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歴史21 果実取

ドラゴンを倒す作戦が出来上がったアダンは次の日、朝の内から穴掘り班のリーダーとサブリーダーとガジンとに、後で集まって話し合いたいと声を掛けていた。


現時点では実行に移すか否かはあくまで未定である事と、まずは纏め役となる者達から意見を聞きたい事もあって、他の者に知られて変に盛り上がったりせぬよう夜になり皆が寝静まった後、4人で人気ひとけの無い場所に移動し、適当に座り込んでからアダンが作戦の説明を行う。




「〜とまぁ、大体そんな感じだ。大博打に聞こえるかも知れないし、広い意味で言えば確かにその通りなんだが、2匹目3匹目が来ないよう短期決戦を望むにしても、なるべく被害が出ないよう堅実さを望むにしても、かなり手堅い作戦だと自負している。もちろん、あくまで俺個人としての意見だ。助言でも異論でも質問でもなんでも良い。なにか意見があるなら聞かせてくれ」


アダンが説明を終え、暫くしたところでガジンが口を開く。


「確かに、素人目から見ても良い作戦だと思う。しかし、実戦でそんなに上手く予定通りに行く物なのか?」


自慢の道具で獣を狩る程度の経験こそあれど、今回のような本格的かつ大規模な戦闘は、ドワーフであるガジンにすれば未知の領域だ。


無論それはガジンだけに限った話では無いのだが、少なくとも自分よりは実戦経験が有るであろう3人へ疑問の言葉を投げ掛けると、その質問にリィンが答えた。


「心配になる気持ちは良く分かる。物事に絶対は無いからな。とはいえ認識できない部分の不確定要素まで言い出せばいつまで経っても前に進めない。私としては、これ以上の作戦は無いと思うし、勝算も充分だと思うが」


リィンの言葉に、アダンが補足を加える。


「手順が多くすこしばかり複雑に思うかも知れないが、初めの方さえ上手く行けば後はほとんど流れ作業みたいな物だ。集中力さえ切らさなければ上手く行くだろう。俺の見立てでは、皆が作戦の成功に必要な力量を備えている」


2人が答えると、ガジンが考え込むように喉を鳴らして下を向く。


「う〜ん」


長い呼吸2つ分程の沈黙が流れた後、ガジンが静かに顔を上げる。


「今この場でハイ分かりましたとは納得できない。が、もうすこし前向きに考えてみるよ」


ガジンが返すと、アダンがそれに相槌を打つ。


「あぁ、納得するまで考えてみてくれ」


ひとまずは心配する声をガジンが取り下げたところで、アダンは一応、リィンに意見の確認を行なった。


「で、だ……念のため確認しておくが、今の言葉からして、リィンさんはこの作戦に賛成するって事で良いんだろうか?」


「あぁ、どこかで状況が大きく変化したならばまた考え直すかも知れないが、今の時点では全面的に支持すると言っておく」


「そうか。心強いよ」


リィンの意見に対し、アダンが謙虚に返答する。




ガジンは保留、リィンは賛成だと分かったところで、未だ言葉を発していないリーダーのゴブリンにアダンが問い掛ける。


「リーダーからは何か有るか?」


「……個人的には賛成だよ。成功率は低くないだろうし、凄く良い作戦だとも思う。けど、他の皆が賛成するかどうかはまた別の問題じゃないかな。特にあの3人…気性の荒い2人のオーガと、気難しい片耳のワーウルフなんかは協力してくれないと思う。連携するんだから足並みが揃わないと難しいよ」


リーダーが言い終えると、ガジンが再び口を開く。


「確かにそこはかなり重要な部分だな。俺も基本的には協力したいところだが、まずは皆の意見がひとつになってからだ。必要な道具を作ろうにもアラクネの協力がいるし」


「あぁ、実はそれはもうひとつの本題と言うか、その点についても詳しく話し合いたいと思っていたところなんだ」


アダンの返事に、ガジンが続きを促す。


「聞かせてくれ」



「リーダーの言う通り、今のままでは何人がこの作戦に賛同してくれるかは分からない。特に、2人のオーガと片耳のワーウルフなんかはヒューマンと言う種族そのものを認めようとしない節が強い。だから俺は、作戦ってやつの有用性を皆に示すと同時に、ヒューマンってだけで見下さないようにさせる為あの3人に果物取カジツトリで勝負を挑もうと考えている」


