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ノンフィクションは甘くない  作者: D
第1章 ガラナイア王国 ルデライト
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第1話 畑泥棒

 まばゆい光が収まっていく。

 どうやら転移は完了したらしい。


 転移した先が盗賊のアジトの中でしたとかは勘弁してくれよ?


 などと思いながら恐る恐る目を開けると、目の前には五メートルを優に超えるであろう木の柵が。

 振り向こうとすると、グシャリと水分の多い何かを踏み潰す感触がした。

 足元を見ると、そこには無惨な作物の姿があった。

 赤紫色の液体が靴とズボンの裾に飛び散り汚れる。


「うわぁ、どっかで洗わないとな……」


 規則正しく植えられているのを見るに、ここは畑なのだろう。


「あーーーー! 畑泥棒がいるーーー! お兄ちゃーん!」


「うおっ!」


 突然背後から子供に叫ばれ、驚いた俺は柔らかい土に足を取られ尻餅をつく。

 追加で何個か作物を潰してしまい、靴とズボンだけじゃなく、上衣まで汚れてしまった。

 だがそんなことを気にしてなんていられない。

 こんな怪しい所を見られてしまった。


 逃げるか?

 いや、空腹なうえ疲れ切っているこの体で逃げ切れるはずがない。


 やがて、一人の男がすごい剣幕でやってきた。

 そして持っていた真剣を抜き、剣の先をこちらに突きつけ怒鳴るように聞いてくる。


「誰だお前、どうやって入ってきた! 日中堂々と畑泥棒とは度胸あるじゃねえか! 縛り上げて衛兵に突き出してやる!」


「ちょっと待ってくれ! 畑泥棒じゃないんだ! これはその……」


 何か上手い事言ってこの場をしのがなければ。


 どうする?

 空腹と疲れで頭が回らない。


 いっそ正直に言うか?

 転生者です、神様に変な呪いをかけられて転移してきましたって。


 いや、怪しすぎる。

 だがいい考えが思い浮かばない。


 仕方がない、正直に言おう。


「お腹が空いていただけなんです、なんでもいいので食べ物を恵んでくれませんか?」


「やっぱり畑泥棒じゃねえか」


 俺は腹を鳴らしながら見事な土下座を披露した。


 ◆


「その話が本当だとして、この後どうするつもりなんだ?」


 そう聞いてきた男の名前はアレフ・サーペント。

 オレンジ色の長髪を後ろで一つに縛っている、俺と同い年くらいの青年だ。

 剣を突きつけられた時はおっかない奴だと思ったが、警戒しながらも着替えと簡単な料理を用意してくれる良い奴だった。


 料理を食べながら色々と聞かれたが、とりあえず記憶喪失で気づいたらここにいたと言ったら、多少疑いながらも信じてくれた。

 そしてその横には全く俺のことを信用せずに睨みつけるアレフの弟、アーミー・サーペントの姿が。


「こいつ怪しいよ! 絶対悪者だよ!」


 俺に聞こえないように耳打ちしているつもりだろうが丸聞こえだぞ。


 だがまあ、アーミーの反応が正しい。

 自宅の畑の作物を踏み潰していた、自称記憶喪失で身元不明の男なんて怪しすぎるもんな。

 長居するのも悪いし、さっさとおいとまするとしよう。


「とりあえず金がないと宿にも止まれないからな。仕事の斡旋あっせんをしている場所ってないか?」


「それなら冒険者ギルドが無難だな。冒険者登録は誰でも無料でできるし、依頼を達成すれば金が貰える」


「じゃあ早速行ってみるよ。すまないが、冒険者ギルドまでの道を教えてくれないか?」


「あー、それなら一緒に行くぞ。俺もちょうどギルドに用事があるんだ」


「ありがとう、助かるよ」


 ちなみに料理の方は見たこともないものだらけだったが、空腹なのもあって最高に美味だった。


 ◆


「着いたぞ、ここが冒険者ギルドだ」


 冒険者ギルドは周りの建物と比べ一際大きく、一番上には龍の模様が描かれた旗がなびいていた。

 扉を開けて中に入ると、冒険者達の喧騒けんそうが耳に入ってくる。

 

