突入が始まる
インターチェンジを降りた後、私達は福井県警の応援と合流した。近づく前に気取られては、車で逃げられる恐れがある。多奈は道を塞ぐためにパトカーを二手に分け、私達は大回りで南から別荘に向かうことになった。
「ええ。なるべく気づかれないように、手前でパトカーを停めて下さい」
年上の警官達に指示を出しているのを見ると、私達の知っている多奈が造り物だったということが良く分かる。多奈の横顔を窺い、私は軽い溜め息をついた。
「それ、疲れない? いいんだよぅ、私達の前では、いつも通りで」
郁美にからかわれて、多奈は小さく笑いを洩らした。
「こっちが地に決まってるでしょ。あのしゃべり方で通すのに、私がどんだけ苦労したと……」
多奈の眉が動いた。道の先が、木陰に沈んでいる。ゆっくりとパトカーが止まり、前の二人がシートベルトを外した。
「すみませんが、ここから先は徒歩で進みます」
私達は頷き、警官達と一緒に林の中を歩き出した。数分と待たずに現れる、白塗りのコテージ。多奈は一度林の中で行進を止めてから、私達に確認をとった。
「今から警官を突入させます。安全が確保されるまで、決して林の中から出ないように」
コテージの陰からは、四駆が黒いボンネットを覗かせている。家の中に、二人がいる可能性は高い。一人の警官が温室の陰からコテージに近づき、ポーチに登って玄関の鍵を解き始めた。
この別荘では、色々なことがあった。翔を連れて岸辺を散歩したり、お弁当を作って木陰でピクニックをしたり、星空の下でバーベキューをしたり。翔に与えられなかった、当たり前の幸せを、私達はここで見つけたのだ。
警官がこちらに頷き、うち二人が歩きだした。別荘の鍵が開いたのだ。白い扉が開くのを見て私は思わず目を背け、杉の幹に背中を預けた。
「あの家の中には何もありません。なぜ地下室から調べないんですか」
私がなじると、桑島さんは現場の判断を得意気に説明した。
「コテージの方が、出口が多いからです。監視カメラの類も見当たりませんから、薬師寺が地下室にいたとしても直ぐに気づかれることはないでしょう」
それに優先すべきは、第一に被害者の救出ですから。翔を人質に取られては、私には反対のしようがない。私が項垂れ、終わるのを待っている間、郁美が手を握ってくれた。
「大丈夫。刑事さんにとっちゃ日常茶飯事だろうし、先生は無駄に暴れたりする人じゃないでしょ」
コテージの中に、翔達はいなかったようだ。しばらくして警官からの連絡が入ると、多奈は予定通り地下室への突入を指示した。
どうか間に合いますように。翔が無事でいてくれますように。私はTシャツを握りしめ、小屋の入り口を見守った。あそこで起こった出来事は悪夢の中に紛れ込んで、どこまでが現実なのか見分けがつかなくなったままだ。
「捜索範囲を広げますか?」
桑島さんの声が聞こえ、私はそちらを覗った。立て続けにアテが外れても、多奈は涼しい顔をしている。
「中を徹底的に捜索しましょう。隠れる場所は無数にありますし、脱出口が用意されている可能性も高い」
それでも今なら、危険は多少和らいでいる筈だ。私は木陰から飛び出し、温室に向かう後ろ姿を引き留めた。
「私も同行させて下さい……自分で確かめておきたいんです」
あの日、何があったのかを。多奈が振り返り、じっと私を見定めた。
「いいでしょう。当時の状況を説明してもらえると助かります」




