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母は異世界でも強し  作者: 神代 澪
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薬草取りとロッタトールの目覚め

 


 エレインが頑張ってくれているようで、折り重なるように倒れていた木々は姿を消していた。

 薬草が採りやすくなったので、私は倒木の回収を止め、薬草採取に集中することにしたが、そこら中に薬草が生えているのにお目当ての物はなかなか見つからない。


 ――鑑定で簡単に見つかると思ってたのになぁ。名前だけじゃなくもうちょっと詳しく聞いておけばよかった。うん、個別に鑑定してみよ。


「鑑定、ゾウタン草。」


 そう唱えて周囲を見渡すが矢印は一つも見当たらない。マルセロもレア種だと言っていたし、これは難易度が高そうだ。


「マルセロさーん、この辺りにゾウタン草はありませんよ。」


 私が少し離れた所にいるマルセロに向かって声をかけると、笑顔のマルセロが答えた。


「ゾウタン草は水辺に生える物ですから。」


 ――それを先に言ってよ。じゃあ、次はカルコ草だね。


 ゾウタン草を解除して、カルコ草に限定して再び鑑定すると、ちらほらと矢印が現れた。私が矢印に近付いて行くと、不意に矢印が視界から消えた。


 ――えっ、なんで?


 私は矢印が見えた場所にしゃがみこんで、辺りに目を凝らす。そして生い茂った草の根本に矢印を見つけた。

 カルコ草は上に伸びるタイプの草ではなく、地面に這うように広がる草だった。そして小さな葉の間にはゴマ粒くらいの更に小さな白い実がついていた。


 カルコ草そのものを鑑定した結果、葉は乾燥させてから煮出すと殺菌作用があり、実は磨り潰して虫除けに使うことがわかった。これは重宝する。需要があるのも納得の薬草だ。

 最後はスベニエ草だが、これもカルコ草と同じく数は多くなかった。一番近い矢印に近付いてみると、土の上に小指の爪ほどの大きさの黄色に近い緑色をした葉っぱがちょこんと出ている。

 摘めるような大きさではないので葉っぱの下を掘り起こすと、土の下にはピンポン玉程の球根らしき物があった。

 鑑定すると、この球根に見えるものが実で、実の下にはクラゲの口腕ような根っこがあった。

 スベニエ草の実からは良質なオイルが取れるとわかって俄然やる気が出てきた私は、矢印の下を掘りまくった。


 周囲の矢印を堀尽くした頃、再び地響きを感じ、ウルフたちと昼食を食べた場所まで急いで戻った。


「目が覚めたんですね?」

「ええ、立ち上がりましたが、暴れてはいません。」


 私は助さんに乗り、ロッタトールの正面へ向かった。自分の足で歩いたら小一時間はかかりそうな距離だが、途中私たちに気づいたロッタトールがゆっくりと回転したので半分ほど進んだところで正面から向き合う形になった。

 私は助さんから降りると転移陣でユーリスとマルセロを転移させる。ユーリスはロッタトールを前に、普段通りに見えても右手は剣の柄を握っていた。マルセロに至っては本当に普段通り好奇心が全身から溢れ出しそうだった。

 ロッタトールが頭を地面スレスレまで下げて私を見ている。防衛の魔術は維持しているので攻撃を受けることはないと解っていても、改めてその大きさに圧倒された。


 ――はぁ、大きいね。でも可愛い。


 私は自分のステータス画面を出して従属契約が成立していることを確認し、防衛の魔術を解いた。


「今日からあなたもうちの家族よ。よろしくね。」


 そう言って笑いかけると、ロッタトールの右側の頭が「ちっちゃい家族、よろしく。」と言い、左側の頭が「またオレたちを閉じ込めるのか?」と聞いてきた。


「ええっ!しゃべれるの?」


 魔獣は言葉を話さないと聞いていたので、突然言葉を発したことに驚いた。だが更に驚いたのは他の皆の発言だった。


「これはしゃべるというより鳴く?ではないですか。」

「吠えるじゃないか?」

「どのみち何を言っているかはわからないですからね。」


 ――えっ、皆はわかってないの?ということは異世界翻訳が働いているってことよね?


「オレたち腹減ってんだけど、食べる物持ってる?」

「食べ物探しに行けない。オレたち餓死する。」


 ロッタトールは交互にしゃべるのだが、右と左で印象がずいぶん違う。

 右は陽気な感じで左は陰気な感じだ。炎と冷気を吐き出すのも性格に関係しているのか?それとも陰と陽で一体なのでこれはこれでバランスが取れているのか?

