは甘くない  作者: D
第1章 ガラナイア王国 ルデライト
8/11

第4話 ヤンチャな奴ら

 次の日、俺はアレフと共に街の剣術道場に来ていた。

 

「こんにちは、ミズガルドさん」

 

 道場の前の落ち葉を掃いていた栗色の髪の男性に、アレフが声をかける。

 ミズカルドと呼ばれたその男は、アレフの姿を視認すると笑顔で返した。


「やあアレフ君、依頼を受けてくれるのがいつも君で助かってるよ。冒険者の中には癖や気の強い人が多いからね」


「やっぱり弟がいるので心配で」


「ところで隣の君は? 初めて見る顔だね」


「アレフのサポートとしてきました、エル・タチバナです。本日はよろしくお願いします」


「あぁ、よろしく」


 家を出る前、「なあ、俺、全く役に立てなさそうだし、行く必要あるか? むしろ邪魔にならないか?」と聞いたところ。


「どうせ暇だろ? 道場には俺の言うことをなかなか聞かないヤンチャな奴もチラホラいてな。そういう奴等の相手をしてくれ」


 要するに、厄介事を押し付けられるということだ。

 今は少しでも異世界の情報収集をしたいので全く暇では無いのだが、アレフには大恩があるので断るわけにもいかない。

 まあヤンチャとはいえ所詮は子供。

 なんとかなるだろうと俺は軽い気持ちで道場の敷居をまたいだ。


 すると、一人の女の子が俺を見た途端にドタドタと走ってきて見上げてくる。

 そして純粋無垢(むく)な目でこう言った。


「黒髪黒目のお兄さん、アー君が言ってたけど怪しい人なの?」


「……え?」


 突然不審者疑惑をかけられ、俺は唖然あぜんとしてその場で固まった。

 そして、その姿を見て自信満々そうな表情で俺を指差し、高らかに宣言する少年が一人。


「うん、そうだよ! 間違いないよ、こいつはスパイだ!」


 アレフと同じ、オレンジ色の髪をした子供。

 そう、アレフの弟のアーミーである。

 ところで怪しい人からスパイにランクアップ? しているんですけど。

 事実無根な内容を大声で話すアーミーに、アレフが慌てて止めようとする。


「おい! 急に何言ってるんだアーミー!」


「こいつ、自分が記憶喪失だって嘘ついて、お兄ちゃんにすがって乞食してるんだ! しかもこいつ、魔力量が26しかないって嘘もついてた! こいつは本当の魔力量を隠してるからきっと悪いスパイだ!」


「た、確かに……。私達よりも年上なのに魔力量が26しかないなんてありえないし……」


「もし本当なら生きる希望失うよな」


 子供達が鋭利な言葉のナイフで俺を突き刺してくる。

 そんな事よりもこの場の誤解をどう解こうか。


 アーミーの周りにいた子供達が納得していく中、俺が頭を悩ませていると、アレフがアーミーの頭を軽く小突く。


「適当な事を言うなアーミー。冒険者ギルドで測った魔力量は、水晶側の不調がない限り絶対に正確な数値が出る。改竄かいざんなんて出来ないし、冒険者カードを故意に偽装する事も不可能だ。それに、アーミーも見ていただろ。コップの水一杯すら満タンにできず、魔力欠乏(けつぼう)症になっていたエルの姿を」


「う……でも……」


 叱られたアーミーは、バツが悪そうに目をらす。

 そんなアーミーの頭を、いつの間にか隣に立っていたミズガルドが優しく撫でながら口を開いた。


「勝手な憶測で他人の悪口を吹聴するのはやめなさい。ほら、悪い事をしたらきちんと謝るんですよ」


「ううう……」


 だが、アーミーの口から俺への謝罪の言葉が発されることは無く、涙を浮かべながら道場の奥へと逃げるように走り去っていった。


 そんなアーミーを目で追っていると、周りから複数の視線を感じる。

 それは紛れもなく、同情の視線だった。


「記憶喪失で魔力も無いなんて……可哀想」


「乞食しないと生きていけないよな」


「お兄さん、僕の今日のおやつあげるから元気出して」


 なぜ俺は会ったばかりの子供達に哀れまれ、慰められているんだ。

 嘲笑ちょうしょうされていないだけマシだが、これはこれでとても傷つく。


「とりあえず稽古を始めるぞ〜」


 アレフが空気を変えるために大声で呼びかける。

 大半はその声に従って木刀を構えるが、構えていない者が三人、固まって胡座あぐらをかいていた。


「ほら、オストル、エストロ、ミサーニャ、座ってないで参加しろ」


「えー、気分じゃないですね」


「あたしら親に無理やり通わされてるだけだし」


「金は払ってるんだから、ここで俺達が何しようが勝手だろ~?」


 見るからに問題児である三人は、アレフの注意に一切動じず、それどころか内輪ネタで盛り上がり始めた。

 談笑する三人を見て、ミズガルドがやれやれとため息を吐く。

 おそらく、アレフの言っていたヤンチャな奴らとはあの三人組の事だ。

 となると……。

 

