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母は異世界でも強し  作者: 神代 澪
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ちゃぶ台会議とそれぞれの過去

 


 夕食後、指揮者会議のために小屋に集まったのは、騎士団長のユーリス。魔導師団のマルセロ。冒険者ギルド長のクラウス。ウォルフ。レニー。私の六人だ。

 小屋に入るなりレニーのテンションが跳ね上がった。


「やだ。ステキじゃない。いつの間に作ったの?」

「前に見たときとずいぶん違うな。」

「これはまた、すごいですね。」


 レニーとクラウスとユーリスがそれぞれ呟きながら小屋の中を見回していた。ウォルフはエレインと一緒に手伝ってくれたので「いい出来だろう?」と頷いている。

 皆が使うテーブルを作ったあと、かなり木材が残っていたので、小屋でお茶が飲めるように丸いローテーブルを作り、残りを床と壁に貼ったのだ。

 レンガだけのときと違って暖かみがあるし、ちびちゃんズが転げ回ってもキレイなものだ。

 マルセロは目を瞬かせていたが、私に向かってニッコリ微笑んだ。


「私の部屋も作ってください。」

「面倒なのでお断りします。」


 マルセロは初めての遠征で寝袋に慣れず苦労しているらしい。寝袋というよりも外のしかも地べたで寝ることに抵抗があるようだ。


「テーブルを作ったあと木材が余ってたんで床と壁に貼ってみました。落ち着くでしょ?あっ、土禁ですから靴は脱いでくださいね。」

「いいわね。この丸テーブルも気に入ったわ。」


 レニーは小屋の中央にドンと置かれたテーブルを触って言った。


――寒くなったらこたつも欲しいね。


「どうぞ、皆さん座ってください。」


 私が促すと皆がテーブルを囲んで座っていく。そんな中ウォルフだけは入り口にポツンと立っていた。


「俺も参加するのか?」


 ウォルフが不思議そうな顔で尋ねるが間違いではない。

 エレインはウォルフの言うことなら素直に従うが、他の人では気分次第で動くかどうかわからないのだ。


「エレインの指揮はウォルフさん以外には無理でしょう?暴走を抑える役割もありますけどね。」


 ウォルフは「そういうことか。」と言って空いている所に座った。

 私は連携することの重要性や明日から狩に出ることなどを皆に説明した。


「そういうわけで皆さんには私がいないものとして、調査をしていただきたいんです。」

「騎士団と魔導師団で話し合いは必要だが、リオーネが抜けても特に問題はないだろう。」


 クラウスとユーリスはお互いを見て頷きあった。


「問題大有りです。転移陣を動かすだけの魔力がどこにあるんですか?」

「それに関しては、朝と夕方に私が起動します。狩に行くと言っても、ここを拠点にすることは変わりませんから。」


 それでもアイテムボックスや鑑定を理由に調査への同行を求めてくるマルセロに私は一歩も引かない。


「私がいなくてもできるようになってもらわないと困ります。同行するのは今回限りですよ?」

「それは何故ですか?」

「帰ったら工房のことで忙しくなりますからね。元々私はリンちゃんの付き添いでしかないですし。」


 騎士団は普段から訓練しているが、魔導師団は王都から出ること事態が初めてなので最初に楽することを覚えたら今後が不安だ。


「リオーネ。俺はどうすりゃいいんだ?」

「ウォルフさんはエレイン次第ですね。当然エレインが行くところにトーマが行くことになります。」

「聞かなくても狩に行くに決まってるわよ。あの子は楽しいが最優先だもの。子守りは一人でやることになりそうね。」


――エレインが子守り要員だってすっかり忘れてたよ。でも連れて行かないとあとが面倒だよね。きっと。


「エレインは連れて行きましょう。拗ねるとウォルフさんが大変でしょうから。そういうことでウォルフさんも狩に同行してもらいますね。」

「ああ、わかった。」


 ウォルフの口元がゆるんでいる。エレインとトーマの子守りでも狩にいく方がいいのだろう。


「俺も狩の方がいい。」


 隣に座っているクラウスが真剣な顔で遊びに行きたいと言っている。

 

「クラウスさんはギルド長のお仕事があるんじゃないですか?」

「俺は今回ただの騎士団員だ。統率はユーリスに任せれば問題ない。」


 騎士団をユーリスに丸投げして狩に行こうとするクラウスに向かって、正面に座ったユーリスがビシッと指さした。


「お前というヤツは面倒なことは何でも私に押し付けやがって。自分だけ楽しむのは許さん。」


 ユーリスの言い分を聞いていると、二人は古い付き合いのようだ。溜まっていたものを吐き出すようにクラウスへの不満が次から次へと出てくる。

 そして何故か矛先がレニーに向かった。


「同じ境遇のお前が冒険者ギルドでランクを上げていくのを嬉しく思っていたんだ。騎士団に所属すると思って期待していたのに突然逃げ出すなんて。見損なったぞ。」

「あら、あたしは逃げ出してなんかいないわ。天職に出会っちゃったのよ。」


 ユーリスとレニーもお互いを知っているようだ。私だけが話しについていけてない……。いや、マルセロは我関せずで、ぶつぶつと呟きながら思考の海に浸かっていた。


「どなたかわかるように説明してください。」


 私の質問にはクラウスが答えてくれた。

 