 まあ、不思議生物は魔獣だけではなく、人も物も不思議だらけなので、こんなものかと受け入れるのにも慣れてきた。

 ロッタトールは封印を解かれ食料を求めて移動していたようだが、この巨体で一度にどのぐらいの量を食べるのだろうか。もしかしたら数日で世界を食べ尽くすなんてこともあり得る。


「何が食べたいの?お肉ならたくさん持ってるんだけど。」

「アシワラが食べたい。湖に生えてる。」


 生えてるということはおそらく植物だろう。でもロッタトールが移動すると被害が大きい。


「ねえ、私たちがアシワラを採って来るからここで待っててくれないかしら?」

「お腹いっぱい食べられるなら待ってる。」

「待ってる間に餓死するかもしれない。」


 湖の場所はウルフたちが知っていると言ったので、移動するためにエレインたちを呼び戻した。

 異世界翻訳が機能しているのか確かめるためにエレインにも話しかけてもらったが、エレインはわからないと言った。


「のう、リオーネ。今まで狩った魔獣の言葉がわからなかったのであれば、従属契約が関係しておるんではないかのぅ。」

「さすがオスロ!間違いないないね。」


 オスロの意見に誰よりも早くエレインが答える。そして皆が納得の表情を浮かべていた。


「それならエレインさんも従属契約を結んで検証してみる必要がありますね。」


 マルセロが紙束から視線だけを上げエレインに向かって言葉を放った。


「魔獣かぁ。オスロと一緒に乗れるタイプがいいかなぁ。あっ、でも美味しいヤツだとその後食べられなくなりそうだから、不味いヤツかちっこくて可愛いヤツがいいね。」


 選ぶ基準が解りやすい。オスロはエレインの要望を聞き、魔獣の名前を一つ挙げた。


「それならポックフィートがいいじゃろう。」

「それってどんな魔獣?」

「細長い魔獣じゃ。動きは素早く地に潜ることも木に登ることも得意じゃ。」


 ――うーん、能力はなんとなくわかったけど、細長いって何?オスロだって細長いじゃん。魔獣にも蛇がいるってこと?


「じゃあ、探しに行こう!」

「俺も探す!隊長、どっちが先に見つけるか競争しよう。」

「オッケー。しゅっぱーつ。」


 エレインとトーマがヤル気になっているのはわかるが、いったいどこに探しに行く気だろうか。


「エレイン、お主どこを探す気じゃ?魔獣にも生息地があり、縄張りもあるのじゃ。闇雲に走り回るのは時間と体力の無駄じゃ。」


 大人たちの総意を代弁してくれたオスロの言葉に皆が一様に頷いた。


「細長いのどこに住んでるの?」

「ポックフィートじゃ。名前ぐらい覚えんか。」

「ほーい、で、どこにいるの?」


 相変わらずのやり取りにため息が出る。それと同時にオスロの気の長さに尊敬の念を抱く。


「ポックフィートは水辺に生息する魔獣じゃ。これから皆で湖に行くならちょうど良かろう。」

「ほんじゃぁ、しゅっぱーつ。」


 佐平次に乗って今にも駆け出しそうなエレインに待ったをかけ、私は湖に着いたら転移陣を敷くように頼んだ。



 私はエレインを見送って再びロッタトールに向き合う。


「これから湖まで行ってくるけど、もしも私たち以外の者が来て、万が一攻撃されたらやり返してもいいからね。」


 これはあくまでも念のためだ。ロッタトールの封印を解いた者がどこにいるかわからない以上警戒はしておいた方がいいと思ったのだ。


「わかった。主たち以外。やられたらやり返す。」

「その前に腹が減って死にそうだ。」


 ――ホント、これだけ考え方が違うのによくおんなじ身体で生きてられるよね。他のロッタトールもこうなのかしら?


 ロッタトールと話せるのは私だけなので、マルセロがいちいちなんと言っているのか聞いてくるのがちょっと鬱陶しい。だが一旦テンションが上がると落ち着くまで時間がかかるのはわかっている。


「主、転移だ。」


 格さんの呼びかけに助かったと胸を撫で下ろし、私たちは転移陣に乗った。

 視界が変わって目の前に現れたのは対岸が微かに見える程大きな湖だった。


 ――グレンドーラの森は全てが大きいのね。大型の魔獣サイズなのかしら?


 近付いて見ると水は透き通っていてとてもキレイだった。だが、ロッタトールの食料になりそうな草は見当たらない。


「アシワラってどこにあるんでしょう?」

「鑑定で探せばいいんじゃないか?」

「それもそうですね。」


 私の呟きにクラウスが答えると、オスロが「アシワラは湖の中じゃ。」と教えてくれた。


「中ってことは潜るんですか?」

「それ以外に方法はないじゃろう。」

「えー、水に入るのはイヤなので他の方法を考えます。」


 水着もないし、まあ、あっても着られないと思うが、このまま水に入っても動けそうにない。

 とにかく湖の形状を把握して、なんとか水に入らずアシワラを集めたいところだ。

 私は先に湖を鑑定する。すると目の前の画面に湖の全体図と断面図が現れた。


 ――これって……。寸胴鍋?


