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母は異世界でも強し  作者: 神代 澪
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変装と街

 


 私が懇々と続くお説教を聞き流していると、荷車を引いた男性がやってきた。後ろにもう一人、押している男性もいる。

 ウォルフはお説教を中断して彼らをタープに招き入れ 紹介してくれた。


「こっちがクラウス。で、こっちがロベルトだ。二人とも俺と同じように騎士団に所属している。」


 クラウスは寡黙な偉丈夫。ロベルトは鮮やかな赤毛に、ニカっと笑う姿から人懐っこそうな感じがした。もちろん第一印象なので、あまり当てにはならないけれど。


 詳しいことは拠点にしている家に着いてから話すと言い、荷車から箱を二つ運んできた。箱に入っていたのは服や靴、それに籠や果物もあった。


「ここから街に入る場所は二ヵ所ある。誰にも見られず街に入れてもその格好じゃ目立ち過ぎるから、こちらで用意したものに着替えてくれ。潜入している以上目立つのは困るんだ。」


 私たちも目立つのは避けたいので、ウォルフの言葉に無言で頷き、箱の中から服を選び着替える。

 男性はシャツにズボン、今の時期はベストを合わせるみたいだ。女性はワンピースや男性の物より少し大きい襟の着いたシャツにロングスカート。

 シンプルなデザインで悪くはない。娘たちにはもう少し可愛いのを着せたかったが、目立たないことが重要なので今は我慢だ。


「せっかく着替えても全員で移動すればどうしても目立つからな。三組に別れてそれぞれ別のルートで家に向かう。」


 クラウスが荷車に皆のバッグを詰めた箱と御園夫妻を乗せた。彼らは農地の近くから入って街中を通らずに行くらしい。

 次にロベルトとエレインとイレーヌで家族を装う。イレーヌがイヤイヤしないか不安だったが、ロベルトに肩車してもらってご機嫌だったので早々に出発した。こちらは廃屋街から入って職人通りを抜けて行くという。

 残った私たちも家族に扮して出発する。入るのは廃屋街だが、職人通りを避けて住宅街を行くらしい。

 ミランダが「いーちゃんと同じがいい」と駄々をこね、ウォルフに肩車してもらった。それを見上げてリンネットが呟く。


「みーちゃんが肩車してもらったらボクはエスコートしてもらえないね。」


 ――はぁ?……お貴族様じゃないんだから、庶民がエスコートなんてするわけないじゃん。たとえしても相手はお母さんだよ。普通。



 街に入りゆっくりと歩きながら辺りを見回す。

 建物にしても行き交う人たちの服装からしても、あまり裕福な感じはしない。

 ウォルフに尋ねると富裕層の住居や店は区画が違うと教えてくれた。そしてこの国は貧困格差が大きいということも。


 少し先に市場があり、そこで夕食の材料を仕入れるとウォルフが言った。そしてとても言いにくそうに話を続ける。


「俺たちが住んでる家なんだが……部屋は空いてるんだが。」


 なんだかはっきりしない言い方に、怖い系の不安がよぎる。


「何か出るんですか?」

「うん?ああ、いや、出たとしてもそんなに大きいモノじゃないと思うが……。」


 ――大きい小さいの問題じゃないでしょ!怖いのは嫌ー!


 私が頭を抱える姿を見てちょっと笑いながら、ポンポンと肩を叩く。


「大丈夫だ。きれいに掃除すればたぶん出てこないと思う。見つけたら踏み潰せばいい。」


 ――えっ?そっち系?いや、どっちも嫌だけど!


 安心できるような、できないような、複雑な心境で歩みを進める。


「泊めていただくんですから、お掃除くらいはしますよ。他にもお手伝いできることがあれば言ってくださいね。」

「そうか、それは助かる。男ばかりだからあまり細かく掃除とかしないもんでな。」


 そう言ってウォルフは豪快に笑った。



 市場に入ると人通りが増え、一気に賑やかになる。私は異世界の食材にワクワクしながらお店を覗き込んだ。


「今夜のメニューは決まってるんですか?」

「いや、決まってはいないが、オークの肉を買うつもりだ。」


 ――オークって身体は人間で頭が豚っていうあれ?それって共食いに近くない?


 恐る恐る肉屋に入ったが、中には解体された塊肉しかなかったので、とりあえず原型は一旦忘れ、豚肉だと自分に言い聞かせる。そのあともいろいろな店をまわり、野菜や飲み物を買っていく。

  鑑定をすれば情報が簡単に見られるのでとても便利だ。そして、この世界にゲテモノ系が無いことにそっと胸を撫で下ろした。


 ウォルフの仲間はあと二人いて、私たちが七人。合計十二人の食糧は思った以上に多かった。


「こんな時こそアイテムボックスが必要ですよね。」


 そう言った途端、私の持っていた籠にモヤがかかった。どうやらバッグパックがアイテムボックスなのではなく、私の持っている物にアイテムボックスの入り口が現れるらしい。


「えー、それならボクそこのお店にある可愛いカバンが欲しい。」


 どこまでもマイペースなリンネットに大きくため息をつく。


「私ら今文無しだからね。」

「わかってる。頑張ってお仕事して稼いでね。」


 ウォルフも少々呆れているようで、笑顔がひきつっている。


 私たちは買った食材をアイテムボックスに入れ、軽い足取りで家へと向かった。



  街を抜けて瓦礫の山の間を歩く。しばらく行くとポツリポツリと壊れていない建物が見えてきた。


「ここは何年か前に魔獣に攻め込まれて壊滅したんだ。残ってるのは防御魔術で守られていた建物だが、街に新しい家を建てて移っているから誰も住んでいない。今はギルドを通して冒険者や商人たちが安く借りることができるんだ。」

「魔獣はもう攻めてこないんですか?」

「時々単独で現れることがあるから、安全とは言いきれない。でも俺たちが住んでる家は防御魔術をかけてあるから、家の中にいる限りは大丈夫だ。」


「見つけたらやっつけていい?」


 リンネットの言葉に私とウォルフの言葉が重なる。


「「絶対ダメ!」」


  ウォルフのお説教が始まるが、リンネットも上の空で聞き流しているようだ。


 ――さすが我が子、ウォルフさんごめんなさい。




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