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母は異世界でも強し  作者: 神代 澪
55/80

朝食と偵察

 


 次の日私は騒がしい声で目覚めた。

 何事かと小屋の入り口に立つとたくさんの人が遠巻きに見ていることに驚いた。


「何なの?」

「オスロだ。」

「ああ、助さん、佐平次おはよう。露ちゃん起こしてくるね。」


 外の人だかりは大きくなったオスロに驚いて集まってきたようだ。


「露ちゃん起きて、オスロが見せ物になってる。」

「あー、オスロー。もういいよー。」


 目も開けずにボソボソと言い再び寝てしまったエレインの元に小さくなったオスロが戻ってきた。


「あんなので聞こえるの?オスロってすごいのね。」

「契約を結べばどれ程離れていても聞こえるものじゃ。ウルフたちも聞こえるはずじゃが。」

「あー、なんか覚えがあるような、ないような……。」

「うーん。おはよう。なんだか騒がしいわねぇ。」


 レニーも伸びをしながら起きてきた。


「大きいオスロに人が集まって来ちゃったのよ。」

「そうなの。じゃあ、これは今日だけね。皆すぐに見慣れるわよ。それより朝食は何にする?」


――ホント、慣れってすごいよね。


「朝はフレンチトーストを出して、作るのはお弁当にしましょう。魔導師団の食糧に何があるか確認してみないといけないし。格さん。ちびちゃんズが起きたら連れて来てくれる?」

「わかった。我は朝も昼も肉がいい。」

「そうね。いっぱい焼いて入れとくね。」


 私とレニーは小屋の外に出て更に驚いた。昨日ロドリアが座っていた場所に派手な塊があったのだ。近寄って見ると何枚もの服が重なり合っていることがわかった。

 ロドリアは結局寝袋もなく、自分の服にくるまって寝たようだ。


「それにしても趣味が悪いわ。」


 レニーの呟きに激しく同意して私たちは食材の確認を始めた。

 魔導師団の食糧は栄養価を重視したものが多く、わりと灰汁の強いものも多かった。


「ちゃんと調理したら美味しいんですよね。まあ、手間はかかりますけど。時間のあるときにまとめて下処理しちゃいましょうか。」

「それで今日のお弁当は何にするの?」

「朝がパンならお昼はご飯がいいですよね。お肉を焼いてドドーンと乗せちゃいましょう。」


 これならご飯を炊いて、お肉を焼くだけだ。もちろんお野菜も入れるが、お弁当は簡単な物に限る。

 お米を研いでいると、魔導師団やトーマも起きてきて、お手伝いをしてくれる。

 そこへウォルフとクラウスがやってきた。


「おはようございます。こんなに早くからどうしたんですか?」

「おはよう。大事な物を持ってきたんだ。」


 そう言って二人が差し出したのはお弁当箱だった。


「騎士団でもお弁当作ってるんですよね?」

「ああ。だが、せっかくなら旨いものが食いたいからな。」


 それは作っている人に失礼ではないかと思う。だが私は思い出した。出会った頃にクラウスたちに作ってもらった塩味のみの食事のことを。


「では今日もしっかりお肉を焼いてくださいね。」


 私がアイテムボックスから取り出したお肉をウォルフが慣れた手付きで切っていき、クラウスは鉄板の準備をする。

 今日はバッセレイのお肉を出していたのだが、ウルフたちがスピグナスがいいと言うので、追加でスピグナスのお肉も取り出してウォルフに任せた。


 お肉を焼き始めた頃にちびちゃんズを乗せた格さんが小屋から出てきた。


「ミーちゃん、イーちゃん、おはよう。朝ごはん食べちゃおう。」

「おかあさん、おはよう。朝ごはん何?」

「フレンチトーストだよ。ジャム乗っける?」

「ミーちゃんハチミツがいい。」

「イーちゃんも。あちびつー。」


 ちびちゃんズとの楽しい朝食。イーちゃんが産まれてからは旅行もしたことなかったし、これからはこんな風にキャンプをするのもいいかもしれない。


 だが、そんな楽しい一時をぶち壊す声が聞こえてきた。


「リオーネ様、私の朝食もお願いしますね。」


 ロドリアが服を片付けながら当たり前のように頼んでくる。昨日のやり取りを覗いていたことはバレていないようだが、さすがに許容することはできない。クラウスの冷気に鳥肌が立つので本気でやめて欲しいと思う。

 私が返事をする前に上級魔導師がロドリアの前に立ちはだかった。


「皆朝から働いているんです。あなたも動けるんだから手伝ったらどうなの?」


 ロドリアは不機嫌な顔をして黙り込む。返事もしないし、動こうともしないので、上級魔導師はそのまま作業へ戻っていった。このまま連れて行くのは誰にとっても良くないかもしれない。