「カジツトリ?」


言ったり聞いたりする言葉ではあるが、妙な訛り方に3人が反応する。


「カジツトリはヒューマンの文化と言うか…まぁある種の取り決め事だ。通常なら同じ位置から同時に1本の果実の木に向かって進み、先に果実を手に取った者が10秒間それを保持し続ければ勝ちで、10秒経つまでの間は攻撃したりして強引に相手の手にした果実を奪う事が認められている。攻撃と言っても、急所を狙ったり負傷部位が動かなくなるような大怪我を負わせたり殺したりは駄目だがな」


「子供の遊戯みたいだな」


アダンの説明にリィンが率直な感想を口にした。


「うん、正確な事の成り立ちは俺も知らないが子供の遊びが由来になっている説もある。とはいえ現在ではヒューマン同士での異なる集団間に揉め事が起きた時に、できるだけ安全に争いを収める方法のひとつになっているんだ。勝負の結果は絶対でそれを故意に覆そうとすれば果実の神の怒りが落ち、その集団は一生果実を食す事ができなくなるとも伝えられている。まぁ神の怒りうんぬんを言い出せば超自然的な事になってくるし話もズレてくるんだが…とにかくヒューマンの中では正式な決闘法のひとつでは有るんだ」


「正式な決闘法と言うのは分かったし、それ自体を否定する訳では無いがあくまでヒューマンの中での取り決めだろう?あの3人が勝負を受けるだろうか」


「え」


「え」


「え」


「…ん?んっ!?なんだ?なにか変な事言ったか俺!?」


ガジンの言葉に3人が間の抜けた声をもらすと、予期せぬ反応に、ガジンが慌てて自身の言動を確認しようとするが、なにを分かりきった事を聞くんだと言わんばかりの様子でリーダーが言葉を返す。


「いや…受けるかどうかって普通受けるでしょ」


「ああ受けるな、私でも受ける」


「リィンもか!?」


「ドラゴンが現れる前ならいざ知らず、今の私達は良くも悪くもコレだけ深く関わり合っているんだ。正式な決闘法だと云うのなら、いまさら他種族限定の取り決めだとかなんとか言って背を向ける事はできない」


「やむを得ない事情があったり、あまりにも変な規定とかだったらアレだけど、まぁ基本的に種族の誇りとか意地とか掛かっているわけだし」


リーダーとリィンとが勝負を受けるのは必然だと言い張る横で、アダンが大雑把な一言を付け加える。


「性質上、あまり他の人族と関わらないドワーフのガジンさんにはその辺の感覚は伝わりづらいかも知れないが、だいたい皆こんな感じだ。あの3人の性格なら尚更だろう」



「そ…そうか……そんな感じか………」


鉱山に篭りがちな自身らドワーフと、その他の人族との価値観の違いに若干の戸惑いが生じるが、とりあえずは話を進める事ができそうだ。




「……んじゃあ、いま言った事は大丈夫にしても、肝心の勝負内容はどうするつもりだ?外で騒げばドラゴンに見つかるかも知れない。さっきチラッと言ってた通常ならって言葉も気になるんだが」



今度は変な質問じゃないよな?と、内心すこしだけ過敏になりながらも、ガジンは言葉の引っ掛かる部分を指摘する。


「あ〜、少し説明が不親切だったかもな…ガジンさんの言うとおり、通常のやり方だとドラゴンに見つかる危険が増す。実際の勝負内容はそれの延長戦規定でやらせてもらおうかと考えている」



「延長戦規定?」


さきほど聞いた勝負内容で決着が付かない場面などそう多くあるものだろうか。ガジンの相槌が疑問のニュアンスを含んでいる事に気付いたアダンは、その疑問に答えつつ、延長戦規定の説明をはじめる。


