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ここは異世界

 

 ぴちょん…


 水滴の音がする。

 それに自分も濡れている感覚がある。

 呼吸ができているから水の中というわけではなさそうだが、水に浸っているような感覚だ。

 雨でも降ったのかな?いや、そもそも僕何してたんだっけ?


「あ!」


 ぼんやりとした意識の中、そこまで考えて急に意識が浮上した。


 目を開けて真っ白い天井に思わずまぶしくてもう一度目を瞑る。

 今度はゆっくり目を開けて、徐々に視界を慣らしていくと、やっぱりそこは水たまりのように濡れていた。そして自分はその中に横たわっている状態だ。

 体を起こしてゆっくりと周囲を見渡すと、白いとても広い部屋の中で、まるでどこかの神殿みたいな、日本とは思えない場所だった。


 いつからいたのか大勢の人たちに囲まれてる。


 え、なんで?ていうか僕、確かブラックホールみたいなのに飲み込まれて…、生きてる。生きてるのか?とりあえず助かったのか?ここ、あの世とかじゃないよね。


 混乱する中、とりあえず体に異常はないかと、ぺたぺたと全身を触って確認する。濡れている以外は特に異常はないようだ。一旦その事実にホッとした。

 でも、まだ何も言葉を発さずにただ僕を見下ろしている周りの人たちがなんなのかわかってない。何もしゃべらない事が、逆に怖い。


 皆一様に白いローブのような服を着てる。それに身長も凄く高い。彫りの深い顔をしているし、まるで外国人のようだ。

 日本にいたはずなのに、急に外国人だらけの中にいるってどういうこと。それに此処はなんなんだよ。同じような服を着た人に囲まれて見下ろされている。まるで宗教か何かの儀式みたいで怖い。

 わけのわからない状態で、心臓がやけに早く動いている。手足の先が冷たくなる。


「あの…。ここはどこですか?僕、なんかへんなのに吸い込まれて、気が付いたらここにいたんですけど、誰か何かわかる方はいますか?」


 日本語が通じるとは思えない風貌の人たちだけど、とりあえず今、自分はどんな状況に置かれているのかわからないとどうしようもない。

 恐る恐る話しかけてみると、周りの人たちはハッとしたように驚いて、今まで無言を貫いていたのが噓のように、突如として喋りだした。


『なんだ、このお方は神子様ではないのか?なぜ我らの言葉を話さない』

『召喚が失敗した…?そんなまさか』

『言葉が通じないという事は、神子ではないという事ではないか?』


 ザワザワと次第に声も大きくなり騒がしくなっていく。何か焦ったように喋っている様子だけど、案の定、僕には何を話しているのかさっぱり理解できなかった。

 英語とも違う、かといって他の言語がわかるはずもない。全く聞き取れないし、他国語だったとしても何語なのかすら分からない。


 どうしよう、言葉も通じないんじゃどうしようもない。

 ならとりあえずここから出なきゃ。外に出ればもしかしたら今いる場所がわかるかもしれない。

 僕はこの人達に尋ねることは諦めた。

 ずぶ濡れのまま立ち上がると、来ていた服に水がしみ込んでいて体が重い。ぽたぽたと水がどんどん滴っていく。


『待ちなさい!何をしようというんだ』

『今すぐ陛下がこちらへいらっしゃる。それまでお前はそこにいなさい』

「え?なんですか?」


 僕が立ち上がると、目の前にいた人が慌てたように手を前に突き出して、制止の合図をしてきた。止まれということなのは分かった。出て行くなってことなのかな。

 何かを伝えようとしてくれて入るけどさっぱり分からない。


 僕が理解できないまま歩き出そうとしたら、外国人たちの中でもさらに大柄な人に立ち塞がれた。

 その人はほかの人たちと違い、白いローブのようなものでなく、いわゆる甲冑のようなものを身に着けていた。よくゲームとか映画とかファンタジーな世界や、歴史の教科書で見たことのあるような西洋の甲冑だ。腰には剣と思われるものがついてる。

 まさか、何かドラマとか映画とかの撮影?そうだよね?