 湖は遠浅だと思っていたが、急激に深くなっている。そして湖の底だと思っていた暗い陰がアシワラだった。


「アシワラは湖の底にビッシリ生えておるわぃ。さてどうやって集めるつもりじゃ?」

「うーん、水を抜く?」

「水に生きるものたちを殺す気か?」

「確かに、それはダメですよね。じゃあ、アシワラに手が届く所まで減らして、アシワラを引っこ抜いていく。」

「アシワラは根さえあれば再び成長するのじゃ。根ごと取るのは良い案ではないのぅ。」


 何故か私とオスロの問答になっている。オスロの下でエレインが「早く細長いの探しに行こうよー。」と言うが、オスロは聞き流している。まるで主従が逆のようだ。


 私はオスロの言葉を頭の中で何度も繰り返す。水を抜くのはダメ。アシワラは根を残さなければならない。

 水を抜かずにアシワラの根を残して切るにはどうすればいいのか。濡れずに水の中に入る方法を考えていたが、そのとき脳裏にロッタトールが移動した跡が思い浮かんだ。背の高い木々の間にできた大きな道……。


 ――そーだ。十戒だ。モーセだ。


 私はパッと顔を上げオスロに告げた。


「モーセの十戒!」


 私の出した答えにオスロの頭がちょこっと傾いた。


「リオーネ、それはなんじゃ?」

「ああ、えーっと、海を割って歩いた人かな?」

「元いた世界に魔法はないと言っておったじゃろう?」

「そうなのよね。まあ私もよくわからないんだけど、必要なのはイメージだから。」


 実際言葉としては知っているが、モーセがどんな人なのか、海を割って何をしたのかは知らない。ただ、湖の水を寄せることができたら濡れずにアシワラを集めることができるはずだ。


「とにかく水を寄せることができるかやってみましょう。」


 そう言って私は水面に手をかざして水属性の魔力を放出し、磁石が反発するようなイメージで水の中に手を突っ込んだ。するとイメージ通り水面がへこみ、私の手から一定の距離を保っていて、かき混ぜるように動かしても濡れることはなかった。

 そのまま魔力を放出していくと水との距離が広がっていく。


 ――なんかモーセとは全然違うけど、これはこれでアリだね。


 足元から五メートルぐらいの水が寄せられ、ポッカリと空いた空間を見下ろすと、その高さに身震いがした。

 水面だと覗き込んでも平気だが、水がないと崖っぷちに立つのと一緒だ。


「こんなに深いとは思いませんでした。どうやって降りましょうか?」

「主、我らに乗ればすぐだ。」

「いやいや、それって飛び降りと一緒だから!ゴム無しバンジーお断り。」


 ウルフたちは簡単に降りられるかもしれないが、こっちは目一杯食べた昼食がまだお腹に残っているのだ。リバース確定に決まっている。

 私が必死で急降下を回避しようと頭をフル回転させていると、エレインが私の顔を覗き込んでボソッと呟いた。


「ボス、手伝ったら細長いの探すのも手伝ってくれる?」

「もちろん!任せて!」


 ――渡りに船ってこのことね。さすが露ちゃん、頼りになるわぁ。


 エレインからの申し出に、急に目の前が明るく輝いて見えた……気がした。


「下に降りたら転移陣敷くから、降りてくるでしょ?」

「転移する瞬間に水が戻ったらどうすんの?」

「それは困る。」


 という訳でエレインとウォルフとクラウスが下に降りることになった。

 ウルフたちで通信しながらアシワラを集めてもらう。その間私がすることは水を寄せていくだけなので、少々暇ではある。

 そしてユーリスも暇をもて余しているようでようで、ごそごそと何かを作り始め、トーマがそれを食い入るように見ている。


「ユーリスさん、何を作ってるんですか?」

「ああ、これはポックフィートを捕まえるためのカゴです。ポックフィートは地中に穴を掘って巣を作ります。巣穴の出入り口はだいたい四つぐらいあるんですが、そこにこのカゴを置いて煙玉を巣穴に入れると、煙に驚いて出てくるんです。普段外に出るときはかなり警戒していますが、慌てて出てくるので簡単にカゴに入りますよ。」

「ずいぶん詳しいんですね。」

「ええ、子どもの頃狩の練習によく捕まえていましたから。」


 ユーリスもレニーと一緒で、小さいときから男らしさを求められ、剣術や狩の練習をしていたそうだ。

 ただ、レニーと違うのはユーリスはより強く、より女らしくを求めたところだろう。

 初めて会ったときは気づかなかった。いや、教えてもらわなければ今も気づいていたかどうか。

 外見はもちろん話し方も所作もとてもキレイで、ドレスを作って着飾りたい欲望が湧いてくる。


 ――今回の遠征でお知り合いになれたし、これからが楽しみだわ。


 私があれこれ思い描いているうちにアシワラも採集できたようで、エレインたちが戻ってきた。


「ただいまー。アシワラってすっごい長いんだよ!深さの三分の二ぐらいあんの。」


 エレインが湖の底の様子を話せば、トーマはユーリスとポックフィートを捕まえるためのカゴを作ったことを話す。

 二人はいつも張り合っているが、何をするにも楽しそうでとても仲がいい。まあ、ウォルフの苦労は倍増していそうだが、そこは私の領分ではない。


 エレインが急かすので、水を戻して次はポックフィートの捕獲に取りかかる。

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