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歴史17 戦いの跡で 後

深手を負って消耗している吸血人族ヴァンパイアを保護した純人族ヒューマンのアダン達3人は、激しい戦いの跡が生々しい森の様子を確認しつつ北進していた。


道中で、上半身と下半身が真っ二つになった狼人族ワーフルフや全身が潰れて圧死したワーフルフとヴァンパイアの死体、そして、先っぽが槍のような四ツ刃の武器を発見すると、突いたり切ったり色々試して威力を確認した後、イヴリスが木槍と棍棒を捨て新たな武器へと持ち替えてから先へと進み続けて、森の出口に差し掛かる所で、この森に入ってから見てきた非日常と比べてもひときわ目を引く光景に遭遇する。


遠目に見えてきたのは、上半身がラレルの木の陰に隠された、倒れ伏す姿勢になっていると思われるワーフルフの両脚と、そのワーフルフと向かい合う形で頭部だけが隠れたドラゴン。


ワーフルフのすぐ後ろには、視界の悪い中でも身体中の傷が目立つボロボロのドラゴン。


顔の隠れたドラゴンの後ろには、上半身だけの翼人族ハーピィ


初めは遠巻きに、慎重に様子を窺っていたものの、いつまで経っても四者が動く気配を見せずにいると、アダンは背負ったヴァンパイアを置いてからイヴリスの管理している武器を手に取り、最大限の注意を払いながら事の真相を確かめようと動き、その結果ワーフルフとハーピィと2体のドラゴンが死んでいるのを確認すると、アダン達は既に事切れた四者の側で少し足を止め、適当な木にヴァンパイアの背を凭れさせてから、死体の詳細を調べていた。


『小さいな、子供のドラゴンか?額の横薙ぎの傷。翼の1本は根本からへし折れてあちこちに引っ掻いた痕。左前脚は指が2本切り落とされている。潰れた両目。噛みちぎられた喉笛…致命傷は喉だな。武器で傷を付けてから噛み付いたのか』


アダンが横目で、ワーフルフの死体を見やる。


左脚には大きな切り傷、両手は親指以外の爪が折れ、腹部からは内臓の一部が溢れ落ち、胴体と分断されて木の根元に転がる頭部の左耳は3つに裂けている。


『この森の状況と、気を失う直前のヴァンパイアの言葉からして、種族間を越えての同盟でドラゴンに立ち向かったみたいだが………』


思案しながら、ワーフルフのすぐ近くに落ちていた四ツ刃の武器をアダンが拾い上げる。


ただでさえ嵐のせいで痕跡が減っているのだ。


この空間でそれらしい証拠を幾つか見つけた所で、所詮は推察の域を出ない。


それはもう1体のドラゴンとハーピィの死体を調べていたイヴリスとカインも同じだった。


唯一確かな事は、必死の形相のままで死後硬直したこのワーフルフが、生きている時は壮絶なる覚悟を持ってドラゴンに挑んだ事ぐらいだろう。


誰からともなく、3人がワーフルフの頭部へと頭を下げだし、黙祷を捧げる。


「…………そろそろ行くか。イヴリス、武器を頼む。カイン、石槍を預かってやれ」


黙祷を終えてから、アダンが静かに口を開いた。


イヴリスが四ツ刃の武器を2本とも管理し、カインが平べったい武器と石槍とを手にする間に、アダンはヴァンパイアを背負い直す。


ハーピィの側に落ちていた変わった形の大きな石のような物がどうやら武器である事と、その重さ故ヒューマンが扱うのには向かない事以外、これ以上めぼしい情報が得られなかった3人は、簡単な出発の準備を整えてから再び歩き始めた。




しばらく歩いて森を抜け、荒地に足を踏み入れてからもアダン達は休む事なく歩く。


なにしろ見晴らしの良い平地のど真ん中なのだ。

どこで目を光らしているやも知れぬ外敵に、狙ってくださいと言っているような隙を晒したまま嵐に打たれていては休める筈も無い。


アダン達は荒地をひたすら北進し続ける。





森を出てから凡そ18時間、距離にして実に100キロ近くもの道程を行き、ようやく遠目に、なにかしらの人や動物が住処にしてそうな鉱山をアダン達が視界に捉える頃、その鉱山の中の住人達は昼の休憩に入っており、規則的な時間に規則的な食事を摂っていた。



