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歴史10 遠雷へと歩みし者達 後

ドラゴンとの接敵予定日まで2日と迫った。


空を見上げなくなってから13日。鉄工人族ドワーフの号令が時間の指標となった中、皆の作業場とは別の空間で夜通し訓練を続けていた先遣隊の者達が、気付けば次の日の昼時になっていたと知ったのは、子供の蛇人族ラミアが自身らの人数分の食事を持って来てからだった。




「アンタ達、張り切るのは良いけど自分の飯くらい自分で取りに来な。野性が廃るよ」


両腕で人数分の缶詰めと水筒を抱えて鉱山内を移動していたラミアは、先遣隊の者達が視界に入ると、つい先程よりも少しだけ強く脇を締めて下腹部を前に突き出し、右腕を内側に回し込むように僅かに捻って、持ちづらくはなるが物を置く面積は少しだけ増えるように腕の体勢を変えてから、左手で缶詰めを1つだけ掴み、是見よがしに左手を上げながら声を掛ける。


ラミアの号令に気付いた狼人族ワーウルフ吸血人族ヴァンパイアが模造刀を振るう手を止める。


「え!?もうそんな時間かよ!」


人数分の食料を持って自分達の方へ向かってくるラミアの言動に、現状を察知したワーウルフが必要以上に大きな声で吠える。


「まったく気付かなかったな」


機能を停止していた自身の体内時計に合図を掛けるかのように、1度深く短い息を吐いてから、小さな声でヴァンパイアがぼそりと呟く。



「まぁ、先遣隊様に向かってあんまりやいやい言うつもりはないんだけどね」


軽い口調ではあるが心からの言葉だった。


ドラゴンに住処を奪われ、偶然か必然か僻地の鉱山で一堂に会する事になった種族達は、それぞれの価値観こそ異なるものの、戦士に敬意を払うと言う点では皆同様の考えを有していた。


「オイオイそんなに褒められたら照れるじゃねぇかよ。もっと言ってくれ」


ラミアの言葉を聞いたワーウルフのランセイが、頬を緩ませ尻尾をブンブンと振りながら照れくさそうに頭を掻く。


「自分の飯くらい自分で管理しなきゃ野性が廃るよ」


「いや、そっちじゃなくて」


ラミアの皮肉に、ランセイの尻尾はピタリと止まって垂れ下がり、ものかなしそうな表情で不満の意を示す。



「冗談だよ。はい、これ」


雑談する内に接触できる位置にまで近付いていったラミアが自身のいちばん近くにいたワーウルフに、保存食の入った金属製の缶と、中が空洞で幹にケタの節と言う名称の大小様々なくぎりの有るサーサエと言う植物を加工して作った水筒とを手渡し、それを受け取ったワーウルフが礼を言う。


「おぉ!ありがとよ!」


「はい」


ラミアが続いてランセイに食料を手渡す。


「お、ありがとう」


3人のヴァンパイアにも食料を渡すと、それぞれがラミアへ感謝の相槌を返した。


「わざわざすまないな」


「ありがとう」


「感謝する」



その場の全員へ食料を手渡したラミアは、何かを思う様子で3人のヴァンパイアの顔を何度か確認する。


それぞれに視線を移す内に、ヴァンパイアの1人が、自身のやや不自然な挙動に気付いた様子で不思議そうな表情をしていると感じたラミアは、心の中に生じた少しばかりの焦りから、さっさと用件だけ済ませようとの結論に至った。