「あぁ、通常なら先に果実を10秒保持すれば勝ちなんだが、決着が付く前に果実を破裂させた場合は延長戦で競う事になる。果実の破裂は故意か事故かを問わず、個人によって抵抗感の大小こそあれど負けるくらいならと故意に果実を破裂させる場合が殆どだ。で、延長戦の内容なんだが、延長戦は両陣営からそれぞれ代表者を3名出し、お互いに3人の内の1人が果実を手に持つ。その後は通常規定と同じく必要以上の怪我を負わせないよう注意しつつ、3人の誰でも良いから先に相手方の果実を10秒間触り続けた方の勝利となる。果実を奪うか破裂させた場合もその時点で相手の手から果実を無くさせた側の勝利になる…と、とりあえずはこれで全部かな………長くなったから一応かんたんにまとめよう。互いに3人ずつで競う。相手の1人が手にした果実に10秒触れるか、相手の手から果実を無くせば勝ち。必要以上の怪我はさせない。させたらその時点で負け。特に急所等は絶対に狙わない。それと、正式な決闘法とは言えガジンさん達ドワーフから提供してもらっている貴重な食料を無下にするのは流石に良くないから、今回は果実の代わりに適当な大きさの石を扱う事にしようと思っている。説明は以上だ」


ここまで話を聞いた感じではまず大丈夫だと思いつつも、元来の慎重な性格ゆえに、ガジンは念を入れてアダンに確認を行なう。


「………なるほど。そこまでは分かった。しかし勝算はあるのか?これからの事を考えればアダン達に勝ってもらわないと困る訳だが、勝負の結果に贔屓はできないぞ」


「もちろん勝つ為の作戦は考えてある。俺達ヒューマンがなんの考えも無しにぶつかったところでオーガやワーウルフに敵わない事は分かっているからな。まぁ、その辺の心配は当日まで置いといてくれ。楽な勝負では無いだろうが、きっと勝ってみせるさ」


「そうか……じゃあ、この話はここらで止めとくとして、後はいつ決闘を行なうかだな。仮に最初に言ってた作戦通り動くんなら色々と準備する期間が必要だ。できるだけ早く結果を知りたい」


「そうだな。まずは明日、今みたいな感じでドワーフのリーダーに内容を説明して、許可を貰えたのならその翌日オーガとワーフルフに決闘を申し込む。決闘内容を話してその場ですぐ始め!ってのはさすがに不公平だから、そこから更に3日目の辺りで始めたいと思っているんだが、皆はそれで良いかな?」


「あ〜……早く結果を知りたいと言っといてアレなんだが、決闘の勝手は分からん。その辺は3人で決めてくれ」


ガジンが意見を仰ぐと、まずはリィンが、続いてリーダーが答える。


「うん。妥当な所じゃないかな」


「俺もそれで良いと思うよ」


3人の意見が揃うと、ガジンが首を縦に振り、改めて今後の動きを言葉にする。


「よし、それじゃあ明日からはいま言った通りに動いて行こう。ドワーフのリーダーへの説明はまた夜に行なうとして、俺も一応同行する。話し合いの結果は俺の方から2人に追って伝える」




話を終え、今後の方向性が定まった所でその場は解散した。


後日、アダンとガジンは全体のリーダーであるドワーフのゼヴァンに、ドラゴンを倒す為の作戦と、その作戦に必要な道具やこれからの動きを説明し、他の全員がそれに納得するならという条件付きで賛成の返事を貰った。



ゼヴァンの許可を得た次の日、アダンは2人のオーガと片耳のワーウルフに決闘の意思を伝え、彼等はそれを受ける。

決闘の取り決めが為されてから3日目の夜、いつもより1時間早く作業を切り上げて、ゼヴァン以外の採掘班の者と、現時刻の見張り担当に当たるハーピィとオーク以外の皆が集まる空間の中、決闘が開始されようとしていた。