 できあがったお弁当をアイテムボックスにしまうと、私たちも朝食を食べる。ちびちゃんズは食べ終わったはずなのに、私の隣に座って交互に口を開けて待っている。


――鳥になった気分だよ。


「ねえリオーネ。エレインとリンネットは起こさなくていいの?」

「どのみち出発するときには起きなきゃいけないんですから、それまでは放っておいても大丈夫ですよ。」

「朝食を食べないと力が出ないだろうに。」

「ウォルフさん。心配は無用です。あの子たちのアイテムボックスには食べ物がいっぱい入っていますから。」

「ああ、確かに。エレインはいつも何か食べてるな。」

「俺もクッキー貰ったことがあります。すごく美味しかった。このパンも美味しいです。」


 トーマは素直で可愛い。エレインについて歩いてひねくれないように願うばかりだ。



 結局エレインとリンネットとマルセロが起きないまま朝食は終了し、出発準備に取り掛かった。


 小屋に戻って二人を起こし、ベッドやクッションをアイテムボックスに入れると、小屋全体に魔力を流し、分解してレンガに戻していく。

 レンガをアイテムボックスに入れたら私たちの準備は終わりだ。



 集合場所では今日の予定が発表される。このままグレンドーラの森との境界線を目指すが、途中にある湖の周辺には魔獣がいるだろうと言っていた。

 確かに以前の狩でバッセレイの群れを見つけたのも水辺だった気がする。


「主。我らの狩はいつ行くのだ?魔獣を見つけたら狩ってもいいのか?」

「うーん。今日は助さんがリンネットを乗せていくって約束してるし、一度は討伐と調査の様子を見ておきたいからね。とりあえず狩るのはちょっと待ってくれる?」


 格さんは早く狩に行きたいようだ、たぶん昨日一日ロドリアと一緒にいたこともストレスになっているのだろう。


 先頭でユーリスが出発の号令をかけると騎士団がゆっくりと動き出す。


「格さん、さあ、乗せてちょうだい。」


 ロドリアは今日も格さんに乗せてもらうつもりらしいが、格さんはロドリアを一瞥して言った。


「断る。我は主を給仕扱いして礼も言わぬような者を乗せる気はない。」

「リオーネ様。格さんに命令してください。」

「ロドリア先生。私もお断りします。足が痛くなったらその都度治癒と癒しを与えますからご自分の足で歩いてください。」


 私にも断られてロドリアは顔を真っ赤にしている。


「治癒と癒しを与えて貰っても痛みが取れないんです。私をここに置き去りにするつもりですか?聖母様なのに慈悲の心はお持ちじゃないんでしょうか?」


――慈悲の心があるから生かしてるんじゃない。ホントめんどくさいこの人。


「わかりました。歩けないなら運ぶしかないですね。」

「ご理解いただけて良かったです。」


 私は魔導師団の荷車に積んである荷物をアイテムボックスに放り込み。荷車を引いていく見習いたちにロドリアを運ぶように頼んだ。

 見習いたちは荷車が軽くなるから大丈夫だと、喜んで引き受けてくれた。


「では、ロドリア先生。こちらにどうぞ。彼らが運んでくださるそうです。」


 私の言葉にロドリアは明らかに不満そうだ。


「私は荷物ではありません。格さんに乗せるように命令なさい。」

「格さんが嫌がってるんですからそれはできません。それに働きもしないただ飯食らいはお荷物以外の何者でもありませんよ。」


 私は見習いたちに乗らなければそのまま出発してもいいと言って歩きだした。


 少し遅れているけれど、ロドリアは観念して荷車に乗ったようだ。


「佐平次。少し離れ過ぎているから、見習いたちに危険がないように荷車を守ってあげてくれる?」

「わかった。」


 そう答えて佐平次は影に潜った。



 一方リンネットは助さんに乗せて貰ってご機嫌だ。


「助さんふわふわで乗り心地最高だね。ありがとう。」

「今日だけだぞ。」

「うん、わかってる。明日からは頑張って歩くよ。それよりお腹すいた。」

「朝ちゃんと起きてご飯食べないからでしょ。休憩時間になったらなんか出そうか?」

「大丈夫。パン持ってるから。」


 リンネットはそう言って得意げにアイテムボックスからパンを取り出して食べ始めた。

 それを見ればちびちゃんズが食べたがるのもいつものことで、ちびちゃんズには蒸しパンを渡して食べさせる。


 キャリーワゴンはレニーが押しているのでエレインは隣を歩いているが、とても暇そうだ。


「ねえ、魔獣がいるか見てこようか?て・い・さ・つ。どう?」

「どう?じゃないよ。露ちゃんは子守りでしょ。それは騎士団がやってるんじゃない?」

「だって暇なんだもん。トーマと佐平次と行ってくるからさ。格さん荷車の警備替わって。」

「断る。我はあの女に近づきたくない。」

「じゃあ。格さんが乗せてくれる?」

「報酬はなんだ?」

「イグレットバードの唐揚げでどう?」

「いいだろう。」


 エレインと格さんの間で交渉が成立したようだ。だが、勝手な行動は良くないので、ウォルフに相談するように言うと、エレインが前を歩く騎士団の方へと駆け出した。


「エレインもじっとしていられないタイプなのね。皆リオーネにそっくりだわ。」