 自分よりはるかに身長も体の厚みもある、まさに騎士と言わんばかりの見た目をした人に目の前に立たれて足が竦む。ちょっと膝が震えてるかもしれない。


『すぐに陛下がいらっしゃいます。神子様はそのままお待ちください』

「…」


 お腹に響くような重低音で話される。怒っているようには見えないけど、有無を言わせない力強さを感じる。

 逆らってはいけないように感じた。むしろ逆らったら何されるか分からない。

 言葉も通じないし、何かの宗教団体にも見えるし、癇に障るようなことをしたらもしかしたら、殺される…かも?

 嫌だ。怖い。無理!

 逆らわないから許してください。言葉が通じないので、その場に正座してじっとした。抵抗の意思はないってことが通じればいいけど。

 目の前の騎士っぽい大男は僕の様子を見て、僕が動かないことに納得したのか、そばを離れてそのままローブの人たちの後ろに下がった。


 どうすればいいんだよ。

 家に帰りたいよ。


 このまま自分がどうなるのかわからず、不安だけがこみあげてくる。悪い未来ばかり思い浮かんでしまい、いよいよ目頭が熱くなってきた時だった。


『陛下がいらっしゃいました』


 誰かが何か一言話すと、一斉にローブの人たちがしゃがみこんだ。片膝を立てて俯いてる。何事かと僕があたりを見回すと、皆がしゃがみ込んでいる中、一人だけ立っている人物がいる。

 その人もやっぱり背が高いけど、さっきの騎士みたいな人よりもスラっとしている。まるで少女漫画とか童話でよく出てくる金髪碧眼の王子様みたいな、とんでもなく綺麗な人だ。見ただけでわかる、とても偉い人だと。

 着ている服装もそれは立派なものだとわかる。でもやっぱりそれはこの現代社会にそぐわない、中世ヨーロッパで着られていたような服装だ。

 この宗教団体のトップの人かな、いや、そもそも宗教団体っていうより、これはまるでどこかの国の王様だ。


『ようこそ参られた。我がオストフリースラント国の神子よ』

「・・・・」


 何か喋ってるけど全く理解できない。怒ってもいないし、むしろ何か微笑んでる?


『そなたがいればこの国も安泰だ。これから末永くよろしく頼む』

「・・・・」


 下手なことを喋って何かされるよりは黙っておいた方がいいかもしれない。僕はとりあえず、この王様みたいな人が話し終わるのを待つことにした。


『して、そなたの名前はなんという?』

「・・・・」

『神子よ。聞こえているか?』

「・・・・」


 何かを問いかけられているけど、どう答えていいのか分からない。そのまま黙っていると、


『陛下が尋ねっていらっしゃる!答えないとは不敬ではないか!』

「ひっ…!」


 白いローブの人が声を荒げて何か言ってる。怒ってる!これは分かる。明らかに怒ってる。

 まずい、何か喋らないといけないのかな。どうしよう!恐怖に体が震える。


『良い。神子は国の宝だ。神子は私と同じ位につく身。気にしなくとも良い』

『し、失礼致しました』

『しかし、何も話してもらえぬのでは困るな』

「ああ、あのう…」


 王様っぽい人が怒鳴った誰かを諫めたようだ。僕は意を決して話しかけてみた。


「僕、なんでここにいるのか分からないんです。すみません。家に帰りたいんです」

『…そなたは』


 僕が発した言葉に、王様は明らかに顔をしかめた。

 まずいまずいまずい!やっぱり喋らなきゃよかったのか、でも喋らないと他の人が怒るし。

 ああ…!僕、殺されるのかもしれない!

 ぐっと拳を握り締めて俯いて目を瞑った。これは夢だ、夢だ。

 早く覚めろ!


