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歴史24 決戦に向けて

太陽が沈み、答えを出す時間がやってきた。



実際に聞いてみなければ分からないが、今までの様子から見るに、おそらくは大多数が賛成派だろう。



皆が一堂に会した場では反対派の者がいても声を上げにくい空気になる可能性がある為、穴掘り班の方はリーダーのゴブリン・副リーダーのリィン・アダン・ガジンの4人が、採掘班の方はゼヴァンとユーリリの2人がそれぞれ近くの者達から意見を聞き、就寝時間をすこし過ぎた辺りで6人が予め決めていた場所へと集まり、互いに答えを伝え合う。



作戦を提案したアダン自身、何人かは反対意見が出るかもと考えていたが、蓋を開けてみれば全員が賛成意見。


無理に格好を付けられても後で困る事になりかねないので、6人は相手の言動に深く気を配りつつ話を聞いたのだが、主観的な印象とは言え、答えを口にする際は皆が本心の様子だった。


「まぁ1度や2度の説明で全員の意見が一致するなんざ滅多に無いし、事が事だからアレやコレやと懸念する気持ちも分かる。とは言え、ここまで来て変に仲間を疑っても仕方ないと思うぜ。とりあえず明日からは作戦実現に向けて動き、決戦の前日には改めて最後の確認を行う。それで良いんじゃないか?」


ゼヴァンの意見を聞き、それを自分の考えに当てはめた5人が過剰気味な勘繰りを止めた処でその場は解散した。




翌日の朝一番では、ゼヴァンとガジンが同班の者をいちど集合させてから、全員が作戦への賛成を示した事と、それの実現に向けて今日から採掘班と穴掘り班の者が共同で作業を行う事とを伝える。





「オウ!今日から宜しくな!」


簡単な報告を終えるなり、ゼヴァン、ユーリリ、オーガ以外の採掘班の者達がすぐに穴掘り班の方へと顔を出して、互いに手短に挨拶を済ませる。


「いきなりで悪いがまずは下準備から頼みたい。どうせ先は長いんだ。じっくり作業でもしながら少しずつ交流を深めていこう」


短髪のドワーフが言いながらアラクネに小さな刃物を渡すと、他のドワーフ達も近くにいるアラクネへ刃物を手渡していく。


「いきなりかよ…別に良いけどアンタ達ってほんと作業ばかりよね」


「ハハ、褒め言葉として受け取っておくよ」


刃物を手にしたアラクネ達が、先程の軽口とは一転、緊張と集中を両立した表情で、自身の脚部の薄皮を刃物で削り始める。


痛みの出ない範囲で、薄く、広く脚部の皮を削って行き、ドワーフから止めの声が出たところで動きを止める。


「お疲れさん。それだけ有れば充分だ」


「ふぅ……」


緊張が解けた様子でため息を吐いてから、アラクネがドワーフへと刃物を返す。


ドワーフは受け取った刃物を懐にしまってから、アラクネの薄皮と薄皮とを器用に編んで、片方だけ穴が空いた長さ3センチ程の円筒状の物をドワーフ1人につき10個ずつ作っていく。


アラクネの皮膚で作った短い筒を指先に嵌める事によって、アラクネの糸に触れてもソレに絡めとられる心配の無くなったドワーフが、次は糸を出してくれとアラクネに頼む。


「あの…ちょっと待ってほしいんだけど」


「ん?どうかしたのか?」


同族の中ではいちばん筋肉質のアラクネが待つように言うと、周りの者達が彼女の言葉に反応する。


「今のところ私らとドワーフ以外は普段通りの事をしてれば良いわけだよね?皆さっさと作業を始めたらどうなの?てゆーか糸出すところ見られるのって結構はずかしいから見ないで欲しいんですけど」


「お、おぉ…それは済まなかった。じゃあみんな!いますぐ作業を始めよう!早く持ち場に着くように!」


アラクネの注意を受けリィンが慌てて作業を始めるよう促すと、他の者達がその場から離れて行き、ドワーフ達もアラクネに背を向けだす。




アラクネは臀部にある糸穴と言う小さな穴から出す粘着性の糸で罠を張り獲物を獲らえるのだが、罠が目立ってしまえば必然的に獲れる食料も減ってしまう。


生命活動に支障が出ない為に本能が糸を出す場面を見せまいとした結果、理性ではそれが羞恥心として表れたのか、明確な理由はおそらくアラクネ自身も良く分かってはいないだろうが、とりあえずは見られたく無い物を見られる心配が無くなった所で、アラクネ達がサッサと出せるだけの糸を出す。



「……もうこっち向いて良いわよ」



言われた通りドワーフ達が振り返るが、顔を見ればアラクネ達の機嫌が微妙に悪くなっている気がする。


糸を出すくだりで気分を害したのか、あるいは作業の為とはいえ顔を合わせるなり体を削るよう言った最初の時点から機嫌が悪くなっていて、恥ずかしい思いをしながら糸を出すのが決定打となり不満が表情に滲みでるほどまで高まったのか、そこを下手に突っ込んで余計に拗れるのも怖かったので、ドワーフ達は微妙に機嫌の悪そうなアラクネ達に対し若干の気まずさを抱きながら作業を続ける事になってしまう。



「へぇ〜器用なものね。私達より上手いし早いんじゃない?」


糸同士を組み合わせ、髪の毛よりも細いモノを平均的な人族の指程度の太さにしていく作業の中、しばらくは気まずい時間が続くかに思われたが、わりと早い段階で機嫌を治したアラクネの内の1人がドワーフに話し掛ける。


