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気軽に心霊スポットには行かない方がいいよ、という話

作者: カズキ

 心霊スポットには気軽に行かない方がいい。

 何故かって?

 そりゃ、アレだよ。

 所謂、障りってやつがあるからさ。


 あぁ、そうだよ。

 オレも体験した。


 聞きたい?

 やめておいた方がいい。


 いや、話したくない訳じゃない。

 でもさ、ほら、聞いたことないか?

 話すは離すって言うだろ?


 意味がわからないって?

 わからないなら、分からないでいいと思う。


 ……わかった、わかったよ。

 その代わり、何が起きても知らないからな。

 そして、仮になにか起きたとしたら、それはお前の自業自得だ。

 オレは、ちゃんと話したくないって拒否ったからな。

 これ、忘れるなよ。



 あれは、そう、免許を取ったばかりの、ペーペードライバーだった頃のことだ。

 親から金を出してもらって、中古の国産の軽自動車を手に入れたオレは高校時代の仲間とドライブに出かけたんだ。

 行先は、地元で有名な心霊スポット。

 とある森の中に立つ一軒家。

 白い家だから、ホワイトハウス、なんて呼ばれてる。

 そうそう、どっかの県にもあるらしいな、同じ名前の心霊スポット。

 よくは知らんが。


 んで、えーと、何だっけ?


 あ、そうそうドライブなドライブ。

 心霊スポットへのドライブ。

 俺と友達三人。計四人でさ、行ったんだよ。

 ホワイトハウスに。

 まぁ、ただの民家だった。

 民家に見えたよ。

 どんな曰くがあるのかって?

 いろんなウワサがあったよ。

 カルト教団のメンバーの家で、悪魔を呼び出した挙句、その場にいた全員が、その悪魔に食われたとか。

 不景気で精神を病んだ父親が、奥さんと子供を鉈で惨殺したとか。

 一番ふつうな、というかリアルにありそうだなって思ったのが、株だが投資だかで失敗した家の主が首を吊ったってやつだったな。

 ま、そんな曰く付きの家だった。

 つーても、田舎の林の中にある一軒家でさ、すぐ側には道路が普通に走ってるわけ。

 まぁ、交通量は皆無だったけど。

 近所にも距離を開けて家が何軒か建ってた。

 けど、少子高齢化の影響からか無人のとこばっかりだったな。

 件のホワイトハウスも、他の空き家もそうなんだが柵で覆われてて、中に入ることが出来なかった。

 だから、路肩駐車して見るだけだったんだ。


 つーても、ドライブだったからさエンジン止めて、車から降りて軽く背を伸ばしたりしてた。

 そしたら、仲間の誰かが言ったんだ。


「窓に人影が見える」


 って。

 そこから、なんつーのかな。

 こう、空気が変わった。

 オレと他の二人、顔を引きつらせて、いやいやまさかぁみたいな反応したんさ。

 空気が悪くなるってんじゃなくて。

 変わる。

 うまく言えないけど、そんな感じになっちゃったから、誰ともなしに言ったんさ。


「おい、もう帰ろうぜ」


 ってさ。

 満場一致。

 誰も反対する奴はいなかった。

 ほら、怖い話とかホラー映画なんかで、もう少しいいじゃんとかいって余計なことしてイラつかせるキャラいるじゃん?

 もちろんアレは話を盛り上げるための演出だからさ。

 現実はそうじゃない。

 俺達四人、全員が全員ビビってたんだ。

 こう、動物の本能的なやつが働いたんだろうな。

 知ってるか?