「あ〜、ところでさ、どんな感じなの?その…調子の方は」


不思議そうにラミアを眺めていたヴァンパイアが不意に質問を受けると、彼はその表情のままに相槌を返した。


「ん?私か?悪くはないが」


「あ、あ〜そうなんだ。アンタはどうなの?」


答えを聞いたラミアは、そのヴァンパイアとは別のヴァンパイアに続けて質問する。


「うむ。まぁまぁだな」


「じゃあアンタは?」


「正直、芳しくないな。今のままでは厳しいものがある」


「オイオイなに弱気になってんだよ情けねぇなぁ!」


最後に答えたヴァンパイアの肩に、絡ませるようにして勢い良く片腕を乗せたワーウルフがやたらとでかい声で騒ぐ。


「うるさいぞ。そういうお前はどうなのだ」「そういうアンタはどうなのよ」


ラミアと、絡まれたヴァンパイアとが同時に質問すると、ワーウルフは鋭い牙の見える角度まで口角を上げてニヤリと笑いながら答えた。


「良〜い調子だぜぇ」


「む、随分な自信だな。なにか良い方法でもあるのか?」


耳元で燥ぐワーウルフにヴァンパイアが質問する。


「おうともよ!まず空を飛んでくるであろうドラゴンの攻撃をサッと交わしてズドッと喉元をブッ刺す!完璧な作戦だぜ!」


「それだけか?」


「それだけだな。後はまぁその場の状況次第だろ」


ワーウルフの言葉に、本人とランセイを除くその場の全員が得も言えぬ不安を覚える。


「んで、そこのアンタはどうなの?」


とりあえずこのワーウルフは置いとこう。あまり深く突っ込んでもくだらない押し問答が始まるのを予感したラミアが、ひとりだけそそくさと座り込んで飯を掻き込むランセイに質問する。


質問を受けたランセイはラミアの方に向き直り、頬張った飯を忙しなくモグモグと噛んでから、一息にゴクンと飲み込み、親指で自分の顔を指差しながら笑顔で答える。


「絶好調だぜ!」


その様子を見ていたラミアとヴァンパイア達の心中には、もしかしなくてもワーウルフという種族は根拠のない自信に溢れるお調子者ばかりなのではとの考えが思い浮かんでいた。


「そ、そう。頼もしいわね。じゃあ私は、用事も済んだしそろそろ戻るとするわ」


『まぁ後の事は当人同士でなるようになるだろ。ステラぇに頼まれた様子見も終わったし、ボロが出ちゃう前に早く戻ろう』


初日の日にヴァンパイアに吸血された同族のステラにそれとなく情況を聞いてこいと言われていたラミアは、途中あやしい場面もあったが、とりあえずは上手く用事を終えた為その場を後にする。



同族のステラに雑用を頼まれたラミアが穴掘り班の皆がいる空間に戻ると、適当に座ったり寝転んだりしながら多数のラミアと数人の精吸魔人族サキュバスがいつものように雑談をしていた。


