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きっかけ


 代り映えのない毎日。

 僕は今日も大学での講義を終えて、バイトに向かうべくいつもの道を歩いていた。何も変わらない、いつもと同じ道、いつもと同じ風景だった。

 そのはずなのに、正面からこちらに向かって歩いてくる男の人の目の前に、突如黒い空間が広がった。


「え?」


 思わず声に出して、立ち止まった。男性はスマホを見ているのか気づいていない。その黒い空間がなんなのか全くわからない。モヤのような、黒い影のような。

 もしかして、僕は急に幽霊とか、そういった類のものが見えるようになったんじゃないか?目をこすってもう一度同じところに視線を戻すが、やはりそのモヤは変わらない。どんどんと、モヤに近づいている正面の人。え、大丈夫なの?これ、ぶつかって大丈夫?


 僕はその場に立ち止まって、でも声をかけられずにその光景をただ見ていた。そして、男性がそのモヤに接触しようかという時、おそらく視界に入ったのだろう男性は、声を上げて後ろに飛びのいた。


「うわっ!なんだ!?」


 見えてるのは自分だけじゃないみたいだ。そこに少しほっとして、僕はその黒いモヤを避けるように通り過ぎようとした。

 男性とすれ違う瞬間、急に何か風のようなものを感じた。さわさわと髪が揺れる感覚、そしてそれは黒いモヤから発生しているものだとすぐに分かった。


「うわぁっ!」

「え!?」


 僕も男性も突如発生した急激な引力に驚いた。

 微風みたいな風が、それこそ超強力な掃除機みたいに急激に強くなった。それはもう吸い込まれないように踏ん張るのが精いっぱいなほどだ。まるでブラックホールだ。

 見れば男性は、既に腕がモヤに吸い込まれて見えなくなっている。


 これは、まずいんじゃないか。


 急に全身に怖気が走る。ゾワゾワと鳥肌が立って、踏ん張っているはずの足に力が入らなくなるような感覚に陥った。

 これに入ったらやばい気がする。


「な、なんなんだよ!これ!や、やめろよ!」


 男性は吸い込まれないように必死に踏ん張っている。


 助けなきゃ。

 この人を助けなきゃ。


 僕は竦んでいる足を両手で叩いて力を入れ直すと、男性の吸い込まれている手を思い切り引っ張った。

 それはもう全体重をかけるくらい。

 綱引きみたいに男性の腕を引っ張る。人生で綱引きは学校行事でしかしたことないけど、今までのどんな場面より力を振り絞っている気がする。


「助けて!もっと引っ張って!」

「ふんっ!んんー!!」


 僕の頭より高い位置で男性が必死に叫んでいる。僕は返事をする余裕なんてなくて、一心不乱に引っ張る。すごくゆっくりだけど、男性の腕が徐々にモヤから出てきているのがわかった。肩から肘、肘から手首、あとちょっとだ。


 そう思い、体力的にもギリギリだったので、最後の力を振り絞って思い切り後ろに引っ張った。すると吸い込まれていた男性の体すべてがモヤから出た。その勢いで男性は体ごと後ろに吹っ飛んだ。


「や、やったー!」


 吹っ飛んだことなど気にもならないように男性が叫ぶ。僕もそれを聞いてホッとして、一瞬踏ん張る力が弱くなってしまった。

 体力ももう限界に来ていたんだ。

 体が大きく引き寄せられてモヤのほうに傾いだが、それを立て直すために踏ん張る力が残っていなかった。視界が黒一色になり、自分が上半身からモヤの中に入ってしまったことが瞬時に分かった。その瞬間には足も浮き上がり、抵抗するために踏ん張ることもできず、僕の全身はあっという間に飲み込まれてしまった。


 あの男性は大丈夫だったんだろうか。

 モヤに飲み込まれた瞬間それを考えたが、すぐに意識が途切れてしまった。



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