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歴史7 闘う準備を

天空に籠る闇を光が押し退けようとする暁の時刻、自身の身を脅かす者達が近くにいるなどとは考えもしない幼龍は静かな森を闊歩する。


散歩の途中で空腹を感じたドラゴンは、気紛れに大木の根を囓りとる。


繊維が絡まって相当な強度を保つラレルの木を一噛みで軽く噛みちぎり、常に危険に身を晒される野生生物とは思えない優雅な動きで咀嚼する。


二口目でラレルの木は大きく傾き、三口目で遂に堪らず倒壊する。


根元から千切れて倒れた木を、更に根元から食し、徐々に枝葉の方へと口を進める。


尖った枝をものともせず、鮮やかな青色に染まった葉を噛み潰し、直径10センチほどの緑色の、ンダムの実の甘味を堪能し、ラレルにたかる無数の赤い斑点、毒虫のワールをも舐ぶり尽くす。


丈夫な内臓と高い免疫能力を持つゴブリンですら腹を壊すワールでも、ドラゴンからすればただの香辛料。


自身の全長の倍近い大きさの大木をまるまる1本喰らっても未だ食欲は満たされず、ドラゴンが2本目のラレルに喰らいかかるところで、夜の名残りを掻き消し朝日が顔を出す。




「ふぅ〜、なんとか朝には間に合ったかな」


ドラゴンがラレルの木を食らう少し前、鉱山内の皆がそろそろ眠りから覚めなければいけない時間帯の直前に、1人徹夜で工房に籠っていたガジンが、汗だくになりながら分厚い鉄の扉を開く。


ガジンの背には自身とほぼ同じサイズのリュックが掛かっている。


のしかかるような熱さの工房での徹夜作業の疲労と、背負ったリュックの重量とが加わり、穴堀り班の方へと向かうガジンの足取りは重たい。


穴掘り班の皆が眠る空間に着き、背負ったリュックを地面に下ろしてから、力尽きたかのように全身を脱力させてその場に座り込む。


誤ってひっくり返さぬように留め具で自身の服の内側に固定した砂時計を確認すると、あと10分程で起き出す時間だった。


このまま静かな時間を過ごすと5分と経たず眠ってしまいそうな上、今の状態で寝てしまえば誰かの手を借りない限り本来の時間に起きれそうにない。


座った姿勢のまま目を閉じて何度か深呼吸して仮眠とすら言えない休憩を数十秒だけ取ってから、最後にもういちど大きく深呼吸して、皆には悪いと思いつつも、両手をパンパンと叩き、本来の時間よりもすこしだけ早く起き出す合図と声を出す。


「起きろー朝だぞー。ああそれと、先遣隊の者は俺の元に集合するように伝えてくれ。もういちど言うぞ。先遣隊の者は起きたらドワーフの元に集合しろー」  


ガジンの合図を受けた周りの者が起き出し、起き出した周りの者が、隣の者に朝である事とガジンの伝言とを伝えていく。


少ししてから先遣隊の鬼人族オーガ狼人族ワーウルフ吸血人族ヴァンパイアがガジンの元に集まり、なんの用かと質問する。


「アンタらに渡したい物がある。まずはヴァンパイアからだ」


ガジンの言葉に3人のヴァンパイアが前に出ると、ガジンはリュックの中から取り出した長い棒状の物を、1番近くのヴァンパイアへと差し出す。


ヴァンパイアは差し出された物を両手で受け取ると、細長い棒状の物を両手でいろいろと触って、様々な角度から見つめる。


「初日の日に見せた尖ったコウセキのような物か?しかしこれは、ただの岩にしか見えないぞ?」


「そう、岩でできてる。親父から…あ〜、今みんなの武器を作っているドワーフから完成品の形を聞きだし、形状と重量を限りなく近づけた模造品だ」


「もぞ…ひん?」


「仮の武器とゆうかなんとゆうか、つまりあれだ。武器の扱い方に慣れる為の道具だ。ハンマーやスコップみたいにまずは使い方を覚えなければ話しにならない。まずは持ち方からだ。下の短い棒の部分を持って」


言われた通りに、ヴァンパイアが下の短い棒を握る。


「そこが柄と言って武器の握る部分だ。これは絶対に守れよ。柄じゃなくて刃の部分を持ったりしたら大怪我するぞ」


「刃?どこだ?」


拳を縦にして柄を握り込む手を内側に巻き込むようにしたり、外側に開くようにしたりして、岩でできた模造刀をヒラヒラと動かしながらヴァンパイアが質問する。


「柄のすぐ上にある平たい円形の物が鍔と言って、鍔の上の部分が刃だ」


「ふむ、これか」


説明された場所をヴァンパイアが触ろうとすると、ガジンが一喝して動きを止めさせる。


「触るな!」


急に大声で注意されたヴァンパイアが驚いて動きを止め、何事かとガジンに怪訝な表情を向ける。


「怒鳴って悪いが武器の取り扱い、特に刃の部分にはまじで気をつけてくれ。この刃で敵を倒すんだ。本物ほどじゃないにせよ、模造刀でも危険だ。下手に触れば怪我をする。最初の日に採掘班のオーガが削ったコウセキで拳を切っていただろう?刃の部分がアレと同じだ。素手よりも遥かに弱い力でも簡単に相手を傷付けられるが、それは自分の体も同じ理屈だ。基本的に刃は敵以外に当てる部分じゃない。これだけは頭に叩き込んどいてくれ」