雑用を終えたラミアがその輪に入ろうとすると、それよりも早く、集団の中から神妙な面持ちでステラが飛び出して来る。


「どうだった!?」


興奮気味のステラとは対照的に、質問を受けたラミアは困惑気味に、テンションの低い声色で相槌を打った。


「いや……どうだったって言うか…どれがどのヴァンパイアか良く分からなかったわ」


「えぇ?なによソレ!たぶん分かるって言ってたじゃん!」


雑用を頼まれるに当たって、ステラから、毎朝作業が始まる度に自分と睨み合ってたあのヴァンパイアだとの説明を受けていたラミアは、少し困った様子で愛想笑いを浮かべた。


「いやぁ、その場面だけを見たら確かに分かるけど、前振りも無しにいざ3人の中から判別するとなるとめっちゃ難しかったわ。ただでさえ他種族の顔は判別しづらいし」


「一見、強面で愛想が悪いけど、よくよく見ると整っていて意外と優しそうな目をしてる奴だって私いったよね!?」


「仕方ないじゃん分からないもんは分からないんだから。てゆーかさ、そんなに気になるなら自分で様子見に行けば良いじゃん」


「それができないからアンタに頼んだんでしょ!もう一回行ってきてよ!」


聞き入れる様子のないステラに、ラミアの返事に苛立ちの声色が混ざりだす。


「嫌よ面倒くさい。だいたいなんで自分で見に行かないのよ。休憩時間はまだまだあるんだし今すぐ行ってくれば?」


「う、それは………」


今すぐ自分で行ってこいとのラミアの言葉に、つい先程まで勢い良く喋っていたステラの言動が急にしおらしい物に変化していく。


「なに?どうしたの?」


ステラの変化に違和感を覚えたラミアが、質問交じりに返事を急かす。


「それはちょっと……恥ずかしいし…あとなんか気まずいし…」


ステラの言葉がしりすぼみになっていき、自身の髪を弄ったりの手遊びを始める。


「恥ずかしい?気まずい?なにが?なんで?」


ラミアがそれに対し、特に悪気も遠慮もなくグイグイ突っ込む。


「なにがって……と、とにかく私はいやなの」


「えぇ?なにそれ意味分かんないんだけど」


「嫌なもんは嫌なの!もうこの話は終わり!」


「ハァ?」


碌な説明もないまま唐突に会話を切ろうとするステラにラミアが怪訝の念を持ちだすが、ステラはとにかく、少しでも早くこの話題を終わりにしたかった。


今は別の話題で盛り上がっている他のラミア達とサキュバスだが、彼女達の意識がこちらに向けば、まず間違いなく騒ぎ立てられる事となる。


同族同士ならまだしも、いちども見聞きした事がないようなラミアとヴァンパイアの恋話ともなれば尚更だ。


ステラ本人としては特に恋愛感情があるわけでも無く、良くも悪くも記憶に残る接点ができてしまったから、なんとなく、興味本位で彼の様子が気になるだけなのだが、中には勝手に勘違いしたり、面白半分で茶化す輩も一定数存在する。


そういう事態を避ける為に信頼の置ける相手に様子見を頼んだのだが、如何せん彼女は子供すぎた。


感情の引き出しが少ない子供のラミアには、ステラの心の機微を察して、大人しく引くという行為が取れなかった。


子供のラミアとあーだこーだと掛け合う内に、ふと嫌な気配を感じたステラが、なにやら反論して騒いでいる眼前の相手を無視して後方に振り返ると、子供の成長を見守る親のような表情をした者やニヤニヤと底意地の悪そうな笑みを浮かべる者、興味津々で目を輝かせる者に恥ずかしそうに赤面する者など、表情は個々によって様々だが、ラミアもサキュバスも皆一様に興味の有りまくる様子でステラを眺めていた。


「………………」


嫌な気配を犇々と感じたステラがその場から避難しようとするが時すでに遅し。いつのまにか間合いに侵入していたラミアがステラの首に右腕を絡ませ、肘を締めてステラの頭部を自身の胸元に引き寄せる。


「おっとぉ!逃さないよステラちゃん!」


「ちょっ!?何よ!?離してよ鬱陶しい!」


ステラを捕獲したラミアは、妖艶かつ意地悪な二重の意味でやらしい笑顔を浮かべながら、左手の人差し指でステラの頬をぐりぐりと突つく。


「いやぁ〜さいきん様子がオカシイと思ってたらやっぱりそういう事だったんだねぇ〜」


「は!?なにが!?何の事かさっぱりなんだけど!?」


ステラが捕獲されてウザ絡みされる一方で、ステラと言い争っていた子供のラミアは、癖っ毛のラミアに強引に輪の外へと追いやられていた。


「ほら子供は向こう行ってな。ここからは大人の時間だよ」


「なんで邪魔するのよ!?なんかいま盛り上がって来たところじゃん!?」


「今は分からなくて良いんだよ。後の楽しみに取っときな」


「なに?なんなの?」


あからさまな不満顔にもお構い無しに輪の外に子供のラミアが追いやられる一方、輪の中心となるステラはそれ以上の不満顔だった。


「とぼけんなってステラ〜。好きなんだろ?あのヴァンパイアの事がよ」


「違うから!確かに気にはなってるけど好きとかそんなんじゃ全然ないから!」


「バカだねぇ。男ってのは弱々しくてナヨナヨしてるのが可愛いんじゃないか」


力強く否定した筈なのに、何故か好きだという前提で、体の大きなラミアが恋愛について語り出す。


「まぁステラは昔っから変わってるからな」


体の大きなラミアの言葉に、ステラを捕らえる妖艶な表情のラミアが相槌を返す。


「だから違うって!なんで恋愛の話しになってんのよ!」


「アイカの言うように弱い男も魅力的だけど、ドラゴンが現れてから私は考え方が変わったね。やっぱり男は強くなくっちゃ。生涯の伴侶ともなれば尚更ね。私はステラを応援してるぜ!」


