男爵令嬢に金品を盗まれた美男公爵様⇒男爵令嬢に付きまとわれるがさぁどうする?
エーリス・ゴートレット公爵はそれはもう金髪碧眼の美しき公爵であった。
彼は今、頭を抱えていた。
有り得ない人物と再会したからである。
男爵令嬢マリー・エレクテア。
彼女にエーリスは入れ込んだ挙句、騙されて、金品を持ち逃げされたのだ。
彼女は共犯の男と牢獄へ入っているはずである。
どうしてここにいるのだろう?
現在、エーリスがいる場所は高位貴族が集まる夜会であった。
エーリスは男爵令嬢に金品を持ち逃げされた事が有名になり、間抜けな公爵として名が知れ渡ってしまった。
だから、この王宮で開かれた夜会で、高位貴族達に挨拶周りをしていた所である。
共に付き従うのはゴートレット公爵家の出来るメイド長、シェリエだ。
エーリスはマリー事件があった後、シェリエと婚約を結んだ。
シェリエはしっかり者で、身分違いはあれども、公爵位を譲った両親も大賛成で、
今回は挨拶周りと共に、婚約者シェリエの紹介も兼ねていた。
配るは黄金のクッキーセットである。黄金と言うからには敷き詰めたクッキーの下に金貨が入っている特別なセットだ。
この国の王太子ファルト殿下と話をしていた所、マリーがにこやかに話しかけてきたのである。
「お久しぶりですう。エリース様。マリーですー。」
「マ、マリー???何故、犯罪者がこのような所に??お前は牢獄へ入ったのではなかったのか?」
「私は男に騙されていただけですっーー。気の毒に思った神官長様が私を釈放してくれたのですわ。」
この国、ハリス王国の神官長モーリスはフォフォフォフォと笑って、
「わしの力で釈放してやったのじゃ。このような可憐な令嬢が牢獄なんて可哀想での。」
「モーリス様のお陰で私は出てこれましたー。これからもよろしくお願いしますね。
エーリス様。」
エーリスは真っ青になった。
また、付きまとわれて、自分の恥を言い触らされたらたまったものではない。
-私の事を愛してる愛してるって、抱き締めてキスを沢山してくださったじゃないですか。ミニスカートのメイド服を着てくれって懇願するから、着て差し上げたら足にキスを落として、君は素敵だって言ってくれたじゃないですかぁ。
脱いだ君はもっと素敵だって、飛び掛かって来たじゃないですかーー。-
だなんて言う事をだ。
「あまり私とした事を言いふらさないでくれ。」
「そうですわねー。口止め料を下されば考えますわーー。」
「いくらだ?」
「とりあえず金30でいいかしらー。」
金30は、騎士の一年分の給金に近い高額である。
黄金のクッキーセットを金5枚入りを20人に配ったのだ。
それでも大変な出費だったというのに、金30枚だと?
なんて女を牢獄から出したのだ?
モーリス神官長はニマニマしている。
この女の色香にやられたのか?