「あそこの受け付けに行って冒険者登録したいって言えば、後は全部やってくれる。貸した服は返さなくてもいいからな、どうせ俺が着なくなった奴だし」


「あぁ、色々とありがとう」


 アレフは俺に手を振り、ギルドの奥へと歩いていった。

 今度、何かしらお礼をしないとな。


 さーて、異世界転生後のメインイベントの一つ、冒険者登録だ。

 俺は少しワクワクしながら受付へと向かう。


 チート能力はもらえなかったものの、俺は異世界からの転生者という異端の存在。

 魔力量が凄かったり、何かしらのステータスがめちゃくちゃ高かったりで、期待の新人だと持てはやされるかもしれない。

 というか、あと1週間もしない内に大災害が発生するのだ。

 ただでさえ異世界に来たばかりで右も左も分からない状況。

 多少才能に恵まれていないと生き残れる気がしない。


 受付に近づくと、一人の受付嬢が声をかけてくる。

 

「こんにちは、要件をどうぞ」


「冒険者登録をしたいのですが」


「ではこちらの水晶に手を触れてください」


 言われた通り、水晶に手を触れる。


 少し緊張したきたな。

 これで魔力も才能も全くありませんとか言われたらどうしよう。


 しばらくすると水晶が発光し始めた。

 

「離してもらって大丈夫です、それでは名前を教えてくれますか?」


 確かゼウスが、転生前に俺のことを橘エルって呼んでたよな。

 せっかくだし、姓名を逆にしよう。

 

「エル・タチバナです」


「冒険者登録、完了しました。これがあなたの現時点のあなたの魔力量と冒険者ランクが記された冒険者カードです」


 受付嬢から一枚のカードを手渡される。


「手続きは以上です。それでは冒険者として、これから頑張ってくださいね」


 思ったよりもあっさりと終わったな。

 俺は受付嬢に頭を下げると、依頼が貼ってあるボードへ向かいながら冒険者カードを見る。


 エル・タチバナ

 冒険者ランクF

 魔力量……26

 ◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️

 ◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️

 ◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


 あれ、これだけか。

 もっと色々書かれていると思ったんだが……。

 それにしても魔力量26って……、多分そんなに多くないよな。

 下の方が焦げたように真っ黒になっている。

 なんだこれ、印刷ミスか?


「あの、すいません」


 俺は依頼掲示板の前で立っていた、斧を背負ったいかにも戦士っぽい風貌ふうぼうの男に声をかける。

 

「ん? なんだ坊主、何か用か?」


「さっき冒険者登録をして冒険者カードを貰ったんですけど下の部分が真っ黒になっていて……、これって普通なんですかね?」


 俺は持っていた冒険者カードを男に見せた。

 男はそれを見て、鼻で笑う。


「ハッ、なんだこの魔力量は。生まれたての赤ん坊レベルだぞ。こんな焦げ跡も見たことねえ、冒険者カードを作る魔道具が故障してたんだろう。受付に行けば作り直してもらえるはずだぜ」


「やっぱりそうですよね、ありがとうございます」


 という事で、もう一度受付に来て再発行してもらったわけなのだが。


 あれから時間をおいて何度試してみても、何も変わらなかった。

 対応してくれた受付嬢もこんなことは初めてらしく、とりあえず魔道具の故障という事になった。


 ただ、依頼は問題なく受けれるという事で、俺は薬草採取の依頼を受けることにした。

 報酬は銀貨五枚。

 銀貨を日本円に換算するとどのくらいの価値になるか分からないが、冒険者ギルドに行くまでの道で見かけた宿屋の看板には一泊につき銀貨三枚と書いてあった。

 今日の宿代はこれで確保できるだろう。


 と思っていた時期が俺にもありました。

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