『そなたは、何を喋っているのだ。私たちの言葉で話してみよ』

「・・・・」


 何か言われてるけど、これ以上喋ったらさらに悪い状況になりそうで、僕は俯いて黙っていた。すると突然、顎を強い力で掴まれて、そのまま上に向かされた。

 偉いであろう身分の人が、片膝をついて僕の顎を掴み、自分に向かせている。僕の目の前には端整な顔がある。それは明らかに怒っているようだった。


『喋れないわけではないのに私の言葉を無視するのか』

「…っ、ご、ごめんなさい!分からないんです!ごめんなさい!」


 綺麗な顔なのに、得体のしれない恐怖を感じてあまりの迫力についに限界を超えた。

 この人を怒らせたらいけない。本当に殺されるかもしれない!決壊した涙腺からは次から次へと涙が出てきた。


「ひっ…!うぅ…!許してください!」


 19歳にもなってまるで子供のように嗚咽しながら泣いた。うまく言葉にできないけど、必死に訴える。命だけは助けてほしい。僕が泣き出すと、顎を掴まれていた力が弱まり、王様っぽい人は怒った様子から驚いた表情に変わった。


『なんと…、言葉が通じぬ神子がいるのか…』

「…っ、ひっ、うっ…」


 その言葉に返答しようにも嗚咽が止まらなくて言葉にならない。


『陛下。神子様は言葉が通じず怯えてらっしゃいます。ずぶ濡れで体も冷えているでしょう。まずは落ち着けるように場所を変えて、身なりを整えて頂いてはいかがでしょうか』


 さっき聞いた重低音がどこからか聞こえた。その声は怒っているようではなくどちらかというと穏やかに感じる。


 『ふむ。確かに。言葉の話せぬ神子など聞いたことがないが、召喚の儀で現れた渡り人であることは間違いないはず。フリームトに一度話を聞いてもらったほうが良いかもしれぬな』

『私もそのように思います』


 騎士と王様とでなにか話し込んでる。この二人に僕の処遇が決められようとしてるのかもしれない。王様っぽい人は顎に手を当ててひとつ溜息をついた。そのまま視線を僕に向け直すが何も言わず、そしてまた違う方に視線を向けた。


『ヘルマン。そなたにこの神子の護衛を任せる。侍従もつかせ身なりを整えたのち、私の部屋へ寄越せ。フリームトにも話を通して念話の準備もさせるように』

『はっ。かしこまりました』

『召喚士達よ。ご苦労であった。召喚の儀は確かに成功している。だが神子については今までと違い、言葉が通じぬ状態である。これについては私が神子の真偽を確認する。今日はこのまま各自解散とせよ』


 騎士の男性に何か命令してるみたいだ。それに続いてローブの人たちは一礼して次々と部屋から出て行った。

 騎士だけそれとは逆に僕に近づいてくる。ほかにもローブの人たちに隠れていた騎士が数名いるけど、この人達はその場から離れずこっちを見てる。


 これは、牢屋とかに連れてかれるってことなのかな。もう、終わりかもしれない。


 いまだに嗚咽が止まらない僕の前に、大柄な騎士が立ち止まった。縄で縛られでもするのかと思い、正座のままさらに縮こまって俯いた。


『神子様。言葉が通じぬ状態で不安な思いをさせて申し訳ございません。あなたはこの国で国王陛下と同等の地位持つお方。誰もあなたを傷つける者はおりません。ご安心ください』

「・・・・っ、・・・ひっ・・・く」


 相手が自分の前に跪いた気配を感じ取って前を向く。何を喋っているのか分からないのに、その声音がすごく優し気で、思わず視線を合わせてしまった。

 大柄でいかにも騎士然としている人物なのに、目元はとても柔らかく、こちらを心配げにみてる。さっき僕が出て行こうとするのを制止してきた時とは様子が違った。

 牢屋に入れられるわけではないのかな…。大丈夫かな?


『体が濡れていては冷えてしまいます。まずは湯に浸かり体を休めましょう』

「・・・」


 彼が何か言って僕の手をゆっくりと取った。思わず身を固めるが、それに気づいたのかもう一度低い声で優しく声をかけられた。


『大丈夫。私はあなたの味方です。あなたを傷つけることは絶対にありません。この身に代えてもお守り致します』


 親指で優しく手の甲をさすられて、嗚咽が徐々に止まっていく。

 言っている意味は分からないけど、僕が考えていたような怖い事をされるわけではないと、なんとなく理解できた。体の一部をゆっくりと撫でられて、僕の恐怖心も徐々に落ち着いてきた。

 まだしゃっくりのような呼吸にはなってしまうけど、涙は止まったようだ。


 この人は、なんだか大丈夫な気がする。


 言ってることは一切分からないけど、僕を落ち着かせようとして優しく話しかけてくれてることは分かる。名前もわからない相手なのに、この人は少し安心できる。

 その騎士さんは、ほんの少し口角をあげて笑ったようだった。そして跪いた状態から立ち上がり僕から手を離すと、こちらに、というように出入口を手で示した。


 出て行っていいってことかな?