ショートヘアーのラミアが左手で拳を握り、手の甲をステラに向ける。ラミア特有の応援サインだ。


「確かにまぁ…血を吸われた時にあの力強さには感じ入る部分があったけど………ってウォイ!だから恋愛感情とか無いっつうの!」


ステラは必死に否定するが、意地悪な笑みを浮かべるラミアは尚も恋愛の方向へと話を進める。



「照れんなって〜別に隠さなくてもイイじゃんかよ〜」


「隠してるとかそんなんじゃないから!そもそもラミアとヴァンパイアとじゃ種族が違うだろ!サキュバスじゃあるまいし他種族同士で恋愛とかどんな関係だよ!」


「素敵じゃないですか!同種でない事の何がダメなんですか!恋愛はもっと自由であるべきですわ!」


ステラの言葉に、サキュバスが目を輝かせながら明るい声を挙げる。


「だから違うって!アンタ達茶化すのもいい加減にしなよ!しまいにはマジで怒るわよ!」


「む…今のは聞き捨てなりませんわ。私達サキュバスが半端な気持ちで恋愛を語っていると勘違いされるのは心外ですわ」


「知るか!私は早くこの話しを終わらせたいの!察せよバカ恥ずかしいだろ!」


「恥ずかしい!?恋愛について語る事のなにがいけないのですか!?」


「あーもーうるさいうるさい!とにかくアンタは黙ってて!」


「いいえ黙りません!恋愛とはなんたるかについてハッキリさせるまで私は一歩も引きませんわよ!」


「なんだとぉ!?」

「なんですか!?」


自身の首に絡みつくラミアの片腕を力尽くで外したステラが、力強い動きで蛇の下半身を地に擦らせサキュバスへと迫る。


「人を揶揄うのも大概にしろよ」

「こっちのセリフですわ」


お互いの顔が近くなると、どちらからともなく両者が額を勢い良くぶつけ合い、歯を食いしばりながら相手を睨む。


「あ〜も〜また喧嘩してる。やめろお前達」


少し離れた所にいた耳長人族エルフが、すっかり手慣れた様子で喧嘩の仲裁に入ろうと立ち上がると、そのエルフと会話していた小鬼人族ゴブリン半蜘蛛人族アラクネもエルフを手伝おうと動きだす。


「またお前か。この問題児め」

「私は悪くないわよ!こいつらが先に!」「はいはい話しは向こうで聞くから」



「ステラさんが恋愛は恥ずかしいって!酷いと思いません!?」

「まぁまぁ」

「抑えて抑えて」



エルフがステラを、ゴブリンとアラクネがサキュバスを宥めて、両者の距離を遠ざけていく様子を遠くから眺めていたワーウルフのグレントが、膝枕の為の膝を貸してくれるサキュバスのエルヴィーグに共感を求めてぼやく。


「嫌だねぇ仲間内で喧嘩して。もっと仲良くできないのかよ。なぁ」


「まぁ、価値観はそれぞれですからね。無理な押し付けは良くないですわ」


エルヴィーグは自分の意見も交えながら肯定の意を示した。


「ねぇ」


「んぁ?」


互いに視線を合わしていたグレントとエルヴィーグが、近くの声に振り向くと、癖っ毛のラミアに輪の外へ追いやられた子供のラミアがグレントを見つめていた。


「なんだぁチビっ子。遊んで欲しいのか?」


「アンタ先遣隊のメンバーだよね。他の皆は夜通し練習してたみたいだけど、アンタだけこんな所で寝てていいの?」


「あ〜他の皆がね……アイツ等そんな事してたのか」


ラミアの言葉を聞いたグレントが、適当に地べたに放り出していた両腕を組んで、天井を眺めながら生返事する。


「まぁ心配すんな。これでもやる事はやってるからよ」


「でも……」


子供のラミアは、納得のいかない様子で相槌を返す。


「いいかチビッ子。長いこと頑張るから良い訳じゃ無いし休んでばかりだから悪い訳でもない。自分に合ったやり方で自分の目標へ向かうのが一番イイ方法なんだよ。確かに休みっぱなしだと前に進まないが、かと言って焦りすぎても色々ほったらかしになっちまう。俺にはこれぐらいがちょうど良いのさ」


「う〜ん分かるような分からないような……でも結局、敵や獲物は待ってくれない訳だよね」


「その辺のさじ加減も計算して俺はいま休んでるの。敵や獲物の動向も、相手が自分の分かる範囲にいるならともかく、分からない時はとにかく自分の体調の事だけを考えるんだよ」