「俺とユーリスは従兄弟同士だ。」

「では、ユーリスさんも獣人族なんですか?」

「いや、母方の従兄弟だからユーリスはヒューマンだ。」


 そしてユーリスの不満を聞いているうちにわかったことは、本来冒険者ギルド長と騎士団長は兼任するものだが、騎士団長は近衛騎士団と交流が多く、城に行くことも多い。それを嫌がったクラウスの代わりにユーリスが騎士団長を引き受けたということ。

 近衛騎士団長がトラヴィスなのは私も知っている。従兄弟ならば問題ないと思うが、クラウスとトラヴィスは異母兄弟なので、ユーリスは自分にとっては他人だと言う。その上あの小言が嫌であまり会いたくないと言った。


――それ、わかるー。


「それで、ユーリスさんとレニーは冒険者時代のお知り合いなんですね。」

「知り会いという程のものでもないわ。ただ同類だってだけよ。」


――うん?同類?


「えっ!ってことはユーリスさんは男性だってことですか?」


 私が驚いていると、皆は私が気づいていないことに驚いていた。

 ユーリスは髪も長いし、うっすら化粧もしているのだ。それにあまり話しもしていないのだから気づかなくてもおかしくないではないか。


「リオーネは人に対して関心が無さすぎるのよ。私を見た騎士団たちが話しているのも耳に入っていないでしょう?」


 確かに噂話とか全く興味がないが、相変わらずレニーは私のことをよく理解している。この細やかさが気配り上手の秘訣なんだろうなぁと思いながらも、私には無理だと早々に思考を放棄した。


「ユーリスさんについては大体わかりました。敵認定も出なかったことですし、話しを変えても大丈夫ですか?クラウスさんが狩に行くかどうかは後でユーリスさんと相談してくださいね。」


 私とレニーがお茶を入れ直し、お菓子を出している間もユーリスとクラウスは行くの行かせないのと言い合っている。


――後でって言ったのに……。


「では未完成の獣人族を集めることについてですが、これは他言無用でお願いします。それと私は未完成だと思っていないので今後は半獣と呼ばせていただきますね。今うちで雇用しているのはトーマとリアナとゾーイの三人です。トーマは皆さんご存じの通りスキル持ちです。リアナは力持ちでゾーイは耳がいいです。ですから国中、あるいは世界中の半獣を集めたいと思っています。」


 私が力いっぱい宣言するとユーリスが訝しげな顔をしている。


「スキル持ちはヒューマンでも獣人族でも珍しいものですが、他は獣人族の特徴としてはごく普通です。何故それほど未……いや、半獣に目をかけるのですか?」


「可愛いからです。」


 私の答えに皆の眉間にシワがよった。


「リオーネ。俺たちは信用できないか?」

「信用してますよ。」

「それならどうして嘘をつく?」

「はい?嘘なんてついてませんよ。失礼な。うちの従業員が可愛いくないと言うんですか?」

「いや、そんなことはないが。」

「まだハッキリと断言できるほどの確証がないんです。今はなんとなくそうじゃないかなって思う程度なので、これから半獣たちを集めて研究する予定です。」


 納得していないことは雰囲気でわかったが、確証もないことを言うのはどこぞのいい加減な聖女と同じになりそうで嫌なのだ。


「ねえ、リオーネ。だったらどういう研究をするつもりなのか話したらどう?」

「そうですね。まず、リアナは水樽を一度に二つ運ぶことができます。ゾーイは以前レニーが南門を出たことを聞き取って教えてくれました。これは他の獣人族と比べてもかなり能力が高いようです。このことから能力が高いことで変形したときに獣形が残るのではないかと思ったんです。あくまでも推測ですけど。」


 私の答えに今度は皆が目を見開いた。


「ですが、聖女が未完成だと言ったのですよね?」

「そう!それなんです。リュシアン陛下が毒を盛られたのを食あたりと診断したのも聖女ですよね?聖女のいい加減な発言で迷惑している人がいっぱいいるんですよ。でも皆が信じている今なら半獣たちを集めることも簡単にできると思うんです。」


 リュシアン陛下の暗殺未遂には皆が絶句していた。本当に誰も知らないようだ。まあ、本人も知らなかったのだが。


「どこぞのお偉い聖女の言葉を鵜呑みにして能力の高い半獣を宝の持ち腐れにして、その上酷い仕打ちをしているんですよ。だったらうちで雇って楽しく仕事をしてもらってもいいと思いませんか?」