 しみじみと呟くレニーに私も同意する。

 しばらくしてエレインが走って戻ってきたが、顔を見れば許可が取れたのがわかる。


「師匠が行ってもいいって!格さんお願い。」


 エレインは格さんに飛び乗ると後ろを歩く荷車に向かっていき、「トーマ。偵察行くよー。」と声をかけた。

 トーマの返事が聞こえたかと思うと、私たちの横を格さんに乗ったエレインと獣形に戻ったトーマが勢いよく追い越していった。


「やっぱり露ちゃんに子守りは無理だったか。」

「でも皆でいるときにはちゃんと子守りしてるんだからいいんじゃない?」

「それもそうね。」



 今日も比較的平坦な道が続いているが、途中で何度か休憩する。二度目の休憩でレニーが腰の痛みを訴えてきた。


「背中から腰にかけて痛みがあるの。治癒をお願いしてもいいかしら?」

「ええ、もちろんよ。後ろを向いてちょうだい。」


 私はレニーの背中に手を当てて「いたいの、いたいの、飛んでいけー。」といつものように治癒の魔術をかける。そして癒しを与えるとレニーはふぅっと息を吐き出した。


「ありがとう。痛みは消えたわ。でも何で急に痛くなったのかしら?こんなとこ今まで無かったのに。」

「それはきっとキャリーワゴンを押しているせいですね。」

「そうなの?でもミランダとイレーヌが乗ったってそんなに重いもんじゃないわよ。」

「重さじゃなくて、姿勢です。レニーは背が高いからキャリーワゴンを押すのに前屈みになるでしょう?だから背中と腰に負担がかかるんですよ。」


 レニーも説明を聞いて納得した。昨日は背中が固くなっている感じがしていたが、痛みまでは無かったと言う。


「誰かに替わってもらった方がいいですね。見習いたちに頼んでみましょう。」

「でもそれじゃあ、子守りの仕事ができないじゃない。」

「大丈夫ですよ。エレインと一緒です。」


 私の言葉にレニーは「ありがとう。」と言って微笑んだ。

 私が休憩していた見習いたちにキャリーワゴンを押して欲しいと頼むと、皆が勢いよく立候補した。どうやらロドリアは振動で腰が痛いとか丁寧に運べとか、ずっと文句を言っているらしく見習いたちはうんざりしていたのだ。二人程来てもらって、残りの三人には我慢する分お菓子を渡して頑張ってもらう。

 ロドリアについては早々に答えを出さないと本当に埋めて帰ることになりそうだ。



 エレインが戻ってきたのはお昼休憩をする予定地に着いた頃だった。


「湖の周辺には魔獣がたくさんいたよ。バッセレイは二十頭ぐらいの群れだったし、バローニーがいて、それを狙ってイグレットバードも来てた。あとはコグリカとニルベースとタイガルンがいたよ。」

「聞いたことのない魔獣がたくさんいるのね。」

「どれも美味しいって格さんが言ってたよ。」


――うん、聞きたいのはそこじゃない。


「どんな魔獣なのかを教えて欲しいんだけど。」

「ああそれね。バローニーはキリンぐらいの大きさの鹿って感じで、コグリカはユニコーンの角が縦に二本並んだ感じ。ニルベースは大きなアルマジロって感じ。それとタイガルンはすごかったよ。」


――相変わらず感じだらけね。それに最後はなんの説明にもなってないから。


「何がすごかったの?」

「スピグナスぐらい大きくて、全身鎧で、火吹いてた。」

「それは確かにすごいわね。それより露ちゃんがそんだけ魔獣の名前を知ってることにも驚いたわ。」

「あたしは知らないけどオスロが知ってる。格さんも知ってた。」


――はい、納得です。


 私がエレインの報告を聞いていると、クラウスとウォルフとユーリスがやってきた。


「どうだった?」

「師匠。すごいのがいっぱいいたよ。」


――待って、いつもそんな雑な報告してるの?


「そうか。オスロ、頼む。」


 ウォルフはエレインに笑顔で頷いてオスロに報告を求めた。


「湖の周辺にはバッセレイが二十頭程で群れておった。その近くにコグリカが七頭とニルベースが三頭じゃな。対岸にバローニーが二十から三十といったところでそれを狙うイグレットバードが十羽程来ておった。かなり離れたところにタイガルンがおってのぅ。全身の鱗が逆立って火を吹いておったことから戦闘状態じゃと思われる。」


――なるほど、エレインに聞くことが間違いだったのね。


「タイガルンとは厄介な。戦闘状態ってことは他にも魔獣がいるということか。」

「タイガルンは大きいのでわかったが、なにぶん離れておったんでな、相手までは見えんかったのぅ。」

「そうか。団長どうします?」


 ウォルフはユーリスに判断を仰いだ。


「このまま湖に向かって調査をしたいところだが、タイガルンの動向が気になる。戦闘状態で鉢合わせは避けねばならない。」

「我らが狩ってもいいか?タイガルンは旨い。」

「狩ってもらえるなら助かるが、調査もしなければならない。誰か記録できる者を同行させたいが。」

「では、私とエレインとリンネットで行きます。」


 私の言葉に皆が目を見開いた。




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