「え〜難しいなぁ〜そう言われればそうな気がするし…そうじゃない気もするし……」


「なんでだよ!簡単じゃねぇか!そうに決まってるだろうがよ!」


「そうなのかな〜共感できる部分は多いけど…なんとなく何かが抜けてる気がしないでもないような…私の気のせいなのかなぁ〜」


「………まぁ大人になれば分かりますわ」


グレントとラミアの問答がなかなか進まないのを見兼ねたエルヴィーグが言葉を挟む。


「うわ出た。またそれだ。大人になるだの大人の話だの、そもそも大人って、具体的に何才からが大人なのよ」


「え……具体的…にですか?」


癖っ毛のラミアと言い眼前のサキュバスと言い、大人という単語で話しを纏めようとする言動に拒否感を覚えたラミアが、問題の根本を鷲掴みにしてやろうと質問すると、エルヴィーグが少し困った様子で言い淀む。


「具体的な大人は…えぇとお〜…ひとりで食料を調達できるようになってから?生殖可能な年齢になってから?………う〜ん…言われてみればあまり深く考えた事がないですわね」


「なにそれ!?分かんないくせに適当いうなよ!」


「う…適当に言ったつもりは無かったのですが……」


エルヴィーグと子供のラミアが言い合う中、グレントが妙に落ち着いた声色で呟いた。


「歳じゃねぇ。なにが大事なのかが分かるようになって初めて大人になるんだよ」


言葉の意味は深くは理解できなかったが、なんとなく感じ入る部分のあったラミアは、小さな感嘆のため息を漏らした。


「まぁ…アレだ。先遣隊おれらは俺らの仕事をするだけだ。ガキが余計な心配をするんじゃねぇよ」


グレントが片手を伸ばしてラミアの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。


「べ、別に私はそんなつもりじゃ」




そして、それぞれが思い思いの時間を過ごす内に、決行日がやって来た。


当日はやけに強い風が吹き荒んでいた。


先遣隊のワーウルフとヴァンパイアは、全体のリーダーとなるドワーフから本身の武器を受け取り、模造刀との違いを確かめ問題が無い事を確認すると、鉱山内の皆から見送られて外に出る。


半月ぶりに外に出れば朝の日差しが降り注いで程良い熱が心地よく全身を包み、鉱山内の埃っぽい空気とは比べ物にならない澄んだ瑞々しい空気が肺を満たす。



今まで当たり前に暮らしていた外がこんなにも素晴らしい世界だったとは思ってもみなかった。


生きたい。


この世界で生きたい。


彼等の手にする武器には、誇りと怒りと希望が満ちている。


それは先に外で待機していた先遣隊のメンバーである鬼人族オーガ翼人族ハーピィも同様だった。


互いに合流して、見張りのハーピィに知らされていたドラゴンのいるであろう方角へと向かう。


拠点となる鉱山の周りに広がる荒地を抜け森に入り、ラレルの大木が立ち並ぶ森の中をしばらく突き進む。逸る気持ちが互いへの合図も無しに進軍の速度を上げていくが隊列は乱れない。


「見えたぞ!ドラゴンだ!」


最初に目標のドラゴンを視界に捉えたハーピィが叫ぶ。


無数に立ち並ぶラレルの木と突き抜ける青空とが交差する地平線の遥か遠くから、強風で勢いよく流される特大の雨雲を従えるかのように、雷の鳴り響く黒雲と列を成して先頭を飛ぶ不倶戴天の敵が、雷鳴より尚おぞましい雄叫びを挙げる。


「相変わらず下品で喧しい。やはりドラゴンとは相容れぬな」


夜行性のヴァンパイアが、暗闇の中でも相手と周囲の状況を把握する為に進化した聴力でドラゴンとの距離を測る。


「臭うぜぇ。血生臭さと泥の入り混じったような独特のけったくそ悪い臭いがプンプンとなぁ」


同じくワーウルフも嗅覚によってドラゴンを認識し、武器をいっそう強く握り込む。


互いに敵を認識した先遣隊とドラゴンの進む速度は更に加速する。


深く息をしながら敵との衝突に備える。筋肉は程良い緊張と脱力を両立させ、血流は激しくも淀み無く、神経は広く鋭く張り巡り、3度目の呼吸を終えると同時に両者が接触しあう。


先遣隊とドラゴンとの激突の衝撃で揺れた周囲の木々から舞った多数の葉が、遅れてやって来た巨大な黒雲が齎す嵐で更に激しく散乱する。

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