アダン達3人のヒューマンと、穴掘り班のリーダー、リィン、ガジン、ゼヴァン以外の者達は、対ドラゴンの件はまだ聞かされておらず決闘の話だけを聞いていた為に、どちらを応援すべきか決めかねつつも決闘そのものはちょっとした祭りとして楽しむ中、大多数のラミアやゴブリン、ワーウルフのシグはアダン達を応援し、オーガや他のワーウルフ達は同族に声を掛ける者が多かった。




「アンタ達!イヴリスに怪我させたら承知しないよ!」「カイン!小っちゃいからって舐めさせんなぁー!」「勝てよアダン!」





「負けるなよ貴様ら!」「速さなら俺らが一番だ!ワーウルフの誇りを見せてやれぇ!」





「ヒューマンなぞに負けるわけないだろう馬鹿共が」


2人のオーガが好戦的に体を動かし骨を鳴らす中、片耳のワーウルフは、石を持つ方の手とは逆の手で鬱陶しそうに耳をほじる。


「チッ…なにがワーウルフの誇りだ……ウザってぇ……」


程度の差こそあれ、それぞれが相手方に敵意を向ける中、アダン達はそれと対照的に、3人で固まって淡々と話し合う。


「もういちど言うが、この勝負の要は石を持ったカインだ。できるだけ天井の低い場所や道幅の狭い場所へと逃げまくれ。一瞬たりとも油断するな。最悪、ワーウルフならばまだなんとかなるかも知れんが、オーガの力からは逃げられない。石どころか自分の体に一瞬でも触られたら負けくらいのつもりでいろ。カインさえ捕まらなければ、俺とイヴリスでなんとかワーウルフの石を奪ってみせる。分かったな!」


改めて聞かされる自身の役割に緊張しつつも、カインは力強く頷いた。


「分かった!任せてくれ!」


「頼むぞカイン……イヴリス、準備はいいな?」


アダンの確認にイヴリスが頷く。


「おい!いつまでコソコソ喋っている!」


初日の時点でヒューマンを認めないと言い張っていたオーガが、苛立たしげに急かすと、アダンが振り返って言葉を返す。


「悪い悪い、そんじゃあ、そろそろ始めますか」


平均的な人族の体格で歩いて30歩程度の距離を保ちつつ、お互い3人が向かい合う。


大勢の人混みの中から、リィンが少しだけ前に出てアダン達とオーガ達に声を掛ける。


「お互い、準備はいいか?」


リィンの呼び掛けにまずはアダンが、それと重ねるようにしてオーガが応える。


「いつでも良いぜ」「早く始めろ!」



「分かった。じゃあいくぞ…決闘開始だ!」



リィンの掛け声と共に、カインが後方へと、オーガ達3人が前に向かって走りだす。



相手の3人が向かって来るが、アダンとイヴリスは身構えつつも未だその場からは動かない。



『予想通り俺達をはなから格下だと見下し侮ってやがるな。その証拠に、石を持ったワーウルフまで守りに専念せず攻撃に参加している…だが、そっちの方が好都合だっ!』



アダンとイヴリスはギリギリまで動かず、相手方と自分の体が接触する直前、横に小さく跳ねて道を譲る。


『!?』


石を持つカインを守るどころか、自ら道を譲るアダンとイヴリスに3人は違和感を覚えると同時に、自分の背後がガラ空きになった事を警戒する。


走る速度を瞬間的に大きく緩め、オーガ達の意識が背後に集中した瞬間、イヴリスがカインの向かって行った方向に体ごと向いて小さく走りだし、オーガ達の意識が横を走り抜けようとするイヴリスにも向きかけた刹那、アダンがワーウルフへ向かって小股で5歩踏み出して飛び掛かる。


それと同時に、体ごと向き直って今更ながらカインの援護に行こうとする意思を全身で表現していたイヴリスが急激に曲がって、アダンに少し遅れてワーウルフに飛び掛かる。


『なっ!?』


予期せぬ動きに少しだけ意識が逸れた次の瞬間、気付けば挟み撃ちされる形になっていたワーウルフが心中で驚きの声を挙げる。


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