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母を問い詰める

 悪夢は単なる幻に過ぎないということを、はっきりさせなくてはならない。私に必要な事実を知っているもう一人の人間を、私はよく知っていた。

「何の用?」

 ティータイムを邪魔されたせいだろう。一言目からして、いつもよりも刺々しい。

「母さんに聞きたいことがあって」

 返って来たのは、煩わし気な溜息だけだった。生垣に囲まれた慎ましい四阿は、母が一人になるための特別な場所だ。ティーセットとクッキーさえ、母は自分で運びこむ。

「子供の頃、毎年三人で別荘に行ったでしょ。あれは、どこだったのかと思って」

 バラのトンネルをくぐり、仄かに甘い香りが流れ込んでくる。母は少しだけ紅茶を口にして、ソーサーの上にカップを戻した。

「おかしな子ね。今更そんなことを気にするなんて」

 ぼんやりと宙を見つめたまま、こちらを見ようともしない。お陰で私は表情を気にせず、淡々と出鱈目を口にすることが出来た。

「郁美たちとバーベキューしに行ったとき、あの場所に似てるような気がしたの。湖のほとりで、向うに山が見えて……」

 目を瞑り、掌でカップを包み込む母を、私はじっと見守った。嘘の中に混ぜ込んだ本物の光景が、見当外れであることを祈って。

「別荘があったのは福井だけど……行っても無駄よ」

 古ぼけたスクリーンに、真新しい像が重なった。

「なぜ……」

 他の場所であってくれれば、これ以上苛まれずに済んだものを。暗く湿った風が影を運び、母の庭を覆い隠してゆく。

「あの人が死んだ時、人手に渡ってしまったから。敷地に入るだけでも不法侵入にされるわ」

 お父さんが、死んだ。母の出まかせは、不揃いな葉擦れの音に溶けて消えた。渋った末の言葉にしてはあまりにも白々しくて、険しい顔をしようにも皮肉が混ざってしまう。

「――嘘」

 母の話が本当だというなら、あの人は誰だというのか。あの人がなぜあの別荘を持っているというのか。あの家には、なぜ未だに機材が残っているというのか。無数の問いかけはるつぼの中で融け合い、出てくるのは爛れた眼差しだけ。母は窪んだ目で私を見つめ、答えもせずに聞き返した。

「愛紗、あなた……あの人に会ったの?」

 地面が遠い、脚に力が入らない。生垣に寄りかかり、私は虚ろな問いを洩らした。

「あの人って、誰?」

 私は知らなかった。母は知っていたのに、何も教えてくれなかった。私は今になって漸く、呪わしい答えを知ったのだ。

「もうあの人に会っては駄目、でないと――」

 母はいつものように、私を無視して命令だけを与えた。ただ一つ違うのは、あの母が青い顔で打ち震えているということだ。

「なぜ? ねえ、なぜ別れたの? あのとき――」

 一体何があったの? つかえた言葉が歪な音を立て、心臓に絡みついた。何かがあったのだ。二人が決裂し、母が生体工学を憎むようになったその時に。私が黙り込んでしまうと、母は俯き、予言を沈めた。

「カケルだけではなく、今にアキラも失うことになる」

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