お話合い3
突然現れたのは我が家の自由人、リンネットだ。
「えーっと、何しに行くの?」
この場にいる誰もがそう思っているはずだが、誰も突っ込まないので代表して母である私が聞いてみた。
「シンティアさんが行くんだよ!ボクが行かないわけないじゃん!」
「意味が解らない。シンティアさんはお仕事で行くんでしょ?リンちゃんが行く必要ある?」
「あるに決まってんじゃん。シンティアさんとボクはワンセットなんだから!」
――うーん、これは話すだけ無駄なパターンだね。ああ言えばこう言う。ホント我が子ながらめんどくさいわぁ。
「ストーカーかよ。」
私はエレインの呟きに心の中で同意するが、リンネットはこちらにも反応した。
「いつもウォルフさんにくっついてる人に言われたくないでーす。」
「師匠と一緒にいるのは学ぶことが多いからだよ。」
「はいはい、もういい。うるさい。」
終わりのない言い争いは聞いている方が疲れるから、さっさと打ち切るのが我が家の日常だ。
シンティアが参加するというなら、マルセロに聞く方が早い。リンネットがついて行っても仕事の邪魔にならないなら行くこと自体は問題ないと思う。ただ、文句を言わずに歩けるかは怪しいところだけれど。
「一応マルセロさんに聞いてみて、了承が得られたら連れて行きます。我儘を言ったら強制転移で帰ることになるからね。」
「うん、大丈夫。シンティアさんいるから。」
――何がどう大丈夫なのか全然解らないんですけど……。
了承を得てからと言ったのに既に行く気満々なリンネットは子供たちのおやつに作っているフルーツたっぷりクレープを両手に持って厨房から出ていった。
「一人増えちゃいましたね。でも四人なら準備もそれほど大変じゃなさそうですね。なんなら毎日のご飯を多めに作ってアイテムボックスに入れておけば遠征中の生活がグンと楽になると思いませんか?」
私はいいことを思いついたと、リゼルダに提案してみる。そこへウォルフが申し訳なさそうに割って入った。
「あー、悪いが俺とクラウスとトーマも人数に入れてもらえないか。」
「えー?またですか。騎士団人数多くて大変なんですから今回は自分たちでお願いします。あっ、エレインもそちらに加えていいですよ。戦力にはなりませんけど。」
今回給食のおばちゃんは回避したいので、最初にきっぱりお断りする。それに食べるばかりで戦力外のエレインも女の子なのだからそろそろ煮炊きを覚えてもいいと思う。
――いつまでも母が一緒に行動するわけではないのだから、ここは心を鬼にしてウォルフさんに託すよ。
まぁ、世間一般では丸投げと言うのだが、経験を積ませるのも母の愛だと思ってほしい。あとでマルセロにリンネットの同行を確認する際に魔道師団にもくぎを刺しておかなければならないと、心のメモ帳にしっかり書き込んでおく。
「いや、今回騎士団は遠征に参加しないんだ。だからリオーネの護衛として俺らは行くつもりだ。それにエレインが戦力外なのは知っている。」
ウォルフはエレインが何もしないことを既に知っていた。それよりも予想外の返事が返ってきたことに私は驚く。
「えっ?リュシアン陛下とアデライド王妃も行くんですよね?それなのに騎士団は行かないんですか?」
私はいまいち状況が理解できず、頭の中が?でいっぱいになった。
「陛下たちがいるから今回の護衛は近衛騎士団が受け持つんだ。だから騎士団は陛下たちがいない間,、王都の守りを担当する。」
――ほうほう、それならトラヴィスさんにもくぎを刺しに行かないといけないわけですね。
ウォルフの言葉に納得して、『近衛騎士団給食お断り』と心のメモ張に追加で書き込んだ。
結局今回の遠征は七人参加となった。往復で四か月かかるのは確定として、現地でどのぐらい過ごすのかははっきりしていない。
「長期の遠征ではどのくらいの荷物をどうやって運ぶんですか?」
前回は同じグレンドーラの森でも商人たちが使っている道に沿って移動していたため荷車が使えた。だが今回はグレンドーラの森の中心へ向かって進むのだ。道と呼べるものがあるのかすらわからない。
まあ、私たちにはアイテムボックスがあるから何年分の食糧でも持って行ける。心配ご無用と言いたいところだが、余裕を見せると助けを求められて結局一番苦労する羽目になるのはこの世界に来て学んだことだ。
「長期の遠征ともなれば食糧は干し物が多いな。鮮度を保つ魔術もあるが魔力消費が大きいんだ。途中で魔獣を狩るのはもちろん、水は現地で探して浄化して使う。そのため魔道師団と聖女も同行する。」
――ちょっと待って!今とんでもないことをサラッと言いましたね。
「今回の遠征は陛下組とは完全別行動で向かいます。」
私の突然の宣言に皆が固まっている。
「一緒に行くのはダメなのか?」
「ダメに決まってます。お城の専属聖女ってあれでしょう?……はぁ、一緒に行動したら目的地に着く前に埋めちゃいますよ。あっ、大丈夫です。事故に見せかけるぐらいの労力は惜しみません。それに魔道師団は基本楽することしか考えてないじゃないですか。誰とは言いませんが上層部にお二人ほど。」
私が言葉の最後ににっこり笑うとクラウスは「ああ、そうか。」と言い頷いた。
「別行動はかまわないけど、許可が出るのかい?」
「問題はそこなんですよね。何かいい理由ないですか?」
リュシアン陛下の許可を求めているわけではない。トラヴィスの首を縦に振らせる言い訳が思いつかないのだ、誰でもいいから何か、さぁ、早く。
誰も良い案が浮かばず時間が流れていく。いつしかクレープ作りも終わり、アリシアが子供たちのおやつを取りに来た。
「皆さんいつもありがとうございます。そういえば最近子どもたちの間で今日のおやつを当てるというゲームが流行ってるんですよ。でも今日はお肉の焼ける匂いから予想していたんで残念ながら正解者はいませんね。」
アリシアは会う度に子供たちの様子を教えてくれる。よく見ていてくれるのがわかるし、それと同時に我が子の豪快なエピソードを聞くと申し訳なさから手を合わせて拝みたくなる。笑顔で対応できるところが正に聖女にふさわしいと思う。
――シノさんとアリシアって本当にすごいわ。私なら毎日雷を落としてるに違いない。
まぁ、私の雑な育児と比較してもしょうがない。シノやアリシア、レニーもいるから子供たちの成長にはなんの心配もない。そんなことを考えていると、ゾーイが入り口からピョコンと顔をのぞかせた。
「トラヴィスさんがいらっしゃるようですよ。」
――何しに?……まあ、給食お断りの件もあるし、今なら心強いメンバー揃ってるから大丈夫かな……。大丈夫かなぁ?
一対一では無理でも大勢でなら立ち向かえる気がする。私は『給食お断り』と何度も心の中で唱えながらふと気づく。トラヴィスに伝えるべきことは給食お断りではなくて完全別行動だった。
自分の間違いに気づいて、ため息と共に戦意も消失してしまった。