背後からシェリエがにっこり微笑んで、
「言い触らしてくださって結構ですわ。」
「貴方は確か、メイド長だったわねぇ。ドレスアップしていたから解らなかったわー。」
「そうです。私はゴートレット家のメイド長、シェリエと申します。そして今は、エーリス様の婚約者でもありますわ。」
「それなら話は早いわ。言い触らされて困るのは貴方も一緒でしょ?エーリス様と私がどんな恥ずかしい事をしてきたのか。」
シェリエは周りを見渡して、
「正式に高位貴族の方々には、我が公爵家の信用にかかわるために、挨拶周りをしましたけれども、若い令嬢達はともかく、高位貴族の皆様、エーリス様には寛容ですのよ。」
イーストベルグ公爵が進み出て、
「若いうちはよくある間違いだ。私は別に気にはしていない。」
キルディアス公爵も頷いて、
「そうだ。女性に騙されて金品を奪われるだなんて、これから気を付ければいい。」
キルディアス公爵は騎士団長も兼ねている。
ファルト王太子殿下がニヤニヤしながら、
「イーストベルグ公爵もキルディアス公爵も、女達に身ぐるみはがされて、怒った奥方たちに修道院送りにされた過去があるからな。人の事は言えまい。」
二人の公爵はバツが悪そうだった。
モーリス神官長はマリーの身体に手を回して、
「さぁ、可愛いマリー。わしと共に楽しもう。」
「まだ、話は終わっていないのよーー。エーリス様。又、お会いしましょう。」
モーリス神官長と共に去るマリー。
まだまだ付きまといそうで、頭が痛くなるエーリス。
何て女に惚れてしまっていたんだ。
過去の自分をぶん殴ってやりたい。
その時のエーリスは、まさか、あのマリーが、公爵家に訪ねてくるとは思わなかった。
それから数日後。
マリーがゴートレット公爵家に訪ねて来た。
以前、訪ねてきた時は喜んで迎え入れて、イチャイチャしたものだったが、
シェリエと言う婚約者がいる今は迷惑極まりない女だった。
「エーリス様。遊びに来ちゃいました。また、イチャイチャしましょうよ。」
「君は何をしたのか解っているのか?私を裏切って金品を盗んで逃げたんだぞ。
その上、弱みに付け込んで、更に金を要求した。最低の女だ。」
エーリスは玄関エントランスに現れたマリーに冷たい態度を取る。
マリーは階段を上って、エーリスに抱き着き、
「反省していますぅ。だから私と結婚してっーー。」
「言ったはずだ。私は婚約している。シェリエが私の愛する婚約者だ。」
シェリエが奥の部屋から出て来た。
メイド服を着て、腕を組んでマリーを睨みつけ、
いや、自分も睨みつけられてはいないか?
「エーリス様。いいんですよ。マリー様と結婚なさっても。
その時はわたくしはエーリス様に愛想をつかして、ゴートレット家を辞めさせて貰います。
勿論、この家を守っている闇の者達も引き連れて参りますわ。」
「それは困る。私はシェリエっ。君が必要だ。
闇の者のとりまとめとか、関係ない。私にとって愛しい人はシェリエだ。愛しているのはシェリエだけだーー。」
「その言葉しっかりと聞きましたわ。」
パチンと指を鳴らせば、人相の悪い男達が数人玄関から入って来る。
マリーをエーリスから引き離し、担ぎ上げ、
「シェリエ様。この女どういたしましょう?」
「そうですわね。神官長の息がかかっているから殺すわけにもいかないわね。
でもね…神官長の奥様にこの女をお渡しするのもいいかもしれないわ。
この女のやった事もご報告して差し上げて。多少の女遊びに目を瞑る神官長の奥様でもさすがにこの女は始末に走るでしょうね。
あら。マリー様。真っ青な顔をして。
わたくしなんて可愛いものですわ。神官長の奥様はそれはもう怖いお方で有名ですのよ。」
「た、助けてっーー。エーリス様。」
エーリスは男達に命じた。
「神官長の奥様にお届けしろ。」
「かしこまりました。」
マリーはわめき散らしていたが、連れて行かれた。
そして、シェリエと二人、階段の上で向かい合う。
「シェリエ。少し、庭を歩かないか?」
「そうですわね。歩きましょう。」
二人で秋の木の葉が舞い散る庭を散策する。
エーリスはシェリエの手を取り、
「君にはいつも助けて貰ってばかりだ。これからも私を助けて欲しい。
私も君を守れるように、もっとしっかりするように努力するから。」
シェリエはにっこり笑って、
「エーリス様は間抜けな所がありますから、わたくしがしっかりとついていなくては心配で心配で。わたくしを選んでくださって、感謝しております。初めて貴方様にお会いした時からお慕いしておりました。」
「本当か?」
「ええ。でも身分違いである事、諦めていた恋でしたわ。」
「シェリエ。愛している。」
「わたくしも…エーリス様。」
それから、しばらくして、エーリスはシェリエと結婚した。
しっかりものの妻に支えられて、ゴートレット公爵家は領地が発展した。
二人の仲は良く、一生幸せに暮らしたと言う。