「だが、能力が高いと知れば皆が囲い込みを始めるだろうな。」

「ですから他言無用と言ってるじゃないですか!私が発表でもしない限り知られることなんてないですよ。」


 ここまで黙っていたマルセロが手を上げて「質問よろしいですか?」と聞いてきた。

 いつの間にか思考の海から上がってきていたようだ。話しに参加していると思ってなかったので少し驚いたが、私は「どうぞ。」と返した。


「その研究は魔導師団でするのでしょうか?」

「他言無用の研究を魔導師団でするわけないでしょう?でも研究をするためにシンティア、リアム、ジェイドが欲しいです。うちに来てもらうことは可能ですか?」


 マルセロは何故か悲しげな顔になり、しばしの沈黙の後口を開いた。


「私には来いと言ってくださらないのですか?」

「…………。マルセロさんは用がなくても毎日来ていますよね?部屋持ちなのにわざわざ誘う必要がありますか?」

「そう言えばそうですね。」


 悲しげな表情が一転いつもの笑顔に戻った。


――この人もめんどくさい性格してるよね。


 私がマルセロと話しをしている間にユーリスとクラウスの間では再び狩に行く、行かせないの話が始まっていた。

 ウォルフとレニーは雑談をしながらお茶を飲んでいたが、佐平次が影から出てきたことで皆の視線が集まった。


「主、エレインとトーマが来ている。ミランダとイレーヌが寝たようだ。」

「わかった。ありがとうね。」


 レニーが扉を開けてちびちゃんズを抱いたエレインとトーマを招き入れ、私はアイテムボックスからベッドとお布団を出して準備する。

 ちびちゃんズをベッドに入れると、エレインとトーマもテーブルに乗っているお茶菓子に手を伸ばした。


「ありがとうね。ちょうど二人に聞きたいことがあったんだ。明日から狩に行くんだけど、二人はどうする?」

「「行く!」」


 二人の声が重なり、レニーが「愚問ね。」と笑った。


「ボス、円卓会議は終わったの?」

「ざっと話したぐらいかな。でも円卓会議って感じじゃないよね。井戸端会議は外でやるもんだし……。ちゃぶ台会議って感じじゃない?」

「それ、いいね。そのうちちゃぶ台返しも炸裂する?」

「かもね。」


 二人で盛り上がっていると、リンネットも眠くなったと言って小屋に入ってきた。


「そろそろお開きにしましょうか。皆さん今日の話しは他言無用ですよ。」


 私が皆に念押しすると、皆が一斉に頷いた。

 ちびちゃんズのベッドの横に助さんを残し、私たちは小屋を出て食事エリアへ移動した。

 騎士団は夜警をしている人を除いてほとんどが寝ているようでとても静かだった。

 食事エリアにいたのは魔導師団の三人だ。テーブルの上に紙が積まれていて、三人で話し合っている。


「お疲れさまです。皆さん忙しそうですね。お茶でもどうですか?」


 私が声をかけると三人は顔を上げて笑顔で答えてくれた。シンティアが立ち上がり「お手伝いします。」と言って一緒にお茶を入れてくれた。


「ずいぶんと遅くまで作業するんですね。」

「はい、明日からの調査に向けての準備をしています。」


 ロドリアやトリーデに調査を丸投げした魔導師たちと魔導師団に対する印象は良くなかったが、シンティアたちはとても真面目で働き者だ。魔導師団を辞めてうちに専属で来てもらいたいと真剣に考えている。


「あなたたちも慣れない野営は大変でしょう?」

「いえ、そうでもないです。私は庶民と言っても廃屋街の出身なので、寝袋の暖かさに幸せを感じているくらいです。」

「僕らは農家の出身ですが、魔導師団に入るまでは馬小屋で寝ていたので特に大変ということはないですね。」


 リアムとジェイドは顔を見合せて笑った。どうやら野営が辛いのはお貴族様出身のマルセロだけのようだ。

 リアムとジェイドは同じ領地の出身で子どもの頃からお互い知っているという。

 私は他の領地のことを知らないので、いろいろな質問をした。

 各領地は領主によって税が決められているという。国に納める税は領土や住民の数によって国が決めているので、領主次第で生活が豊かになったり、苦しくなったりするらしい。

 リアムとジェイドの家も小さい頃は豊かな生活をしていたが、領主が代替わりしたとたん税が重くなり、その日食べる物にも困るようになった。

 十歳の鑑定で中級魔導師となり、魔術学院に入学が決まると国から支度金が支給され、ローブや教科書などの学用品を買うのだが、二人はローブだけを持って家から出されたそうだ。


「教科書や他に必要な物はどうしたんですか?」

「魔導師団の寮には卒業した人たちが使っていた教科書などが置いてある部屋があるんです。そこから譲ってもらいました。」

「私なんて支度金は全部親に取られたんでローブも譲ってもらいましたよ。」


 シンティアも笑いながら言うが、笑いごとじゃない。以前王都に人が多過ぎて仕事がないという話しは聞いていたが、貧困層の生活はかなり苦しいようだ。


――早く帰って工房を作らなきゃ!




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