友達に愚痴を
「それが男のロマンってもんなんじゃないの」
人が意を決して秘密を打ち明けたというのに、こうもあっさりと片付けられたのでどうしようもない。私は談話室のテーブルに突っ伏して、上目遣いで郁美を睨みつけた。
「郁美までそんなこと言わないでよ。付き合わされるのは私なんだからさ」
郁美には、二人がオートアニマの設計を始めたとしか伝えていない。無謀な遠回りを咎めてもらうには、やはり多少の無理があった。
「つったって、失敗して何か困るもんでもなし、いいんじゃないの。アキラ君、楽しそうなんでしょ?」
チョコレートの袋を縦に開き、郁美は私に差し出した。安物のお菓子で機嫌をとろうだなんて、人を子供扱いしている証拠だ。私はチョコレートを鷲掴みにして、思いきり頬張ってやった。
「まあね。生まれてこの方一度もなかったってくらい……でも、あの子を一度外に連れ出すだけでもどれだけ大変か」
私は毎度お手伝いの森口さんを口止めし、納戸に隠した外用の車椅子を引っ張り出して翔を乗せ換え、人目を気にしながらギムナの中を推して回らなければならないのだ。勿論、母が偶然早く帰ってくるようなことがあれば何もかもが御破算になる。
「あらあら、そんなはしたないことをなさっては、お母様がお怒りになりますわよ」
分かっていて母のことを冗談の種に使うのだから、郁美も相当に底意地が悪い。チョコレートをお茶で流し込み、私は積もり積もった不満をぶちまけた。
「そのお母様こそが諸悪の根源ですわ!」
一体何が面白いのか、郁美は肩を震わせて笑った。これも郁美の狡いところで、不謹慎さを咎めようとしても、こちらまでつられて笑ってしまう。そうしてひとしきり笑って気分を持ち直した後、私達は建築史の講義に向かった。