しかし、精吸魔人族サキュバスのエルヴィーグと、蛇人族ラミアのステラは、他の皆に内緒で先遣隊の捜索に向かう為に専用の武器を受け取る必要が有るので、食事を受け取るなり、それには手も付けず足早にリーダーの鉄工人族ドワーフが待つ場所へと移動していた。


待ち合わせ場所に向かうと既にドワーフが待機しており、ドワーフは2人に気付くと、挨拶もそこそこに大きな背負いバッグを地面に下ろして、そこから武器を取り出す。


「こっちがラミアの分だ。初めは着け方が分からないだろう。手伝いながら教えてやるから後ろ向きな」


ドワーフの言葉に従いステラが背中を向け、教えられるままに武器を纏う。



その武器は蛇の下半身全体を覆い、腰部分より上からは左右5本ずつの線が人型の上半身に向かって伸びていて、その線は3本が肩の上、2本が腋の下を通り、二の腕の辺りで一体化して輪っかの形になっている。


その輪っかから再び別れた5本の線は腕の外側を這うように指先まで伸び、第一関節から先の五指とそれに備わる爪とを覆う。


「見た目の割には動きやすいけど、動きやすすぎて、なんというか重量感や迫力?みたいのが無いわね。これで本当に威力が上がるの?」


武器を身に着けたステラが、自身の手や足に視線を向けつつ、何度か適当な動きを繰り返しながらドワーフに質問する。


「ドラゴン相手にどこまで通用するかは分からないが、破壊力そのものは確実に上がっている。聞いた話じゃラミアは爪よりも尻尾の方が主力になるんだってな?その辺も考えて調整してみたんだが、何事も試してみなきゃ話にならない。あっちの方に適当な大岩を用意したから、それを壊して威力や使い心地を確かめてみろ」


ドワーフが通路の奥を指差し、ステラに武器の使用感を確かめるよう促す。


「それは助かるけど、適当な大岩って言われても……」


「ドラゴンの顔を象った趣味の悪い形をしているから一目みればすぐ分かる」


ドワーフの簡潔で用意周到な説明を聞くと、ステラが感嘆のため息を漏らす。


「ハァ〜、初めは頭の固い頑固親父って印象だったけどアンタめちゃくちゃ話が分かるじゃん」


「余計なお世話だ!いいからサッサと行け!」


心外だと言った様子で向こうに行くよう急かし、ようやくステラが武器の使い勝手を試そうと動いたところで、ドワーフがバッグに向き直る。


「まったく、どいつもこいつも俺を強情だのなんだのと…」


ブツブツ言いながらバッグの中からサキュバスに合わせた武器を取り出したドワーフが、把手の部分を握った片手を小さく上げつつ、エルヴィーグに目線を合わせる。


「んで、こっちがお前さんの武器だ」



その武器は把手の先から伸びた長いツルのような部分以外、穴掘り班が使用しているスコップそのものだった。


「えっと……これが…ですか?」


エルヴィーグが反応に困った様子で相槌を返す。


「当然だが穴掘りで使っているのとは比べ物にならないぐらい頑丈に作ってある。そういう反応も分からないでもないが、これだって立派な武器だぞ」


別にドワーフを疑う訳では無いが、いまいち理解の追い付かないエルヴィーグが反応に困った相槌を続ける。


「はぁ……」


「…まずは説明だな。こっちの長い部分はムチって言うんだ。古いドワーフの言葉で【早くて苛烈な物】を意味する。ムチは少ない腕力でも威力が出るように造っていて、手首をしならせながら打つ事で威力が上がる。拳を固めて殴るよりも、手の平で叩く方が痛い場合が有るだろう。アレがもっと強烈になった感じだ。ただ、肉は裂けても骨までは断てないと思う。その為に片方をスコップ状にしてある。改めてスコップの仕組みを説明すると、スコップは使用するもの本来の腕力に加え、背中の丸い部分が支えとなって先っぽの方により力を集中させ硬い部分を削り取るんだ。ここぞと言う時の破壊力はスコップの方が強いが、使用頻度で言えば鞭の部分の方が多いだろうな。まぁ、その辺は状況によって使い分けろとしか言えない」