 長生きして子孫を増やす、または文明を発展させたり進化するコツは臆病であることらしい。

 勇敢なやつってのは早死にするし、もちろん子孫も残せない。

 だから、馬鹿にされがちな臆病の性質ってのは生き残るためには必要不可欠なものらしいんだ。

 俺達全員に、これが働いたってわけ。

 で、車に乗り込んで帰ろうとした。

 さっきも話したが、俺の車は中古車だ。

 まぁ、たとえ新車だったとしてもグレードはそんなに高くない車だから、スイッチひとつでエンジンがかかるやつじゃなかった。

 車のキーを差し込んでまわして、エンジンをかけるタイプな。

 そう、エンジンを掛けようしたんだけど、かからなかった。

 バッテリーがあがったわけでもない。

 原因不明。

 俺がエンジンをかけようと焦っていると、それに気づいた仲間の一人が声を掛けてきた。


「どうした?」


「エンジンが、掛からない」


 正直に言った俺は馬鹿だったね。

 空気がおかしかった。

 そこに俺の言葉と、車が動かせないって事実が恐慌状態へ導いてしまったんだ。

 横文字でいうところのパニックってやつだな。


「え、うそだろ?」


「おいおい、悪い冗談はよせよ」


 なんて二人が言ってくる。

 俺はそれでもキーを回し続けた。

 そしたら、残りの一人が叫ぶように言った。


「早く!!」


 同時に、エンジンがかかった。

 これで車が出せる。

 俺はバックミラー越しに後部座席の、叫んだ仲間をみた。

 シートベルトしろよ、とか。

 ビビりすぎ、とか。

 そんな軽口を叩こうとしたんだ。

 でも、出来なかった。

 目がさ、あったんだ。

 あ、いや悪い。

 話が前後した。

 バックミラーには、後部座席のさらに後ろのガラスが映ってた。

 うん、車を運転するやつにはすぐ想像できるよな。

 それこそバックを確認するためにあるものだし。

 そこにさ、いたんだよ。

 黒い長髪で白のワンピを着た女が、ベタっと後部のガラスに張り付いて俺達を凝視してた。

 その女とバックミラー越しに目があったんだ。

 俺は、ギアをドライブに切り替えてアクセルを思いっきり踏み込んだ。

 パニックになってた。

 もちろん、張り付いてたのが生きてる人間だったなら、それはそれでヤバかっただろうな。

 そうして逃げ帰って、ファミレスに寄って仲間達と飲み食いして馬鹿な話をして、その日起きたことを忘れるようにしたんさ。

 まぁ、ファミレスでもしばらくは、各々が見たモノのすり合わせみたいなのをやったんだけど。

 叫んだヤツ曰く、運転席のすぐ横に俺が見た女と同じように今度は目がくぼんだ爺さんが立ってたらしい。

 まるで車のドアを開けようと、ガチャガチャとしてたとか。

 それ聞いて肝が冷えたね。

 俺には見えてなかったけど。

 いや、見えてなくてよかったんだけど。

 でもさー、これだけで終わらなかったんだ。

 うん、その後、帰宅したあとにも、色々あったんだよ。

 当時は、実家暮らしだったから、仲間たちを送り届けて、家に帰った。

 んで、うちの実家も田舎だから、土地だけはあんのね。

 車四台が停められる車庫がうちにはあって、その中の一つを俺用として使ってた。

 そこに車を頭から入れて停めて、ライトを消す。

 そうすると、時間も遅かったし、車庫のシャッターの方から街頭の明かりが差し込んでくるんだ。

 当時はLEDになったばかりでさ、めっちゃ明るかったんだ。

 その明るさをバックミラーでなんとなく見たんだよ。

 そしたら、今度は腕が張り付いてたの。

 車の屋根に、人が寝っ転がってだらっと手を垂らしてるみたいなそんな感じで。

 片腕だった。

 人間って不思議でさ、ここで俺になんか変なバイアスがかかったんだよね。

 遊んで疲れたのかなって。

 うん、心霊スポットに行った帰りだったから、もしかしたらって考えるほうが自然だろ?

 でも、そうじゃなかった。

 見間違い、って思っちゃったんだよね。

 そうこうしてるうちに、腕はするすると滑らかな動きで屋根のほうに引っ込んだ。

 恐る恐る、俺は車を出て屋根を確認したけどもちろんなんも無かった。

 勇気があるって??