「わ、分かった。刃には不用意に触らないようにする。武器を持つ時は柄を握る、だな」


理解の意を示したヴァンパイアが、言葉に出してそれを伝えると、ガジンがこくりと頷く。


「とはいえ戦闘中にどんな状況に陥るのかは分からない。色んな持ち方があるのは覚えといた方が良い。例えば武器が手元から離れたとして、角度や距離によって柄を持つのが難しい場合は、刃の腹を両手や指で挟み込むようにして掴む事もできるのを知ってくれ。こんな感じだ」


ガジンが立ち上がり、模造刀の刃の側面を両手で挟み込む。


「ここが刃の腹な。腹なら怪我をする事はない。しかし刃そのものを握ると怪我をする。最悪ゆびや手が切れてなくなる」


「分かった。覚えておく」


刃の腹を握りながら視線を合わせるガジンにヴァンパイアが頷く。



「とまぁ、とりあえずはこんなところだ。すこし覚える事が多いかもだが、ここまでは大丈夫か?」


「見縊るな。戦闘ならばドワーフよりも我々の方がずっと上だ。戦闘に必要な事を忘れはしない」


ワーウルフとオーガもヴァンパイアの言葉を肯定する。


「なら良い。とりあえず後は模造刀を振ったりして武器の使い方や重さを体に馴染ませてくれ。縦にでも横にでも斜めにでも振り方は任せる。とにかく刃の部分をドラゴンにぶつけるんだ」


説明を終えたガジンが、残りの2人のヴァンパイアに模造刀を配る。


「おし、次はワーウルフだ」


呼ばれた3人のワーウルフがガジンの前に出て、ガジンのいちばん近くのワーウルフ、グレントが模造刀を手に取る。


「ん?」


模造刀を手にしたグレントだが、それを目にした瞬間に疑問の声が漏れでた。


ヴァンパイアの受け取っていた物と異なる形をしていた為だ。


「柄…を持つんだよな?けどよぉ…これ、なにがどうなってんだ?」


拳を縦にして柄を握り、刃の部分を上に向けるグレントが困惑した表情で片目を閉じたり、目を細めたり見開いたりしながら模造刀を眺める。


グレントの視点から見ると、柄の頭部についた鍔の、更に上の刃の部分は、奥と手前、右と左との4箇所に刃があり、4箇所の刃が接触しあう中央部の天辺は、自身の爪やヴァンパイアの牙のように鋭く尖っている。


「どうやって使うんだ?」


「天辺の尖った部分で敵を突き刺すようにできている。突き刺して奥へ食い込ませる事で四つ刃が相手の中へと滑り込み傷口を広げる」


「突き刺す為の武器か。見た目は難しいが使い方は簡単だな」


「攻撃手段を狭めない為に刃の部分で切る事もできるように作ってある。とはいえ、ヴァンパイアの武器に比べてひとつひとつの刃は奥行きが短いから切断力は落ちる。基本的には突き刺す為の武器だ」


「よし、バッチリ覚えたぜ」


グレントに続き、2人のワーウルフが武器を受け取る。


最後のオーガが前に出ると、ガジンがリュックの中から、今までとは違って鈍い動きで仮の武器を取り出そうとする。


「よいしょ!っと、これがオーガの分な」


ガジンが全身で力みながら両手で取り出した武器はハンマーをそのまま大きくしたような武器だった。唯一特徴的なのは、叩く部分の片面はドワーフ達が普段使っているハンマーと同様の円筒状なのだが、もう片方は円錐状になっている事だ。


「オーガの腕力に合わせ、破壊力を増す為にかなり重くしてある。平たい面は威力よりも範囲重視。とはいえオーガの力でこれを振り回せばかなりの威力になるだろう。だが、ドラゴンの頑丈さが想像の上を行く可能性もある。範囲は狭まるが一点の威力を重視するなら尖った面で叩くんだ。どちらで叩くかはその場で本人の判断に任せるとしか言えない。尖った部分が刃、平たい部分が、まぁ拳だと思ってくれ。念の為に聞いとくが使い方は分かるな?」


「当たり前だ」


オーガの反応を確認すると、ガジンはしゃがみ込んでチャックを閉めてからリュックを背負い、先遣隊の者達へと向き直る。


「ああそれと、アンタらは今日から作業に参加しなくても大丈夫だ」


「ん?なぜだ?」


吸血事件の当人となるヴァンパイアが、武器に集中していた視線をガジンへと向けて質問する。


「3日後にはドラゴンと接触するよう動くんだ。作業よりもそっちを優先するのは当然だろう。皆には後で俺の方から伝えておく」


「まぁ、正論だな」


質問したヴァンパイアの隣にいたヴァンパイアが、ガジンの言葉を噛み締めるよう、質問したヴァンパイアに促す。


「俺はいまから先遣隊のハーピィにも同じ説明をしにいくから鉱山の出入り口に向かう。何かあれば呼んでくれ」


ガジンがその場を後に立ち去っていくと、吸血事件のヴァンパイアと、その隣に立つヴァンパイアとは別のヴァンパイアが、グレントの手にする武器をジッと見つめてからグレントに話しかける。


「そっちの武器の方がカッコいいな」


「ん?そうか?良くわかんねぇけど、とりあえず練習だ。ドラゴンは俺がぶっ倒してやるぜ!ハッハッハ!」


近くの者に練習用の武器をぶつけぬようグレントが皆から離れていくと、それを皮切りに他の者も散り散りになって行く。



「あと3日…か」


その場でひとり立ち尽くす吸血事件の当人となるヴァンパイアが視線をやや下に落としてぼそりと呟く。


武器を持つ自身の手と辺りの岩肌が漠然と視界に映り込むなか、彼の意識はそれらの光景とは別の所に捕われていた。

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