 思わぬ展開に、僕は慌てて立ち上がろうとした。けど、うまく足に力が入らずそのまま前につんのめって、水溜まりにダイブしそうになった。しそうになったというのは、倒れそうになったところで、騎士さんがキャッチしてくれたからだ。その腕に思いっきり体重がかかっているのにビクともせず支えてくれている。


「す、すみません!」


 僕が慌てて体を立て直そうとしたけど、今度は踏みなおしたはずの足から力が抜けた。いわゆる腰が抜けてしまった状態になってるみたいだ。今度は後ろから尻餅をつきそうになったが、そのまま背中を支えられた。

 そして素早く膝下に手が差し込まれた。


「えっ…!あ、あの…」


 視界が急激に変わり目線が高くなる。お姫様抱っこをされているのはすぐに理解できた。騎士さんは成長しきった男を抱えあげても、なんてことない表情で落ち着いてる。


『湯殿までお連れ致します。配慮が足らず申し訳ございません』


 僕が腰を抜かしたことに気づいてるのか、騎士さんはそのまま歩き出しだ。僕はどうすることもできずに黙って運ばれるしかない。ここから逃げ出すことができれば…と思ったけど、その考えもすぐに取り下げた。

 部屋を出るととんでもなく広くて天井の高い廊下が先まで続いていた。そこに一定間隔で騎士さんよりもやや簡易的な甲冑を着た同じ騎士っぽい人たちが立っていた。まるで警備してるみたいな。逃げ出す隙なんてみじんもなさそうだった。


 僕は一瞬浮かんだ希望が潰えたことに落ち込んだ。もう諦めるしかない。こんな屈強な人たちから貧弱な僕が逃げ出すなんて無理だ。

 命だけでも助かったんだから、良しとしなきゃ。拷問とか、そういうのもないといいな…。


 安定した腕の中でただ黙ってると、いつの間にか風呂場のような場所に連れてこられた。

 風呂場の前にある脱衣所のようなとんでもなく広い部屋に入ると、メイド服をきた女性二人ほどが立っていた。そばに椅子と籠がおいてある。騎士さんはメイドさんの前で僕を椅子に下ろした。


『私は外で待機しております。終わり次第お迎えに上がります』


 騎士さんはそのまま一礼して出て行ってしまった。女性二人に挟まれ取り残されると、今度はそのメイドさんたちが一礼して何か言ってきた。女性といっても僕よりも身長は二人とも高い。二人が何を話してるのか全く分からない。場所的に風呂に入れということなのかな。さっきまでの緊迫した状態からの風呂と言われても、混乱してしまいそのまま従って入ればいいのか迷ってしまう。

 どうしようもなくただ座っていると、メイドさん達は徐に僕のシャツをめくりあげだした。


「え、あ、あの!なにするんですか?」

『…?お召し物を変えさせていただきます。また、一度全身をお清めください』


 メイドさんは戸惑う僕もお構いなしに次々と服を脱がせてきた。パンツも問答無用というように脱がされてしまい、すっぽんぽんになってしまった。風呂に入れという事はさすがに分かったけど、自分で脱げるのにメイドさんは当たり前のように脱がせてくる。

 それに、正直今まで女性経験も何もなく、異性の前で裸になること自体が初めてなので、恥ずかしくてたまらなかった。顔が熱くなってる僕とは対照的に、当たり前のことのようにメイドさん達は淡々としている。