 道場の隅っこで眺めていた俺に、アレフが周りに聞こえないよう小声で話しかけてくる。


「アイツらいつもあんな感じでな。サボるだけならまだしも、あんな感じじゃ真面目に取り組んでる子達の邪魔になっちまう。ということでなんとかしてきてくれ」


 アレフはそんな無茶振りを言うと、壇上に立つ。

 そして。


「それじゃあまずは素振りだ、始め!」


 掛け声と共にテンポよく素振りを始めた。


 俺は改めて談笑を続けている三人を見る。

 周りの視線など気にも留めていない、傍若無人ぼうじゃくぶじんぶり。

 ミズガルドのさっきの諦めたような反応を見るに、何度も注意したが効果が無かったのだろう。

 アレフにさえ反抗していたのだ。

 乞食で生きていると認識されているであろう俺が注意しても、鼻で笑われるに違いない。


 さて、どうしたものか。

 別に稽古に参加させる必要はない。

 周りに無害になるようにすればいいのだ。

 それなら……。


「なあ君達、ちょっと外で俺と話さないか?」


「え? なんですか急に」


「あたし、知らない人に付いていくなって親に言われてるんだよね」


 予想通り警戒されているな。

 というかミサーニャ……お前さっき反抗的なこと言ってたくせに、こういう時はしっかり親の言うこと聞くんだな。

 

 外で俺と話すメリットを提示できれば楽なんだが、残念ながら俺の手元には何も無い。

 いや、一つだけあるな。

 異世界の知識だ。


 仮にここで、異世界の事を教えてあげるから外に来て! と誘ってみるとしよう。

 妄想してる痛い奴という新たなマイナスのレッテルを貼られるかもしれない。

 最悪なのは、異世界人だということがバレた時、自分がどうなるか予想がつかない事だ。

 マッドサイエンティストに解剖されるかもしれないし、異世界人を恐れる過激派に殺されるかもしれない。

 リスクが高すぎる橋は、渡るべきではない。

 という事で却下。


 いっそのこと土下座で誠意を見せるか?

 いや、流石に年下相手にはプライドが……。

 俺が思い悩んでいると、背の高い方の男、オストルが口を開く。


「まあまあ、話くらい聞いてやろうぜ。で、なんだ? 説教とかなら聞き飽きてるからごめんだぞ」


 他の二人とは違い、見るからに怪しい俺を受け入れてくれるオストル。

 なんでいい奴なんだ。

 

 俺は深刻そうに三人に頭を下げて。


「実は記憶喪失で何一つ覚えてないんだ。色々教えてくれないか? ついでに相談にも乗ってほしい」


 人の本能的な教えたがりの心理を利用する。

 異世界について教わりつつ、アレフの要求もクリアできる。

 まさに一石二鳥の策だ。

 

「ま、あたし達も超暇だったし、私はいいけど」


「木刀を振るよりは楽しそうですしいいでしょう。知識量には自信がありますしね」


「二人がいいなら俺もいいぞ」


 よし、あとは稽古場の外に連れ出すだけだ。


「じゃあここで話すのもなんだし、外で話そうぜ」


「えー、めんどくさ〜い。ここじゃダメなの〜?」


「相談があるって言っただろ? あまり人に知られたくないんだよ、だから頼む」


 不満そうなミサーニャに俺は顔の前で掌を合わせお願いする。

 必死そうな俺を見て何を思ったのか、パッと笑顔になると、途端に興味津々そうに問いただしてきた。


「え、それってもしかしてさ! 好きな人の事とか? それなら超相談に乗るよ!」


「いや、違う。まあ記憶喪失する前に彼女がいたかについてならオレも超気になるし超知りたい。超いた気がしないけど」


「何その話し方、変なの」


 超理不尽。

 十秒前の自分忘れちゃった?


「怪しいですね。外に僕達を連れ出して誘拐でもするつもりですか?」


 まずい、このままだと誘拐犯とかいう洒落しゃれにならないレッテルまで貼られてしまう。


「あそこの縁側! あそこならミズガルドさんから見える位置だし、程よく離れていて多分声も聞こえないはずだ!」


「まあそれならいいか。ちょうど日に当たりたい気分だったしな、行こうぜ」


 オストルは立ち上がり、縁側へと向かう。

 他の二人もやれやれといった感じでゆっくりと立ち上がると、オストルの後ろに着いて行った。

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