「なるほど…良く分かりました」


そこまで説明を聞いて、ようやく納得したエルヴィーグが頷く。



「よし。とりあえずお前さんも、岩で試し撃ちしてから」

ドワーフが試し撃ちを勧めようとした時、突如として通路の奥から厳めしく野太い大声が飛んで来て狭い空間の中で反響すると、それに意識が取られ、言い掛けた言葉が思わず詰まる。


「ゼヴァン!どこにいるゼヴァン!」




通路の奥から聴き慣れない単語が響いてくると、エルヴィーグが質問のニュアンスでドワーフへと声を掛ける。


「…ぜばん?」



名乗るつもりの無かったタイミングで名前を知られたドワーフのゼヴァンが、バツが悪そうな返事をする。


「…俺の名前だ」


同族間なら大した意味は無いが、基本的に他種族間での名乗り合いは、相手に相当の敬意を払う事のあらわれだ。


自分の気持ちを上手く相手に伝えれるならばあとで挽回する事も可能だが、それなりに大事な挨拶の機会を潰されてしまったゼヴァンが不機嫌になるのも無理はない。


「ゼヴァーン!どこだぁ!オォーイ!」


繰り返し自分を呼ぶ声が聞こえてくると、むくれている場合じゃない事にハッと気が付く。


「やばっ!隠せ隠せ!」


秘密裏に武器を手渡している場面を見られると、リーダーの自分が規律を乱しかねない行動を取っているのがバレてしまう。


ゼヴァンが慌てて武器を隠すよう言うが、焦っていた為に声量の調節に失敗してしまい、結果としてそれが、なにやら自分を探している声の主に居場所を知らせる形になってしまった。


「ん!?そっちにいるのか!」


ゼヴァンを呼ぶ声があまりにも大きかった為に正確な距離感が掴めずいたが、どうやら思っていたよりも近くにいたようだ。


エルヴィーグがゼヴァンの意図を察して武器を隠すよりもコンマ数秒だけ早く、大声の主が2人の元へと駆け寄り到着する。


『しまった!』と思った時には既に遅く、迫力のある声に違わぬ強面のドワーフが、吊り上がった目で2人へと視線を集中させる。



男の名はユーリリ。

ドワーフ達のサブリーダーであり、ドワーフの中で唯一ゼヴァンに意見できる人物だ。



「ぅん?なにやってんでい?」


「イヤッ!こっ、これはだな…その〜………」


痛い所を突かれたゼヴァンが口をまごつかせると、ユーリリは「ハンッ」と大きく短い溜息を吐いてから、呆れた様子で言葉を投げ掛ける。


「まったく、ま〜た相談も無しに勝手な事ばかりしやがって」


「あぅ…面目ない……」


ゼヴァンが気まずそうに小さく頭を下げる。



いきなり現れた強面のドワーフとゼヴァンがどういう関係なのかを知らないエルヴィーグが、戸惑った様子で両者へと交互に視線を泳がせていると、2人の反応を確認したユーリリは、頭を小さくガシガシと掻き、厳つい地声をもうすこし柔らかくさせながら話を続ける。



「まぁ、詳しい話は後で聞かせてもらう。それよりこっちの用件が先だ。今すぐ穴掘り班の所へ向かえ、先遣隊が帰って来た」


「なに?先遣隊が」「先遣隊が帰って来たのですかっ!?」


言いかけたゼヴァンの言葉をかき消す声量で食い入るようにエルヴィーグが質問すると、ユーリリの心中に、『話の順序を間違えてしまった!』との焦りが生じる。


先遣隊の誰を助けに行くつもりかは知らないが、帰って来た人数を考えれば、ぬか喜びさせてしまう可能性の方が高いからだ。


「あっ、いや…隊と言うかなんというか……帰って来たのは4人なんだがその内の3人は余所者な訳で…え〜と……と、とにかく!見た方が早い!アンタも一緒に付いてきてくれ」


ユーリリの言葉にゼヴァンは少し考え込んだ後、奥にいるステラも呼ぶ事にし、4人は穴掘り班の所へと向かう。



「言い訳になるかも知れんが、俺は上手く喋るって事がどうも苦手だ。その……浮かれられても困るから先に言っとくが、あんまり期待はしないでくれ。帰って来たのは1人だけなんだ。それがアンタらの探してる相手とは限らない……」


道中で背中を向けたまま発せられたユーリリの言葉に、ゼヴァンの表情が難しくなるが、エルヴィーグとステラはそれ以上に険しい顔色を浮かべていた。


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