物作これぐらいしか取柄が無いが、何かを作る事に掛けちゃあ他のどの種族にも負けないと自負しているつもりだ」


「お、言うねぇ。そんじゃあ今日一日でどちらが多く作れるか競争するかい?」


「面白そうだし付き合いたいのは山々なんだが、ドラゴンを倒す為の道具だからな。仲間と競争するよりも、ひとつひとつ丁寧に、確実に作っていくのが正解だろう」


「……まぁ、確かにその通りだね」


「…………………………………………」

「…………………………………………」


『………は、話しが終わってしまった。会話が弾めば自然に機嫌も治るかと思ったのに、何を話せば良いのか分からねぇ………しかも今の会話で余計に作業の事しか考えてない面白味の無い奴だと思われたかも……いやまぁ実際そうするべきなんだが、この調子で仲良くやっていけるんだろうか………』


ドワーフが心中でアレやコレや色々と気にしている傍ら、時間経過でとっくに機嫌の治っていたアラクネ達は、平常時のリラックスした気分で淡々と糸を編み続ける。



最初の段階から不安を覚えるドワーフだったが、どうやらそれは杞憂だったようで、アラクネを含む穴掘り班の皆との距離は、日数と共に順調に縮まっていった。


必要な道具も徐々に揃っていき、ドラゴンとの決戦に向けた準備は確実に整っていく。


武器の扱いに慣れる為の模造品が完成する都度、ガジンからそれを受け取った者が作業に費やす時間と体力を練習に使うようになり、最終的に全員分に模造品が行き渡ると、皆が作業の手を止めて練習に集中する。



ゴブリンだけは、作業がそのまま武器の扱いに慣れる行為となる為に、指の部分を獣の爪似せ殺傷能力を高めた手袋で穴を掘り続けていたが、見張りの者から遠方にドラゴンの姿を確認した報告を受けてからは、いよいよゴブリンも作業を止めて、全員が動きを合わせる為の練習に参加した。




ゼヴァン、ユーリリ、採掘班のオーガ、当日の見張り番と、ゴブリン達を除く皆が全体での動きの確認も含めた練習を行ってから5日、採掘班のオーガとユーリリとゴブリン達が全体練習に参加して更に4日が経ち、10日目の朝一でゼヴァンが何度か工房と皆がいる広間を往復し、全員に本身の武器を手渡してから、その日の練習を終えた後の事だった。


「よーし、見張りはしゃあないとして、とりあえずは全員集まったな」



当日の見張り番以外の全員を集合させたゼヴァンが、皆に声を掛ける。


「みんな聞け!今から大事な話をさせてもらう!」


ゼヴァンの号令により雑談の声が止まる。

そこから少しの間を空けて、厳粛さを感じさせる様子でゼヴァンは語りだした。


「俺達ドワーフは基本的に団体で生活する種族だし、俺も長年生きてそれなりの経験を積んで来たから分かる。皆の士気が、まさに今最高潮に有る事がな」


その場の誰もが無言で、しかし、明確で強い意識を持ってゼヴァンの言葉に集中していた。


「見張りからは結構な頻度でドラゴンの目撃が報告されている。よほど運に見放されない限りは、肩透かしをくらい続けて無駄に消耗する事も無いだろう……今の俺達の状態とドラゴンの出現位置、どちらも充分な条件だ。この機を逃せば、次の機会がいつになるか分からない。よって作戦の決行は2日後だ。2日目の朝、俺達の命運を賭けた戦いを始めよう」


「2日後…」「長いような短いような…」「2日後か!」


動揺と言う程のモノでは無い。

自分の生死どころか、多くの者の運命が決定付けられる日にちをハッキリと聞いた事により緊張感が高まったのも事実だが、もとより戦う覚悟は十二分に決まっている。

幾人かが疼きにも似た好戦的な声色でゼヴァンの言葉を咀嚼する。



「いちおう少しだけ付け加えておく。一部結論を急いたように聞こえただろうし、事実としてそういった面も有る。もうしばらくは大丈夫だが、食料も数に限りが有るからな。とは言え、俺達はこれまでの期間でやるべき事はやった。1日しか全体練習に出ていない俺の言葉にどれほどの説得力が有るかって意見も出てきそうだが、ガジンやアダンの報告、そして今日1日で皆の様子を見て思った。既に必要な備えはできている。後は恐れず、冷静に、集中して作戦通りに動くだけだ。もちろん、失敗すれば死ぬと言う緊張感は必要だぞ。余裕と油断は別物だからな」



「分かっている。必要を感じたら私の方からドラゴンと戦う際の心構えを説くつもりだ」


先遣隊で唯一生き残ったヴァンパイアのクロムが、ゼヴァンの言葉を後押しする。



「お前さんにそう言ってもらえると心強い。じゃあその辺の事は頼んだぞ」


相槌を返し、クロムが頷いたのを確認してから、ゼヴァンが皆へと話を続ける。


「当日の朝にも全体の動きを確認するつもりだが、明日は昼ぐらいで一度全体練習を止めて後は心の準備に集中しよう。後ろめたい意味で言う訳じゃないがやり残した事が有る者は今の内に済ませておくように。それと、明日の晩飯前にもまたこうして集まってくれ。時間は取らせないのでよろしくな」

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