 違う違う、そんなんじゃなくて、生存バイアス的なのが掛かってたんだよ。

 まさかって言うのと、自分は大丈夫的なあれだよ。

 だから、確認できた。

 で、その日は疲れてたしすぐに風呂入って寝ようとしたんさ。

 家族はみんな入ったあとで、あとは俺だけだった。

 風呂入ろうと脱衣所で服を脱ごうとしたら、うちの脱衣所にはすりガラスの窓があるんだけど、その向こうは庭や畑が広がってる。

 そこにさ、白いワンピースの、言い方は変だけど影が浮かび上がってた。

 そう、あの女が立ってたんさ。

 俺は目つむって頭をふってもう一度窓を見た。

 何も立ってなかった。

 そこからもうビクビクでさぁ。

 恐々シャワー浴びて、湯船につかって。

 もう頭洗ってるときがなんだかんだ一番びくついてたね。

 ほら、真っ裸でさらに視界も制限されるだろ?

 だから、一番無防備なんだよ。

 それでも、温かいお湯に触れたからか、だいぶ落着いてさ、ふぅって息を吐き出した時に、今度は天井にあの腕が張り付いてた。

 思わず視線を今度は湯船に落とした。

 落ち着け落ち着け、疲れてるんだって自分に言い聞かせた。

 深呼吸して、ふとお湯の水面が視界に入った。

 そこってさ、自分の顔が映るじゃん?

 違った、あの女が映ってた。

 ゆらゆらと水面が揺れて、その女が笑ったように見えて、そこで俺情けないことに気絶しちゃって。

 長風呂なのを怪しんだ家族に発見されて事なきを得たんだ。

 で、そんなことが毎日毎日続くもんだから、親に金出してもらってお祓い行ってきた。

 でも、駄目だった。

 もう疲れちゃったてさ、ある日、こういう怖い話が好きな奴、そうお前みたいなやつがさ、どこから聞きつけたのか、俺が仲間とドライブで心霊スポットに行ったって事を知って話を聞きにきた。

 話したよ。

 気晴らしになるかなって思って、そしたら、少しだけ怪奇現象がおさまったんだ。

 もしかして、って思って、雑談の時に手あたり次第いろんなやつに話しまくった。

 定番ネタってやつだな。

 そう、怪奇現象が少しずつ起こらなくなっていったんだ。

 でもさ、これで終わり、とはならなかった。

 言っただろ?


 話すは離すことだって。

 俺が体験した怪異は話すことで俺から離れたわけだ。

 じゃあ、離れたあとどうなったと思う?

 そう、話した相手に感染しちゃったんだよ。

 最初に話を聞きにきたやつは、この話を聞いて数日後に失踪したらしい。

 他の奴らも、多かれ少なかれ、怪我をしたり不可解な事故死をしたり、それこそ最初のやつのように失踪したやつもいたな。


 おいおいキレるなよ。

 俺は最初に忠告したからな。

 これから何が起こっても、それはお前の自業自得だから。

 犠牲者が出始めたってわかってからは、この話をすることはほとんど無くなってたんだ。

 それを無理やり話させたのは、お前だ。


 心霊スポットに気軽に行くのもだけど、無理やりこう言った話を聞き出すのもよくないんだよ。


 昔から言うだろ?

 好奇心は猫を殺すって。

 そういうことだ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 話の内容が割とよくありそうな話でリアリティがありました。呪われちまったじゃねぇか。 [気になる点] 面白かったです。 [一言] のろわれちまった。
[良い点] 怪異って拡散しますからね。 聞いた話がメチャクチャ怖くて自分じゃなくてよかったと思ったら、今度は自分に怪異が移って…っていう二段構え。むやみに怖い話な聞くべきじゃないですね。 [気になる点…
[一言] 気軽に心霊スポットに行って、お酒とおにぎり鳥居をお供えすると、すごい勢いで何かが移動する気配がする時があります
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