 そのまま立ち上がるように促されて、抜けてた力も少し戻っていたので、おぼつかない足取りながら自分で浴室に入っていった。

 脱衣所(と思われるところ)も広かったけど、浴室はさらに広かった。プールかなってぐらい広い浴槽が目の前にあって、体を洗う場所もゆったりとしている。


 用意された椅子に座るように示されてそれに従うと、今度は泡のついたスポンジで体を洗われ始めた。


「え、ちょ、あの、自分でできます」


 これにはさすがに僕も抵抗して見せる。メイドさんに伝われ、と願いながらスポンジをメイドさんの手から奪い取り必死に体を擦りまくる。ね、出来るでしょ?とちょっと首をかしげて見せれば、メイドさん達は二人で顔を見合わせてやや戸惑った表情をしながらも察してくれたようで、手を引っ込めて僕が体を洗い終わるのを待ってくれた。


 そのあと頭も洗うのに同じやり取りをした。

 でもここで問題があった。

 シャワーがない。

 あたりを見回してもシャワーと思われるものがないのだ。


 洗うこと自体は問題なかったが、流すにはどうしたらいいか戸惑っていると、僕の状況を察したメイドさん達は、ただの壁の装飾かと思った石を壁から外して、それを僕にかざしてきた。何事かとその石を見上げれば、ほんのりと光った後、そこからお湯が降り注いできた。


 え、ナニコレ。うそでしょ。


 ここまで来て、ようやく僕はなんとなく自分の置かれた状況が分かった気がした。

 どんなに技術が進歩した国だって、まさかこんな石からお湯が出せるはずがない。

 今のって、いわゆる魔法?みたいなものなのかな。宗教団体とか、外国人とか、そんなどころの話じゃなくて、もしかして、よくファンタジー小説なんかである異世界転移みたいな、あんな事になってるんじゃ…。

 僕が湧き出すをお湯を見てぽかんとしているうちに、メイドさん達は隅々まで泡を洗い流してくれていた。

 洗い終わってそのまま肩を押され、湯船に入るように促される。

 僕は混乱する頭のまま、黙ってお湯に浸かった。


「気持ちいい…」


 無意識にポロっと出た言葉に、慌てて頭を振る。

 違う違う!今はそれどころじゃない。

 本当に僕はまったく違う世界に来ちゃったのか!?そんなどこかの小説みたいなことが本当に起こるわけない。でも、さっきのお湯は説明のしようがないし、あの黒いモヤに吸い込まれて、急に全く知らない場所にいたってのもおかしいし。日本にいたはずなのに周りは言葉の通じない外国人で、明らかに現代にそぐわない恰好をしてる。

 そこまで考えてふと思う。


「…なんだこれ。ここが日本っていう方が逆に難しいじゃん」


 これまでの出来事を振り返ってみても、『異世界転移しました』って言ったほうがしっくりくるじゃないか。

 どうしよう。

 帰れるのか!?

 どうやってきたのかも正直分からないのに、帰る手段なんてあるのか?そもそもここの人たちは帰してくれるのかな。

 ていうか、だいたい小説とかだとチート能力とかあるはずだし、言葉だって通じてるはずなのに、なんで僕は一切そんなのないんだよ。泣くよ。いやもう泣いたけど。

 あれか、なんか神様がどこかから眺めてチート機能を授けてくれるのかな、それともなんかステータスオープン!みたいなこと言えば僕に備わってる力とかが見れるとか?


「・・・・・・・」


 試しに小声で言ってみたものの、何も起こるわけなかった。


「ああ…、どうしよう。僕、生きていけるのかな。言葉も通じないし、きっとこの世界の常識は僕の常識とは違うだろうし。僕に何か力が備わってるようでもないし…。この先、どうすればいいんだろ…」


 首までお湯に浸かってこれからのことを考えて、少し落ち着いていた不安がまた大きく膨らんでいく。あれも、これもどうしようかと考えていたら、なんだか頭がぼーっとしてきた。


『神子様。体が温まりましたら浴槽から上がられてはいかがですか?』

「ん…んぁ?」


 なにかメイドさんが話しかけてきてる。なんだかぼんやりして、何か答えなきゃと思ったけど、そのまま意識が途切れてしまった。


『神子様!?』


 メイドさんの叫び声が聞こえて、そのまま体が沈む感覚までは感じていた。



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